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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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わがままでいい

 僕達はこれからの問題を聞かされた。事件はなにも一か所で起こる訳じゃない。僕達が激戦を繰り広げてる間に、リアルの方でも動きが有ったようだ。前々から、そんな話は有ったわけだけど、遂に動き出す時期になったらしい。

 LROの様々な問題は、世間では色々言われてたから、それを調査審査する機関が作られた。しかもそれはもう動き出してる?

 最悪の事態は、LROのサービスが停止されるかもしれないって事だ。


 僕と日鞠は病室に入って五分もしないうちに、再び外に出ることに成った。佐々木さん達に促されて、一目近くでその顔を確認した程度。

 でも、病室に残ることに成った愛さんと秋徒、そして天道さんに比べたら僕達二人はおまけみたいな関係だから、それもしょうがないのかも知れない。


 それに少し時間をおかないと、秋徒も愛さんもこみ上げてる物を心に仕舞うのに時間が掛かるだろう。色々と回想するには二人が落ち着いてから……そういう事らしい。



 静かに扉を閉めて、異様に閑散としてる廊下に出る。さっき来たばかりだからさ、なんか効率悪く感じるな。


「で、なんなんですか? 秋徒達には聞かせられない事でも?」


 僕のそんな言葉に、佐々木さん達は真剣な眼差しで、互いを見合ってる。一言二言、僕達には聞こえない程度の声で囁きあって、そして纏まったのかようやく言葉が返ってきた。


「いや、なんて言ったらいいのか……ね。これは非常に不味いんだよ。君達にとっても、私達にとっても」

「ん? 不味い事はわかってますよ。この状況が都合が良い……なんて事を言う奴いないでしょう? だからこそ、あの人もそしてセツリ達も助け出さないといけないんでしょう?」


 佐々木さんの言葉に僕が当たり前にみたいに返した言葉。間違っちゃいないと思うその言葉……だけど何故か、佐々木さん達の表情は微妙で、どこか浮かない。

 そして歯切れの悪い言葉が返ってきた。


「まあ、そこなんだよね。だからこそ、あのまま中では言えなかったって言うかだね……言いにくくて伝えにくいというか……」

「なんだかはっきりしませんね。じれったいですよ」


 大の大人が何ハニカんでんだ。それもおっさんじゃキモいだけっす……とは心の内だけで思っておこう。結構世話になってるからね。この人達には。

 すると一度深く息を吸い込んで、決意したかの様に言葉を吐く佐々木さん。


「実はだね。誰も助けられなく成ってしまうかも知れないんだ」

「誰も……助けれない……は?」


 なんだか上手く言葉が飲み込めないぞ。いや、これ以上分かりやすい言葉も無いかもだけど、理解しがたい。どういう事かわからない。

 混乱する僕が次の言葉を紡げないでいると、割と冷静に聞いてたらしい日鞠が、その理由を問いただしてくれた。


「どういう事なんですか? 成ってしまうかも知れないって事は確定じゃないけど、その可能性があるって事ですよね。

 そこら辺から詳しくお願いします」

「ああ、そうだね。今の言葉は唐突過ぎたかも知れない。スオウ君にはあの戦いの前に言ってたと思うんだけど、原因は例の調査委員会なんだよ。覚えてるかい?」


 調査委員会? う~んなんだか聞いた様な気がしなくもないけど……なにぶんあの戦いが濃かったせいで、その前の事はあやふやな感じなんだよね。

 するとまたまた、日鞠が例の如くその答えをくれる。


「それって、もしかしてテレビで言ってた奴ですか? 確か国が設立する、拡大し続けるネットとそれに同調して増していくネットゲームがどんな影響を及ぼすかを調査するための組織だとか。

