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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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アルテミナスは沈まない

 ガイエンが消えてしまった。この世界から居なくなった。ただ現実に戻っただけ……そんな風には思えない。ガイエンの状況は僕と同じだったんだ。だけど構わず叫ぶ下品な声。

 まだ戦いは終わって無い。そして負ける訳にもいかない。アイリは最後の可能性の為に城へ向かう。残された僕達は、ここを死守する事が役目だ。


「助けて欲しい」


 どこかからかそんな儚い声が聞こえた気がする。だけど僕が振り返った頃には、エルフのみんなの視線の先はぽっかりと空いていた。

 不自然な空間がぽっかりと。そこには何も……何一つ残ってない。名残なんて物は無くて……元からそこはそうだったかのような空間だ。


 でも僕は知っている。あそこに居た奴を忘れる事は無いだろう。そしてアギト達も……僕よりも関わりが深かったんだから、それは当然だ。


 でも出来なかった……何も……そんな思いがこみ上げる。悲しみにくれるその場所は、とても見てる事は出来ない位だ。幸い僕にはやることがあるけど、アギト達は大丈夫なのかそれが心配だ。

 もしかしたら、僕がいつかこんな気持ちを関わり合った人達に抱かせてしまうのかも知れない……そう思うとなんだか痛いんだ。


 アイツが消えた事もそうだけど、悲しむ光景を知ってしまった。誰かが居なくなるって事は、自分一人の問題なんかじゃ無いと思わせる。

 いつかは誰にだってくるだろうけど、早すぎる事は良い事じゃない。これに限っては。


「スオウ君、奴が行ったよ!」


 心が落ちそうな時に、そんな声が聞こえた。顔を戻すと、大鎌を振りあげた奴が面白おかしそうに叫んでる。


「ぎゃはははははは! 用無しはやっとで逝ったか。そんな悲しそうにしなくても良いんだぜ。お前等も直ぐに同じ場所へ送ってやつからさぁ!!」


 不謹慎……そんな言葉じゃ足りない。そもそもこいつにそんな言葉自体が意味がない。こいつは心の底からそう思ってるんだろうから。

 でもさ、それは許せない事だろ? 許しちゃいけない事だろ。例え僕が友達の友達程度の関係だとしても、本気で悲しんでる奴等が居る場所で、そんな事、まかり通す訳には行かない。


 首を遠慮なく飛ばす角度で入ってくる大鎌。切っ先まで真っ黒なその鎌は、魂までも刈り取れそうなそんな感じがする。

 でもやらせない。僕は素早く片方の剣でその鎌を受け止めて、もう片方で反撃に転じる。


「うるせえよ……今直ぐその下品な口を閉じてろ!!」

「んっぎゃあああああああああああ!!」


 セラ・シルフィングが黒い奴の肌を両断する。轟く絶叫と共に、奴は後方へ倒れ伏す。だけど「やった」なんて思えなかった。

 何故なら倒れても直ぐに、奴は不気味に笑ってる。


「いてぇいてぇいてぇいてぇよ。かっはははは! スッゲ~いてぇえよ笑えるくらいに。ああ~良い感じだ。生きてるって感じがビンビン伝わってくる」


 そして意外とあっさりと立ち上がる。なんだこいつ、マゾなのか? てかどう考えても危ない奴だ。それはわかってた事だけど、流石に引くわ。

 そしてユラユラ上体を揺らしながら、大鎌を古時計の様に振るう。そして今までで一番凄惨な笑みを見せて、黒い血が吹き出すのも関係なく突っ込んでくる。


(速い!)


 テンションが上がったからか知らないけど、確実に一段階速くなってる。そして同時に振るわれた大鎌が重かった。

 受け止めたけど、それだけで精一杯。それにおかしな事に、右側のセラ・シルフィングの風のうねりが消えていた。


「なん……で?」

「かはっ! かはっ! かははははは!! なあ、お前は生きてるのか?」


 狂った様な声と共に聞こえたその声に寒気がした。そして更に奴は勢いを増して大鎌を振るい出す。


「生きてるよなぁ!? 生きてるんだよなあ!? そうでんなきゃ殺しがいが無いだろ!? 生きてろよ! 生きてろよ! 生きてろよ! 生きてろよ!!

