カーテナの乙女
数体の悪魔に迫るオークの大群。そして崩壊したアルテミナスの街並み。それらが僕達に与えた影響はとても大きい。さっきまでの勢いはどこへやら、一瞬にしてシクラへと呑まれた。
それでも僕達は立ち向かわなきゃいけない。それを諦めたらいけない。その時、カーテナに選ばれし乙女が、その輝きを取り戻して立ち上がる。
広がる平原に、迫り来る大量の足音が響いてる。人の怒号と、野生の叫びが木霊してる。だけどどうだろうか……聞こえる声の大きさは、圧倒的に勢いと言うものが違う。
モンスター共の叫びは、荒々しくて直情的。だけどだからこそ、それが行動と直結してる。人の中にある恐怖って奴を、引きずり出すように、胸の奥をイヤに叩く。嫌な感じにさ。
それに軍側は動揺してた。後ろの方でも、この事実は多分伝わってたんだろう。アルテミナスが落とされた事。そして現れた、四・五体もの悪魔。
だけど決め手は、心を強く支えてくれてた加護の消失が大きい。加護が与えてくれてた補助は、何も肉体的な物だけじゃ無かったんだ。加護はこれがあれば……そう思わせてくれるだけの支えだったんだ。
そんな加護が無くなって、再び迫るオーク共の留まる事を知らない勢い。元々、押されてた軍はそれを止める事がまま成らない感じだ。
「アギト……どう考えてもこれはヤバいぞ! シクラが描くシナリオ、その通りに成りかねない! ガイエンがああなってる今、お前が軍の指揮を取れ!!」
「はあ!? お前な、俺は指揮官ってがらじゃ……」
この状況で渋るアギト。確かにアギトじゃ、ガイエンみたくは出来ないだろう。そんな事別に期待なんかしてないさ。だけど今必要なのは、混乱してる軍の折れかけてる心、それを少なくとも支えられ人物が立つことだ。
指令官がいるかいないかは、あいつ等が軍と言う大きな括りであれるかどうかだろ。そこに支えがあったはずだ。今までの奴じゃ足りてない……もっとダイレクトに、影響力のある奴じゃないといけないんだ。
それはガイエンであり、アギトであり、そしてアイリ。多分アイリは、アギトよりもそういうの上手いんだろうけど、今のアイリにそれをやらせるのは酷かも知れない。動かないんだ。
膝を地面について、顔を俯かせて、セラが幾ら声を掛けても反応しない。だから僕は、アギトに詰め寄る。
「じゃあどうすんだ!? お前以外の誰が他に出来るんだ! 軍が今瓦解したら、それこそこの戦いは終わるぞ! まだ形だけだけど、そうなったら地図上から消されたっておかしくない! それでもいいのかお前は!? お前はアイリが守れれば良いのかも知れないけどな、お前も聞いてただろ!
ガイエンはお前がアイリを自分よりも幸せに出来ると思ったから手を引いてんだ! そのお前が、アイリの守りたい物を守れなくてどうするんだ!!
上手い具合に軍に指示を出せ何て言わない! だけど心ぐらいは支えてやれ。無くした加護の代わりくらい、今のお前なら成れるだろう!? そんな存在なんだろアギト!!」
僕はアギトに掴み掛かる勢いでそう言った。間違って何か無いはずだ。アギトはこの国ではそういう存在だろ。特別なんだ。
それはさ、信じられないけど……この国に来て、いろいろあって、それは認めざる得ない事。アイリとガイエンとアギト、この三人は今のアルテミナスの礎に成ったと言っても過言じゃない。
そんなアギトだからこそ、出来る事がある。アギトはアイリに視線を送り、その姿を確認する。その居たたまれない姿をだ。そしてアギトは自分の力を握りしめて顔を上げる。どうやらその気に成ったみたいだ。
だけどその時、夜の明かりの下に更に影が多い被さった。それは星の光さえも遮る悪魔の巨体だ。そしてその頭に居る奴が、面白そうに声を出す。
「幾ら頑張っても、この国はもう終わりだと思うけどな~☆ そんな事より、早くスオウは逃げた方がいいよ。折角ヒイちゃんを倒せたんだし、ここで死にたくないでしょ?
