1577 校内三分の計編 187
日鞠と共に街をぶらぶらし、カフェでお茶したり、ウインドウショッピングしたり……いったいいつぶりだろうか? 別に年単位の時間は空いてないと思うが、やけに久々だった気がする。
実際それは前もしてた事で、これが付き合ったからやること――ということにはならないと思う。でも……距離は確実に近くなってた。今までは触れそうでも触れない、触れてもいいけど、半歩くらいの距離感って奴を保つようにしてた。
日鞠の奴はいつだって触れようとして来てたけど、でも前のそれは僕を捕まえるためであって、いまのそれとは違うと思う。今は……そう、確かめるためにお互いにふれてる。今まであった半歩の壁が消え去って、僕たちは常に触れ合っていた。
視界で互いの距離を認識してたこれまでと、互いのぬくもりで互いの存在を認識するこれからが、きっと付き合ってるかそうじゃないかの違い。
……そう思った。
「あーん」
カフェでそんな事をしてくる日鞠には参った。だってさすがに……ね。確かにここなら僕たちを知ってる奴なんていないから、周囲には馬鹿なカップルがいるな――って感じで見られるだけだろう。でもさ……流石に無理じゃないか? 確かに僕も日鞠と付き合えたことに浮かれてるよ。
なにせずっと微妙な関係性だった訳だ。僕たちはお互いに惹かれてても、その関係性はずっと変わらなかった。でも、今はその関係性が変わって進展を始めたんだ。
ようやく……長かった時期から抜け出した。それは喜ばしいことだろう。
目の前の日鞠はその薄い唇を開けて僕があーんをしてくれてるのを待ってる。こうやってるとただの女の子……というかばかっぽい。実際はめっちゃ優秀でどこまでも先を行くような奴だけど、こうしてると本当にただの女の子だ。春らしい白い肩出しのふんわりとした服に、水色のスカート、脚の先まで見えるような靴は、脚に絡まるように紐がなってて、涼しげではある。
普段はあんまり身に着けない小物類もつけてて、オシャレしてるなって感じる日鞠は制服の姿よりもあか抜けて数倍はかわいく見える。
唇もなんかいつもよりもプルンプルンしてるような気もするし……てかいつもまでもあーんの状態で止まってる日鞠は僕がそれに答えるまでやめる気はないようだ。しょうがないから、僕はパフェの一部を巣くって、長いスプーンを日鞠の口にいれてみる。
「うーーーん! 美味しい!!」
そんな弾む声に、恥ずかしさよりも愛おしさが増してしまうんだから、僕はたぶん心底日鞠が好きなんだろうなって思う。