 真っ赤な血を吹き出してそれを俺にわからせろ!! 殺してやるからさああああ!!!!」


 赤い瞳が爛々と輝いてる。何がこいつのスイッチを入れたのか……思い当たる事は血か。生きてるとか殺すとか、うるさ過ぎる。

 でも、その口を閉じさせ様にも反撃に転じれ無い。片側だけ消えた風のうねり。それが重くのしかかる。攻撃力だけじゃない、防御力だってあれは補完してくれてたんだ。


 だからそこがまず崩される。腕が弾かれて体が剥き出しにされた。奴は振り下ろした鎌を反転させて、今度はそのまま切り上げる気だ。

 僕の体を真っ二つにするために。


「――っつ!」


 避けれない。態勢も崩されてる。この一撃は……そう思ったとき、何かが……赤い何かが奴と共に地面を抉る。


「ぐぎゃああああああああああああ!!」


 巻き起こった粉塵の先で、立っているのはアギト。アギトは槍で胴体を貫いてる奴を、無造作に持ち上げ投げ捨てる。

 ドサ、ベチャと言う不快な音と共に、奴は地面を転がった。でもそれよりも、僕はアギトに視線を向けてた。だって不安だろ。心配だろ。


「アギト……」


 僕はその背に、名前を呼ぶ事しか出来ない。奴の黒い血を浴びた槍から炎が消えていく。それがどういう事かは定かじゃ無いけど、アギトの肩を揺らして辛そうに、言葉を必死に紡ぎ出す。


「馬鹿……言ってんじぇーよあの野郎。助けて欲しいだとよ。そんなの……言うまでもねーだろうが! 助けるさ。助けてやるよ。

 何時だって……何度だって諦めない!!」


 アギトは必死にそれを刻んでる様だった。そう言って、そう信じなきゃ、心が折れてしまいそうだった。その背中はそんな決意と共に、そんな弱さも僕に伝えてきてた。


「かはっはははは! いってぇ! 超絶いてぇよ! 傷口焼くなんてお前は鬼かよ。でも……生きてるよなぁ俺は。助けるなんて、かはははは!

 教えてやるよ。アイツは死んだ。俺様が食った。それが事実だ現実だ。認めろよ。そして死にたくなったか? なら俺が殺してやるからさぁ!!」


 腹に大きな穴を開けられても、笑みを漏らして立ち上がるアイツはまさに化け物。アギトの言葉までも食おうとしやがって……だけどそれにアギトが激高する事はなかった。

 いや激高はしてるけど、それを腕の部分で必死に押さえてる。次は自分じゃないから……みたいな感じだ。でもその間にも、奴は大鎌を構え直して、アギトに向かおうとしてる。


 けどその瞬間、奴は地面にめり込んだ。上方から降り掛かった圧力に押しつぶされる様にだ。これはカーテナか。視線を向けるとアイリが静かに、輝くカーテナを振るってる。

 そしてアイリは決意を込めた声で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「何時だって、何度だって、そして私はどこまでだって、友達の為に行って見せます。だけどまずは、私は願いと責任を果たします。

 それは彼が望んだこと。私が望むこと、そしてここに居る誰もが願ってくれる事。死なせません……もう誰も。無くしません……これ以上何一つ。

 アルテミナスは沈まない!!」


 顔を上げ、振り下ろしてたカーテナを再び頭上にあげるアイリ。もう一度、今度は止めと言わんばかりの威力を込めての一撃に成りそうだ。

 それが分かる。輝きが違う。今まで初めて、カーテナの切っ先の上に魔法陣が現れて、そして奴が押しつぶされた場所の上にも、同じ輝きを放つ魔法陣が現れてた。


 多分あの二つがリンクして、離れた場所にも攻撃を届かせてたんだろう。今まで見えなかったのは、モロばれするのも防ぐためか。

 でもそんなのを度外視するくらいにアイリはこの一撃に懸けてる。そう言う事だろう。


「かっはははは! 良いぜこいよ。ぶった斬ってやるよ!!」


 自身が置かれてる状況を理解してるのかしてないのか、奴は心底楽しそうにそう言った。大鎌を構えて、本当にぶった斬ってやろうとしてる。

 でも力を込めて握った瞬間、奴の腕が脆く崩れて大鎌が地面へと重い音を立てて落ちた。


「なんだこれ?」


 理解できない事が起きた……そんな感じで呟く奴。どうやら僕たちの攻撃は効いてなかった訳じゃない様だ。アイツが全然気にして無さ風だったから勘違いしてたけど、ただ鈍いだけだったのか。


