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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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地上の星

 これは設定だと分かってる。でも私にはその記憶が作られてる。遥か昔、この世界は闇で覆い尽くされてました。天は陰り、日は届かず。大地は枯れ、腐った臭いが立ち込める。

 綺麗な水なんて無く、死体が浮いていようとも水は水だった……そんな時代に私は生まれた。その頃はまだ人と言う種族は無く、エルフとモブリ、そしてスレイプルが点々と点在してた。

 その頃の一番の勢力はモンスター。闇の力に私達は怯える日々でした。だけど私はそんな中、女で一人自警団の組織に入ります。一応防御だけを目的とするようなそんな組織。

 だけど、生まれた意味とかを知りたかった。このまま死ぬなんて嫌だった。けれど現実は残酷にも私を殺します。小さな子を庇って、私は敵の武器に貫かれました。だけど後悔は無かった。


『私は、あの子を助ける為に生きてきたんだ』


 そう思えたからです。死んで私が行ったのは天国でも地獄でも無い真っ白な世界。そこで私は一人の青年と出会いました。青年は地面から生え出た芽を見て言いました。


「ようやくだ……なあ、あんたも協力してくれないか? これはきっと闇を払う光に成れる。この芽が地面一杯に花を開かせる所を見たくないか?」

「無理ですよ。枯れた大地じゃ、芽が出ても花を咲かせる事は出来ません。それにもう、あの世界にどれだけ芽を出させる元気があるか……」


 すると青年はこう言います。


「でも……あんたがその芽を一つ繋いでくれた」


 真っ白な地面に映し出される私の世界。そこに映るのはあの日助けた少女の成長した勇ましい姿。それは必死に花を咲かせようとする光景だった。


「なあ、清浄な水と栄養豊富な大地、そして目一杯の日光があれば花は咲くと思うか?」

「それは……当り前でしょう」


 すると青年は意味深に「ははっ」と笑った。そしてその答えをくれないまま、青年は言う。


「お前はあの芽に何を願う?」


 私は足元に映る少女を見つめた。


「私は……」


 一度言葉を区切り、心を見渡して自分が出来なかった事を口にする。


「幸せを……幸せを願う。だってそうでしょう? 命と引き換えに助けたんだもん! 幸せになってほしい!」

「そうだな……そう、間違ってないよお前は。だけどこの世界は間違ってる。お前があの時、殺されたように。見てろよ」


 そう言われて私は視線を青年の方へ向ける。するとそこには枯れ出した芽が有った。それはまるで……あの子の命がすり減ってでもいる様な気がした。


「気じゃない。このままじゃこの芽はあの世界に殺される」

「そんな!!」


 激昂する私に青年は初めて振り返り言う。


「助けたいか? 幸せに成ってほしいか?」

「出来るのなら助けたい!!」


 私は即答しました。そんな私に青年は強い目で問いてきます。


「何が必要だ? 力が有ればお前は行くか?」

「行きます!」

「はは、良い答えだ。だが約束しろよ。これを受け取る事は、お前は俺の夢に協力するんだからな」


 そんな言葉に、今度は私が優しく微笑んこう言いました。


「実は私も、花を咲かせたいそれがたった一つでも良いから……そう思ってたんですよ」


 言いきると同時に、白の世界が遠ざかりました。私は最後に「貴方は一体……」そう問いかけました。すると青年は悲しみのこもった顔でこう言ったんです。


「神様かな……どうしようもなく役立たずな」



 目が覚めるとそこは腐った臭いの立ち込める私の世界でした。目の前はいきなり戦場。そこには、今まさに敵の攻撃を食らう寸前の彼女が居ました。私は思わず、握りしめてた武器を振ります。

 その瞬間、大量のモンスターが一撃で消し飛びました。その衝撃は空まで届き、厚い雲を切り裂きます。零れおちる日の光が私とその武器を照らします。『神の剣・カーテナ』それは後にそう呼ばれて、更に時代と共に『王の剣』と言われる様に成りました。

 世界に再び降り立った私は、彼女と共に幾戦の戦いを繰り広げます。そして次第に仲間が集い。人が集ってきました。そしてようやく手にした広い大地。私達はその地を『アルテミナス』と名付けます。その名を私達は姓へとしました。

