明日の選択肢
厚い雲に閉じられた空。そこで僕と柊は向かい合う。僕を閉じ込めるこの結界。その本質を突いて、出来る事を僕はやる。このままじゃ駄目だからな。僕が思い描く、この力の軌道には、この柱は邪魔でしかない。
流れやすい余計な物は必要ないんだ。だから僕はこの柱にセラ・シルフィングを突きたてる。だけど奴の氷は無尽蔵で、更には自身の翼を分けた分身までもが、残り時間少ない僕を追いつめる。
空を覆うほの暗い雲の蓋。そこから白い結晶が降り注いでくる。それはきっと、柊が何かをしてるんだろう。六対の氷の翼は妖しく輝き、天扇は空から落ちる白い結晶よりも光る物を落とし続けてる。
そして僕は……この三本の氷の柱に捕らわれてた。自分から常に放出されてる僅かな電流……それが意識して感じると、柱の方へ流れてるのがわかる。
何回飛んでもこの三本の柱を回る理由……カゴの中の鳥の様に逃れられないこの領域。この柱は多分……僕はセラ・シルフィングを柊に向けたまま、その答えを突いてみた。
「これって、まさか避雷針か? 即席にしては良くできてるな」
「おほえめに預かり光栄ね。その通り、似たような物よ。だって自分でも制御出来ないのなら、こっちがその行方を握る方が確実じゃない。もう、どこにも逃げれないわよ。
後悔してる?」
天扇を構える柊がそんな事を聞いてくる。そう言えばさっきから後悔って事を良く言ってた。そんなにこの力を掴んだことを後悔させたいのか。
でも……そんな事はやっぱりないんだ。この力だからこそ、柊はここまでしてる。なら通せる。その希望がある。だから僕は言ってやろう。勝ち誇った様な顔してる柊にさ。
「後悔? そんな分けないだろ。例え捕まったって、逃れられなくても、握った奇跡を後悔するなんて贅沢しない。これは僕だけじゃない、ここまでこさせてくれたみんながくれた奇跡なんだ!
だからそれを与えられた僕がやる事は後悔じゃなく、この力を何としてもお前にぶつける事だ! 柊、人間の諦めの悪さを舐めるなよ」
奇跡の後悔なんて贅沢過ぎる。どうにも出来なかったかも知れない状況に、どんな力であれ光は射してくれたんだ。それだけで今の僕には十分過ぎる。
それでも優しくなんか決してないけど、それが僕とLROの関係だと割り切った。
「舐めてなんか無いわよ。愚かとは思うけど。あの子に拒否された時点で君はストーカーなのよ。それでも追いかける執念は女として怖いわよね。ほんと、いい加減にして欲しいくらい。
それにどうする気? 君は捕らわれたカゴの鳥よ。幾ら速く動けても、着地点が三カ所に絞れるのなら、意味なんて無い。わかってるでしょ?」
柊の目が女の敵を見る目に成ってる。ストーカーは流石に心外何だけど、そっちから見たら確かにそうか。確かにセツリは僕を拒否したし……それは僕のせいで弁解の余地も無いけど、引く訳には行かなかった。
間違いも失敗も認めて、それでも僕は追いかけるべきだと思った。だってこのままじゃ無くすと解ってる命があって、自分がそれを救えた位置に居た……ならもう一度、そこに行きたいじゃないか。
最初は偶然だった。何も解らないままに出会って、走り出した。夢中になって駆け抜けて、そして遂に転んでしまった。
絡まった足はなかなか戻らなくて、切らした息は苦しかった。でもさ、自分のせいで流れた涙は冷たくて、離れた心は痛く感じた。
急いで手を伸ばしても、それを取ってくれる事は無かったセツリ。間違いと失敗に気づいた時には、もう無知ではいられない。
そして選んだのが、追いかけること。今度は自分の意志で進み出したんだ。それが例えストーカーと呼ばれようとも、僕は信じてる。
セツリが本当は生きたいと願ってる事をだ。だから意味が無いなんて事は無いって事を証明して行ってやる。それを示してやろう柊達に、そしたらきっと伝わるはずだ。
柊が立つ場所に視線を向けて僕は言う。
「わかってるさ。確かに幾ら速く動けても、誘導されるんじゃ意味はない。なら……こうするまでだ!!」
僕はその瞬間、自身の足下の柱に剣を突き立てる。普通よりもずっと柔そうなこの柱だ。壊せない訳はきっと無い。それにこの柱を無くせれば自由が戻る。
