響く声
私はずっと走って来た。頑張って来た。なのに手にした物が何もないなんて、そんなの世界が間違ってるとしか思えないじゃないか。だけどリアルは変えられない。どんなに頑張ったって、世界を牛耳ってるのは与えられた者で、それが積み重なって来た歴史だからだ。それがリアル。
ならもう、ここしか無いじゃないか! LROという新たな世界でしか私は掴める物なんてなかった……筈。そうだろアギト。
土の味と鉄の味が口の中で混ざり有ってる。勢いを無くした炎の火が、惨めな私を晒している事だろう。リア・ファルは砕かれ、この身の力は闇に溶ける様に流れ出してる。
私はただのエルフに戻ろうとしてるらしい。馳せた夢は、直ぐそこまで来てたと言うのに……結局は、いつもと同じじゃないか。
私の手はいつだって目指す物を取りこぼす……そう出来てる様だ。確かに、あの高校三年の時、当夜と彼女の事はそれでも良いと思える物で、何の後悔も無かったさ。
それでも得た物はあったからだ。二年間、天才を側で見てきたんだからな。アイツが居なくなっても、その影響の可能性は無くなりはしなかった。
あの時は確かに、「これからだ」そう思えてた。けれどよくよく考えればあの時、自分が出来た事なんかなにも無くて、同じ歳の筈なのにそれを軽々と凌駕していく天才の背中を必死に追いかけてただけか。
手に入らないのも当然……勝ったのは当夜だったからだ。頑張っても勝てない事が有るのはわかってる。だけど負け続けない為に、ずっとやってきてた筈だった。それにアイツは天才で良い奴で、だから仕方ないと思えて、これからを目指したんだ。
「がふっ! ごふっ!!」
息が荒れて、ジャリジャリとした口から赤い液体が吐き出される。それはここでは縁の無い筈の物だ。だけど確かに見えていた……赤い、と言うよりもどちらかと言うとドス黒い感じの鮮血が。
(だけど……それから知ったのは……今までと変わらない現実……それしか無かった)
黒い血液を見つめる。地面に広がっていくそれは今まで塗りつぶしてたそんなリアルがワナワナと沸き立つように見えて、胸くそ悪い。
卒業後、彼女とも別れた。進路も違ったし、彼女はあの言葉を本気で実現しようとしてた。何とか立ち直った彼女の会社だったが、彼女が目指す場所は高く、そこに割けるだけの余裕は無かったようだが、彼女はバイトと当夜が残した推薦枠で海の向こうの大学へと自力で行った。
まあ当夜は元々海外に出る気なんて端から無かった様だが、その枠は確保しておいたらしい。何を思ってそうしてたのかは知らないが、それは彼女の足がかりにちゃんと成ったわけだ。
そして私はと言うと、無難に日本一の大学に進んださ。もう会うことも無いかも知れないが、離されっぱなしってのは症に合わないから、こっちはこっちで頑張った。進んだのは法学部だ。
武器が欲しかったんだ。持つ側の理不尽に自分でも対抗できる武器……それは法の剣だろ。それだけはまだ絶対……そう信じてた。
大学の四年を費やし、司法試験を一発合格は周りからすれば十分な勝ち組なのかも知れない。だけど私が手にしたいのは資格じゃなく、それを使っての結果。
理不尽を理不尽で済ませない……恵まれただけで他者を嘲り笑う奴らの失墜……そのくらいはしたかった。
だがどうだ……現実は薄汚れた世界を見せるだけだ。社会ともなるとそれは顕著だ。どうして誰もそれに疑問を抱かないのかが不思議なくらい。
弱い奴らは弱いままで入れるのか……それが私にはわからない。法は人が作ったもので、だからこそ人の悪意に簡単に覆われる。
正義の下に国民を守る法は、主に一部の国民に確かに良く使われてたよ。どんな社会にだって薄汚い物が有ること位わかる。
だけど染まっちゃいけない所もあったはずだ。少なくともここまで来た人達は誰もが例外無く努力した人達の筈で、同じ様な事を少なからずも見てたんじゃないのかと思ってた。
