1667 前に進む為のXの問い編 29
「ふー」
そう言って僕は額を拭う。別に汗なんてのはかいてないけど……こういうのは格好なのだ。とりあえず全て修正出来たはず。てかなんでコピーしてペースとしたはずなのに、細部のコードが違ってたのか謎すぎる。色の設定とかも全部まねしたからな。
今や見た目はふつうのやどかりになってくれた。でもなんだろう……ちょっとしたさみしさって奴があるような……
「どうだ? 体に変化はないか?」
僕はそう言ってヤドカリをなでなでする。するとヤドカリは泡を吹き出してきた。そして体に当たって泡がバシャバシャと弾ける。
「いたいいたい――ってこれ攻撃じゃん!」
バブルシャワーとかいうヤドカリの唯一の遠距離……じゃなく中距離程度の範囲攻撃だ。僕攻撃されてる!? まさか完全にコードをまねしたせいで、このヤドカリがモンスターに帰った? あり得なくもない。僕は距離を取ってヤドカリもどきだったヤドカリを観察する。ややこしいな。
カチャカチャとハサミを上に向けてするのは威嚇行動だ。間違いなく僕を敵と認識してる。だからさっきのちょっとしたじゃれ合い……ではなくて、確かに僕を攻撃したんだろう。
「お前……なんで」
いや妙な雰囲気作ってるけど、完全に僕のせいだけどね。一応やどかりもどきだったときのコードは残してる。なんか会長の奴が見たいとか言うから、ちょっとずつコピーしてそのコピーを確認しつつ全体をコピーしていったからな。
なにせヤドカリのコードをコピーしたつもりでもヤドカリもどきが出来ちゃった訳だからな。自分のコピーが信じれないじゃん。でもこのバックアップとして取ったコピーは完全にやどかりもどきのコピーを出来てるはず。これを再び適応すれば……元に戻るだろう。
(でも、元に戻す必要ってあるのかな?)
そんな考えが頭をよぎる。別にそこまで愛着があったかと言えば……僕とこいつの付き合いはほんの数時間程度だ。でもその中でも失敗や成功をして、互いに笑い合ってきた。そんなわずかな思い出が実はちゃんとあった。
「やっぱり僕にはお前を倒すなんて出来ないし、このまま放置して、ここが解放されたときに誰かに倒されるってのもなんか嫌だ。だから……ごめん」
せっかくもどきなんて物がとれた完全なヤドカリになれたのに……な。これは完全な僕のわがままだ。僕は背後に回ってヤドカリの宿に触れる。
そしてそこからコードを入れ替えた。