役割山進
空の穴が消えていく。だけど僕達はこの場所に囚われたままだ。だけど新しい発見もあった。次……それに望みを託そうとした時、僕達の前に新たな敵が現れる。
空に現れてた穴が、渦となり消えていく。それと同時に、宙に浮いていた0の点滅も消えていく。結局僕達は、この危なっかしく物騒な場所に、取り残されたままだ。
周りの森からは木々が揺れる音が不気味に響き、どこかからか狙われてる様な……そんなおっかい感じが沸き上がる。
勘違いなんだろうけど、この場所の雰囲気がさ……それを感じさえずには居られない。それにまだ、一回もまともにモンスターを倒せてないのが大きいんだ。
勝った経験でもあれば、もっと心に余裕が生まれるんだろうけど、今はまだ不安しかない。もしかしたら、ここまでモンスターを怖いと思ったことは無かったかも知れない。
自分の力が通じない相手って意味なら、シクラや柊の方がずっとそうだった筈だけど、アイツ等の場合は滅茶苦茶が過ぎたから、現実味が無かったんだ。
それにアイツ等は人の姿をしてて、心があって、何よりも女の子だったんだ。恐怖は恐怖だけど、なんか種類が違う。
獣と対峙する事と、知恵を持つ奴と対峙する事ってどっちが怖い事だろうか? 今までは後者が圧倒的に厄介だって思ってたけど、獣が本能だけで襲いかかって来るのも、余裕が無いと怖い物だ。
それに僕の場合、リアルと変わりない命をさらけ出してる訳だし……LROって、常に外には熊が徘徊してる様な物じゃん。モンスターってリアルで言うなら熊だろ。
そいつ等が常に命を狙ってるって……かなり怖いこと。今まではゲーム性に一応は沿った所だったから、普段の場所ではそれほど強いモンスターになんて、あの悪魔かクーぐらいしか会わなかったけど、ここは違うんだ。
明らかに何段か飛ばした結果の場所。僕やセラでも、余裕で倒せる敵はきっといない。だから、油断なんて出来る筈もない。
普段の数倍増しで、モンスターがグロく見えるんだ。
「ああ……」
色々と自分の中で考察してると、不意にそんな声が力無く吐かれた。それはどうやらスズリさんの声の様だ。とうとう消え去った穴に、希望を持って行かれたのかな?
セラの言葉はどこにもその根拠なんか無かったからな。まあでも、ネガティブに考えるよりは良いと思うんだけど……彼にはどうやら、その余裕は無いようだ。僕達の中で、彼は一番弱い存在だから仕方無いのかも。
彼にとってはまだゲームだから、もっと気楽に考えても良さそうな気もするんだけど、やっぱり殺されるってのはいい気がするものじゃないか。
特に彼は、まだ多分一度も死んでない。だから恐怖はリアルと同じ感覚のままなんだろう。
「ねえスオウ」
「うん?」
逃げる為に見つめてた数字も消えた。何気ない感じで返事したけどさ、実は結構ドキドキだった。だってきっとセラは、僕が保留してた答えを求めてるよ。
答えと言うか、考えか……でもそれは上手くまとまらなくて悩んでるんだ。空に現れる穴・その真下にあった数字の0の並び・そこにある五人分の足跡・そしてセラが見つけた情報……一番気になるのは、僕的にはこの数字なんだ。
でも数字が気になるだけじゃ、納得しなさそうなんだこいつ。
「だからなんなのよ。気づいた事は言いなさい。三人よれば文殊の知恵よ。丁度三人だし、それぞれの考えを合わせれば問題ないわ」
「う~んじゃあ言うけど、数字。あのストップウォッチの様な0の並びって、何かのカウントダウンじゃないか? 何かって言うと、ここでは穴の出現しか無いけどさ……連動して消えた所を見ると、間違い無いと思うんだよ」
まあ言うだけ言ってみた。でもこれは今気づいた事なんだよね。もっと前に何かに気づいてたと思うんだけど……
「数字ね。確かにあれは気になるわ。でも私達はあの数字を出現させる手段も知らないわ。それってつまり、穴を出現させれないって事じゃない? たく、使えないわね」
大きく息を吐き頭を振るうセラ。何コイツ、人の意見はもっと大切にしろよ。三人よれば文殊の知恵じゃなかったのか? それならまず、受け入れる事から始めろよ。てか、それだけじゃないっての。
呆れ果てて、自分の持ってきた情報を眺めてるセラに、僕はまだ言い放つ。
「まあまだ聞けよセラ。お前はさ、あの穴がアイテムか何かで呼ぶものだと思ってるわけか?」
「そうじゃないの? それか、発生して消えるまでのカウントダウンって線もあるわね。0に成る前に穴の下に来れば良いわけ。でも一組限定かな?
