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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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天網恢恢

 目の前に現れた『テトラ』を名乗るそいつは、いきなり僕へと襲いかかって来きた。そして奪われた金魂水。何に使えるアイテムか、今は何にも分からないけど、このまま渡していい物じゃない様な気がする。

 だから僕はもう一度奴と対峙する。けれど決着は契約へと変わり、新しい目的が僕には出来る事に成る。


『テトラ?』


 僕はただその言葉を繰り返すことしか出来ない。巨人が居た痕跡が生々しく残ってるこの場所で、僕はその巨人が与えてくれたアイテムを奪った奴と向かい合ってる。

 足首までありそうな、ボリュームがある少し紫がかった黒い髪。白と金を基調にした風に靡く服。足下はブーツで、武器らしい物は何一つ見あたらない。


 なのに……この威圧感は何だ? 一歩を踏み込む事を躊躇ってしまう様な圧力がある。奴は丸腰なのに、まるで全身が武器でもあるような……そんな訳ない感じが伝わる。


「つっ……」


 僕は歯を食い締めて腕をセラ・シルフィングへと持っていく。


(いけるか? イクシードはまだ使えない……でもあれは……)


 あのアイテムをここで持って行かれるのは痛いような気もするんだ。だけどこのテトラを名乗った目の前の奴は、ある意味でシクラとかより謎だ。

 何者? それが真っ先に頭に浮かぶんだけど、シクラとかともちょっと違うような……


「やめておけ。お前じゃ俺には勝てねーよ」


 テトラの言葉に、僕の腕が反応した。セラ・シルフィングへと伸びてた腕が一瞬止まる。でもそれは、僕ももしかしてたらそんな事をどこかで思ってたからかも知れない。

 得体の知れない相手……そしてその実力はさっきの一瞬で垣間見えた。だからこそ――でもそう思う自分がなんだか嫌で、だから僕は思いきってセラ・シルフィングを抜き去った。


「うるせえよ! それは……そのアイテムどうする気だ!? それは僕が託された物だ。みすみす奪われるなんて出来るかよ!」

「はは……三秒ってとこだな」


 テトラは無造作にその瓶を上空へ投げた。僕は思わずその瓶を視線で追う。でも、それは間違いだった。間違いだったと、気づかされた。


「一」


 そんな声がすぐ近くで聞こえた。視線を戻した時には、その拳が僕の腹へと入ってた。


「ガハ!?」


 体ごと吹っ飛ぶ程の打撃。ただのパンチなんて物じゃない。僕は地面に剣を刺して勢いを止めながら前を見据える。けどそこには、既に奴の姿はない。


「二」


 そして再びすぐ近くでその声は聞こえた。そして斜め後ろから叩き込まれたその拳で、僕は顔面を地面へと打ちつける。


「ぶっ!?」


 腐った地面が口へ入る。ジャリジャリして気持ち悪い。でも意識が飛ばなかっただけでもありがたいのかも。リアルだったら、首が折れててもおかしくない一撃だった。

 さっきの三秒ってのはようは僕を倒すまでの時間って事か……ご丁寧にカウントダウンまでしやがって、でもこのままじゃ確かに後一秒で決まるかも知れない。


(どうにかしないといけない……どうにか……)