自分がしてたのは法の下に、弱者を傷つける事だ。それは間接的でも、いずれそうなる事で、持ってる奴らの穴通しの様な事だ。
勿論真っ当な事もやったはずだが、デカい事務所なのがいけなかったのか、その考えは利益優先主義だった。相手をするのは大きな企業や金持ちばかり……後はそう世間で先生とか呼ばれる奴ら。
現実は、どんなに訴えても正しい正義なんてありはしなかったんだ。ヒーローは、世界には成り立てない。リアルにはさ、ゲームの様な神や魔王を倒せる武器なんて存在しないんだ。
もしも有ったとしても、結局はそれを握るのは与えられた者共だろう。何故ならば、それを作ってるのが与えられた奴らだからだ。
間違ってる……そうわかってる事をやらなくければいけない苦痛。でもまだ上があったから、立場が上がれば通る物があると信じたさ。だけど実際は、そんな機会さえなかった。
生意気でも、仕事は出来た筈の私は簡単に切り捨てられたよ。上司のミスの責任を押しつけられて捨てゴマのごとく。
そして社会は戦う事さえ、させてはくれなかった。身につけた筈の力は、それを持つ誰かの悪意によって簡単に潰された。高い奴らは、どこまでも卑怯だったんだ。
そして人と人の繋がりもそうだ。仕事を無くした私の彼女は直ぐ様、新しい出会いを見つけてた。世の中はそんなもんというように。
与えられなかった者には「これから」なんて無かった。ずっと打ち止めだと悟った。本当に上に行きたいのなら、ズルでも何でもやらないと、与えられた奴らに並ぶなんて出来ない。それが世界の法則なんだろう。
真面目にやってバカを見る……そんな世界はもう、全てが腐ってるとそう思った。子供の頃から大人になるまで戦ってきた物は結局、打ち勝つなんて出来ない代物だったんだ。
だって世界がそう出来てしまってるんだから。ずっと前から、そういう奴らの手によって。世界にヒーローなんて存在し得ない。もしかしたら、自分がそう成れるとでも、思ってたのかな。
与えられない者は歯車にさえなってないっていうのにだ。憔悴、無気力、憂鬱……全てがどうでも良くなった。そんな時、大々的にニュースから飛び出てたのがLROだった。
『新世界の扉が開く!』それはどこかで聞いたような言葉で、『誰もが望む夢を見れる世界! 開拓するのは貴方達だ!』って文句にも異様に引かれた。
ゲームなんてやったこと無かったが、タイミングが絶妙だっただけにふらふら~と買ったこともないゲーム雑誌をコンビニで買って見て驚いた。
『フルダイブシステム』その先駆けを私は知ってたからだ。当夜からのプレゼント……そんな風に思えた。だからすぐさま予約した。だけど発売直前に起こったのはそんなアイツの訃報だった。
発売は延期され、LROはどうなるかわからなかった。だけど思った。アイツもこの世界の被害者何だろうと。天才で何でも出来る奴だったけど、この理不尽な世界から全てを奪ってた。
少し調べれば出てきた。何よりも大切だった妹の事故。会った事はないが、それが全てだったのは知ってる。心底イヤだと思った……こんな世界、消えて無くなればいいと毎晩祈った。
新世界……いつか三人で見てたそればかりを夢見るようになってた。そして扉が開いた日……いろんな物から解放された自分が新たに生まれたと思った。
全てを願える世界が開けた……その筈だったのに……
「ガイエン……」
そう名前を呼ぶ奴が私の前に立っている。情けなくて意地っ張りで、強情な奴。使えると思って近寄っただけのただの駒。
だけどこいつを見てると、いつもいつも苛立った。それはきっとこいつがガキだからだろう。ありもしない希望を見て、必死になってた姿が愚かだった自分と重なった。
踏みつぶしたくなったよ。ボロ雑巾の用にして……自分と同じように……だけどどうだ? 何でこいつは私の前に立っている? 何でそんな目で私を見下ろしてる? 何でこいつは立ち上がれる?