それかやっぱりその時に何かの条件があるとか。でないと、私達が出れなかった意味が分からないもの。私達は間に合ってた。でも出れなかったのは、条件を満たしてなかったからでしょ」
条件か……実はそれが一番の疑問じゃないか? 条件って何だよ……準備をして来てる訳じゃない僕達に、それを満たす事を期待するなんて、不親切な設計だろ。こんな場所でさ。
僕は思うよ。そんな物があるのかって。でも、確かに穴の下に来た僕達は、多分カウントダウンに間に合ってた筈だ。けど出れなかった。
確かに何かが必要だったとも思えるし、元の考えの自然に発生するタイプともそれは一致するかも知れない。でも、条件やアイテムを手にすることが、無理矢理飛ばされた人達に出来るだろうか?
出来なければ、ずっとここに居なくちゃいけない? そんな訳無いだろう。僕は再び蓋をしたような黒い雲で覆われた空を見つめる。
「そんな条件やアイテムが、本当に必要なのかな?」
「じゃあ何だって言うのよ。確かに厳しい条件だけど、それだけの場所ともいえるじゃない」
「まあ、確かに……」
ここはLROの秘境中の秘境、暗黒大陸なのだ。確かに厳しい条件が用意されてて当然かも知れない。でも、トラップに引っかかった人を無慈悲に閉じこめるなんて事、制作側はしないだろう。
それじゃあゲームとして破綻してんじゃん。非常識な事が起こり得てるLROだけどさ、それはゲームとしての所とは離れてる場所でだろ。
まあ最近アルテミナスが崩壊したけどさ、あれとこことは違う筈。元々からんな厳しい条件なんて……
「でもな~、なんか納得出来ないんだよな。だって僕達の様な連中は、それじゃここから出れない。なあセラ、ここに閉じこめられた人とか居るのか?」
「そう言う話は……聞いたこと無いけど……」
セラは険しい顔をしてそう答えた。まあだろうとは思ってた。だってんな訳無い。出れないなんて、重大な不具合だろ。でも今実際、僕達は途方に暮れてる訳だからな……僕はもう一度、セラが持ってきてた情報を求める。
「おい、ちょっとそれまた見せてくれよ」
「言い方が気に食わないけど、まあ別にいいわよ。てか、内容位、さっき頭に入れときなさいよね」
文句垂れながらも、僕の方へ表示させたウインドウを差し向けるセラ。内容位って……物の数分で覚えられる程の頭を僕が持ってるとでも? セラだって、さっき見たのにまた見てるんだから、自分の事を棚上げしてるって事だろ。
分かってる癖に、毒づかなきゃ気が済まないんだな。僕は文句を押さえつけて、そのウインドウへ手を向ける。けどその時、ドズ~~ンと言う巨大な岩でも空から落ちてきた様な音と、僅かに足下へ伝わる振動が僕手元を狂わせた。
「わっ――きゃっ!」
「ととっ、何……だ?」
あれ? 随分セラが近距離に迫ってるじゃないか。それにウインドウをすり抜けた僕の手は一体どこに? 試しにニギニギしてみると、何か柔らかい物が手の中にある様な……
すぐ傍と言うか、もう密着しそうな程に迫ってるセラがなんだか震えてる気がするけど、どうしたんだろうか? それにしても、この感触はなかなか堪らない物があるな。
柔らかくてとろけそうで、でもそこに確かに存在してるこの物体。なんだかある意味安心するような気さえするな。
なんだろこれ? 僕が手を動かす度に、セラが僅かにビクビク反応してるような……それに次第に
「はぁはぁ」と呼吸が荒く……もしかして僕は、とんでもない事をやってるかもと感づいた。