今なら何と、見逃してあげる。ほら、ログアウト出来る筈だよ☆」
シクラの奴の言葉が、変な誘いを僕に課す。もう終わりか……確かにシクラの目から見たちっぽけな存在の人間の抵抗何て、ここまでなのかも知れない。
でも僕は、そんな事思ってない。多分ログアウトはシクラの言うとおり、戻ってるんだろう。だけど僕は、それを確認する事なんてしない。
だってウインドウを表すだけで、それを望んでる様に思われる。それだけでシクラの思惑に乗ったみたいで嫌だ。
「今更、僕だけ逃げる何て出来るかよ! それにまだ約束果たして貰ってねーぞシクラ。セツリはどうした? 空で言ったはずだ。会わせるって」
そう、それを忘れて貰っちゃ困る。僕がここままでやってきたのは、自分だけ見逃して貰う為じゃない。セツリにもう一度会うために、ここまで来てるんだ。
だからそれを保護にされたまま何て訳にはいかない! そしてこの間に、僕はアギトに視線を送る。「ここは任せろ。今の内だ」って思いを込めてさ。
普通の関係じゃそこまで伝える事は出来ないだろうけど、僕達は親友。そんなの朝飯前だ。だけどアギトはなかなか動かない。流石に僕一人に、悪魔五体位の相手は出来ないってか。
「幾らお前でもこれは……」
そんな視線が返ってくるよ。そんな中、再びシクラの声が頭上で響く。
「ああ、う~んそうだね。それはちゃんと伝えたんだけど、タイミングが色々とほら、あるじゃない? 女の子には準備が必要なの☆
でも会ったところで無駄だと思うけどな~」
「そんなのはお前が決める事じゃない! それに無駄だとしても、僕は会いたいんだ!!」
僕はセラ・シルフィングを力を込めて握る。いつでも飛び出せる態勢は万全だ。実際は、シクラの奴が僕との約束を守るメリット何か無いんだから、この会話事態無駄かも知れない。
だって今の戦力差は歴然だ。有無を言わさず、シクラは僕達を踏みつぶす事が出来る。悪魔が五体位ってのはそれだけの戦力だ。一体を二十人位で相手したって倒せるどうかの相手。
それが五体で、さらにはオーク共も数え切れない程いる。軍だって百人以上はいるけど……それでも釣り合い何て取れてない。
「行けよアギト! このままじゃ総崩れだ!!」
僕は視線にそう込めて訴える。
「まさか一人で私達を足止め気かなスオウ? 幾ら君でもそれは無謀って物だよ☆ 勇気とはき違えたら、ここで死ぬ事に成るよ」
何だか意図に気付かれたっぽいな。でもそれならそれで堂々とやるまでだ。一歩だけ、力強く足を前に出す。
「おかしな事言うなシクラ。お前等は僕を殺したかったんじゃないのかよ?」
「う~んまあそれはそうなんだけどね。厄介だし、君はあの子を惑わせる。でもこうも思わない? 私は楽しいことを長続きさせたいの。
そして今一番楽しい要素はスオウだから、だから生かして足掻く姿を見るのもいいかな~ってね☆」
シクラの言葉に、僕は唾を吐きたい気分になる。結局は、自分の楽しみの為かよ。子供の様な事を言ってやがる。少しでも楽しい時間を長くだ何て……それは自分が負ける何て微塵も思っちゃいないって事だ。
常にシクラは、僕達を見下す位置に居るつもりだ。いつか後悔させてやる……そんな思いが決意へと変わる。僕はセラ・シルフィングの刀身をシクラへと向ける。
「その余裕を後悔に変えてやるよ。絶対に!」
「だからそれを、楽しみにしてるよ☆」
妖しい笑みを浮かべてそう告げたシクラ。軽々しく左手を掲げると、それが合図みたいにシクラを乗せて、ガイエンを捕らえてる以外の悪魔が走り出した。
一歩を踏む度に地面が揺れる。その迫力は一体でモンスター百体分はありそうな程だ。このままじゃ挟まれる状況だ。
不味い……どうしたってこのままじゃ……
「何やってるアギト! お前はさっさと軍を建て直しに行け!! ここはお前の故郷だろ!!」
「つっ……」
震えるアギト。それは葛藤か。ここで僕だけにあの悪魔三体の相手は確かにきついけどさ、そんな事言ってる場合じゃないんだ。
「おいアギト! 良く聞けよ。僕は建て直せって言ってんだ! 諦めて逃げ道を用意しろなんて言ってない! こいつらに勝つには、軍の力は欠かせねーからさっさと建て直して、活路を無くすなって事だ!