 そしてただの集いから国へと形を変える時、ようやく私の役目は終わる時が来たのです。彼女は立派に育ちました。彼女の周りには沢山の花達が咲いています。一つの国に王は二人もいらない。

 死人はただ墓……なんて大層な物は作られてないから大地へ帰るだけ。彼女は最後まで泣いてたけど、でも私は満足でした。夢は叶った。彼女はあんなにも幸せなそうです。

 彼女にカーテナを託し、私はアルテミナスと一つに成ります。それは最後の我儘だったんです。そして彼女は、アルテミナスの初代王女と成りました。だけどその後に建てられた城に、私の墓の代わりに、絵を描いてくれたそうです。小粋なジョークの一文を添えて。


 僅かに光を放ちだしたカーテナ。それが意味する物は何なのか、僕は必死に見つめた。上に集中するシクラ達が気づかない事を祈って。

 黒い月はその闇を次第に垂れ流し始めてる。上の方から徐々に流れ出てるその闇は、中から何が出てくるのか想像したくない。


 だってガイエンがそのまま出てくる……なんて事は多分ないんだろう。今はそんな、淡い期待に胸を膨らませれる状況じゃないんだ。

 シクラが言う覚醒って奴があの黒い月の中で始まってしまったのなら、次に出会うガイエンはもうガイエンじゃないのかも……


 だけどその期待に胸を膨らませてるシクラは目を輝かせて月を見てるからカーテナの微妙な輝きには気づきそうにはない。

 問題はセツリだけど、あんまり興味なさそうにしてるな。クーに乗せたサクヤの髪をといてるし、カーテナの変化には気づかないだろう。

 僕じゃもう、ガイエンを救う事は出来ないんだ。それは僕の役目じゃない。どうして今、カーテナが輝き出したのかはわからないけど、まだ終わってないのかも知れない。


「ガイエ……ン」


 本当に小さくて、消え入りそうな声。だけど僕の耳には確かに届いた。アイリはまだ生きている。


「ガイエン……の……声が……聞こえる。助け……なきゃ……助け……たいの……カーテナ……お願いアルテミナス」


 上から降ってくる闇を被りながらも、アイリはそんな言葉を紡ぐ。でもまともに意識があるようには見えない。衝撃が凄すぎて、意識が混乱してるのか?

 てか、良く生き残ってた。それが実は信じれない。凄まじかったんだ本当に。リアルなら一瞬で灰に成ってたであろう光景だった。


 そんな中アイリは……いや、もしかしたら……するとアイリの言葉に反応したカーテナが強く輝きだした。朦朧とした意識の中での言葉なのに、カーテナは主の心を汲み取った。

 主の思いを遂げようと、その小さな体は、放てるだけの光を放つ。


「何?」


 流石にこの輝きにシクラやセツリが気づく。気づかない訳がない。するとそこかしかこらも、小さな光が灯りだしてた。

 まるでカーテナに反応するようにだ。僕の近くの石ころも輝き出す。でもそれは良く見るとただの石じゃない。多分これは――


「クリスタル?」


 元々アルテミナスにあった沢山のクリスタルが、砕け散ってしまっても尚、その体に光を浮かばせた。そして無数の光と光は、線を持って繋がっていく。

 何が起こってるのかは、全然全く分からない、だけどそれが目指してる場所ってのは分かった。それはアルテミナス城だ。


 アルテミナスの地が、城を中心として何かを描き出そうとしてる……そんな感じ。断片しか見えないけど、多分これは巨大な魔法陣か何かじゃ無いだろうか?


「今更、何をしても手遅れだけど、私の興を剃らないでよね☆」


 そう言ってシクラがアイリへと体を向ける。アイツ、邪魔が入らない内にアイリを完璧に潰す気だ。生きてると言っても辛うじての筈のアイリ。シクラなら息吐くだけでも殺せそうじゃないか。

 だけど実際に動いたのはシクラの髪だ。流石に息だけ何てのは、僕の勝手なシクラに対する畏怖のイメージだよ。月光色に煌めく、シクラの髪がアイリへと向かう。


 ただ真っ直ぐに、ぶっ刺す事しか考えてなさそうに。でもそれだけで終わらせる確信がシクラにはある。でもアイリへと届く直前で、シクラの髪は“カーテナ”によって弾かれた。


