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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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黒夜の侵食

 衝撃の言葉と光景を引き連れて、再び姿を現したあの女。いつも笑って楽しげで、語尾には☆なんか付けてるふざけた奴。だけどその行動は、いつだって僕達の予想できない所から出てきやがる。

 それは今回もそうだ。さっきまでの戦闘をあざ笑うかの様な仕打ち。やっぱりこの女が、最大最強に僕達の前に立ち塞がる様だ。


「遅いじゃない。おかげでこの国、落としちゃったよ☆」


 落としちゃった☆ ……そんな言葉が耳の奥で木霊する。アイリもアギトも、その場に居た全員が、意味を理解しようとするようで、しなかった。

 だって……こんな事って……すると僕達に聞こえてないとでも思ったのか、あの声がもう一度それを言う。


「もしも~し? ねえ、ほらアルテミナスはこの通り、落としちゃいました~☆」


 陽気な声が耳につく。そして今度はよく見える様に、砕いた塀の横に悪魔を移動させる。そこにあったのは、目を逸らすことも出来ない、ここでの現実。起こってしまった、最悪な事。

 瓦礫に変わったアルテミナスの町並み……そして、アルテミナスに居たプレイヤーの死体の数々。さらには、そんな瓦礫を蹂躙するかの様な悪魔の姿が、ここから見えるだけでも三体は居る。

 それは……この光の国が、地獄と見間違える程の光景だった。


「そんな……」


 目の前に広がる光景に、愕然とするアイリ。無理も無い。守りたかった場所が既にこんな事になってるんだ。ショックを受けるなと言う方が無理だろう。


「あははは~☆ 意気揚々と、あんなたった一体を大仰にやってくれるから、時間もたっぷりあったんだよ?。どうガイエン?

 絶望した? 君の守りたかった国は、この有様よ」


 その言葉に反応して僕達はガイエンを見た。そうだ……こいつの狙いはガイエンの中に居る“何か”の覚醒。その為に必要な物が絶望とか言ってた。

 つまりこれはガイエンを絶望させる為の行動。アイツだってこの国を守ろうとしてた。それなら……これは効果的。いや、元々がこうする事を目的とか言ってた筈だ。


「ガイエン! あんな奴の言葉に耳を貸すな!」


 アギトがガイエンに向かってそう叫ぶ。だけどガイエンの体からは黒い何かが小さく滴り落ちてる。それはきっとガイエンの怒りに反応してるんだと思う。

 だけどガイエンは、必死にそれを押さえつけて悪魔の上に居るアイツへと言葉を投げる。


「何でだ? お前、もっと効率良いことをやろうとしてたんじゃ無いのか? アイリを狙う様な事を言って……結局これか?」


 ガイエンの言葉に、アイツは超適当に答えやがった。本当にさ、気持ちを逆撫でする事を意識した言葉。


「うっそ! そんな事言ったっけ? てかさぁ、信じちゃったんだあのガイエン君が。まあまあそれは嬉しいな☆ でもね、考えみたら絶望って半端じゃダメかな~っておもってね。

 だから私、どうせならどっちも潰しちゃえって事にしたんだ。てへ☆」


 最後のアイツの「てへ☆」とガイエンの「ブチッ」て音が続けて聞こえた気がした。舌なんか出しやがって、完全に挑発してる。

 でも、それが分かってても動いてしまうほどの光景だった訳だ。


「シクラアアアアアアアアアアアアア!!」


 腰に掛けてあった長剣を抜き去ったガイエンは、一気に悪魔を目指して飛び出した。そんなガイエンの体からは黒い影が次々と流れ出てて、それが線を引いていた。

 怒り……多分それにあの黒い物は反応してる。駄目だ、このままじゃあの怒りがどう転ぶか……それだけで絶望に傾くかも知れない。

 いや……もう既に傾いてるから、あの黒い物が姿を表し始めてるのか。


「駄目だ! 止まれガイエン!!」


 アギトが急いでガイエンの後を追う。だけどガイエンの奴は、傷を負ってる筈なのに異様に速い。あの黒い影が力でも与えてるのか、とても今からじゃ追いつけない。だけどあの黒い影がそれをやってるとしたら……それこそシクラの企みだろ。


