手に入らなくても良い物
少しずつ狂い始めた青春。どうにも出来ない事情が私達には降り掛かった。それは別れる告げる出来事。天才が悩んで、彼女が傷ついて、そして私は諦めた。決して最高の結果じゃない……だけど、あの時に掴めた物としては、私達の全力で正しい答えで、そして最善だった筈だ。
「おい当夜! これでいいのかよ? あんな風に追いつめて……お前だけの問題じゃ無いんだぞ!! アイツだって、不安な筈だ。
だって家の事何だぞ!? そこら辺、ちゃんと考えて物を言えよ!」
私は彼女が走り去った廊下へ出て、部室の中の当夜へそういった。追いかけた方がいいのか……やれる事があるって言ったけど、一体どうする気だ?
高校生が会社を建て直すなんて出来ないだろう。でも彼女は何かを決意した様な顔つきだった気がする。彼女だってバカじゃない……きっと何か出来る事が有るんだろう。
でもそれはやりたくなかった事何じゃないのか? だからあんな顔をした……そうとしか思えない。なのにこいつは!
「わかってる……分かってるさそんなの。だけど僕は……ここで終わらせる訳にはいかないんだ。君に叶えたい物が有るように、僕にだってあるんだよ」
「それはアイツにだってそうだろ! いつもいつだって、自分だけが特別と思ってるなよ!」
私達は廊下と部室、それぞれから視線をぶつけ合う。だけど不意に当夜は背を向けて、いつもの様にパソコンに向かい始めた。
「特別が幸せなんて思ったことは一度もない。ただ孤独なだけだ」
「つっ!!」
私は思いきり壁を叩いた。そして彼女の後を追って走り出す。だけどこの日、彼女を見つける事は出来なかった。
次の日から、一人で居る時間が多くなった。てか今日は二人とも登校していない。
学校は別に何も無いように普通だ。色々と大変なのは裏側……当夜がやってることは限られた奴しか知らない事。だから大半はいつも通りで、変わらないチャイムは鳴り響く。
それから一週間、何も出来ず二人とも会わない日々が続いた。自分でも何もやらなかった訳じゃない……だけど何が出来るのか、考えれば考えるほど分からない。
結局は何十億と居る中のちっぽけな存在……誰かから守られないと生きていけない子供って事を悟っただけだ。もう小さくはないけど、大人でもない……そんな中途半端がもどかしい。
少しでも大人に近づいていけば、出来る事が増えると思ってた。だけどただ体が大きく成るだけでも、いつ使うかも分からない知識を詰め込んでいくだけでもダメなんだと分かった。
もしかしたら、与えられた者と与えられない者ではどこまで行っても……例え大人に成ったとしても、出来る事には差が有るのかも知れない。
いや、有るんだろう。金持ちと貧乏人じゃ、社会に与える影響力が違うんだ。もう高校生……それぐらい分かる。
ようやく彼女が学校に来たのは更に三日後。それも予想外の登場だった。高級車の助手席から校門まで乗り合わせて、明らかにそう言う雰囲気を漂わせてた。運転席の男が……だ。
彼女は終始俯いてる。それは私が知ってる彼女じゃない。いつも明るくて、ちょっとおかしい……だけどそれが彼女の花だった筈なのに、今の彼女にはそれがない。
だけど派手な登場のせいで、そんな彼女を周りはほっとかない。そしてその日は珍しく当夜も学校に来た。けれどそれはそれで気まずい……そんな空気が流れてる。
でもこのまま今日が終わるべきじゃない。ようやくまた揃ったんだ。そしたら本当に何も出来ないまま。だから私は動く。当夜の奴は終始眠りっぱなしで、気付いた時には居なくなってるからダメだ。
それよりも気になるのは彼女の方。一体あの男は誰で、どういう関係なのか? あの時言った出来る事……それと関係有るのか? とても気になる。
だから昼休み、彼女を誘って外のベンチでパンや飲み物を広げた。勢い込んでこの状況に成ったけど、何から切り出せば良いのか分からない。
でも何も言わない訳にはいかない、呼び出したのは私なんだから。
「あのさ……」
するとその時、出鼻を挫く様な活発な声が響いた。
「ちょっと今日はね、女の子の日が酷いんだ。それでずっとズド~ンって感じだったんだけど……一人じゃ登校出来ないし、だから別にあの人は何でも無いよ。
そうだよね、久しぶり何だから元気でいなきゃね。私は大丈夫だよ!」