自由すぎる事に成るけど、それよりも柊の手の平の上で踊るよりもずっとましだ。柱に突き刺さったセラ・シルフィングは激しい雷撃を放ち続ける。
そして柱に亀裂が入った。
(後少し……)
激しく吹き出す青い雷撃。さっさとこの柱をどうにかして目的を果たさないと。だけどその時、柱が砕ける前に柊が再び光球を放つ。
「邪魔するな!!」
僕は片手を光球の迎撃に移す。振るった剣から放たれた雷撃が向かい来る光球を打ち落とすけど、奴の無尽蔵な力は次々と光球を打ち出してくる。
「邪魔するわよ。だって君はここで倒すべき敵だもの。君は私達の世界を壊す存在。あの子を苦しめる存在。だから私が今ここで、葬ってあげるのよ」
「――っつ!!」
更に増えた光球に迎撃が追いつかない。柱の頂上付近で巻き起こる爆発には、次々と光球が追加されていってる。だけど、そこに僕はもういない。
その爆発の寸前に僕はセラ・シルフィングを抜き去ってもう一度飛んだんだ。そしてやっぱりだけど、またこの柱に僕は引き寄せられてる。
今度は反対側。柊の斜め後ろ。するとまた直ぐにこっちにも光球が来た。どうやら当たってないと分かってたみたいだ。
「無駄なのよ。何をしようとね。君じゃこのカゴから出られない」
「うるっせぇ!」
迫り来る光球をセラ・シルフィングでぶった斬る。今度は両手だから遅れは取らない。両手を使えれば手数も速さも圧倒できる。
光球の先の柊、そこに向けて雷撃を放つ。こっちはまだまだ諦めちゃ居ないんだ。何と言われてもな。だけど向こうにも用意はあるようだ。
「同じ手が、そう何度も効くとでも?」
そう言った柊。すると向けられた天扇……それが常に放ってる雪みたいなのをこちらに向けてきた。そして同時に輝きも勢いも増す。するとそんな天扇の影響を受けた、雪がもっと大きく、結晶化する。
それらは空気中に大量に現れた。放った雷撃はその無数の結晶へと枝分かれしていってしまう。これもまた力の誘導か。
「ちっ……」
本当に能力のバリエーションが豊富な奴。というか、もしかして僕と柊は相性的に悪いんじゃないか? 風と雷を使う僕に対して柊は氷を今はメインに使ってる。
こう考えると、別にそれほどでもないか。じゃあ何でここまで向こうに押されるか……それは多分、スキルに奴は縛られてないからだと思う。
だって氷を操ったり、生み出したりするスキルはあるだろうけど、ここまで自由度が高いわけない。避雷針生み出すスキルは考えられないしな。
柊はその系統の力を思い描くままに使えてると思うんだ。それが僕達の力との決定的な違い。システムの裏側を知ってるからこそ出来ること。
だからこそ、僕達はあいつの使う技一つ一つに驚くし、何をしてくるのか予想出来ない。あいつの使う力は既存ではないから。
雷撃と氷の衝突で柊を隠す様に広がる水蒸気。上手く防がれたし、これじゃあこっちからは仕掛けられない。するとその白い水蒸気の先から激しい光が漏れだして来てる。
そして次の瞬間、水蒸気を突き破って光が真っ直ぐに向かってきた。だけどこんな溜が必要な攻撃、今の僕には早々当てること何か出来ない。
だけどそれは柊だって分かってるだろう。なら本命は移動先に仕掛けるつもりなのかも知れない。でも、それが分かってても避けない訳には行かない。
僕はすぐさまもう残り二つのどちらかの柱へ飛ぶ。どうせならダメージを与えてた方へ飛ぶのが理想だ。アレはもう少しで砕けそうだったからな。一本でも破壊出来れば、このカゴは意味をなさない気がするんだ。
もちろん一つ一つでも避雷針としての効果はあるんだろう。だけど三本でこの配置だからこそ、僕はずっとこの三本の柱を回ってるんだと思う。
他の選択肢が入る前に、今はこの三本の柱のどれかに引き寄せられてる。でも、もしも一本でも崩す事が出来たなら、そこにはきっと先取られてた選択肢が入る筈だ。
トライアングルだからこそ、スムーズに回れてた鳥かご。詰まること何か無く、必ず二つの内のどちらかに進まされてた。
でも、進む場所が一つになって、力が上手く流れなくなれば、漏れ出す場所は必ず出てくる。そこに光を見いだすしかない。
願いを込めて飛んだ先……だけどそこの柱は、傷一つ無い綺麗な柱だった。
(外れか……いや、でも!!)