 まあ生命と呼べるかも怪しい奴に、精神がどうのこうのはおかしいかも知れないけど、異常なテンションの高さで今まで補ってた物が、限界を越えた。そう言う事だろう。

 それならまさに、この一撃でこいつは倒せるかも知れない。それだけカーテナは強力で、今までで一番きっと心が重く乗った攻撃に成るだろうから。

 輝く魔法陣が黒い奴を強烈に照らしてる。それだけでも奴を焼け付くし程の光。


「貴方がガイエンから奪った物全て、今ここで返して貰います!!」


 アイリの宣言と共に振り下ろされたカーテナ。空気が弾け、地面が砕かれる。その衝撃は凄まじく、周りに居る僕たちも吹き飛ばされそうに成るほどだ。

 世界が揺れた。もしもこのLROが丸い星なら、マントル位までブチ抜くんじゃ無いかと思える程だった。そして実際、奴が居た筈でカーテナの力が降り注いだ地面は、有り体に言えば無くなってた。


 地面に突然、深い穴が口を開いてる様にそれはどこまでも沈んでる。砕いて、押し込んだ。いや、砕ききってしまったからこうなったんだろうか。

 とにかく初めて見る光景に、どうして? の理由が付けられない。まあでも、これなら……そう思って僕は中心部分の煙が出てる所に目を向ける。


 どんなモンスターでも倒せるんじゃないか? と言う一撃だ。あの状態の奴では防ぎようなんて無かったはず。もう見える筈も無いんだけど、確認したい気持ちが穴の中心部分へと向いちゃうんだ。

 だけど立ち上る煙からおかしな物が見える。柱……の様な大地の塊? その穴の中心に一本立つそれが意味する事は……


「ああ~もう、だから言ったじゃない。まだまだ君は生まれたての赤ん坊。存在だって完璧じゃないんだから無理は禁物だよ。

 今のは私が助けなかったら間違いなく死んでたね。負けだよ負け。君の完全敗北☆」

「うるせぇ!! 余計な事しやがって! お前から殺すぞこの女!!」


 聞こえて来たのは二つの声。そして煙の間からその姿が確認出来る。奴とシクラ……その姿は健在だ。


「……っつ」


 悔しそうに眉を潜めるアイリ。そして周りは驚きで一杯だ。確かにあれだけの攻撃、普通なら一貫の終わりだろう。

 でもそれを防いだのがシクラなら、僕の中では驚きよりもまず納得する部分がある。


「ふふ、ちょっとは言葉に気をつけようか? 私の上にはせっちゃんしか居ないの。そして姉妹が同列、後は全て下なの。

 誰のおかげでそれだけの存在に成れたのか分かってる?生みの親には敬意をはらいなさい☆」


 シクラの顔は別段いつもと変わらずヘラヘラしてる。だけど、その顔は笑ってるのに笑ってない感じだ。時折見せる凄みがにじみ出てる。

 てかシクラ達こそ、敬意払ってるのかって思うけどな。そう言えば当夜さんの事はマスターと呼んでたか。あれが精一杯の敬意の現れ?


「かっはは……確かに今の俺様じゃアンタには勝てないな……すまなかったよ。まだ俺様は死にたく無いからな」


 なっ……奴が素直に謝った。それは衝撃だ。今までの言動からして、そんな物持ち合わせてないと思ってたのに。シクラはそれほどって事だろう。


 だけど奴の目は謝ってたり感謝してる奴の目じゃない。赤い瞳はシクラをおもいっきり敵視してる様に見える。でもそれを何ともないようにシクラは言うよ。


「そうそう、素直が一番☆ おっと、ねえお姫様。今のより強力な力を放てるの? それが出来ないんなら、このシールドは抜けないよ☆」

「くっ……」


 シクラの先手を打つような言葉に、アイリは振ろうとしてた手を止めた。いや、止めざる得なかった。シクラの周囲に展開してる球状のシールド。あれを今のが抜けないんじゃ……