 アイツは、何かを狙ってやがる。ガイエンを殺す事はしないだろうけど、絶望を味あわせる為の何かを企んでるんだ。そのために自分を囮に、ガイエンを突っ走らせてるとしか……


「くっそ、とにかく追うしかない!! 急げアギト!!」


 僕は後ろから、アギトにまで追いつき更に加速する。でもそれでも、数秒のタイムロスが決定的な差を作ってた。


「ガイエン! 冷静になれよ!!」


 僕は精一杯の大声を出すけど、ガイエンの奴反応すらしない。やっぱり関係の薄い僕の声は、今のガイエンには届かない。でも……アイリはショックで動けないし、アギトの声もイマイチだった。もっと近くなら分からないけど、差を詰めるのは難しい。


 追いつければ、僕でも殴って止める事が出来るんだけど……それも難しそうだ。ガイエンの奴は、既に悪魔の足下に迫ってる。

 だけどそこで降り下ろされるメイス。その大きさは、僕とアギトの場所にまで影を落としやがった。しまったって感じだ。


 追いかけるのに夢中で、悪魔の攻撃を全く考えて無かった。その影が落ちるまでさ……おかげで反応は一瞬遅れる。


「スオウ!!」


 その時、アギトが僕を弾くように攻撃範囲から強引に押し出した。


「なっ!? アギトオオオオオ!!」


 メイスの影が、直後にアギトに降り注いだ。巻き起こる風と、衝撃音がスローに見えたその光景の後に、脳や体に叩きつけられる。

 アイツ……僕を庇って……これは完全に僕の責任だ。何て事をしてしまったんだろう。ガイエンを止められるはアギトかアイリしかいなくて、これからの戦闘で軍の志気をを維持するには、僕何かより絶対にアギトが必要だったのに……あのバカ。


「くっ」


 僕は顔を上げて立ち上がる。まだだ・・アギトの装甲ならまだ生きてるかも知れない。潰れてるのなら、まずはこのメイスを退かしてみせる!

 そう思って、僕はメイスへと飛びかかろうとした。だけどその時、あることに気付いたよ。


(何で……あれだけの衝撃音がしたのに地面は割れてないんだ? これだけの武器が落とされれば、どうやったってその周りの地面はボッコボコだろ)


 そう、確かさっきみんなが倒した悪魔の攻撃ではそうなってた。でもそれが起きてないって事は・・すると煙の向こうから声が聞こえた。


「ぬ……あああああああ!!」


 煙の中から押し返されるメイス。そして、周りに散っていく煙からは見覚えのある姿が出てきたよ。それは紛れもなくアギトだ。

 あの巨大なメイスをたった一人で防いでた。しかも押し返す何て……大した奴だ。


「アギト! お前無事だったのかよ!!」

「はぁはぁ、当然だろ。こんな所で死ねるかよ。それにやれると思ったからお前を庇ったんだ。加護は消えても、俺のナイト・オブ・ウォカーは健在だからな」


 成る程、自身があったわけだ。確かにナイト・オブ・ウォカーは強力だろう……それは知ってる。だけどここでようやく、久方ぶりのアギトのそのスキルを間近で見たけど……何か違う。


「お前のそれ、変わってないか?」

「ああ、理由は知らないけど、でもよりしっくり来る」


 アギトは自身の両手の武器と盾をそれぞれ軽く主張させた。盾はなんだか以前よりも大きくなってるし、何だか更に豪華な感じだ。

 でもそれより意外なのは、武器の方だ。以前の大剣とは全然違う。言うなれば細身の槍何だろうけど、持ってる反対側にも同じ様な槍が出てて、柄は丁度真ん中に有る感じ。


 そして異様に長い。細いって言ったけど、それは先端に行く程かも知れないな。そして形状もただ突くだけの形じゃない。

 断面を切ったら星形にでも成りそうな形と言うか、ただ丸くはなくて、鋭利な刃が槍の表面に装着されてる感じみたいな……それがグルッと付いてるんだ。


 でもしっくり来るか……それはなんと無く分かる気がする。だって確かアギトって祝福されたのは槍だったって聞いた。それなら、アギトには一番槍が合ってる筈何だ。


「おい、んな事よりガイエンはどうした?」

「あっ!」


 目の前の出来事に捕らわれてた。だってアギトがペシャンコかも知れなかったんだ、しょうがない。だけどよくよく考えたら、ガイエンって無事なのか?