「なあ、もしかしてこの手はなんかやらかしてる?」
僕はドキマギしながらそう聞いた。これはセラに何されても文句は言えないかも知れない。でもセラは、僕の言葉に応えない。
(え? 何? この無言が怖いんだけど……)
触ったこと無いから多分だけどさ、この感触って胸だよね? つまり僕は今、セラの胸を揉んでた訳だよ。……殺されるな。
「何やってるんですか二人とも!」
そんな死刑宣告を受ける被告の気持ちでいると、そこへスズリさんが勢い込んだ声を向けてきた。僕は必死に良いわけするよ。
「ちちち違うんですよこれは! 事故です事故! 決して無闇に揉んだ訳じゃ……」
「何言ってるんですか? それよりも後ろですよ後ろ!」
うん? 彼が指摘したのは、僕のセクハラ行為じゃないのか? まあそれは安心だけどさ、後ろって何だろう? そう思って僕は後ろを振り返る。
「ん? 山?」
振り返るとそこには、まさしく山があった。天高く聳えるそれは、山としか思えない。ただ、さっきまでそこに山があったかどうかが疑問だけど……
「あれ、動いてたんです!」
「へ? 動いて?」
んなバカな。あんな巨大な物が動くわけ無いよ。だって山だもん。今まで一番デカいモンスターは悪魔だったけどさ、もしもあの山が動いたりしたら、それはもう記録大更新だよ。
だって……何十メートル、いや山なんだから何百メートルあるんだよって事になる。流石にそこまではとは思うけど……もしもあれが生き物なら、悪魔よりも数倍デカい。確かに山にしては傾斜が急だし不自然だけど、動くだなんてそんなバカな。
「なあセラ、おいセラってば!」
「…………」
返事がない。さっきから何もしないし、どうしたんだコイツ? 巨人の有無を聞きたいんだけど、荒い息を吐き続ける事しかセラはしてくれない。
かなり怒ってるって事だろうか? 後が怖そうだ。その時、もう一度さっきの衝撃が周囲に響いた。ズズ~ンてな感じだ。しかも一回じゃない。続けざまに同じ様な振動が続く。
「あ……ああああ……ああああ!!」
スズリさんがおかしな声を漏らして山のあったほうを指さしてる。その様子だけで、察しが付いた。てか、イヤな感じが後ろからビシバシ伝わってくる。
僕は恐る恐るな感じで、スズリさんが見つめる先へ視線を向ける。
「なっ!? ――に……」
薄々分かってたけどさ、僕は驚いたよ。だってまさに動いてる。山の如き大きさの物が、大地を踏みしてて移動をしてた。
一歩を踏みしめる度に起こる振動、なぎ倒される木々、意味ないけどどうやって寝てるんだ? とか思っちゃった。
いや、ほかに色々考える事はあるだろうけど・・思わずそんな意味ない事を考えてしまうんだ。だって……あれは……あのサイズはどう考えたっておかしいだろ。
あれが倒すべき敵だとするなら、一体どれだけのプレイヤーが必要と成るんだ? あんなサイズ、ラスボスレベルだろう。
こんな所を闊歩してるなんて迷惑甚だしいぞ。
「あああああああああ!!」
「スズリさん! シー! シー!」
今、僕たちの唯一の救いはあの山の様な巨人が、僕たちに気付いてない事だ。それなのに、こんな叫びまくってたら気付いてしまうかも知れない。
そうなったら……おぞましい。考えたくない。ここでは僕たちは逃げ続けてるんだ。でも、あの巨人からは逃げれそうもない。
だって歩幅が違いすぎる。今、僕達に出来る事はここをやり過ごす事。だからお願い。スズリさん静かにして!