 そう思っての停止。だけど次の瞬間、シクラは奴を引いて地面を蹴った。そしてそこにクーがやってきて二人を背へ乗せる。


「あはっはは~☆ 嘘だよ嘘。あんなのそうそう防げないよ私でも。カーテナは、ううんバランス崩しは本当に厄介。

 でもその一角はここで確実にしとめられるよね」

「このっ!!」


 アイリはすぐさまカーテナを振るうけど、クーは一気に上空へと駆けあがる。てか嘘。完全に見えたシクラにも、当然限界があるらしい。

 そしてバランス崩しはかなり警戒してる。だからこそここでしとめるってか。でも今は少し前とは違う。アイリは無意味な攻撃を止めて、上空のシクラへ向かってこう言った。


「もう戦況は違います。確実なんてよく言えますね。追いつめられてるのはあなた方です!!」


 そう、数では僕達の方が今や有利だ。シクラは自身の攻撃で、モンスターを全て潰してる。実質残ってるのはシクラ達だけ。

 だけどシクラは薄ら笑いを浮かべておかしな事を言う。


「あはは、数が多ければ安心なんだ? じゃあこれならどうかな? ヒイちゃんお願い」


 その言葉で上空の別の場所から光が放たれた。それは柊が見せた六対の氷の翼が放ってる。


「全く、私だって疲れてるのに……シクラは人使い荒いし、いい加減だし、アホな顔してるしで私嫌い」


 スゲー言われようだ。けれどシクラは気にした風もなさそうにこう言う。


「あはは、大好きの裏返しだね☆ お願いヒイちゃん。お仕置きは無しにするから」


 すると柊を抱え込むワードがあったらしく「まったく」と少しホッとした顔しながらそれをやりだした。六対の翼から、氷の刃が広範囲の地面へ向けて放たれる。

 そして地面に放たれた氷の刃は、変な文字を宿して地面へ着弾する。すると地面から何かが出て来だした。次から次へと……あれは……


「モンスターが復活してるぞ!!」


 誰かのそんな声が響く。それにただ復活してるだけじゃない。なんだかゾンビッぽく成ってるような?


「どうかなお姫様☆ これでも確実何て言えない?」


 迫ってくるモンスターの大群に、こちらも応戦しない訳には行かない。だけどこいつら……どこをどうみても、HPなんて物が表示されてない!!


「何だよこれ!?」

「ゾンビ化してるんだ。核を壊すか、光系魔法でしか倒せないんだ!」

「マジッ!?」


 それはやばいんじゃ。核ってのは多分、さっきの氷の刃だろう。だけど見える所には無い。胴体を一撃で切り刻むとかしないと、僕達じゃ倒せもしないのか。

 するとヌワッと感じで大きな存在が起きあがる。悪魔計五体までも、同じ条件で復活しやがった。

 これは……そんな思いが誰もの脳裏に掠めた瞬間。五体の悪魔の体が一瞬で消し飛んだ。そして復活もしない。


「「「おお!!」」」


 僕達は声を揃えて驚いたよ。そしてそれを行ったであろう彼女は強い眼差しで言い返す。


「言わせませんよ。確実何て、私が言わせません!!」

「あはは、一人で何て幾らカーテナを持ってても無理じゃないかな?」


 カーテナの属性は光なんだろう。だから一撃で決めれた。でもシクラの言う通り、敵は百・二百は居る。カーテナ一本じゃ幾ら何でも押し切られる。

 だけどアイリは周りのみんなを見渡して言葉を紡ぐ。


「確かにカーテナを持つのは私一人だけど、でも私は一人じゃない! 同じ国を思うみんなが居ます。協力してくれる友達も出来ました。そして遙か彼方から受け取った思いもある。

 今の私には怖いものなんてありません!!」

「「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」」


 アイリの言葉に軍の連中が一気に活気づく。絶対的な戦力差。だけどそれを越える物をアイリはみんなに与えてる。


「かっははは!! 感じさせてやるよぉ! 生を死を!」


 我慢できなくなった馬鹿が思わず地上に降りてきた。


「ああもう、でも確実に行きたいかなここは。思いだけじゃ乗り越えられないよ☆」


 そしてシクラも奴の後に地面に立ってそのアイリの言葉を否定する。確かにこいつらまで加わって数も不利。何時までも気持ちだけで持ちこたえれる物じゃない。

 それにそれじゃダメなんだ。勝たなきゃいけない。するとその時、僕とアギト二人にアイリは目配せをくれる。


「アギト、そしてスオウさん。ここでしばらく、あの二人とみんなを頼んでも良いですか? これはお二人にしか頼めません」


 一瞬僕は耳を疑ったけど、その瞳は真剣だ。光を宿すその目は決意の証だ。だから僕はさっさと頷くアギトに続いて「任せてください」そう答えたよ。

 アイリは「頼みます!!」そう言ってセラを呼ぶ。


「アイリ様!?」

「セラ、『ネクタル』を私に! 今から城へ向かいます!」


 ネクタル……それは『神酒ネクタル』か。確かセラ・シルフィングを手にした泉で手に入れてたアイテムだ。何の為にだっけ?