「――っつ!?」


 瞳を見開くシクラ。それは貴重なあいつの表情だ。でもただ単純に攻撃を防がれたから、シクラは驚いた風じゃない。

 その程度じゃシクラは驚かない。じゃあ何がそこまでシクラを驚かせたのか……それは――


「ちょっと、武器風情にそんな機能があるなんて聞いてないわよ。生意気☆」


 ――それは、カーテナがアイリの体を引っ張る様にして攻撃を防いだから。シクラもだからこそ驚いたんだ。てか、僕も驚いた。

 だって今の状態のアイリが、意識的にシクラの攻撃を認識してたとは思えない。意識はまだ完全には戻ってないんだ。


 それでも……アイリは立ってる。掲げてるカーテナに引っ張られてる様な形みたいで不自然極まり無く。その不自然さが、とても自分の足で立ってる様には思えない。

 でもシクラは、そんなの関係無しみたいに攻撃をもう一度する。今度は少し警戒して、髪の房を二つにしての段階的な攻撃だ。


「なんだか知らないけど、さっさと諦めてよね☆」


 伸びてくる月光色の髪。カーテナと言う武器が相手でも、シクラは既に焦りも驚きもどにやらやっていた。今更自分達の勝利が、揺らぐはずは無いという自信だろうかそれは。

 でも次の瞬間、シクラはクーの背から吹き飛ばされた。向かい合ってたのは突きつけられたカーテナと髪。単純に、力の巨大差でシクラが力負けをしたって事だろうか?


 だけど、そんな事って……今までシクラの強さを身を持って感じた僕としては信じれない。まあ良い事なんだろうけど、なんだか腑には落ちない。

 だって意識が無く、武器に操られてる状態が強いってあり得るかなそんな事? いくらLROでもさ、そんな事って……


「ガイエン……助ける……から……待ってて……今……いくから……」


 ぶつぶつとアイリはそんな言葉を断片的に漏らしてる。その瞳には、まだ通常時の様な光は宿ってない。やっぱり、カーテナはカーテナ自身で動いてるのだろうか?

 でもカーテナってしょせんは武器でしか無いのでは? 繋がり合うことは理解できるけど……ここまで来るとオカルトだ。


 そう言えば、良く見ると地面からカーテナへ直接何かが送り込まれてるような淡い煙の様な物が見える。そう言えばさっき、アイリはカーテナだけじゃなく、アルテミナスその物にもお願いしてた。