そういうと彼女は自分が買った豆乳を一気飲みしていつもの笑顔を見せてくれた。でもそれは、明らかに無理してる。
てか不自然だろ。でも女の子の日を追求する訳にもいかないし、私は口を開けたまま女子の真骨頂などうでも良いおしゃべりを昼休み一杯聞かされた。
なんだか取り残されて行くような感じのまま放課後。私は彼女にもう一度接触を試みた。
「部活……行くのか?」
「……ゴメン、今日は無理なの。当夜にも伝えといて。それと、何も心配ないよって」
その時の彼女の笑顔が、私にはとても儚く見えた。直ぐに走り出す彼女。まるでこれ以上、何も言われたくないから逃げてるよう。
ここで行かせちゃいけない。それじゃああの時と同じだ。彼女の背中を見つめてそう思う。だから今度は直ぐに私も走り出す。彼女の背中を追ってだ。
そしてたどり着いたのが校門前。そこでようやく、私の声は彼女に届いた。校門を一歩出て立ち止まる彼女。
「何で追いかけて来るの? 今日はダメなの」
「ダメな理由は何だよ。何でそんなに逃げるみたいにするんだ? 何やってる!?」
僕の言葉に、彼女は沈黙する。周りでは何事かとこちらをチラチラ見ながらも、校門を出ていく生徒がチラホラ居た。するとその時、この空気を破壊する様なクラクションが鳴り響く。
何かを催促するように鳴らされるその音。それはどうやら、直ぐそこに止まってる高級車から放たれてる様だ。と言うか、なんだか見覚えがある車な気がする。
「ごめんなさい。私行かなきゃ……」
その音に応える様に、背を向ける彼女。やっぱりあの車は朝に彼女を乗せてたのか。それがわざわざ迎えにまで来てるってどういう事だ?
朝見た運転席の奴がきっとまた居るんだろう。それを考えると、無性に行かせたく無くなった。私は後ろから彼女の手を掴む。
「待てよ! そんな辛そうな顔で、行かなきゃいけない所に何か行くな! お前が言ったやれる事ってのは、そんな顔に成る事なのか?
ちゃんと言えよ!」
掴んで分かった……彼女の体は震えてる。細い体が、フルフルとだ。だけどそれでも、彼女は強くこう言った。
「放して……何の事か分からない。私は私がやりたい事をやってるだけだもの」
「そんな事!!」
「幾ら友達でも!! 入ってほしくない所は有るの。はは……大丈夫だよ。大丈夫だから……放してよ」
強い言葉を掛けようとした。だけどそれ以上に強い言葉でけちらされた感じだ。求められてもいない。何も出来ない自分がイヤになる。
だけど……握る手はやっぱり放せない。今ここで私が出来るのは、こんな事しか無くても……いいや無いから、これだけは譲れない。
「もう、ほらほら冗談はこのくらいにしようよ。みんな見てて恥ずかしいよ」
放す気配が無い私に、彼女はやけにおどけた明るい声を出す。それはきっと私を思っての事なんだろうけど、そんなの無理してるってバレバレ何だよ。
(行かせるか)
そう思ってると、車のドアの開閉の音が聞こえた。そして近づいて来る足音。繋がる手はその瞬間から震えが増していた。
顔を上げると、そこにはいかにも遊んでますって感じの奴がいた。髪は茶髪で耳にはピアス、服は如何にも高そうな感じで、嫌みな程に決まってる。
そして一番気に入らないのは、高い身長の奥の瞳。サングラスもそうだが、その瞳が見下す様に見えて成らない。その身全てから、与えられた者感が漂ってる……そんな奴だ。
「おい、いつまで待たせんだよ。たく、そこのガキ、気安くそいつに触ってんじゃねーぞ」
そんな事を言いながら歩いてくるソイツは声すらもムカツキを覚える物があった。私が生理的に大嫌いな人種だな。
こいつが彼女を……そう思って私は立ち向かおうとした。だけどその時、思わぬ所から伸びた手が、私の頬を強く叩いた。
パンっと小気味良い音が周囲に響く。それは彼女のやったことだ。
「ごめんね……」
小さく聞こえたそんな言葉。ビンタの衝撃で思わず手を離してしまった私の手をすり抜けて、彼女はあのいけ好かない奴の方へ歩み寄る。
私は直ぐに彼女を引き留めようとしようと思った。だけどその時気付いたんだ。歩み寄った彼女は、そっと奴の握った腕を包んでる事に。
もしかしたら、あのままだとあの拳が私を襲ってたのかも知れない。それを防ぐために彼女は強引にでもこんな事を?
