1491 校内三分の計編 151
「摂理ちゃん聞いて。頼る事は大切だよ。結局一人じゃ出来る事なんて限られてるし。私は確かに他の人よりも少しだけ優秀かもしれない。けど、それでも出来る事なんてたかが知れてるんだよ?
誰だって頭は一つで腕は二本、体は一つだし、時間は固定されてるもん。だから私が摂理ちゃんよりも優秀でもそこで差なんて一人一人じゃあんまりない。
だからこそ、摂理ちゃんだってたくさんの人に頼ってるんだよね」
日鞠の言葉に鋭い目を向けてる摂理も一応聞いてる。日鞠はあくまで落ち着いた声音だ。摂理を刺激しないようにしてるんだと思う。この教室の周りには人がいっぱいだ。何事かとワクワクしながら、人が詰め寄ってる。日鞠はでもそんな有象無象には目を向けない。あくまでも真っ直ぐに、その厚い眼鏡越しに、日鞠は摂理を見てる。
「摂理ちゃんが積極的になってくれて嬉しいよ。スオウにだけ頼ってちゃ、心配だもん」
「それは……個人的にって事?」
「一般的にだよ」
やめて、僕の名前出さないで。そこら中の視線が僕に注がれてるぞ。しかもきついやつね。とりあえず僕は外を見る事でそれをごまかす。僕はなにも関係無いってアピールだ。
「私は摂理ちゃんに負けないくらいに支持してくれてる人達……いるよ」
「うん……それはいいことだね。でもその人達をつなぎとめる手段は間違ってるよ。もっとちゃんと向きあった方がいい。クリスちゃんの悪知恵なんだろうけど、ただ思わせぶりな態度ばっかり取ってたら、それこそ八方美人だよ。
最終的に多く票をもらうためには、信頼だって思うな」
「たった一週間で?」
日鞠に対するこの学校の生徒いや教師陣の信頼は圧倒的だ。それをたった一週間でどうにかひっくり返すなんてのは土台無理だから、摂理は……まあその女のあざとい部分を使ってたのかもしれない。
実際、それは効果的だったと思う。だって摂理はめっちゃ可愛い。そこらのアイドルなんかよりもよっぽどだ。そんな子に何か仕掛けられたら、男子高校生なんてコロッと行くだろう。
でもそれは最終的な票にはならないって日鞠は忠告してる。
「摂理ちゃんだから出来る。ハンデしか無いと思わないで。私は……クリスちゃんよりも摂理ちゃんの方が脅威だと思ってるよ。それじゃあね」
そう言って日鞠の奴は去っていった。僕はモーゼの様に人が避けていく日鞠を追うことにしたよ。まあ僕の事は邪魔してくる奴らがいっぱいなんだが……しょうがないから日鞠が歩いていったほうとは逆の方の階段を使うか。多分下か……それか生徒会室にでも行けばいいだろう。教室を出るとき、ちらっと摂理を見たら、たくさんの男子に取り囲まれてた。
「大丈夫だよ摂理ちゃん!」
「そうそう、会長だって、脅威に思ったからあんな事を言いに来たんだって!!」
とかなんとか言って励ましてた。摂理はどっちの言葉を受け取るんだろうか? 信者か、日鞠か……信者たちはきっと心地良い言葉をくれるだろう。心配してきっと摂理を肯定してくれる。でもそれは……いや、僕は摂理の事を信じてるけどね。僕はちらっと鈴鹿を見た。彼奴もずっと教室にいた。
珍しい事だ。さっさと帰るくせに……二人が本当の友達なら……きっと鈴鹿が動くんじゃないかな? わかんないけど。