 いや、アギトが防いだからガイエンにも当たってない筈か? 僕達は、前方を見たけどそこにはガイエンの姿はない。一体どこに? そう思ってたら後ろから声がした。


「上よ上! メイスを伝ってる!!」


 そんなセラの言葉に僕達は押し戻されたメイスを見上げた。でも位置が悪い……ここからじゃ上を走ってるガイエンは見えない。

 僕達は取り合えず、上を見上げながら悪魔に近づく。するとその時、ようやくガイエンの姿が見えた。今まさに、シクラへと向かってメイスを蹴ったガイエンの姿がだ。


「よくも! よくもアルテミナスをおおおお!!」


 そんな事を叫ぶガイエンの声が聞こえる。もう間に合わない。止める事も叶わない。ガイエンは上手くメイスの攻撃を利用して、シクラまでの道を見つけてたんだ。


「ふむ、怒りはよく見えるけど、やっぱりまだ絶望じゃないよね☆ 大丈夫、私が殺さなくても直ぐに自分の無力さに死にたくなるよ☆」


 迫る長剣の攻撃に、微塵も焦りを見せないシクラ。ガイエンの武器は、その刃に大きな黒い固まりを発生させている。それは結構な光景で、空気を飲み込んでその中心には赤グロい光が出来てた。

 威力は多分、かなり高いだろう。シクラだってダメージを食らわない訳はない。だけどそれが当たらない自信と確信がアイツにはある。だからアレだけ余裕をかませてるんだ。


 「死にたくなるよ」か……どれだけ残酷な言葉を吐いてるんだあの野郎は。その時、ズンと腹に響く音が直ぐ近くで鳴った。

 音の鳴った方に顔を向けると、そこにはシクラの余裕の訳が居た。


「ガイエン! 横にもう一体来てるぞ!!」


 精一杯叫ぶアギト。だけどその瞬間、ガイエンの姿は黒い腕に浚われた。そう……浚われたんだ。幾らでも攻撃を当てれた筈の悪魔が、ガイエンをその手に捕らえた。

 エフェクトが消えたガイエンの長剣が、空から落ちてくる。地面に刺さったその剣は、空気に解ける様に消えていく。


「どういう事だ?」


 普通は落とした武器が無くなったりしない。落とした武器は戦闘中なら、拾い直すか換えの武器を装備して、戦闘終了後にある操作で元に戻る物だ。

 戦闘不能なら、その時点で装備は戻ってくる。だから消えるなんて事はあり得ない……なのに……


「アレは元々、ガイエンが装備してた武器じゃない。影で作った武器だった……だから消えたんだろう。つか、どうやるよ。

 悪魔が二体。その一方にガイエンで、もう一方にあの女だ」


 アギトの提案は、それはそれは無謀な事としか思えない。でもこいつは拒否権を与えてない。だって「どうやるよ」だもん。「どうするよ」じゃないもん。

 けど確かに、引く選択肢は無いか……と言うか、引く場所がもう僕達には無い。それにこのままじゃ、シクラは絶対に絶望をガイエンに味合わせるだろう。


 それが分かる。アイツはやる……もしかしてさ、全てがこの為の振りだったんじゃないか? 自分の姿を晒して、ガイエンを突っ込ませたのも、そのための最短の道をメイスで作ったのも、ガイエンを捕らえるための罠。


 そう思える。だってよくよく考えれば、あの悪魔の攻撃事態がおかしい。殺す気なんて無かったはずだ。でもそれをしたのは、ガイエンがそれをやれるって分かってたからじゃないのか?