守られたのは私の方……
「はっはっは! よくやったよホント。良い音してたなマジで。お前なんてお呼びじゃねーんだよ。これに懲りたら調子扱くなよ」
「――っつ!!」
本当に、こういう奴らは人の腹の虫を煮え立たせるのが上手い。握りしめた拳を今直ぐ、奴の顔面にたたき込みたくなった。
するとそんな思いが目に映ってたのか、気に食わないとでも言うような顔に奴が成る。
「は、生意気そうな面するじゃねーかガキ」
気に食わない事が有ることが気に食わない……こいつはきっとそんな奴なんだろう。上等だ。だけどここでも彼女が入ってきた。
「済みません。だけど私は居るから……早く連れってってください。あんなのに構う事無いです」
「あんな……」
彼女の口からあんなのと言われた。本心じゃ無いにしても傷つく一言だ。すると奴が得意気に笑ってこちらを見る。
「そうだな。あんなカス、俺様が相手する価値もない。だけどそれをあのカスは気付いてない。だから分からせてやろうぜ。
それにこれは俺様を待たせた罰だ」
「えっ……」
そう言った奴は、彼女の顎に手を添えて強引に上を向かせる。爪先立ちになる彼女。そして近づく顔と顔……触れ合ったのはお互いの唇だ。
私は今、『キス』の瞬間を目の当たりにしてる。そして突然のその行いに、周りを通過してた生徒達も足を止めてしまった様だ。
そして離れる二人……彼女は目を見開いたまま動かない。そして彼女の唇を奪った奴は、勝ち誇った様にこっちを見てる。手に入らない物などないかの様に。
「なんで……」
ようやく絞り出した彼女の言葉。そしてそれと同時に涙も出てる。だけど奴はその滴を指で受け止めながらこう言った。
「言ったろ? 罰だって。俺様がちゃんと守ってる事を君がやらないから一足先につまみ食いしただけさ。大丈夫、君は幸運な女だ。
初めてが俺様何だからな」
あの野郎!! そう思わずには居られない。だけど彼女はぐっと歯を喰い締めたかと思うと、涙の上に笑顔を作って「はい」と言った。
それだけの覚悟……思いで彼女は何かをやっている。だけど俺様なんて自分を言う奴……そんなのに屈してまでやる事なんて無いと思う。
いや、単純に私は奴が許せない。彼女の涙までも押し殺す様な奴がだ!! 間違ってる……絶対に。それだけは確かだろ。幾ら拒絶されたって私は!!