泣き言何か言ってられない。時間がないんだ。飛んだのなら、そこを崩す事をやるべきだ。嘆く時間の一秒さえももったいないんだから。
僕は再びこの柱にセラ・シルフィングを突き立てる。しかしその時、僕は気付いた。この柱、今までに無かった物が見えてる。
純度の高そうな透き通る様なこの氷は反対側まで綺麗に写してた。だけど今はどうだ? 柱の中にいつの間にか出来てる大量の華が、今までの様子を変えていた。
それにこの華を僕は知ってる。この華は柊の服に付いてる奴と同じで、その攻撃を一度は食らってる。保険のつもりか、柊は用心深くトラップでも仕掛けたつもり何だろう。
だけど僕は、そんな事はお構いなく剣を柱にぶっ刺した。だってそうだろ、今の僕の体は雷だ。この華達の爆発を食らったとしても、体が凍る事はないし多分内側だってそうだと思う。
寒さなんてもう関係ないんだ。手を拱く理由なんて無い。セラ・シルフィングが青い雷撃と共に柱へ刺さると同時に、埋め込まれてた華が一斉に表面に出てきて、冷気を放つ爆発を始めた。
白い冷気が辺り一面を埋めるように広がっていく。だけどやはり寒くはない。何も問題なんてないんだ。
「ん?」
そう思った矢先、おかしな事に僕は気付いた。セラ・シルフィングを突き刺したのに、その雷撃が広がらない。前の時はこれで、かなり亀裂を入れれた筈だ。
だけどこの柱は変わらずその透明な姿を保ってる。純度の高い透明な姿をだ。これはまさか……そんな言葉が頭をよぎる瞬間、氷の柱から伸びてきた腕が僕の首を掴み取った。
「ぐあ!! な……に?」
締められる事に抵抗しながら腕の先を見ると、そこから何かが更に生えてきてる。でも、何が生えるのかは何となく予想は出来る。
多分きっと、考えたく無い奴と似てるんだろう。足が柱から離れて宙に浮く。雷化で溶け合ってる腕は、青い雷線を伸ばしてるようになってる。
パキパキと耳聞こえる音。目の前の氷はやっぱり僕が思った通りの姿に成っていった。生命を感じさせない無機質な作りだけど、それはまさしく柊だ。
こいつ……こんな事まで……だけど今更、それほど驚く事でも無い。氷は流石にバリエーションが豊かだ。そしてそんな氷の分身がぎこちなく口を開くと、後ろから柊の声が聞こえてきた。
いや、柊の声に併せてこっちの人形が口を開いてるのかな。
「ふふ、捕まえた。もう逃がさないわ。それにわかったんじゃ無いかしら? この柱を壊すのは無理だって」
不気味な分身があたかも喋ってる様に見えるから、なんだか心臓に悪い。それに確かに捕まったのはやばい事だ。こいつ……こんな細い腕してる癖に異様に力が強い。
これはまさか、雷化してなかったら首をへし折る勢いだ。
「そんな……事……っ!?」
反論しようとしてもこの状態じゃ上手く喋れない。それにこの氷の分身の背から何かが生えてきてた。それはまたも見たこと有るものだ。
目の前で大きく凛々しく広がるそれは翼……柊本体の背に有る翼と同様の物が一対、その背に生えてきた。こいつは氷の体だから、有る意味本体よりもその翼とマッチして見える。
柊は何か無理矢理生やした感が有ったけど、こいつはそういう仕様で通りそう……なんて考えてる場合じゃないかも知れない。どう考えてもやばそうだ。
氷の翼はその羽を刃に見立ててこちらを狙ってる。首を掴まれた状態じゃ防げないし、かわせない。その時、再び分身の口が動いて、後ろから声が伝わってきた。
「やっぱり君を捕らえて確実に殺すにはこれがいいと思ったの。言っとくけど、その翼は偽物じゃ無いわ。私の六対の翼の内の一対。
その子は私と違って、翼の力を使うのに遠慮も容赦も無いわよ。ただの人形は与えられた事をやるだけなんだから!」
翼が大きく広げられて輝きを放つ。混沌としたような翼の輝き。通りで余りにも同じに見えると思ったら、柊の奴は自分の翼を与えてたのか。
確かに六対も有ればそれは出来そうだけど、それは力を分散するって事でも有るんじゃ無いだろうか。この一対の翼分、柊の力も落ちてる筈。
だが、今まさに僕は大ピンチだ。このままじゃそれを確かめる前に終わってしまう。どうにかしないと……取り合えずこの、首を締め付ける腕をたたっ斬る!