「城へ? この状況でアイリ様が戦線を離れると指揮が下がります!」

「大丈夫です。それはあの二人に任せてあります。私達は勝たなきゃいけない! だから……第四の封印を解きます!!

 これは元々ガイエンが残してくれた希望です。そしてルベルナ様が思い出させてくれた最後の可能性なの!! セラお願い、一緒に来て!!」


 セラの最もな言葉を、それでも一蹴してアイリは強引に走り出す。口調もなんだか変わってた。だけどこれが最後の可能性……それは確かだろう。

 ルベルナは言ってたよ。担い手はプレイヤー。その可能性をアイリへと伝えたんだな。


「全員気を引き締めろ!! ここからさきは一歩も通すな!! アイリは俺達を信じてる! だから俺達もアイリの為に守りきれ!!」


 アギトは全てを理解してるかのような事を言って、指揮を高める。テッケンさん達ももう戦ってるし手一杯。僕達は自然と目の前の二人に一対一を挑む事に成りそうだ。

 そしてアギトは奴に熱視線を送ってるから、僕はシクラ担当か。


「お前は、アイリの代わりに俺が潰す!!」

「かっははは!! まずはお前から食ってやるよお!!」


 二人が動き出した。だけど僕達はまだ動かない――と思ったら、一瞬でシクラは僕の後ろに!!


「ごめんね☆ 今はスオウよりお姫様かな」


 その言葉にゾっとした。確かにそれが正しい判断だろう。だけど行かせる訳にはいかない。僕は焦る心を抑えつつ、この言葉を紡ぐ。


「イクシード――――――――2!!」


 その瞬間風が、雷が、体から溢れる様に出てくる。そしてシクラの移動を阻害する。うねりもちゃんと二本の剣から出てる。


「何それ? 隠し玉?」

「使いたく無かったけど、誰もが無理してるんだ。お前はここで必ず止める!!」


 地面を蹴る音がしない。風に押される様に進める。そして雷撃が加わった風のうねりは、地面さえも砕いて進む。ただのイクシードは効率化しただけ……でも2からはそうじゃない……そうじゃないんだ!!


「うおおおおおおおお!!」


 地上に激しい衝撃が幾つも生まれる。だけどそれでも攻撃は通らない。こいつ……一体どこまで!! その瞬間、大量のお札が僕の体の回りに展開される。


「これはっ――サクヤか!!」


 僕は全てのお札をすぐさま切り刻む。だけどサクヤに攻撃は出来ない。でも、次から次へと……それにシクラの攻撃だってある。


「サクヤお姉さまは妹思いなんだから☆ 折角の切り札もこれじゃあね」


 シクラの攻撃とサクヤの札が同時に僕を襲う。燃やされて吹き飛んだ。だけどイクシード2の効果か、岩に激突する事も、地面に叩き付けられる事もない。


 お札も皮膚までは届いてなかったし、通ったのは実質シクラのパンチだけだ。でも危なかった。イクシードで既にHPは赤いんだ。

 これ以上は一撃も食らえない。幸いお札は無視しても……そう思った瞬間、眼前を覆うような札の壁が津波の様に迫ってくる。


(サクヤの奴、高速詠唱をどれだけ!!)


 流れてくる札が、炎の波となって僕を飲み込んだ。だけどその瞬間、僕は見た。クーの背に居るサクヤの涙を。

 第百七十二話です。

 ええ~とまずは、ごめんなさい!! 終わらなかったです。だけど次で本当に終われるからもう一話、アルテミナス編のお話にお付き合いください。切り札は手の中にあって、それは沢山の偶然と奇跡で繋がれてました。

 城だけが残った事も、ネクタルを最初に手にしに行った事も……意味が有った。諦めない事がそこに意味を見出したともいえます。次で本当に本当に、終われる筈。

 てな訳で次回は木曜日に上げます。それではまた~。

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