 確かLROもその調査対象に入ってた筈ですよね? 不備が見つかれば勿論サーバー停止とかを言いつけられる筈です。

 LROなら今のサービス事態の停止が最悪考えられます。だって既に二人……このシステムで犠牲者が出てるんですから」


 日鞠の言葉に、佐々木さん達は苦い顔をして黙り込む。どうやら、まさにその通り……と言った感じだ。成る程ね、そう言えばそんな話をあの戦いの前にしたかも知れない。

 そのニュースは僕も見た覚えがある。たく、それにしても何でも知ってる奴だなこいつは。


「思い出した思い出した。でも確か、大丈夫って言ってなかったですか?」


 僕の言葉に更に困った顔をする皆さん。すると少しポッチャリ系な人がボソボソトと病室を指さしながら呟く。


「あの時と……今じゃ、状況がほほら違うんだよ」


 状況が違う? あの戦いの前は大丈夫で、今はそうでも無くなった……その原因はつまり、その指の先って事なんだろう。

 そこはガイエンの眠る病室。いや、こっちなら戸ヶ崎さんと言った方が良いのかな。でも彼が原因って……そりゃ不味い事は分かるけど……でも既にセツリ達の例があるのにサービスは開始されたんじゃ無いのか?


 そこからほじくり返そうとその調査委員会はしてるって事か? 僕は扉の向こう側を見つめるようにして言ってみた。


「あの人がこうなったから状況は変わった……そう言う事ですか? だけどじゃあ、セツリ達はどうだったんですか?」

「そそそれは……」


 ポッチャリしたその人が僕の言葉に何かを返そうとした所で、開いた扉から声が割り込んできた。


「あの子とか当夜は実際LROの稼働前で、フルダイブシステムの事故って事だったから、原因が違う事に成ってるんだよスオウ君。

 でも彼は違う。LROの稼働から一年と数ヶ月。紛れもなくその中で起こってしまった事。フルダイブシステムへの逃げ道は無いわ。

 そもそも、苦しかった言い訳だしね。だってLROは根本をそのフルダイブシステムに頼ってる訳だから、今まで何の原因も追究されずに来た方が都合が良かったくらいよ」

「……なるほど」


 確かに言われなくてもその通りだな。しかも実装中のゲーム内で消えてしまって意識が戻らないとか、問題を追求しない方がおかしい。

 起こってしまった最悪の事態……状況は確かに、あの戦いの前とは違う。なるべく近しい人にも隠して起きたかったのはそのためか。


「ちょっと待ってください! それじゃあその調査でサービスが停止とかの宣言を食らったらどうなるんですか!? LROは……ガイエンは!」


 天道さんの後ろに居た秋徒が声を荒げて言い放つ。見過ごせない問題だもんな。その気持ちは僕にも分かる。だってそれはガイエンだけの事じゃない。

 セツリだって当夜さんだって、そうなったらおしまいだ。


「だからそうならない……そうさせない為に皆さんは、彼らをここに隠してるんですよね?」


 ズバッとそんな事を言ったのは日鞠だ。いやまあ、誰もが気付いてる事だけどさ。それでもなかなか口には出さない事を堂々と……日鞠の言葉に佐々木さん達は更に苦い顔をしちゃってるじゃないか。