「あん!!」
艶めかしいそんな声が、突如響く。静かにって思ってたのに、何でコイツが……と、思う訳にもいかない声。セラは大きく背中を沿ってるし、それに気付いてしまった。
思わず僕は腕に力を込めてしまったことを。つまりこの声の原因は僕で……それはセラの胸を力を込めてこう――ガムニュって感じにしてしまった様な……
「おわわわ、ごごめん!」
僕はようやく、セラの胸から手を離した。そんな大きいって訳でも無いけど……柔らかかった。柔らかかったな。ブラしてる筈だろうけど、それにしても……ポリポリと僕は頬を掻く。
なんだか気まずい空気が流れる。セラは顔を真っ赤にして、両腕で胸を隠すように抱えて僕を睨む。その視線に僕はどう答えればいいのだろう。確かにとんでもない事やったと思うけど……
「あの……セラ――さん? いやセラ様」
「釈明を述べてみよ愚民よ」
なんか姫っぽい口調に変わってるセラ。合わせてくれてるって事だろうか。顔真っ赤で涙目で、なんかちょっと可愛いと思えるな。
愚民ね、いつもなら怒るけど、セラのレアな顔が見れたからどうでもいいとしよう。てか釈明ね……釈明。言うことはこれしかないよな。
「え~と……事故ですマジで!」
「死にさらせや!!!」
口調が更に荒々しくなったセラから、顎に向けて振り上げられる脚。
「うお!?」
なんて危なっかしい脚だ。危うく顎が飛んで、脳が揺さぶられる所だったじゃないか。正直に言ったのにこの仕打ちって……てか、事故って事はセラだって分かってるだろうに。
胸を揉まれたから、蹴らずには済ませられないのかも……
「ちっ」
そんな舌打ちがどくどくしく吐き捨てられる。そして第二撃でも準備する様に腰を屈めた。
(おいおい、マジで危ないよコイツ)
冷や汗が一筋、額から流れ落ちる。でもセラが第二撃を放つ前に、スズリさんの大音量の声がこの場に響いた。
「あぁぁぁああああぁぁぁあぁぁぁぁあああ!!」
流石に何事かと少し視線をずらすと、それだけで事足りる物が視界へ写る。それはこちら側にその頭を向けてる巨人が結構傍にいたって事だ。
あれれ~? コイツが一歩を踏む度にしてた振動は? こんな近づかれる筈は……そこで僕は気付いた。こいつの頭が妙に低いっていう事に。ドーンと視界一杯にあるこの顔が、その理由を示してる。
この巨人、移動してないんだ。両手を地面につけて、ここまでの距離を一気に稼いでる。
「な……なによこの巨大な顔は……」
ここで初めて巨人を視認したであろうセラは、その視界一杯に広がる顔を見つめて唖然としてる。まあ無理もないね。流石にここまで巨大な顔が広がってると、誰でも驚くよ。
しかも顔は人というより鬼みたいな感じだし。額からは角が四本生えて、その一番左端の一本が欠けている。顔は皺が多く、飛び出た下顎から大きな牙が二本生えている。
長い髭は茶色く汚れて、上手く閉じられない口からは、大量の涎がボトボトと……飛び出る様な二つの瞳は血走って、ギョロギョロと無意味に動いてる所なんかホラーだよ。
こっちを見定めてるわけじゃないけど、こうやってるって事は、気付かれてない訳がないよな。
「巨人……なあセラ、こいつから逃げれると思うか?」
「まさか……ふざけないでよ。こんなデカい奴から逃げるなんて……どれだけ走れっていうのよ」
僕の問いかけに、セラは震える声で答えてくれた。多分、どれだけ走っても振り切るなんて事は出来ないだろう。この巨人の一歩は、数キロいきそうだもん。
それくらい規格外の大きさだって事だ。きっと僕達は今、像を見上げる蟻の気持ちを味わってる。その位、圧倒的にデカい。でも見つかった以上、どうにかするしかないんだよな。
「ぐがぁ……がっが!」
変なうめき声を発して、周囲に唾を飛ばす巨人。するとそんな巨人の唾に押し潰される木々がある。おいおい、なんて凶悪な唾だよ。
存在するだけで迷惑な奴だなあれは。本当に、流石暗黒大陸って感じ。圧倒されっぱなしだよ。出会う敵には勝てないし……この独特の雰囲気に飲まれまくり。
