1671 前に進む為のXの問い編 63
一応警告はした。けど、大鹿は此方をちょっと見たような気がするが、止まる気配はない。まあそもそもが、「止まれ!」と言われて止まる逃走者なんていないよね。袋小路とかに行き着かないとわざわざ止まるわけ無い。
まあだから言うだけ無駄だというのはわかってた。なら遠慮なんていらないってだけだよ。
「駄目、スオウ!」
僕が敵対的なことをしようとしてるってアーシアは察したのか、大鹿の首回りに腕を回してぎゅっとする。多分守ってるつもりなんだろう。別に殺す気は無いが……まあ不安に思うのもわかる。僕はちらっと背後を振り返る。
別に何か新手が背後から襲ってこないかとかを心配してるわけじゃない。ただ置いてきたヤドカリもどきが大丈夫かなって思っただけだ。
たぶんかなり離れちゃってると思うしね。けどあいつを抱えて走るわけにも行かなかったんだ。後で回収しに行くつもりだけど……この森で見つけられるだろうか?
(今はとりあえずアーシアだな)
絶対に取り返すことが出来る――とふんでるから僕には結構余裕がある。確かにあの大鹿はなかなかに規格外だが、それでもやっぱり別に普通の生き物な訳で、やりようはいくらでもある。そもそもが傷つけるつもりなんて最初から無かったし。
必死に森自体がアーシアを求めてるみたいだけど、誘拐なんてのは許さないよ。招きたいのならちゃんとした手順って奴があるはずだろう。こう言うのは違うと思う。だからこそ!
僕は更に一瞬さっきまでよりもさらに素早く、そして鋭く動いた。
「ふわっ……」
そんな風にアーシアが漏らしてしまうのも仕方ないだろう。だってかなりの速さで走ってたはずの僕たちなのに、僕は大鹿の背にふわりと降り立ったんだから。
「お待たせ、鬼ごっこは終わりだよ」
そう言って僕はアーシアを抱える。そして軽い感じで大鹿の背を蹴って飛び降りる。勿論着地するときも風を操ってふわりと着地する。完璧だね。ここに採点する人が居たならオール10を出してくれるはずだ。少し進んで、大鹿もその勢いを弱めて此方を振り返る。僕はアーシアを背後に隠して大鹿とにらみ合う。
「アーシア、あいつの目的はわかる?」
「は、話してみる!」
アーシアは動物やモンスターの声まで聞こえるからね。何が目的だったのか聞き出してもらおうと思った。なにせ僕たちがにらみ合っててもらちかあかない。
一体何が目的なのか……何のためにアーシアを連れ去ろうとしたのか……きっと目的があるはずだ。別にこの鹿が言わなくても言い、この鹿にそうさせた奴が出て来るなら一番早いしね。でもそれは期待してないけど……なんか森自体がざわざわとしてる気がするな。
一応風を全周囲にながして警戒はしてる。どこから何をしてこようと、さっきみたいにアーシアを浚われるなんてヘマはしない。