 そんな思いが頭を駆ける。このまま何も出来ないなんて悔しすぎる。だけど直ぐにその声は聞こえた。


「三……これで終わりだ」

「つっ」


 振り下ろされるその鉄拳。地面が爆発するように弾け飛ぶ。立ちこめる粉塵。その中で投げた瓶が再び落ちてきた。

 それを手の中に納めようとするテトラ。


「あっけない……この程度か。まあ俺には関係ないが」

「この程度かどうか、その目で確かめて見ろ!!」


 僕はその腕を斬り裂いて、更に回転蹴りを奴の首筋に叩き込む。吹っ飛んだテトラ。その間に僕は瓶をその手に納めた。


「きっさま……どうやって?」


 体を起こしつつテトラがそんな事を言う。まあ確かに、あいつにしたら決まってた筈の攻撃だったろう。僕は避けれる態勢でも無かったしな。

 でも僕はここにまだ立ってる。そしてなんとかだけど、取り戻した。まあまだ油断は出来ないし、別にそれに答える義務も義理もこいつにはないよ。


「さあな、持て余してそうなその頭で考えろよ」


 上品そうなその顔が泥に汚れて良い気味だ。だけど何がおかしかったのか、テトラの奴は僕の言葉に怒りもせずに笑いやがった。


「くく、ははは。そうだな、問うまでも無いことだった。少し考えればわかる。つまりはスキルだろう。だが……続けてそれは使えるのか?」

「はん……」


 直ぐに気付いて、しかも痛い所を付いてくるじゃ無いか。確かにこの回避スキルは、一分に一度しか使えない。さめて三十秒くらいなら……いや、こいつならその間に僕を殺す事なんて訳なさそうだ。

 とにかく、こいつが動く前にアイテムをウインドウにしまえばこっちの物だ。そうなれば、横から無理矢理盗るなんて出来ない筈だ。そういうスキルが無い限り。


 僕は奴から目を離さない様にしながら、ウインドウを開く。後はここに……するとその時、奴は手を突きだしてこう言った。


「ちょっと待った!!」

「誰が待つか!!」


 僕は直ぐに言い返したよ。すると次の瞬間には、僕は地面に倒されて羽交い締めにされてた。


「つっ!? てめぇ……」

「たく、俺様がお願いしてるのに無碍にするんじゃねーよ」

「これが……お願いする奴の態度かよ」


 これは侵略者のやり方だ。ギリギリ締め付けやがって。


「お願いだよ。お願い。だからまだ盗ってないだろ? さっきまでとは俺様の態度は変わってる」

「知るか、そんな胸の内。それこそ態度で示しやがれ」

「それには、これをまだしまわないと約束してくれないと無理だな」


 やっぱ、これのどこがお願いだよ。でもこいつの言いなりはムカつく。だから僕はこう言った。


「しないとどうするんだよ」

「何簡単だ。お前を殺す……それだけ」


 やっぱ脅迫じゃねーか。なんてふざけた奴なんだ。でももしかしたら確かに何かの心境の変化はあったのかも。今も簡単なそれをやらずに、話を振ってきてるんだし脅迫だけど、こいつにとっては交渉なのかも。

 まあどっちみち、僕の選ぶ道は一つしか無いけどさ。僕は嫌々だけどこういうしか無いじゃないか。


「わかった。これはまだしまわないからとっとと離れろ」

「そう言ってくれると思ってたよ」


 解放された僕の手には、まだアイテムが残ってた。マジでどうしたんだこいつ? 最初は有無を言わさずに襲ってきたのに……これはこいつにとって必要な物の筈だろう。単に、いつでも奪えるって事かも知れないけど……油断は出来ないな。

 それでもこいつにはなんか勝てる気がしないけど。


「で、何なんだよ。お前はこれが欲しいんだろ? 奪うのだって簡単だ。なのに何でお願いなんてするんだよ」

「それは……目的があるからだよ。そのアイテムは確かに必要だ。だけど俺様じゃ使えない。そういう使用だからな」


 ううん? どういう事かわからないぞ。仕えないけど、必要なアイテムだって?


「お前は……プレイヤーじゃ無いのか?」

「ああ、その通り。俺様はプレイヤーじゃない」


 やっぱり、そんな気はしてた。だって強すぎる。得体も知れないし、人間味があるようで何か違う気がしてた。それにアイテムが使えないって……そんな訳プレイヤーならあるわけ無い。


「じゃあ、お前はシクラとかと同じ存在か?」

「シクラ……か。あのガン細胞みたいな奴か」


 ガン細胞って……確かに間違いじゃない気もするけど。それにしては酷い印象だな。テトラと名乗ったソイツは、首を振って、その黒い髪を靡かせる。


「お前は俺様を知らないようだが、この名を出せば普通の奴はわかるさ。ソイツ等に聞け。それよりも、俺様がここまで近づいた理由だ」

「お前は、このアイテムを僕に使わせたい……そうだろ?」


 普通に考えたらきっとそうだ。自分じゃ使えないから、使える奴に頼むって事だろ。


「まあそうだな。その通り、大正解だ」


 にっこりと笑ってそう宣言するテトラ。やっぱり予想通りかよ。でも……それはどうだろうか?