 もしかしたらそれがこの結果なのかも。アイリの思いに応えてくれてるのは、アルテミナスという存在なのかも知れない。


 そしてアルテミナスの地に這う光も、どんどん広がって行っている。もうすぐ、アルテミナス城を中心に一周するんじゃ無いだろうか。


 アイリは虚ろな瞳で空の黒い球体を見つめる。するとそこに流れ出てくる黒い液体がベチャリとアイリに掛かった。

 だけどアイリは気にせず名前を呼ぶ。


「ガイエン……」


 それはまるで、その中にガイエンが居るのを分かってるかの様な感じ。いや、本当にアイリは無意識下でガイエンの声を聞いてるのかも知れない。

 そんなお互いの状態だからこそ、聞こえてるみたいな。それをアイリは、意識がはっきりとしないまま、気持ちが先行してるんだ。


 ガイエンを助けたい……それだけが確かな思いだから。アイリはカーテナをその黒い月に向ける。いや違うか。カーテナが自身をその黒い月へと向けさせた。

 だけどそれを許さない奴が居る。


「調子にのるな!!」


 シクラの初めての怒気がこもった叫び。一瞬でアイリの懐に現れたシクラの一撃は、今度こそアイリを吹き飛ばした。

 だけど……アイリは倒れない。カーテナに引っ張られる様に、無理矢理態勢を立て直されて力を放つ。それによってシクラも後方へ吹き飛んだ。


 けれど直後、シクラの姿は消えた。そして再びアイリの傍へ。今度はその手のひらに作った光球を目の前で放つ。

 目を覆いたくなる光が眼球を刺した。あのスパンでこれだけの攻撃を放てるなんて、下手な魔法よりもよっぽど強力だ。


 でも、カーテナはその攻撃を防いでた。どうやら、突き出したカーテナの力と衝突して、あの攻撃は、周りに拡散されたらしい。


「フフハ☆ もしかしてこれが、火事場の馬鹿力って奴なの? ちょっとだけ、見直したよお姫様」


 自分をこれだけ相手出来るアイリが嬉しいのかそう告げるシクラ。その顔はさっきまでの苛立たしげじゃなく、楽しく成ってきてるみたいだ。

 思わぬ所から出てきた戦える相手に、シクラは胸を躍らせてる。よく「楽しませてよ」とか言ってるから、今のアイリは玩具としてシクラの目には魅力的に映ってるんだろう。


「私は……ガイエン……助ける……助ける……助ける」


 そう呟きながら、アイリはカーテナに使われ続ける。でも次第に、動きが引っ張られる感じじゃ無くなってきてる。シンクロしだしたとでも言うのか……反応速度が上がってる。

 すると僕は気づいた。アルテミナスの地に、淡い光が浮かびだしてる事に。それは地中から沸きだしてる。


「どういう事だ?」


 次から次へと起こる不可思議な現象。でもこれは、もしかしたらアルテミナス事態が頑張り出したって事なのかも知れない。

 沢山のエルフであるプレイヤーが、アルテミナスを守ろうと必死に戦ってくれた。だからアルテミナス事態もさ……元々カーテナの力の源はアルテミナスって言うじゃないか。


 それに選ばれたとも言ってた。それをしたのがアルテミナスという地なら、意志があるって事じゃないのか? そしてそれは、完全に出来上がった地上の魔法陣で表面に出て来たのなら……無理矢理だけど納得してやる。

 そう、地面のクリスタルの光が繋がってた物は完成してた。そして唯一残ってた、アルテミナス城もその輝きを宿してる。

 すると変化してきた状況にセツリが問いかける。


「大丈夫なのシクラ?」

「大丈夫も何も、ようやく楽しく成ってきたんだよ☆」

「そ、それならいいよ」


 シクラは完全にアイリとの戦闘を楽しんでる。そしてセツリは余裕な感じで見送って、ポンポンとクーを叩いて上空へと上がっていく。

 一応安全圏へ避難したって事か? まああの二人の戦いは異常に成ってきてるからそれも分かる。アイリに加勢したいけどいくら何でも入れる気がしない。

 何てたって、あの二人……攻撃の規模が違うんだ。


「どこまで来れる? 私を失望させないでね☆」


 二つの力のぶつかり合いは、大きな衝撃を生み出す。シクラはまだまだ余裕なのか? 化け物だ。一方アイリは表情が読めない。

 でも何とか防いではいるし、反撃もしてる。動きは本当に段々と振り回されてる感じじゃ無くなってて、そこには体を使ってる動きが垣間見えた。


(あいつ……)


 周囲に輝く無数の光……そのせいか僕にはその時、おかしな姿が重なって見えた。それはアイリの体に重なるもう一人の女性の姿だ。

 周りの光がそれを見せてくれた様な……それにどっかで見た事ある気がする女性だ。もしかしたらあれが、アルテミナス? と言う意志の形? 


「助ける……助ける……助け……わた……しは、貴様達を許さない!!」

「「!!」」


 僕とシクラが同時に驚いた。言葉が確かな意志を持った瞬間だ。それにあれはアイリの口調じゃない。口調が変わったアイリは、わざわざシクラに接近して、細かな体術とカーテナの力を大胆に使って、シクラの手から有る物を奪い返した。


 それはちぎられたアイリ自身の腕だ。そしてそれをちぎられた箇所に当てると、周りの光が集っていく。まるで繋ぎ合わせでもしてるかのように。


「ねえ、貴女誰かしら? 私が知ってるお姫様じゃないわよね?」


 光が集まる中、シクラは今の疑問を率直に目の前のアイリへとぶつけた。するとちぎれた筈の腕を、動かしながらアイリが笑みを浮かべてこう返す。


「私は第一代アルテミナス王女、ルベルナ・アルテミナス。第三の封印解放の条件クリアと光明の塔の消失……そしてアルテミナスの危機に、一度だけカーテナ所有者に発生する【オーバースキル】よ」