セラ・シルフィングは柱に突き刺さったままだが、僕はその感触を感じてる。繋がってる感覚が有るんだ。今はセラ・シルフィングも実体じゃない。
だからこそ、出来る筈だ。僕達はまだ雷線で結ばれてるんだから! 僕はこの氷の腕を断ち切るイメージを浮かべて腕を振るった。
すると次の瞬間、支えは断ち切られる。視界には一瞬だけ青い雷光が見えた。氷の腕が首に残ったまま僕は落ちる。だけどそのおかげで間一髪、翼からは逃れられた。
僕はもう一方の腕を動かして腕を砕く。無害に成ったからってやっぱり首に腕が絡まってるのは何だか嫌だからな。
だけどどうやらこれで終わりはしないようだ。上空から無数の氷の刃が降り注いできた。大きく開かれた翼から繰り出されるこの攻撃も、僕は知ってるぞ。
まさかとは思うけど、今まで柊が見せた技を全てあの分身も使えるのか? 僕は落ちながら、氷の刃を砕き続ける。どうやらこの状態だと、自分の間合いも恐ろしく広い事に気付いた。
今までは手放さない様にと思って投げるなんて発想無かったが、これはもう腕が伸びてる感じなのか、どこまで行っても僕はちゃんとセラ・シルフィングを握ってる感覚だけは有る。
確かにもう一人柊が増えたこの感じは嫌だけど、僕もまだまだこの力の可能性を少しだけ垣間見た。それにこの攻撃は何回だって打ち落としてるんだよ!
「うらああああああああ!!」
腕を一振りするだけで、恐ろしく広範囲の刃までも打ち砕ける。砕けかれた氷は雪と共に、景色の一部と成って落ちて行く。
だけど自分も落ちてるからな。どうにかしないといけない。でも……これならもしかして一気にこの柱を切れるんじゃ無いだろうか?
それにいざと成れば柱に突き刺してブレーキだって出来る。やる価値は有るはずだ。僕は柱に向かってセラ・シルフィングを振るう。普段なら届かないこの位置でも、今なら関係ない。
チャンスはこの一瞬。一撃で決めろ!! 雷化したセラ・シルフィングが僕のイメージと、同化してる腕の動きに併せて大きく動く。
その瞬間、青い雷線が軌跡を描いて尾を引いた。そして一気に横に亀裂が入る。
「行ったか?」
このまま倒れてくれ。そんな思いを乗せて過ぎ去っていく攻撃の後を見つめる。だけどその時、亀裂からあの華が顔を出した。そして冷気を出して弾けると、その部分が元に戻っていく様だ。
「――っつ!! あの華……やっぱり」
僕は思わずその光景を見て歯噛みする。あれは僕へのトラップじゃなく、柱を修繕するために配置した物。おかしいとは思った。
自分にあれが効かないのは柊だってわかってる筈だからな。でも元からあんな機能が有ったとは思えない。僕が柱を壊そうとしたから、新たな利用方を柊は作ったんだ。
でも……それなら!!
「修復スピードが追いつかない程に切り刻む!」
二刀流の特性は手数の多さ。それで圧倒すれば倒せない物なんて無い!! 地面が近い……でもやるしかない。
だがその時、背後から同じ様な氷の刃が飛んできた。
「っつ! 柊!!」
「黙ってやらせると思う? 戦闘中に私に背を向けるなんて随分余裕じゃない。だけどいいのかしら、もう一人の私から目を離したりして」
柊の攻撃を凌ぎつつ、そんな言葉の真意を探る為に視線を動かす。上にはもういなかった。左右でもない。一体どこに?