(何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で……)
永遠に続きそうなそんな呪詛めいた何でが頭で続いていく。許せない何かが沸き上がる。なんだその目は? なんだこの状況は? こんなの間違ってる!!
こんなのは私が望んだ世界じゃない!!
「アァギトオオオオオ!!」
私は立ち上がろうとした。怒声を響かせ、全身の軋みに脂汗を垂らしながらもそれを試みる。するとどこかから声が聞こえてくる気がした。
『勝ちたいか? 世界に。あらがいたいか? 理不尽に』
クソムカつく声だった。フフンってな感じで鼻を鳴らしてるのが想像できる様なそんな声。幻聴? とでも思ったが、私は無意識に答えてた。
(ああ! 私は、こいつの勝利だけは認めれない!! そんな理不尽だけは許せない!!)
今までとは違う……倒したはずの相手。与えられても居ない奴……そんなコイツに!!
『ならば、力を貸そうじゃないか。その怒りと憎しみで、掴んでみろよ……その願い!!』
その瞬間、球体に成ってた下半身が黒い霧を出して弾けた。そしてそれらは私を包み込んでいく。流れ出ていってた力が、全く別の物に変わっていく感覚がある。それが何なのかとかは、今はどうでも良かった。
私はただ……コイツに、アギトにだけは負けられない。
「くくく……ははははははははは……」
大地を踏みしめる感触が伝わってくる。私ももう一度この地に立っている。まだまだまっさらなこの世界……誰に渡せよう。
私はまだ何も叶えてないのだから!!
溢れだした霧は、私の武装を整えてくれていた。黒い肌に密着して巻き付いた様な服は首からヘソまでが大きくブイの時に開いていて、腰からは黒い光沢のあるマントが地面につくかつかないか位まで垂れている。
足は膝までもを覆う強固なブーツが保護をしてる。全身を黒く覆うその格好はさながら死に神らしかった。それに瞳と髪もカーテナの影響を受けたままだ。
だけどカーテナは身に宿ってる訳じゃない。今は腰に、大仰な武器と共に携えられてる。その力を封印するように、黒い何かでピッチリと巻かれてだ。
「ガイエン……お前まだ!!」
「もうやめて! やめようよ……これ以上戦う事に意味なんてあるの? 決着はついたんだよガイエン!」
アギトと、そしてアイリ……ここで出会った二人がその顔に怒りと、悲しさを乗せて言葉を発してる。だが……私の答えは変わらんよ。
「まだ何も終わってなどいない!! 私はまだここに立っているだからな!! 終わらせたいのなら、私から全てを奪ってみろアギト!!
それが勝つための方法だ!」
携えてた長剣を私は引き抜く。何もかもが黒く、刀身から黒い霧を出してる……そんな剣だった。だが、限りなく普段の自分の物と変わりは無かった。
感覚も何故かしっくりきてる。
「ガイエン……まだ分からないのかよ? まだ目を逸らす気かよ! 自分の心をもっと見つめろよ!! あの時流した涙が、お前の本心じゃないのかよ!!」
「涙? なんの事か分からんな。私は……ここでまた負ける訳にはいかない。もう……何もないんだよ。理不尽……この世界まで、そんな物に染める訳にはいかない。
アイツが残したこの世界だけは、あの頃に語り合った世界で有るべきだ!!」
力強い一歩を私は踏み出した。そしてそれを見たアギトもこちらに駆けだしてくる。それぞれの武器を携えて、それぞれの纏う光がぶつかり合う。
「この大馬鹿野郎!!」
「お前はもういらない……退場してろアギト!!」
武器だけじゃなく、言葉も私たちはぶつけ合う。素早い剣線と、力強い槍の攻防。それはいつかした光景を思い出させる物。
負けない……その自信が私にはある。だけど……
「ぐっぬう!!」
ぶつかる奴の槍が……振り抜かれる槍の衝撃が……どんどんと大きく成っていく。満身創痍の筈なのに……一度二度も死んだ弱い奴の筈なのに……どうしてこいつは、こんな力が残ってる?