「でも……助けれる可能性もあるんですよね? それなのにいきなりサービス停止とか……そんな事されるんでしょうか?」


 丁寧な言葉使いで会話に加わったのは愛さんだ。大人しそうに見えても、やっぱり自分の考えは言えるしっかりした人なんです。

 というか、僕達よりも年上だしね。彼女は大学生なんだよ。忘れがちだけどさ。そんな彼女の言葉に、ようやく大人側の人達は口を開く。


「それが……そうなりそうだから大変なんだよ。まだ戸ヶ崎さんの事は公に成ってはいないけど、噂はLRO中に広がってる。

 いつまでも人一人を隠して置ける訳もない。考えてもみてくれよ。一人でもゲーム中に戻れなくなったとしたら、それを放置しておけるかい?」

「「「……それは」」」


 僕達の言葉が重なる。嫌な方向にだ。調査委員会が調査して、それを決定されたとしてもそれは正義……なんだろう。

 そう思ってしまう。それを行うのがその人達の役目だ。遊びは絶対の安全性の元に提供されるべきもの……安全を確認出来ない物を市場になんて出して置くべきじゃない。

 それはもう一般常識的な物だ。一時期公園から遊具が消えたりしたのと同じだろう。


「でも……まだ一人ですよ」

「だけど……二人目が出てからじゃ遅すぎる。ううん、これを知ればその調査委員会の人達はこう思う。既に遅すぎたって」


 僕の必死の言葉に、日鞠が残酷なまでの正論を持ち出した。でも……その通りだ。そうなるよなきっと……誰も言い返せない。だってそれが正しいからだ。


「彼女の言うとおりだよ。それが正しいことだ。LROはもう暴走状態と言っても良いくらいだ。私達は本当は、決断を下さないといけないのかも知れない」

「決断……それってつまり……」


 佐々木さんの言葉に、秋徒が反応する。決断……それはもしかして、自分達でLROを終わらせる……そう言う事だろう。

 でもそんな決め手の様な言葉が出ることは無かった。そうじゃなく、天道さんが僕を見てこう言う。


「だけどね……だけど私達はまだそれを下してない。それは希望があるからだよ。まだどうにか出来るかも知れない……そう思えるから私達は、人道的に反してる事をやってる。

 スオウ君……君が私達の希望だよ」


 その言葉に僕はどう反応したら良いんだろう。「任せてください」なんて言えない。希望だなんて……僕には過ぎた言葉で期待だよ。


 僕だけじゃきっとここまで生きてなんか無い。今回だって、たまたまガイエンだったわけで、アイツが生きてればアイツが希望で良かった筈だ。

 僕はいつだって、沢山の人に助けられて生きてこれたに過ぎないんだから。


「希望なんてそんな……僕が掴めるのはきっと、この二本の腕で掴める分だけだったんですよ。なのに……今じゃそれも……」


 すり抜けた……取りこぼした。この手の一本を掴んでくれてた筈の彼女は……この手を離して去っていった。どうにも出来なくて……そしてガイエンを犠牲にして、それでもアイツは闇に向かって進んでる。