僕がやられる前に、それをやれよバカ!!」
「なっ……バカ……」
たく、妙に融通が利かない所が厄介なんだお前は! まで言いたかったけど、それは胸の奥にしまってやった。別に悪口を言いたい訳じゃないからな。すると僕達の前にいつの間にか、テッケンさん達が集ってた。
「そうそう、ここは僕達に任せるがいいアギト。大丈夫さ、これだけ揃えばそうそう簡単にやられはしない」
「テツ……それにシルク……みんなも……」
こっちに来たのは、みんな軍の方に行きづらい人たちばかり。でも助かる。これでアギトも心おきなくやるべき事をやれるだろう。
「行けアギト。まだ何も終わってない……いや、僕達が終わらせないんだろ? その為には今ここで諦める訳には行かないんだ!」
「……ああ、その通りだ!!」
アギトはそう応えて、体を反転させる。だけどアギトは進まない。
(どうしたんだ?)
そう思い、僕はアギトに視線を向ける。すると何だか驚いた様な顔してる。一体何が? その時、僕とアギトの間をユラリと一つの人影が通る。ボロボロになったドレスから、太股と二の腕までを露わにした姿。
そして、その手に握りしめてるのは小さなオモチャの様な剣。でもその剣は、この国の王にだけ許された剣だ。
「アイリ……」
すれ違ったアギトがそんな声を漏らす。信じられない物でも見るように、その背を追って振り向く。そしてアイリは、振り向きもしないまま、俯き加減で弱く言葉を発した。
「そうですよね……私達が……終わらせちゃ行けない。なのに私は……真っ先に終わらせようとしてた。私が、スオウ君の伝えたい事を伝えなくなちゃ行けなかったのに……目の前の事だけで真っ白に成ってた」
言葉を紡ぐ間も、どんどん前に行くアイリ。僕達は何だかわからないその迫力に、ただ見つめる事しか出来なかった。
そして一番前で止まると、カーテナを真っ直ぐに前に突き出した。
「まだ、終わってないのに……まだ終わってないのに……私は!」
自分を責める様な事を言い続けるアイリ。するとそこで、アイリの存在に気付いたシクラが悪魔の後方から口を開く。
「お飾りだったお姫様☆ 貴女の重荷、全部壊して差し上げます」
歌うようにそう紡いだシクラ。でもその瞬間だった。こちらに向かってきてた一体の悪魔の顎が、盛大に打ち抜かれた。
数メートル浮き上がる悪魔の巨体……そして続いて、見えない力で今度は地面に叩きつけられる。激しい衝撃が、辺り一面に伝わった。
僕達はその光景にただただ唖然としたよ。あのシクラだって、一瞬目を見開いた。そしてそれは僕達だけじゃない。
後方の軍とオーク達も、その一瞬の光景に止まってた。そんな中、一人の少女が静かに動く。その剣に淡い光を宿してだ。
「許さない……貴女だけは、許さない!!」
地面からカーテナへと光が昇る様に集まっていく。そしてその光は、カーテナを握る腕から、全身へと広がっていく。
そして次の瞬間、集まった光は何かを形作ると一斉に弾け飛ぶ。キラキラと夜に浮かび上がるその姿は、ついさっきまでの見窄らしい姿じゃない。
ボロボロだったアイリの服は、光が形作った物へと様変わりしてた。白を基調とした服に銀の鎧が所々にあしらってある感じ。
胸の中央部分とへそに掛けての当たりまでの部分を、薄く横側は開いてる鎧が光ってて。その下に、白地に金色のラインだが入った服がある。結構ピッチリとした感じだけど、腰の部分では、前に大きく二方向に分かれてて、背中側も、くるぶし位まである。