 ガイエンは黒い影の力で、瀕死状態と思えない動きしてたんだ……いや、その力にも意志があったのなら、結託してたとか。

 その“何か”がこうされる為に力を与えてたって考える事だって出来る。


「シクラ! 何……する気だ貴様!?」

「何って? そんなの決まってる☆ てか言ったでしょ? 絶望で死にたくなる様にしてあげるって☆ 君の大切な物、全部全て壊し尽くすから、特等席で見せてあげるね☆」


 悪魔の腕から顔だけ出されたガイエンが苦しげに言葉を発して、それにシクラが笑顔が返してる。でもそれは、笑顔で言う言葉じゃ決してない。

 アルテミナスの破壊だけじゃ足り無かったから全部か。それはつまり、ここに居るアイリやアギト……そして親衛隊とか全部って事なんだろう。


 確かにそんな事をただ見せられたら、絶望を感じるかもしれない。でも……ここはLROだ。本当に死ぬ訳じゃない。

 それを割り切ってしまえば……そこまでガイエンが落ちる事は無いかも。勿論、誰も殺されない事に越したことは無いけどさ、それを考察する事は難しすぎる。


「全部だと? だがそれなら城はどうした? まだ壊れてなかったはずだが? 私も言ったはずだ! お前の思い通りに全ては回らんとな!!」


 ガイエンのそんな言葉に、僕はアルテミナスへ目を向ける。確かに瓦礫の中心に、その建物は健在してた。アルテミナス城……完璧なシンメトリーで建築された、美しい筈の城だ。

 筈ってのは、その色が不満だから。綺麗な建物なのに……何で左右の色が違うんだよって事だ。最初にアルテミナスに来たときに言ったと思うけどな。


 そのせいか、何か浮いてるんだよあの城は。でも今はそんな城しか残ってない。てか何で、城だけが残されてるかの方が謎か、この場合は。


「ふふふ、それはそれで面白いから別に良いんだけどね☆ 寧ろ私は、私の予想を上回る方をいつだって期待してるわ。それは君にもそうだったんだけど……でも駄目ね。ただの駒以上には成れなかったみたい。

 はい残念~☆ でも、まだその体には最後の仕事が残ってるの……あはは、アルテミナス城? そんなのあの剣を潰せば済むだけなのよ」


 パチンと指を鳴らすシクラ。すると、こちらの方に悪魔共がぞろぞろと集まってくる。


「くっ……城は無事みたいだが、こいつらの狙いはアイリか」

「アイリってより、カーテナみたいだけどな。シクラの話からすると、カーテナが城を守ってる……そんな感じか」


 僕とアギトは、悪魔の足下で二人の会話を盗み聞きだ。どうにかして、ガイエンを助けるタイミングを計ってるんだけど……これ以上、悪魔が増えたらとても二人じゃどうにも出来なくなる。

 動くなら早く……だけど相手があのシクラだ。僕達の存在に気付いてない訳無いし、動けば必ず何かしてくる。けど、動かなくても絶望の魔の手は、直ぐそこまで迫ってる。


 こうなったらもう、ガイエンだけに対しての絶望じゃない。シクラの奴は、ここに生きてる僕達全員に、絶望を味合わせる気だとしか思えない。

 すると再び上から声が聞こえてくる。


「私は確かに弱かったかもしれない。だがな、アイリが居る限り、カーテナはそうそう折れはしない! アイツは……お前が思ってるほど弱い女ではない!!」

「惚れた女だもんね☆ そして手に入らなかった女。恨んでるんでしょう? 何で自分じゃないって? 理解した、納得したなんて嘘。

 もっとドロドロに渦巻いてるその気持ちを素直に出せば良いのに。そしたらきっと、色々と楽に成れるよ☆」


 シクラのそんな言葉に、アギトが僅かに反応してた。そうだよな……少なくとも自分的には解決した、収まった筈の問題が今掘り起こされてるんだ。

 そしてそれは、アギトが考えてた収まりをしてなかったかも知れない。でもこいつだって、ガイエンが直ぐにアイリの事を振り切ったなんて思っちゃ居なかったはずだけど……ガイエンは割り切った筈なんだろう? 


 そしてそれを自分で受け入れた……だから三人はもう一度、前みたいに戻れてた筈だ。

 シクラの悪魔の囁きに、ガイエンがどう答えるのか。アギトは息を飲んで待っている。


「お前は……何も分かってない。確かに人は、愚かだろう。何にだって思い詰める事もあるし、自分の道も直ぐに見失う。

 そんな中で愛って物は、一際分からない物だ。愛に狂ったり、愛に泣いたり、私達はそれに一喜一憂してる。けどそんな訳の分からない物が……自分よりも大切だと思える物を運んでくるんだ。

 確かにアギトのバカにアイリを任せる何て不本意中の不本意だ。だが逆に、アイツ以外には是が非でも渡せなかった。

 他の誰でもない、あのバカだからアイリを譲れて……自分の中で少しだけ納得できた。それで十分何だ。アイリはアギトを好いていて、そいつなら良いと思えたのなら、自分のガキ臭いワガママなんてやってられるか!