 諦めちゃいないけどさ……こんな手に希望なんて大層な物は宿っちゃいない。それは言える。見つめる手は包帯で巻かれ、あの戦いがそのままここにあるかの様に感じれる。

 そんな手に、後ろからそっと重なる手があった。そして温もりが伝わる。耳元で、背中を押す言葉が紡がれる。


「希望ってのは、周りの誰かがその人に感じる何かだよ。可能性って奴。自分で思わなくても、誰かにそう思えて貰えるのなら、きっとスオウには希望がある。

 それだけの可能性がきっとある。ヒーローは名乗っちゃいけないよ自分から。でも私は信じてる。スオウは私のヒーローだって。

 それだけできっと十分なんだよ」

「……はは、なんで僕がお前のヒーローなんだよ」


 たく……こいつは人を乗せるのが上手いと言うか、なんだか日鞠に言われたらそうかも知れない位には思ってしまうじゃないか。

 そしてそんな僕達のやりとりを見ていた佐々木さんが、痛みに耐えるような眼差しでこう言った。


「私達のやってる事は間違ってるのかも知れない。まだ未来がある君に、危ない事をさせようともしてる。それは大人の役目の筈なのにね。 

 決して誉められる事でも、称えられる事でも無いのは分かってる。私達は自分達の都合で、止められるかも知れない犠牲を増やそうとしてるのかも……

 だけど、今ここで終わりたくないと思ってるんだ。ここで全てを公にすれば、確実にサービスは停止される。それじゃ、今眠ってる三人はもう……救われない」


 救われない……その言葉はとても重く苦しい物だ。いや実際さ、当夜さんもセツリも救われたいなんて願ってるか微妙だけど、確実に一人ガイエンはそれを願ってる。

 そして僕は僕のエゴでセツリに生きてほしいって願うし、あの二人がもう一度ちゃんと出会えたら……そうも思うんだ。


「そんなのは絶対に嫌です。友達をこのまま見捨てるなんて出来ません! 私達だって、ガイエンを助けたい!」


 そう強く言ったのは愛さんだ。ようやく昔みたいに成れる所だったから、誤解もわだかまりも解けてこれからもう一度……その筈だったんだよな。

 サービスの停止は、そんなこれから始まったであろう事が全て、夢で終わってしまうって事なんだ。でも愛さんはその言葉の後に、苦しそうだけどもこうも言った。


「だけど……それはやっぱり私達のエゴなんですよね。誰かを救うために、他の誰かを犠牲にしていい理由には成らないし……そんなのは私も嫌です。

 でも! ガイエンがこのままなのはもっと嫌! 一体、どうしたら良いんでしょう……」


 愛さんは混乱してるみたいだった。それはきっとここに居る誰もがそうだと思う。正しいと思うことと、やりたい事が違うんだ。

 間違ってると分かってても、僕達は眠ってしまってるあの三人を見捨てる事なんて出来はしない。でも犠牲だって出したくないのは当然で……もう頭がグチャグチャだ。


 それに愛さんはアイリだからな。国を治める立場の人だ。犠牲はエルフからも出るかも知れない。いやそもそも、シクラ達にそこんところの垣根なんて無いんだろう。

 もしもそうなったとき、そんな事態が分かってた立場としては後悔するかも知れない。だけど、このまま諦めてもやっぱり、後悔するんだろうな。僕達はさ。

 どっちかを諦める……そんな選択肢しか無いのだろうか?


「ワガママになれば良いんだよ」


 そんな言葉が僕の頭上らへんから降り注ぐ。それはある意味、迷いのない声と言葉だった。誰もがこっちに注目する。


「ワガママ?」

「そうです。ワガママです。スオウはセツリちゃん達を助けたい。秋徒と愛さんは戸ヶ崎さんを助けたい。佐々木さん達もお姉さまも、このままで終わりたくなんか無い。

 でもそんな自分達のワガママを通したら、別の誰かが犠牲に成るかも知れない事が怖いんですよね?」


 さっきからそう言ってる。解決できない問題だ。それは許される事じゃない。だけど日鞠の奴は、簡単に解決策を提案しやがった。


「だからそれを含めてワガママで良いじゃないのかな? このまま犠牲を三人出したままで終わるより、次々出る犠牲者をそれも含めて最終的にゼロに出来るのなら、私は後者の方が良いと思うんだけど。

 ワガママだからやれないなんて、そんなの既にワガママじゃないよ」

「お前な……」


 なんだか簡単に言って退けたけど、それは口で言うほど簡単な物じゃない。確かにそれが出来たら良いのかも知れないけど……そんな犠牲者を全員助け出せる保証なんてどこにある。


「保証なんていらないよスオウ。ようはやる気の問題。だってそもそも、それって付随してる事じゃないの? セツリちゃんを助けれたら、後の人達も助け出せるんじゃない?」

「そうかも知れない……けど」

「けどじゃない! このままじゃ中途半端だよスオウ。今までやってきた事は何だったの!? その傷は、何の為につけたのよ!

 中途半端が一番だめだよスオウ。ずっとモヤモヤするよ。あの時こうしていればって思うくらいなら、全てを覚悟して前に進むの!

 ワガママだからどうしたって言っちゃうの!! 眠ったって全員俺がたたき起こしてやるから――それでいいんだよ!!」


 日鞠の怒濤の言葉に、その場の誰もが言葉を失った。変な感じに傷も痛む。それで良いんだよ――か、はは……


「それで……良いわけねーだろ!!」


 僕は勢い良く地面に立ってそう言ってやったよ。座ってなんてられないな。好き放題言いやがって、それがどういう事か分かってんのか!!


「どんだけのもんを背負わせる気だよお前は!! 僕にはな、せいぜい目の前の一人か二人が限界なんだよ!!」


 LRO中……三百万のプレイヤーを背負うなんて出来っこない。そんなの耐えられない。僕はお前ほど、図太い神経の持ち主じゃない。

 過大評価し過ぎなんだよいつだって。僕は平々凡々だ!


「そうかな? 本当にそう? スオウはもう既に、LROって物を、背負ってるって私は思ってたけど。セツリちゃんを助けるって決めた時から、そうだったんじゃないの?

 今までだって沢山の人達を巻き込んだ。でもスオウは、逃げずに立ち向かってたよ。そして必ず、勝利してたんでしょ?