そう思って駆け出そうとした瞬間。聞き覚えの有る声が、奴の後ろから聞こえた。
「おい、邪魔なんだから退いてくれるか?」
「あぁ?」
それはいつの間にか消えてた当夜だった。何でアイツが今更学校に? と言うか、文句を言われた俺様野郎が既に臨戦態勢だ。
「とうや……」
震える声でそう呟く彼女。すると何かを思い出したかの様に唇を隠す。まるで見られたくない様に。
「当夜? ああ、お前のお気に入りだった奴か。て、事はこいつが天才の……はは、何が天才だよ。よお、さっきの見てたか? 俺達の熱いキス。
天才が奪われるなんて滑稽だな。どうだそこら辺の気分は?」
俺様野郎のそんな言葉に当夜に背を向ける彼女。だけど有る意味、ここで一番酷いのはあのバカだったかもしれない。
「奪われる? 訳分かんない事言うんだなアンタ。別にそいつは僕の物でも何でもないし、誰とキスしようが知った事じゃない。
勝手にやってろよ」
「くははは! ひっどいな~お前。やっぱ天才はどっかおかしいんだな。安心しろよ。俺様が寂しくないように、直ぐに忘れれる様に、たっぷりと可愛がってやるからさ」
俺様野郎の腐った手が、彼女の頬から首筋へと落ちていく。青く染まった彼女の顔は、それのせいなのかそれとも……当夜の言葉のせいなのか。
当夜は当夜で、それに見向きもしないで私の横を通り過ぎる。そしてそんな反応にしけたのか、俺様野郎も彼女を車に連れ込み走り去って言った。
完全にブン殴るタイミングを逃してしまった。だけどこの怒りは収まらない……私は玄関に入って行こうとしてる当夜の肩を強引に引き戻して、その顔を殴った。げた箱にぶつかる当夜。轟く周りの悲鳴……だけどそんなのどうでもいい。
私は更に襟首を掴んで当夜を持ち上げる。
「どうして……何であんな事が言えるんだお前は!!」
酷かった……酷すぎだろあれは。私は知ってる。彼女の気持ちを。この二年と少し、ずっと彼女を見て来たんだから、気付かない訳がない。いいや、そもそも出会いからそうだった。
私は彼女と伝説の木の下で出会った。あの時彼女は、リボンを結ぼうとしてた。それは想い人がいたからだ。ずっとずっと彼女は変わらずにお前を想い続けて来たのに……あんな事を言いやがって。
もしかしたら、キスよりも彼女にとってはこいつにあんな風に言われた事の方が辛かったかもしれない。それなら、今私が殴るべきはこいつだろ。
「自分達はお前にとって何なんだ!! 妹意外はどうでもいい存在なのかよ!! もうちょっと周りをよく見ろ!!やっぱお前はおかしんだよ!!」
その時、予想外の反撃が顔面に入った。それは当夜の拳? 僕はガラス扉にぶつかった。割れる事は無かったが、この野郎危ないじゃないか。
「さっきからギャーギャーギャーギャーうるせえんだよ!! お前達が何なのかだって? 僕はちゃんと仲間だと思ってたさ!
だけどアイツの好意にだって甘えてた! 分かっててだ。僕だってあのいけ好かない奴と同じだ……利用したんだよ!! 妹の為に!!」
「ふざけるな!! じゃあその前の仲間は何だ? 友達以上にだってなれる筈だじゃないのかよ!! よく考えろよ当夜!!
お前のしてたことが利用かどうかは、ここで決まるんだよ!! アイツを今見捨てたら、それが事実として残るんだ!!
もしもそうなるのなら、私はお前を許さない!!」
堅い骨の感触が拳に伝わる。殴りあい、転がりあう私達は、本当の喧嘩をしていた。
「だからって僕に何ができる? アイツの為に僕が与えれる物なんか一つも無くなる! それならあのバカの方がきっと……」
「何でお前達、与えられた側の奴らは見返りをそんなに重要視するんだよ!! お前はアイツがこのまま幸せにでもなれると本気で思ってるのか?
さっき言ったよな? 分かってるって。それだけでアイツはきっと十分なんだ。どんなに釣り合いとれなくたって、いいんだよ!