 大切だから、その子の笑顔が良かったと思わせてくれる。隣に居るのが自分じゃなく、少し心に靄があっても、割り切れる。その心に嘘偽りはない!」


 ガイエンの言葉を聞いて、アギトは少しだけ、唇を噛みしめてた。でもガイエンがあんな風に、愛とか言うとは……結構衝撃だった。でも、その言葉は僕にも響く物があった。本気……それが伝わった。


「そんなの結局は負け犬の遠吠えと同じじゃない? いや違うかな? 負け犬が負けた傷をどうにか目立たない様にしてる感じ?

 まあでも、恨んでても恨んでなくても、例え割り切ってても同じ事☆ だって結局、大切なのは変わってない。それなら君の目の前で死んで貰うだけね」


 折角のガイエンの言葉も、シクラの奴は確認に使っただけだった。ただ恨んでるだけでも良かった……でもまだ大切なら尚更か。

 でもそこにガイエンは食いついた。


「死んで貰うだと? LROはゲームだぞ。HPが尽きたら、代償を払ってゲートクリスタルに戻るだけだ」

「あれれ、でも例外が居ることくらい知ってる筈だよね☆ 私達は裏側の存在。その位、出来ない事無いよ☆ それに、自分だって気付いてるんでしょ? 自分自身がその例外だって」


 ガイエンが追求したのは先に僕が思ったこと。だけどシクラはそれをハッタリで飲み込もうとしてる。だって、んな訳ない。

 シクラ達でもプレイヤーの生死を操るまでのシンクロ率の操作は出来ない……そう僕は柊から聞いている。口ごもってるガイエン。

 だけどこの事実を僕が伝えれば、シクラが狙う“何か”の覚醒は回避出来るかも知れない!


「ガイエン!! 良く聞け!! シクラ達にだってそれだけの事は出来ない! これは間違いない情報だ! だって同じ存在の奴から直接聞いたんだからな!!」


 僕はガイエンに向かって大きくそう叫んだ。


「つまりはハッタリか……」

「あ~あ、更にヒイちゃんにはお仕置きが必要かな~☆ でもビックリ、あの子がそんな色々話すなんて。やっぱりスオウを気に入ったんだね」


 気に入られたくもない。てかただ単に負けたから恨み持たれてるだけだと思う。でもこれで、ガイエンは事実を知った。予想外って奴じゃないのかシクラ?

 少しの間、夜空を仰ぐシクラ。だけど直ぐに気持ち良い笑い声が響いてきた。


「あはははは☆ バレちゃったらしょうがないよね。でも、殺せなくても痛覚を操作する位、コードを抜けば出来るわ。そしてHPが尽きない様にすれば、それはそれで地獄じゃない?」

「「「なっ!?」」」


 僕達三人は、そのシクラの案に絶句する。確かにそれは地獄だろう。考えるだけでゾッとする。その時、ガイエンが遠くに向かって叫ぶ。それは多分軍へだろう。


「全軍! 王を守るんだあああ!!」


 でもそれは更に遠くから動き出した赤い瞳の大群によって阻まれる事になる。


「あれ~? 餌が目の前にあるのに待てをし過ぎちゃったみたい☆ ほんと、低脳でしつけが出来ない子達よね」


 白々しい事を……動き出したオークの大軍は程なく、軍とぶつかり出す。加護を無くしたこのタイミングでなんて最悪だ。

 もう四の五の言ってる場合じゃない。僕達はガイエンを救出しに動き出す。でも近づいていた悪魔に、簡単に阻まれて押し戻された。


 それはまさに圧倒的戦力差。確実に絶望の足音は近づいて来てる。轟く断末魔の叫びと、ぶつかり合う武器。戦場は激しさを増していく。暗い暗い夜の帳の中、最後の戦いの第二幕が幕を上げた。

 第百六十四話です。

 絶望の足音が忍び寄る回。まあもう忍んで無いけど、アルテミナス大ピンチ。意気揚々としてた気持ちが完全に無くなりつつあります。しかも数体の悪魔。一体でもあれだけ苦労したのに数体なんてどうしよう!

 てな訳で、どうするかは今後に続きます。

 次回は火曜日に上げます。ではでは。

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