少しずつ上げていった自信が崩壊しそうだ。シクラ達の出現でずっと思ってた。このままで僕はセツリを助けれるのかって……そのモヤモヤがここに来て更に強まった。
いや、確信に変わったと言ってもいい。このままじゃダメだ。だってあいつ等は、ゲーム性なんて無視してる存在なんだからな。
暗黒大陸でも、あくまでもゲームに沿ったこいつらから逃げてばかりで、どうやってシクラ達に勝てるって言うんだ。
(覚悟決めた方がいいよな)
僕はそう心で呟き、巨人の方へ歩きだす。
「ちょっと、何する気よ?」
「そ、そうですよ。逃げましょう! 一刻も早く!」
セラとスズリさんの声が背中にかかる。でも僕は止まれないよ。だってまず、スズリさんの言うことは無理だし。いや、そうさせる為に――ってのも悪くないのかもな。
死ぬ気なんて全くないけど、ここで僕が進み出る理由には成るよな。
「逃げれない……だろ? セラはわかってる。でもそれは三人で――ならだよ。誰かがこの巨人の相手をすれば、残り二人は逃げれる。
僕が相手をすれば、セラとスズリさんは逃げれるんだ」
そう言いつつ、僕はセラ・シルフィングを抜いた。それに反応したのか、巨人は、脚を引き寄せて地鳴りを響かせながら立ち上がる。
もう、一種の自然災害のレベルだよ。立ち上がった巨人はやっぱりデカい。デカすぎて、顔なんて見えない。まあ本当は僕一人がって思ってた訳じゃないけど、選択肢はこれしかなかったからさ。
でもそうか、僕がこれを選択したことで、二人には新たな選択肢が追加されたわけだよ。それはよかったと思える事。でもセラは、それを認める様な事はしないようだ。
「アンタを置いて、私達だけ生き延びろって事? ふざけないでよ! それなら私がそれをやるわ! アンタ、自分がどういう状況かわかってるわけ!?」
セラはそういうと、僕の方へ近づいてくる。そして自分も武器を抜いた。それも初めから聖典へと変化する、あの鏃だ。本気っぽいな。
いつもは毒々しいけど、根は優しい奴なんだ。
「ククっ……」
「何よその笑いは? 勘違いしないでよね。私はただ、これ以上犠牲者を出したくないだけよ。LROは楽しい場所であるべきでしょ。
それにアギト様の気苦労を増やしたくないしね。だからアンタは下がりなさい。リスクが大きすぎるんだから、進んでこんな事やることないわ。
その分私なら、ちゃんとゲーム的に復活出来るから問題ない」
まあ、セラの言いたいことはわかるよ。確かに僕がやらなくてもどっちかで良いことは確かだ。それなら、リスクがゲームとしてだけのセラが良いのかもしれない。
でもやっぱり一人残すってのは抵抗がある。自分の場合は「良いから行け」と迷わずいえるけど、こっちの立場に来るとそうもいかない。
それにやっぱりセラは女の子な訳だしな。男二人が揃って、女の子に頼るってのはどうなのか考えものだ。
「確かに、僕じゃリスクが有りすぎるってのも、良くわかってるけどさ……」
勢いこんで抜いたこの剣を、このまま戻すのは恥ずかしい。そんな場合でも無いけど……そう思わずにはいられないよ。
「つべこべ言わない。じゃあアンタはここで死ぬ気なの? それで良いの? 私は全然構わないけど、ここでやられる事を選ぶなら失望だわ。
死にたがりに、誰が救えるって言うのよ! 死にたがってる奴に、誰が手を伸ばして『助けてほしい』なんて思うのよ!」
「!!」
セラの言葉が、深く深く僕を貫く。それもそうだな……僕は命を懸ける場を誤ったようだ。プライドとかも、邪魔でしかない。
そんなのは取るに足らない事なんだ。
(今、僕に出来ることは……)
僕はもう一度強く剣を握る。正しい言葉を、正しく受け取っても、僕はまだ前を見る。
第百八十八話です。
空の穴の発生条件とは何なのか……色んなピースはきっと繋がる筈です。だけどここで更に大ピンチ! 山の様なモンスターにスオウ達は目を付けられてどうするのか!?
絶体絶命で次回へ続きます。
てな訳で、次回は日曜日に上げます。ではでは。