お前の方程式にだって当てはまらない物がこの世界には沢山あるんだ!! 行き詰まり過ぎて、自慢の脳味噌も萎んだか。目を覚ませこのバカ野郎!!」
突き刺さった拳。そして大きく吹き飛ぶ当夜。これが始めての勝利……だったのかもしれない。
「何が……出来るよ。天才だって言っても……しょせんは子供だ。社会に何の影響力も持っちゃい無い」
悔し涙がなんだか分からないが、当夜は泣いていた。本当はずっと謝りたかったのかも知れない。でも裏切れない物が有った。自分一人じゃ何も出来ない妹。その子の為にも……だけど誰かが不幸になって手にする事をこいつは望みなんかしない……それを私は分かってた。
だから言ってやる。この信じれない天才にさ。
「それはお前が考えろ。天才だろ?」
「ふざけるな。友達、だろーが」
始めてだった。当夜の口からその言葉を聞いたのは。そして私達はこの騒ぎで停学となった。
この時期の停学は痛いが、今の私達には好都合だった。学校に行かず、彼女やあの俺様野郎の周りを調べまくった。そして分かったことは、あの俺様野郎はやっぱり企業の跡継ぎで、傾いた会社を救ってくれようとしてる所だとか。
でもそれを始めたのは最近で、どうやらそれは彼女のおかげらしい。前々から目を付けられてたらしいが、それをどうやら逆に利用した様だ。
結婚を条件に彼女は俺様野郎の企業を動かした。これで当夜のプロジェクトも守れるって寸法だろう。多分条件に入ってるんだ。
だけどそんなのはダメだ。誰も望んでなんか無い。私達は止めさせたかった。何度も彼女に連絡を試みる。だけど返信はこない。そこで趣向を変えて見る。
【僕は、もしもお前のおかげでプロジェクトが再開出来たとしても、良かっただなんて思わない】
こんな感じのメールを送り続けて、彼女の行動の意味を崩壊させていく。返信は無かったけど、それを続けた。するとある日【分からないよ】そんな返信が来た。
そして意を決して当夜はこう返信する。
【誰かの物になんか成って……それで僕が喜ぶ分けないだろ!! だって……ずっと側に居ると思ってた。高校を出ても大学でも社会に行ったって、同じ場所に居れた筈だ!! でもそれは儚い幻想でしかなくて、いつしか壊れるってここ最近で知ったよ。
まさにお前の行動で!! でも認めたくなんかない、こんな現実。ようやく気付いたんだ……僕はお前が好きだって!!】
顔を真っ赤にした告白は返信された。そしてしばらくして届いたメールには一言だけ……【助けて】そうあった。私達は動き出した。
まずは現在地を確かめる為に携帯の基地局を割り出して、その周辺の防犯カメラの映像をハッキングし、俺様野郎の携帯の記録も取り寄せる。
彼女はメールは出来ても、自分がどこに居るかは分かってなかったんだ。でも流石は天才。警察並の情報収集だ。そしていろいろ細工をして、掴んだ場所へ乗り込んだ。
そこは別荘で、彼女は今まさに襲われてる瞬間だった。抵抗しだした彼女に俺様野郎は苛ついたんだろう。
「当夜!!」
「何だお前等? 邪魔するなよ。それは俺の女だ!!」
虫酸が走る台詞。すると驚いた事に、当夜が一発奴の顔面を殴った。
「ふざけるな!! こいつは僕の女だ!! お前の物になんか一生に一回もさせるか!! それにこんな事してていいのかよ」
するとその時、奴の携帯が鳴り響く。それは多分、例の細工が効いた証拠。僅かばかりだけど、手にした情報で私達は奴を追い込んでた訳だ。
色々と粗相が多い奴で助かった。だけど実際、この戦いで私達が得た物は無かったかも知れない。だって全ては大変な時期に逆戻り。
「売るか。このシステム自体と僕をさ。良い値が付くと思うんだよな」
簡単にそう言った当夜。私達は反対したけど、それを止める事は出来なかった。当夜の思惑は成功した。買ったのは企業じゃなく国らしい。
でもそれはもっと複雑で陰謀が絡みあう所へアイツは行くって事だ。でも簡単に言いやがる。
「どこだっていいさ。摂理の為なら」
「やっぱお前は天才と書いてバカだよ当夜」
当夜はもう、この学校には居られないらしい。だから三人での高校生活は終わりだ。
「当夜、待っててね。私は必ず傍に行くよ」
「ああ、待ってるよ。ずっと」
見つめあう二人を見てると胸が痛む。だけど、これで良いと何度も自分言い聞かせた。結局はここでも欲しい物を掴む事は出来なかった。
だけど当夜のその背中は大きくて、笑顔の彼女はとても綺麗だ。何も間違っちゃいない……何もない私が、手にするのはこれからだ。
第百五十一話です。
最後は駆け足気味でしたけど、何とか終われました。構成的にはミスってますね。だけどこれ以上時間は賭けれない!! これでも伝えたい出来事は書きだせた筈です。この後は簡単に「あんな事もあったな~」的に終わらせて、往生際の悪い展開へと行きますよ。
まだ救われてないですからねガイエンは。
てな訳で次回は木曜日に上げます。それではまた次回~。