次第に攻撃回数が減っていく私に対して、アギトの奴はその力強い姿に一切のブレがない。迷いがない。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
だが……受け入れられない物がある。水平に構えた長剣を流れる様に落とす。すると残像の様に長剣の影が続いて、そして私はその全ての剣を操った。
「スキル『三千世界』!!」
幾重にも重なってた筈の剣が、時間差を付けてアギトを襲う。勢い込んでた奴がたまらずその体を後方へ下がらせる。だが……その殆どを奴は防いでる。
モーションで見切られたか……アイツは私の、私はアイツの手の内を知っている。あの白い炎は初めてだったがな。
まだまだこれから……私はそう思い、両手で剣の塚を握りしめ、肩の所で剣を構えて地面を蹴る。突進系など、私のガラじゃないが、奴のお株を奪うのもいいではないか。
だけどアギトの奴は動かない。それ所か槍を構えもしない。何のつもりか知らないが……思いばかる気など私にはない。
「どうしたアギト!? 諦めたのならそのままでいろ。どうしようもない物に潰されて、貴様も一度世界を呪いに落ちていけ!!」
体が加速する。これで決まる。私の勝利……まだまだ道は続く。だけどその時、突如飛び出してきた奴がいた。
「ガイエン!! 私を……貫いてみなさいよ!!」
それはアイリ。武器も無く防具も何もない……その体にはボロボロのドレスがあるだけだ。つまりはこの一撃でも、アイリは逝ってしまうかもしれないということ。
(私が殺す? アイリを?)
真っ直ぐな瞳が私を捕らえてる。少しだけ躊躇ったらが、その時また頭に直接内側から囁く様な声が漏れてきた。
【何を躊躇う必要がある? その女も敵だ。そしてお前を裏切った女だろ。そいつにはこの刃を受ける責任が有るんだよ。
さあ! 手に入らないのなら……壊してしまえ。それが世界の真理だろ! さぁさぁさあさぁさあさぁさぁさぁ!!】
頭に木霊するそんな声が徐々に大きく成っていく。震える腕……見つめる先にいるのはアギトを庇う様に立ちふさがるアイリの姿。
その瞬間……黒い物が増幅した様な気がした。否定してきたはずの絆……だけどどうにも、こいつ等にはそれが見えてしょうがない。
そしてその都度、憎らしくなる。堪らない何かがこみ上げてくるんだ。
(そうか……いいのかもしれない。もうどうでも……そして全てがだ)
「ガイ……エン?」
止まらぬスピードに少しだけ、アイリの体がおののく。だけどすぐさま眉を釣り上げて、毅然とこちらを見据えた。
するとその瞳からは何かが伝わる様な気がした。その瞳には曇りなんてない。ボロボロの筈なのに、その姿には気品があり、涙で赤らめた瞳でも一切のブレは無かった。
そして伝わる言葉は、頭に救っていた闇を少しずつ退けていく様な感覚。
(信じてる……)
そんな言葉が聞こえる様だった。完全な思いこみなのかも知れない。気のせいかも知れない。だけどアイリの瞳から私は、そんな言葉を受信する。
(信じてる……私はガイエンを信じてる!!)
「っつ! ……ぬあああああああああああああ!!」
そんな目をされても、そんな事を訴えられても、今更私は止まれない。結局は手に入らない……アイリが選んだのは、その後ろの奴だろう!!
真っ直ぐに伸びた長剣が、流れていた片側の髪を切り落とした。彼女の髪が、空しく風に流れて行ってしまう。だけどそれだけだ。
私の剣はアイリの肌のどこにも届いてはいない。
「はぁはぁ……っつ!!」
だけどそれは余りに悔しい事だった。何でどうして……それが自分でも分からない。もう良いはずなのに……勝たなければいけない筈のに……それを私は、誰よりも一番良く分かってた筈なのに!!