 だからまだ生きてる。こうやって私の前に居てくれる」


 そう言って日鞠は、立ち上がった僕の胸に、そっと頭を埋める。優しくゆっくりと、背中に手を回して抱きしめる。


「今までと何が違うの? 大丈夫……スオウは一人じゃないでしょ? 頼れる仲間も親友も、どこにでも居るじゃない。

 ワガママで良いんだよスオウ。前だけ向いてて良い。だってそうでしょ? 物語はハッピーエンドじゃないとね。今ここで終わったら、誰もハッピーになんて成れないんだから」

「確かに……ハッピーでは無いよな」


 暗かったどうしようもない道に、援護射撃で打たれてる気分だ。でも……そうなのかも知れない。ワガママで良いのかも知れない……そう思えてきた。

 なんだか周りのみんなの顔も自然とあがってきてるし、やっぱり日鞠には勝てないな。今確かに終われば、それが正しいと思えてた。


 でも……誰も幸せで無い事が果たして正しいのかって、今ようやく思える。LROは三百万以上のプレイヤーが愛する世界だ。

 例え、こんな事態に関係なかったとしてもさ、このままじゃLROはサービスを停止される。それは例外無く、犠牲者って事じゃないか? 今この瞬間もあの世界を駆けてるプレイヤーの誰もが 夢を奪われたも同然って事何だから。


 つまりは元々、一か零しか無かったのかも知れない。中途半端な位置で悩んでた事事態が、間違ってた事だったのかも。


「大丈夫、スオウは勇者の素質あるよ。でも、それでもまだ不安なら……私がとっておきの魔法を掛けてあげる」

「は? 何言って――」


 僕の言葉が途中で途切れた。言葉を紡ぐ事が出来ない状態になった。柔らかな感触が、唇に触れてる。鼻孔を擽る、いつもの香りが頭の芯まで届くように充満してる。

 目の前に……というより超至近距離で目を閉じてる日鞠。僕達は今、繋がってる。唇と唇で、一つに成ってる。



 何秒位そうしてたか分からない。一分にも感じたし、十分位にも感じた。いや実際、時間が止まってたんじゃ無いかとさえ思った。


 (何やってんだこいつ?)と思うより先に離れてしまった日鞠に一瞬あっと思った事が悔しくて成らない。唇が離れると同時に世界も動き出した感じだった。

 周りは日鞠の突飛な行動に、唖然としてる。一番そうしたいのは僕だけどね。


「何やってんだ!」


 ようやく絞り出した声は、情けない事に震えてたかも知れない。だって一杯一杯だったんだ。今まで何度も、それを奪われそうに成ったことはあったけど、越えて来なかった一線。

 それを何故今越える? 動き出した時間の中で、周りのみんなもさっきの光景を思い出して、それぞれに困った反応してるじゃないか。


 そしてそれを向けられる僕は、死ぬほど恥ずかしいぞ。だけど日鞠の奴は、満足そうな顔をするだけ。そしてランランと輝いた瞳でこう言った。


「魔法だよ。私は何にも力に成ってあげれないから、私の愛と勇気を分け与える魔法の行い。これでもう、スオウは立ち止まらないで進むしかないよ。

 なんてったって、私の気持ちは宇宙を造るビックバンより激しいからね」

「それは……確かに止まってたら死にそうだな」


 キスしたって別にこいつ変わらないな~何て思ってたけど、心なしか足取りがフラツいてないか? それにやっぱり顔も赤い様な。

 きっと今じゃ無くちゃいけない何かがあったんだろうな。僕が弱気に成ってたからこそ、今だったのかも知れない。

 日鞠はいつだって決め球はストレートしか投げない奴だからな。


「まあでも……確かにいろいろ吹っ切れたかも。核爆弾並の物を投下する奴があるかよ」

「えへへ、そう思ってくれてる事が嬉しいよ。スオウはね、スオウにしか出来ない事をやらなきゃね。頑張って……なんてもう必要ないよね。

 私は信じてる。それを忘れないでね」


 日鞠の言葉に僕は頷く。そしてここにいる誰もがもう決めてただろう。これからの事を。

 第百七十八話です。

 リアルでも問題が起こってきて、リアルとゲームの交差がまた出来て来たでしょうか? それを活かしたいんですよね自分的には。だからこの問題にも立ち向かいます。

 LROにもリアルにも敵が一杯。スオウ達は眠り続ける三人を助けれるのか!? てな訳で、次回は火曜日にあげます。ではでは。

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