「いや待てよ、僕にはやることがあるんだ。理由次第ではこれを渡しても良いから、別の奴に頼んだ方がいい」


 そう僕には重大な役目がある。実際、今はそれ以外考えられないさ。確かにこのアイテムは惜しいかも知れないけど、それを正しく必要としてるのなら、求める奴に渡すのだって惜しくはないさ。

 だけど目の前のテトラはこういう。


「それは出来ない。ダメなんだ」

「ダメ?」


 どうして? と聞こうとしたら、直ぐにテトラは僕を見て、言葉を続けた。それもまあ予想外の言葉だ。


「お前のやることは分かってる。あの眠り姫を助けたいんだろう? 連れ出したいんだろう。それなら、俺の頼みを聞くことは損じゃない」


 そんなテトラの言葉に、今度こそ「どうしてだ?」と僕は言った。


「今のお前じゃそれが出来ないから」


 それって言うのは「助ける」って事だろう。まあ元々、セツリはそれを望んではいないんだから、出来る筈もないんだろうけど……こいつが言ったのはそう言う事じゃないだろう。

 単に僕の実力不足……そう言ってるんだ。


「どうしてそう言える? てか、お前はどこまで知ってるんだよ」


 こいつとは今日初めて会ったはずだけど。こいつの吸い込まれそうなこの瞳……なんだか全てを見透かしてるようで気に入らない。

 そして案の定気に入らない事をサラリというんだ。


「全て……俺は全てを知ってるさ。それよりもお前はどうなんだ? このままで、望むものが手にはいると? 甘く思うなよ」

「甘くなんて……別に」


 思っちゃい無い。でも言葉は続かなかった。それは僕が一番分かってたからだ。このままで良いわけがないと。相次ぐ強敵の出現……そしてここでのふがいなさ……実は結構へこんだりしてる。

 こいつにも全然勝てないし……強い奴だから勝てない、そんな理屈を受け入れる訳にはいかないんだよ。そんな事言ってたら、誰にも勝てない。誰にもかなわない事になる。


 相手が強い事……それを諦める理由には出来ないんだ。でも認めなくちゃいけないのなら、奴らは強く、僕は弱いって事。

 まだまだ全然、僕は弱い。このままで良いわけ無いって分かってる。甘くないさこの世界は。LROは僕の命を掴んでるんだからな。

 僕は拳を握りしめてテトラを睨む。


「お前は、僕に何をさせたいんだ?」

「ようやく興味出てきたか? そんなに睨むなよ。俺たちの利害はきっと一致するぞ。俺にもお前にも目的がある。だけどそれぞれ一人ではどうにも出来ない事だ。

 俺はお前の存在を借りたい訳だし、お前は今よりも強くなりたい筈だ」

「お前の頼みごとをきけば強くなれるとでも?」


 僕のその言葉に、テトラはセラ・シルフィングを見つめる。その瞳は何を思ってるのか、いまいち分からない光を宿してるよ。まあ僕には、目を見るだけで他人の考えが分かる能力なんて無いわけだけどさ。

 まあ少なくとも、敵意があるようには見えないな。もうこいつは、いきなり襲うような事はしないだろう。


「その流星の剣はまだ不完全だ。まあお前が使い切れて無いのもあるが、でもこれだけは言える。強くなれるさ。お前が思ってるよりもな」


 不完全……僕もまたセラ・シルフィングを見つめる。何の保証も確証もなければ、今会ったばかりの正体不明のこんな奴の言葉なんて信じるべきもない。

 だけど……その言葉は僕の心を惹いた。


「本当か?」


 思わず呟いたそんな言葉に、テトラは満足げな笑みを浮かべる。気に入らない……けど、それを押し殺してでも興味を惹く事なんだ。

 だから僕はテトラの言葉を待った。そしてテトラは、大きく腕を広げてこう言った。


「ああ、我が名において断言しよう。お前は強くなれる。まあそれで、目的を達せれるかは別だがな」

「別にそこまで望んじゃいない。でも、今よりも僕は強くならないといけないんだ! そうで無いと、確かに僕は僕のやるべき事が出来そうにない。

 力は、目的を達する為の手段でしかないけど、それが無いともう、アイツに近づくことさえ今の僕には出来ないんだ」


 セツリは僕を……リアルを拒絶して遠くへ行こうとしてる。そしてそれをがっちりと反則以上の奴らが守ってるんだ。

 力はどうしても必要……声を届かせるために、耳を傾かせる為に……そして何より、向かい合える場所に立つために。

 テトラは僕にその拳を差し出してくる。


「契約成立の証だ」


 その言葉に、僕も自分の拳を差し出す。そして二つの拳が、不気味な森の中でぶつかり合う。まあ森って言っても、木々は押しつぶれててここだけぽっかりと空いてる感じなんだけどね。

