1582 校内三分の計編 192
日鞠とちょっと奮発して景色のいいレストランでディナーを食べて、僕たちは帰宅した。夜なのに僕の家は真っ暗だった。まあ今日はおばあさんも摂理のやつも帰ってきてないから仕方ない。
家について僕は早速ソファーにダイブした。実際いい感じのレストランに制服でいいのかなと思ったが、学生だったからそれはありだったようだ。まあ雰囲気的にはドレスとかがよかったんだと思うけどね。
「でも実際は日鞠のおかげだったのかも」
僕はソファーに埋まりながらそう呟く。だって明らかに日鞠を見て態度というか対応がさらに丁寧になってたからな。
「僕は日鞠に助けられてばかりだな」
本当ならああ言うときは男の自分が格好良く何かやるべきなんだろう。お金握らせるとか? そんな金はないけど。うーん手段も浮かんでこない。本当に情けない。いや、満足だったけどね。
でもやっぱり日鞠とは対等とは思えなくて……なんか男として情けないというか。
そんなことを思ってるとスマホが鳴った。誰だ? とか思って画面を見ると日鞠だった。どうしたんだ? とか思いながら通話を始める。
「もしもし、どうした?」
「うん……別にどうもないよ。けどなんだが離れるのが寂しくて。ごめんね」
「別に……そんなことで謝ることは……」
なんだ? めっちゃ可愛いことを言ってくるじゃん。確かに家の前で別れる時惜そうな感じだったけど……
「今日は楽しかったよ。人生で最良の日だよ。こうやってスオウと恋人になれたし」
恥ずかしいことを躊躇いもなく言うやつだ。僕は恥ずかしくて、流石にここまで、はっきりなんて言えない。
「ねえスオウ……後悔してない?」
寂しそうな日鞠の声。どうしてそんなことを言うのか、よくわからない。頭いいやつだからな。きっと色々と考えすぎてるんだろう。
「なんで?」
「だってあんな衆人環視の中だったし、追い詰められて仕方なくじゃなかったかなって」
まあ確かに……実際あれは逃げられない。全校生徒が相手じゃな。確かにあの時、教室の外にいたのは全校生徒ほどの規模じゃなかっただろうが、あの場で逃げてたら本当に全校生徒を敵に回してたと思う。選択肢はなかった。
「確かに追い詰められてたな」
「ええっと、じゃあやっぱり−−」
「でも後悔はしてないし、これでよかったと思ってる」
「本当に?」
頭いいし、他人の心の機微にだって強いはずなのにやけに自信なさげな日鞠。こいつらしくない。
「本当だよ」
「本当?」
むむむ、これはあれか? 何かあるのか? 今もさっきもなんか日鞠は寂しそうだ。あれだけ一緒にいたのに、まだ寂しそう。ようやく一歩を踏み出せたから、今までの距離だと遠く感じるとかそんな感じか? どうしたらいいんだ?
「どうして欲しいんだよ?」
わからないことは聞くに限る。なにせ聞かぬは一生の恥だからな。
「確かめたい……のかも」
「確かめって−−そういうことか」
僕はスマホをもったまま顔を抑える。きっと赤くなってるはずだ。だって察したから。僕は決して鈍い男じゃない。
「一回だけだからな」
「うん」
「録音するなよ」
「じゃあ毎日言ってくれる?」
「……録音くらいいかな?」
「わかった。じゃあお願いします」
なんか違うような気がするが……いいだろう。こういうのは勢いだ。僕は深呼吸を二、三度繰り返してこういった。
「ちゃんと日鞠の事好きだから」
それから日鞠から返事が帰ってくることはなかった。多分気絶したんだろう。