それを腰の当たりのベルトって言うか、カーテナの鞘が繋がってる物で、引き締めてる。腕部分は二の腕の半分くらいまでを覆う白地の布を金のリボンで止めてるよ。
下半身はミニスカートと、膝までのある甲冑の銀のブーツ。でもそれも決して重そうな物ではない。曲線美を表すようなデザイン。
額には銀色のティアラに、アイリの髪からは金色のリボンが髪を結って揺らめいてる。それはとても綺麗で、凛々しくて、戦場に咲く一輪の花があるとしたら、きっとこんなんだろうと思わせる程だ。
「カーテナね。終わりかけの国の力でどこまであらがえると? 全ては今更、諦めちゃえば楽なのに……本当に人ってバカで間抜けでた救いようがないよね。
だけど、いいよ。もっと私をワクワクさせて☆」
地面に埋まった悪魔を一瞥して、アイリへと視線を移してシクラはそう告げる。別段気にしてる風でもない。悪魔がやられたのも、アイリの装備が一瞬で変わったことも。 僕はビックリだけどね。今のアイリは戦乙女って感じだ。そんなアイリは、ささめく風に髪やリボンを揺らして、シクラに宣言する。
「私達は貴女のオモチャじゃない。終わりかけの国? ふぜけないでよ!! みんなが立ち向かってる限り、形を無くしたってアルテミナスはあります。
でもここが私達の場所だから……沢山の出会いをくれた場所だから……踏みにじられたままでは居られない!! これは……さっきの思いとは違います。エルフの国を預かる者として言います。
アイリ・アルテミナスは、あなた方の暴挙を許しません!!」
その瞬間、アイリは右手に持ったカーテナを後ろに引いて、真っ直ぐに突き刺した。その瞬間、ニ体目の悪魔が、くの時に曲がって後方へ吹き飛んだ。
シクラは合図を送り、もう一体の悪魔のメイスを振らせる。巨大な塊が、アイリめがけて降りおろされる。でもアイリは、その場から一歩も動くことなく、カーテナをシャランと音がしそうな程に軽やかに凪いだ。
そしてメイスは、アイリに届く前に粉々に砕かれる。更に一歩を踏み込んで続けざまに突きを放つ。巨大な衝撃が悪魔を襲い、アルテミナスの外壁へと叩きつける。
これで後はニ体。まあ完全に止めを刺した訳じゃないけど、ガイエンを助ける事くらい出来る筈だ。
「あはは☆ スゴい、すご――――」
シクラの苛つく声を聞きたくないのか、言葉の途中でアイリはカーテナを上から下へ降り卸した。それで一気に、多大な衝撃音と共にシクラが乗った悪魔は地面へと落ちていく。
そしてそれは多分シクラだってその筈だ。あいつは悪魔の頭に居たんだ。あの攻撃を食らってない筈がない。そして遂に本命だ。
ガイエンを捕まえてる悪魔をアイリは見上げる。おかしな事に、その時悪魔の方がビビってる感じだった。でも必死に声を絞り出して、メイスを振るう。
だけどアイリは、そんなメイスなんて気にも止めずカーテナを動かした。ガイエンが捕まってる左腕をピンポイントに狙う様に今度は下から上へ。
だけどその時、そんなアイリの腕の動きを阻む手が現れた。中途半端な位置で止められるカーテナ。すると力は発動しない。振り切らないと行けないから……
「結構痛いよねカーテナって、だから私も味あわせてあげる☆」
「っつ!?」
ニッコリ微笑むのはシクラ。こいついつの間に!? 攻撃を食らったのは間違いないんだろうけど、まさかそれを利用して?