 蓋をしたような黒い空がよく見える。何の信用も信頼もない、不振極まり無いこいつとの契約にはふさわしい感じじゃないか。


「まあ、乗っといてやるよ。だけどお前を信用した訳じゃない。言いように使われただけだったら、必ず倒してやる。

 お前が強かろうと、なんとしてもな。それで強くなる方法を聞き出す。何でも知ってるんだろお前?」


 拳に力を込めてテトラの拳を押しながらそう言った。釘は刺しとかないと、完全に信用するには間が無さ過ぎだからな。

 効果があるかは別として……言うだけ言ってみた。だけどテトラはやっぱり余裕を崩さない。簡単に拳を引いてこう言った。


「別に、好きな様にすればいいさ。まあ俺様が倒される訳はないけどな。契約は交わされた、本題に入ろうじゃないか」


 テトラはぶつけ合った拳の甲を見せるように向けた。するとそこには模様の様な物が現れだした。そしてそれには僕の拳にも現れてる。

 なるほど、これが契約の証って訳か。約束なんて曖昧な物にしなかったのは強制力でも持たせる為……それだけこいつにとっては重要な事ってことなのかも。


 本題は僕も待ちわびたけど、空気が重くなる様な気がする。でも、既にこれは僕にも関係あることだしな、強くなるための試練とでも思ってやるしかない。


「で、僕は何をやれば良いわけだ? このアイテムは何に使う?」

「一から十まで、全てを教える訳にはいかないな。道は、自分で切り開く事に意味があると思わないか?」

「それはそうだと思うけど……お前、僕がそこまでたどり着けなかったらどうするんだよ」


 そんな事になったら意味なんてなくなる。ここでの出会いや、このアイテム……そしてこの契約もだ。まあ十までを教えろとは言わないけどさ、一というきっかけくらい教えても良いだろう。


「たどり着け無かったら、その模様がお前という存在を壊す。だから頑張れ」

「は?」


 何をさらっといったよこいつ? 聞き捨てなら無い事だったよな? テトラは自分の手の甲を指さして得意げに語りやがる。


「これがただの模様だと思ったか? 期限はまあ五日くらいだな。それまでにもう一度俺に出会え。そうすれば解いてやるよ」


 五日って……


「お前な……このHPが僕の命と直結してるって知ってるんだよな?」

「ああ、だからこそお前なら、契約を反故にはしないだろう」


 意地の悪い笑みを浮かべるテトラ。この野郎……計られた。男同士の爽やかなやりとりだと思ったのに、こんな裏があったとは。


(あれ?)


 でもそういえば、この模様は奴にもあるんだけど……それはどうなってるんだ?