 【オーバースキル】? 聞いたこともない。だけど目の前の人物は確かにアイリではない。デタラメとも思えない。

 ルベルナってそうか……なんだか見たこと有る気がしたけど、城で見たんだ。確か部屋一面が巨大な絵に成ってる所で、そこで大勢の騎士を引っ張って剣を抱えてた女性。

 それがこの国の創立者で、最初の王ルベルナ・アルテミナスその人だ。


「オーバースキル……そんな隠し玉が有ったなんてね☆ バランス崩しは隠し事が多くていけないわ。でも……なら貴女を消せば、私たちの大勝利って事かな?」

「それはどうかしら? 私の役目は国を救う事じゃないわ。それはプレイヤー自身がやる事よ。私はゲームキャラの如く、キッカケを与えるだけだもの。

 それに、設定上の私の子孫達は、みんなとっても頼もしいわ。この子も、そしてこの子の周りに集う子達もみんなね」


 自信たっぷりにそうシクラに言い返すルベルナ。それはまるで今までずっと見守っていた様な口振りだ。母親の様な慈しみ、それを本当に感じた気がした。

 だけどシクラは得意げにこう言い返した。


「頼もしい? この有様を見てそんな事が言えるなんて、最初の王女様は楽天家なのね。何もかも、瓦礫に沈んじゃったんだよ☆

 負けたのよ、貴女の子孫はね」


 だけどその言葉を受けて、ルベルナは端的にそして力強く言葉を紡ぐ。


「負けてません。いいえ、負けませんよこの子達は」

「その根拠の無い自身はどこから来るのかな? 設定された事しか言えない、ただのプログラムじゃ無さそうだけど、馬鹿なの?

 私に触れれたのは貴女だけだよ。同じ力を持ってるその子でもこんな楽しくは無かった☆」


 二人は言葉を交わしながらも、ジリジリと隙を伺っているのか、目の中はメラメラ燃えてる。そして二人が戦ってる間に、黒い月は上部がぽっかりと空きだしでた。

 このまま溶ける様に月が無くなるのなら、ガイエンが姿を現すのも、既に時間の問題だ。今ならルベルナがシクラを止めてくれている。

 何か僕にも出来ることは無いのだろうか? 


「強大な力一つで、全てを守れて救える事なんかない。大切なのは、どれだけの人を本気にさせられるかよ。いつだって歴史を作るのは、そんな本気の人達の集いからなのだから。

 そしてこの子にはそれが出来る。それは何よりも、王として必要な素質。国とは何かしら? 土地・規模・歴史? そうじゃないわ。国とは思いと集いの集合体よ。どれだけ荒れ地にされようが、この子達の中にはまだ、アルテミナスと言う国が確かにあるわ。

 だから負けない。城も残り思いも集めてくれたのなら、私達も少しは愛される側としてあらがいたく成るじゃない」


 そして再び二人は激突する。強大な力の攻めぎ合いだ。そんな中、アルテミナスから沸き立つ光が、倒れてる人達へと注がれてる様だった。

 そして僅かに、その体を動かす物が現れる。


「っつ……ガイエン」


 アギトは何よりもまず、友を想う言葉が始めに出てきた様だ。でもそれは本当に、寝言な感じで出てきただけで、意識はまだ深い所に沈んでる。

 周りにいる他の人達も、僅かに指を動かす位はするけど、起きあがる事が出来る人はまだいない。あれだけの攻撃だったからな。寧ろ死んでなかった方が驚きだ。


「どういう事なのかな? あれで生きてられる筈はないんだけど」


 周りで僅かに生命力を取り戻していくプレイヤー達を見て、怪訝そうにそう言うシクラ。それに対してルベルナが思いを込めて言葉を紡ぐ。


「この子は優しいから、腕を無くしてもその責任を果たそうとしたのよ。それを願ってくれたわ。だから私は、こうして光臨する事が出来てるのだから。

 私の最後の出現条件は、国を友を仲間を想えるカーテナ保持者の王としての在り方。その本質が陽で有る事よ。見てみなさい、アルテミナス城何かが変わったと思わない?」


 そう言われて改めて城を見るとそう言えば違うな。おかしな色してた筈なのに(確か半分ずつ白と黒で分かれてた)今は一色に統一されてる?