悪魔と共に落ちてきてたから、このタイミングを狙って出てきたのか? でもこれは、自分も食らうぞ! だけどシクラはその瞬間まで笑みを絶やさなかった。
鈍い音が辺りに響き、ざわめいた。白いメイスは僕たちから見たら左側から来て、右側へとスイングされていった。
勢いは微塵も落ちなかった。悪魔にとっては、人間サイズの物なんて小石と同等みたいだ。
「アイリーーーーーー!!」
アギトのそんな声が響く。夜空に舞い上がった二つの体。それは人形の様に力無く見える。アギトは駆け出す。宙に舞ったアイリを地面に落とさない為に。
その時、どこかから飛んできた光る鳥が、シクラをクチバシでキャッチした。その間に、アギトはアイリをギリギリで受け止める。
「おい! 大丈夫かアイリ!?」
「うん……大丈夫。この装備のおかげかな? あのドレスのままだったらって思うとゾッとする……だけどまさか……」
そう紡いで、空に吊されてるシクラへと目をやるアイリ。「だけどまさか」その先はみんなが思ってる事だ。
だけどまさか、自分ごとなんて……シクラの奴、常々頭おかしいじゃねーの? とか思ってたけど、どうやらネジが外れてるらしいな。
捨て身……いや、シクラが捨て身なんて考えであれをやったとは思えない。ただ面白そうだったからの方がよっぽど納得の理由だ。それに死なないってわかってただろうしな。
「アイリ……」
その時、そんな震える様な声が聞こえた。見るとそこには悪魔に囚われたガイエンの姿。それも黒い霧を体中から放ってる。
もしかしたらさっきの光景で、絶望の瞬間を垣間見たのかも知れない。確かにあれは、そんな物がこみ上げる光景だったんだ。
苦しそうなガイエンに気付いたアイリは、必死に自分の足で立ち上がろうとする。それが一番、今のガイエンには良いことか。
「ガイエン落ち着いて! 私は……大丈夫だから」
足が実はブルブル震えてるんだけど、それを見せないように笑顔でピースを作るアイリ。それは伝わったのか、ガイエンの黒い霧は勢いを少し弱めた。
でもそれでも、まだまだ苦しそうだ。さっきのはきっかけに成ってしまったのかも知れない。“何か”が覚醒するための足掛かりとでも言うのか……それがシクラの目的か。
「そっか、大丈夫何だ。じゃあ、今度はもっと痛めつけてあげる☆ せっちゃんこの子離してよ」
「!」
「クー、離してあげて」
「!!」
僕の耳に届く空の会話。それはとても流せる物じゃない。何て言ったシクラの奴? 僕は勢い良く、夜空へと視線を向ける。
だけどその瞬間に目の前には、いつの間にか迫ってたシクラの姿があった。
「遊びたいけど、今は退かせて貰うから☆」
とっさに剣を防御に回す。その瞬間、シクラの髪がもの凄い衝撃を叩きつけて来た。そしてそのまま吹き飛ばされる。
視界が回り、地面に何度も叩きつけられる。信じられない威力……悪魔とも引けをとらなそうだ。
「くっそ……」
見た目と威力のギャップが激しすぎだ。踏ん張りが足りなかった。その間にシクラはテッケンさん達をすり抜けて、アイリへと迫る。
「アギト! 死んでも守れ!!」
そんな声がガイエンから発せられる。それに応える様にアギトはアイリを後ろにやって飛び出した。
「言われなくてもやってやる!! それは俺自身の誓いだ!!」
アギトの槍が真っ直ぐにシクラへと向けられる。だけど煙の様に消えたシクラは一瞬で、ガイエンの後ろで、アイリの目の前に居る。
「なっ!?」
「まずは、そのコードを教えてね☆」
素早く向けられるシクラの手。だけどそれをアイリはカーテナで防ぐ。カーテナから出された小さな光の球体が、シクラの手を弾く。
でもそれは長く持たない様だ。泡の様に直ぐに消えた。でもその一瞬でアギトは再びシクラへ槍を向けている。一撃、ニ撃三撃と続けざまの攻撃。だけど一撃も当たらない。
僕はテッケンさん達と視線で頷きあい、アギトの加勢に行く。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
気になる事はある。だけど今は、こっちが優先だ。僕達は一斉にシクラへと斬りかかる。絶え間無い攻撃が嵐の様に降り続く。
だけど……何も変わらない。シクラには何故か攻撃が当たらない。そして中心に立った涼しい顔のシクラの髪が一瞬光る。その瞬間僕達は、吹き荒れた圧力に飛ばされる。 何故かアイリだけを残してだ。
「さあガイエン、絶望の幕開けよ☆」
第百六十五話です。
襲いかかるモンスターの大群に押されていってたスオウ達。そんな中、ようやく灯った光。戦場の花。だけどシクラの奴はまだまだその、底の見えない力で彼らを追い込みます。
まさにガイエンに絶望を見せつける為に。
てな訳で、次回は木曜日に上げます。ではまた~。