「おい、それって僕だけのリスクなのか? お前にも刻まれてるぞ」


 するとテトラは、背中を向けて、僅かに横顔を見せて甲言った。


「運命共同体だな」


 それって、同じリスクが奴にもあるって事か? でもこいつはプレイヤーじゃないと言ったよな。


「お前と僕が同じリスクかそれ?」


 森がざわめくようにうねりだす。森の先から闇が迫ってくるような……


「命って奴は、一体何に宿ってるんだろうな。肉体か? それならこの体は、俺にとっては幻なんかじゃないんだよ。

 作られたとしても、俺は考える事が出来る。俺は既に一つの存在……そうはおもっちゃだめか?」


 迫る闇に体を向けて、テトラは染みるような声でそんな事を言った。命は何に宿るのか……どこからがそう呼べる物になるんだろうか僕には分からない。

 でも……目の前のこいつは、僕達となんら変わらない。そう思う。こいつの必死さは、はた迷惑だけど伝わったしな。


 生きてると、本人が自覚してるなら、それは命なのだろうか。でも……ただ、こいつにとっては自分が消えるかも知れない事を織り込んだ訳だから、同じ覚悟って事なんだろう。

 確かに存在が消えるとしたら、それは等しく死なんだろうな。


「それなら、きっかけくらいは教えとけ。僕もお前も死ぬ気なんてないんだからな」

「だからそれは無理なんだよ。おかしな所でシステムの縛りが効いている。だがまあ、いけるだろう。お前なら」


 なんだその楽観的な考えは? どこにんな保証があるんだよ。情報がどれだけ大事か分かってないよなこいつは。


「お前な……大変なのは僕じゃないか!」

「それでもお前はここまで来ただろ? このくらい乗り越えないと主人公には成れないぞ。あのお姫様は、そうならないと助けれないだろ?」


 迫る闇が僕達の周りを真っ黒に包む。風が一瞬吹き抜けた様な気がするけど、闇の中に風はない。てか、こいつはどこまでセツリの事を知ってるんだろう。

 全てを知ってるとか豪語してたけどさ、それもどういう事だよって感じだ。まあでも、確かにセツリを助けるためには主役を張らないといけないのかも。


 アイツは悲劇のヒロインに酔ってるからな。目を覚まさせるのは主役の役目だ。アイツの物語の主役はアイツだから、せめてヒーローに……その時、なぜそう思ったのか分からないけど、僕の口は勝手に動いた。


「お前も、誰かのヒーローに成りたいのか?」


 そんな僕の言葉に、テトラは一瞬ピクッと反応した。テトラのどこかに引っかかる言葉だったのだろうか。何気ない言葉だったけど、清とした空気がテトラの周りには溢れてる。

 そして静かにこういった。


「それは、お前が俺の願いを叶えてくれるのなら分かるさ」

「んっ……」


 流れていく闇の先から、光が溢れる様に見えてきた。その光に思わず僕は目を細める。逆光を受けてるテトラが黒く見える。そして曖昧に見える。


「さて、頼んだぞ。無くすなよそのアイテム。ああそれと――」


 その瞬間、闇が駆け抜ける様に去っていった。するとそこに居た筈のテトラの姿が無くなってる。けど、姿は見えないけど、声だけが残響の様に響いてきた。


「――そんなに心配しなくても、ここからは出られるさ。時間を逆に考えてみな。発想の転換って奴だ。むしろここには、居続ける事の方が難しい」

「居続ける事が難しい? おい、それって!」


 僕は周りを見回して声を出す。だけどそこはもう、不気味なだけの森へと戻ってた。どこかからか不気味な鳴き声が聞こえてきて、バサバサと飛び立つ様な音が心音を一回飛びあげる。

 僕のほかに人の気配は無い。嫌な感じは、常に張り付いてんだけどな。僕は手に握ったアイテム「金魂水」を見つめる。そして手の甲の模様……やるべき事が一気に増えた様な気がする。

 それにタイムリミットまで……悠長になんかしてられないな。


「さて」


 僕はどこまで飛ばされたんだろうか? どうやってセラ達と合流しようか悩んでると、どこからか声が聞こえてきた。


「スオウ!」

「おう、セラにスズリさん。助かったよ見つけてくれ――」

「こんっの、バカ!! どこまで飛ばされてるのよ!!」

「セラ?」


 僕の姿を見つけるなり、その場で罵声と共に立ち止まったセラ。実は殴られたりするかなとか思ってたんだけど、なんだかそんな雰囲気じゃない。


「アンタ……無事なの?」

「ああ、見ての通りなんとかな。色々あって……心配してた?」


 僕の何気ない言葉に、セラは展開したままだった聖典を荒々しく操ってこう言った。


「心配なんてするわけない! 勝手にどっかでのたれ死んでなさいよアンタなんか!!」

 第百九十話です。

 パワーアップの為にやるべき事が出来ました。本当にそうなるのかは不明だけど、スオウは既にやるしか有りません。色んな問題が集まって来る体質なのか……まあ有る意味、解決策が寄ってきてるって気もしますけど……偶然と必然って使い分けが難しいですよね。

 てな訳で、次回は木曜日に上げます。ではでは。

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