何で……アイリが傷付けれない。するとその時、後ろから出てきた腕が、黒い刀身を捕まえた。
「やっぱりお前はそうだよな……」
意味の分からない事を呟くアギト。何がやっぱりかサッパリだ。それに何でそんな余裕そうな顔をしてる? それが異様に腹が立つ。
「貴様の差し金かアギト? アイリを盾に使うとは。お前もそれなりに落ちてるじゃないか」
ググッと剣に力を込めるが、アギトの奴も力を込めて、解放を許さない。相変わらず馬鹿みたいに腕力をあげてるみたいだな。
「差し金ね。確かにそうだけどさ、お前はやっぱりそうなんだよ。俺と同じでさ、アイリに言うこと有るんじゃねーの?」
「言うことだと?」
至近距離な私たち三人。アギトと自分に挟まれてるアイリは、顔を後ろに向けたり前に向けたり忙しそうだ。だけど言うこと?
いったい何を? まさか這い蹲って謝れとでも言う気かコイツ? そんな事私がするわけもない。それよりもどうやってここからアギトを踏みにじるかの方が大切だ。
アイリと違って、コイツには遠慮の欠片もありはしない。だけどやりづらい事この上ないのも事実だ。
それはアイリが間に居るから……とても動きづらい。それにアイリから見つめられると、頭の中でのたうち回ってた黒い声が完全にどこかへいく。
そんな中、再びアギトが口を開く。それも何だか楽しそうにだ。
「ああ、アイリの事が大好きだって叫んじまえよガイエン」
その瞬間、黒い声だけじゃなく色々な物が頭から飛んだ。そんな刹那の果てに……
「は……はああああああああああ!!??」
「ああああああ……アギト!?」
アイリと二人しておもいっきり私たちはその言葉に動揺した。何言ってんのコイツ? 的にだ。だけどアギトの奴は至極真っ当に、そして真剣な眼差しで私の顔にその槍を突き立てる。
指物代わりと言う感じで。
「だってそうだろ? てかアイリまで動揺しすぎ。だってお前の今までの行動……それを考えるとこれにしか行きつかねーよ。
お前は口で馬鹿にしながらも求めてたんだ。そんな心触れ合える関係をさ」
「好き……だと? 私が? 求めてた……バカバカしい細い糸にも劣る繋がりを?」
認めたくない思いが募るなか、そこにはどうしても否定出来ない物がある。そしてアギトは力強く言い放つ。
「思い返せよさっきのこと。利用してたのなら、アイリごと俺を貫けば良かった。それで終わってたかも知れない。だけどお前はそれをしなかった。出来なかったんだ!!
どんなに偽ろうとしたってバレバレなんだよ! 利用してたんじゃなく、大切だったんだよお前は!!」
大切……その言葉が何故か深く染みる様な気がした。胸の奥のどこか深い所へだ。
「好きに……成ってたのか……」
自分で口にしてみると……案外あっさりと認めれた気がする。いや、本当はずっと前からどこかで気づいてた。でもそれは、私が目指す世界にはいらない物だったんだ。
分かりあえはしないのなら、自分が納める完全な世界を作りたかった。それが出来ると思ってた。でもその根底にいつしかあったのは……たった一人の女を手に入れたい……だったのかも知れない。
【だが……手にはいりはしないだろう。何もかもな】
頭に響く黒い声。そうだ、手にはいりはしない物だから私は強引な手を使ったんだ。
「だが結局、アイリはお前を選んだ……その筈だろう。私はどこまで行っても、何もこの手で掴めない。ならやはり、ここでそんな理由で止まる事など出来はしないな!」
そう言って私は強引に長剣を振り被って、アギトの手から解放した。距離をとって、次の手を講じる。だがアギトの奴はおもむろに声を出す。
「なあガイエン。お前が掴みたかった物って本当は何なんだ? 繋がりってさ、恋愛感情とかだけじゃないだろ?」
「どういう意味だ? 私が掴みたかったのは、この世界そのもの! それに間違いなどない!!」
そう叫んだ私。だけどアギトは、完全にそして素早く否定しやがった。
「いや違う……それに見間違えてる。お前が欲しいのは世界じゃなく、そこにある繋がりで……そしてお前は、それをもう手にしてる」
第百五十三話です。
三人の決着は次回でつくでしょう。そしてそのあとは長かったこのアルテミナス編の決着へと続きます。どうなるかはお楽しみで。
てな訳で次回は月曜日に上げます。ではでは。