「一色に成ってつまらなくなっただけじゃない☆ 私は挑戦的な前の方が好みかも」

「人に完全な白なんてあり得ない。でも完全な黒も大抵無いわ。どちらに転ぶかはいろんな事に左右される。でもそれでも限りなく誰かの為に……その時だけは純白になれる心であれる。

 アルテミナスはそう言う乙女が好きなのよ」


 ルベルナの言葉を受けて、一瞬シクラは眉根を寄せる。誰かの為に……それはシクラ達も同じだからだろうか? あいつらが黒寄りかって事言われると、僕的にはどうだろうかって感じだしな。


「私達も戦ってるよ☆ 救いたいたった一人の為にね。ねえ、それって偉いことなの? 沢山なら偉大なの? 集う思いの数なんて、私達にとっては、いいえあの子にとっては嫌味なだけよ。

 私達は同じなのかもね。でもだからこそ、気に入らない☆ あの子の為に、この国には終わってもらうわ。形が意味無いのなら、今ここにある残った物全てを壊してあげる。

 そのお姫様に、カーテナに城。今ならもう一度エルフを皆殺しにするのもたやすいかもね」


 そう言ってシクラは手を掲げる。もしかしてまた隕石でも呼び寄せる気か? でもそれをよしとしないルベルナがカーテナを振るう。


「やっぱ一人じゃきついかな☆」

「させないわ。あんな光景、二度は許さない!」


 カーテナの連続攻撃がシクラを襲う。だけど次の瞬間、その存在の差が浮き彫りになる。


「ふふ、でもここは譲れないの☆ コード【アルトナ】制約は十五秒で十分……解放」


 カーテナの力がかき消される。そしてシクラの背には光で出来た模様の様な羽が浮いていた。そして頭上には天使の輪?

 存在という物が、何だか別格みたいな雰囲気をシクラの奴は醸し出してた。


「さあ、貴女のコードを食らわせて」


 大きく開く羽は、どんどんと周囲に根を這わせる様に広がっていく。そして次の瞬間、大きくその羽が揺らめいた。

 すると一瞬ボッと言う音と共に、羽を残してシクラの姿が消えた。それは別に、いつものシクラが出すスピードだろう。


 でも、気を取られた。あの大仰で派手な羽が目を奪ったんだ。でも流石と言うことか、ルベルナはその攻撃を受け止めてる。だけど――


「あれが飾りに貴女は見える?」


 ――次の瞬間、羽が一斉に二人めがけて飛んでいく。そしてその場に大きな衝撃が起きた。


「きゃああああ!!」


 そんな声と共にルベルナが飛んでいく。そしてシクラは、粉塵の中から違う方向を向いていた。


「さあ、貴女にも絶望をあげる☆ 遠い果てから蘇ったのに残念ね」


 再びシクラの周りに根を張る羽。天使の輪が輝きを増し、その羽がシクラの前に集い出す。そして放たれる光は城を直撃する。


「「!!」」


 こいつ本当に全部を壊す気だ。でも城はまだ健在、だけどシクラの周りにある羽は大量だ。次々に発射される光、僕に今出来る事は多分、これだけだ。

 反対側へ飛ばされたルベルナは間に合わない。


「やらせない!! この国はまだ終わらせない!!」


 風のうねりが光を弾く。次々と降り注ぐ光を、一つでも通す訳にはいかない。けどシクラの余裕は変わらなくて、ルベルナにも同様の攻撃を降り注いでる。

 防戦一方……でも僕たちは初対面なのに繋がってた。


「終わろうよ、スオウに王女様☆」


 カーテナの防御も、イクシードのうねりも限界近い。でも僕達は思いを紡ぐ。


「私は……大好きで大切な娘達の居場所を守る。誰も覚えて無い存在でも、それを諦めない!!」

「僕だってそう決めたんだ。もう二度と諦めないってな!! シクラ! お前の思いに、僕はあらがい続けて見せる!!」

「あっそ☆」


 その瞬間、さらに大量の光が降り注ぐ。目の前に血しぶきが見えた。対応仕切れてない。でも、僕は動き続けてそして……どうしようもない光がそれぞれに迫った。


「「くっ……」」


 離れてたけど、僕達は同時にそう口に出した筈だ。だけどその光は僕達には届かなかった。何故なら、それぞれの場所に立ち上がった思いがあったから。

 第百六十九話です。

 アルテミナスの歴史のお話がちょちょいと出てます。あれはゲームに用意されてるシナリオです。本編とは別に関係ないです。多分。さて本編では旗色がどっちに傾くか分からなくなってきた感じです。

 それでは次回は金曜日に上げます。ではでは。

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