1678 前に進む為のXの問い編 70
『僕は彼女と話してるんだけどな』
穏やかそうな声が聞こえてくるが……シ○ガミ様は何とも器用なことをやってのけた。それは自身の声が幾重も重なって聞こえてることを利用したやり方というか何というか……つまりは一つの声ではさっき伝えたようなことを喋ってたわけだけど、もう一方の別の声が違うことを僕の頭に伝えてきてた。それは――
『邪魔をするな』
――だった。その声はめっちゃ低くて怨念さえもこもってそうな声だったよ。かなりゾクッときたね。能面なのに声だけにはかなりの感情を込めてる。それを顔にも出せばもっとわかりやすいのに……
「スオウどうしたの?」
アーシアは僕とシ○ガミ様の雰囲気が険悪なのをなんとなく察してるみたいだ。まあ向こうは能面だけど、こっちは冷や汗垂らしながら鋭い視線を向けてるからね。
「スオウはね! いい人だよ! 私の……私の……何だっけ?」
何やら押しの一言を言おうとしたんだろうけど、アーシアはなんと言えば良いのかわかんないらしい。まあ僕もそうだけど……でもアーシアが頑張ってくれないと、このシ○ガミ様、僕の言葉聞きそうにないからな。僕とアーシアの関係、なんだろう……ここは無難に……
「友達?」
「そう友達! 私にとってスオウは友達なの!! だから大丈夫だよ!」
僕の呟いた言葉に天啓を得たみたいな感じで勢いよくそう言ってくれるアーシア。ある意味嬉しいね。僕も実際なんと言えば良いのかは迷ってたから、アーシアが友達と認めてくれたのなら、これからは友達って事で接していける。
実際さっきまでは保護者的な? そんな気持ちだったからね。でもこれからはちゃんと友達として接しよう。
『友達?』
「そうだよ友達だよ! アーシアはね、友達を傷つける存在はメってしちゃうよ!」
アーシアがシ○ガミ様に向かって腰に手を当てて叱る動作を取ってる。そもそもがかわいい系のアーシアが頑張ってすごんでも僕やシ○ガミ様にはとても効く物じゃないけどね。むしろ更に可愛らしくて微笑ましくなるくらいだ。
『上手く取り入ったみたいだな』
またまた低い声が僕へと届く。そうじゃないけどね。僕は別に取り入った記憶なんて無い。ただ出会っただけだ。僕よりも早く出会いたかったのなら、こんな森に引きこもってないで外に出ないといけなかったんだ。それをせずにただ待ってただけの奴に、僕のアーシアにとっての友達という称号を獲得した経緯を非難されるいわれはない。
「そう、僕はアーシアの友達だ。アーシアはあの鹿と僕、どっちを信じてくれる」
「それは、友達だからスオウを信じるよ!」
僕はそう言ったアーシアに満足してシ○ガミ様へとどや顔を返してやった。ちょっとスッキリしたよ。