「あの子は最初、どこから出てきたのかしら?」
そんな柊の呟きで僕は氷をみた。だけど何も見えない。すると下から強い光が照らし付けてくる。光の原因はやっぱり柊の分身。
その体を氷から出しながら既に始めてる攻撃の溜が光と成ってるんだ。そして更に別方向からも同じ様な光が当たる。
何か柊も同じモーションに入ってる! 翼を前方に出しての砲撃。これはリルレットを苦しめたのと同じ砲撃か。
「今度は逃げられるかしら?」
そんな言葉と、分身の変な奇声がその場に轟いた。そして別方向から迫る砲撃。確かに一人では出来ない厄介さが生まれてる。
下と斜め上から迫る砲撃に対して、僕は両腕のセラ・シルフィングを互いの方向へ向けて受け止める――いや、様としたけど、足場がないんだ。僕は二つの力の向きの流れやすい方へと押されていく。それは後ろ斜め上位の向きだ。
(くっ……タイミングを合わせろ。足場を一瞬蹴るだけで良いんだ)
向かう方向には突起した氷が有る。これから逃れるにはタイミングを計って蹴るしかない。例えまた柱に誘われようともだ。
その瞬間、突起した氷へと二つの砲撃がぶつかった。その光景を僕は見てる。すると柊が素早く呟いた。
「本当にしぶとい。そのしぶとさはゲルスポ並ね」
ゲルスポと言うのはリアルで言うゴキブリをモンスター化したような奴だ。リアルと同じで嫌われ者でしぶといんだってアイツ等。
そして良さげなアイテムは落とさないのだ。たく、なんて心外な奴。だけど流石に突っ込む気には成れない。結局柱に戻ってきてるし……それにこの柱は……
「これも修復してるのか……」
「ええ、壊す事なんて不可能。君には幾ら頑張っても私に殺されるか、時間切れの未来しか用意されてないわ。さあ、もうすぐ一分半を切るんじゃない?」
確かに柊の言うとおり残ってる時間はその位だろう。でもここに来てやることが増えるとは最悪だ。あの分身も倒さないといけないとなると……それは本当にやりきれるのか?
幾ら自分を信じても、拭いきれない不安は押しあがってくる。でもだからこそ、口に出さないと負けてしまいそうで……ハッタリでもいい、心を強く保つ為に僕はこう言い切る。
「まだ一分半も有る!! 今の僕の状態なら、お前を倒すのに三十秒もいらねーよ!! だから僕が掴むのはお前が言わなかった第三の未来だよ!」
「第三の未来? そんな物……」
鼻で笑う柊。実は僕だって不安に潰されそうだ。でもこの奇跡をこぼさない為に、僕はそれを信じ続けなくちゃいけないんだ。
それが奇跡を起こした責任。
「僕はお前達もセツリも生きられる明日を掴んで見せる!!」
するとその瞬間、柊の瞳が大きく開かれた。それは予想外の答えだったからだろうか。でも僕は本気だ。すると柊は震えながら声を絞り出す。
「そんな明日……夢でしかないわよ!! 私達は人間なんて認めない!」
すると目の前に氷の翼が大きく舞うのが見えた。これはあの分身。まさか……飛んでる!? 完全に反応が一瞬遅れた。
奴の腕自身が氷の刃と化したそれが顔に迫る。
(っつ――シルフィング!)
「そんな夢は、あの世で見なさい。それがふさわしい」
動かす腕が間に合うかは分からない。でも信じるしかない。だけどその瞬間、僕の視界の端に何かが上がってきた。それは見覚えの有る杖。しかも帯電してる? すると急に僕はその杖へと引き寄せられた。
「これは……」
思わぬ事でかわせた。そして空振った分身に更に下から無数の矢が飛んでくる。そこに集うのは間違いない。頼れる仲間達だ。
第百四十四話です。
さあ、仲間達も集ってきて、再びスオウの心には勇気が灯るでしょう。次の話で決着付きそうです。みんなが居るから出来る事……それがきっと勝利の鍵。まあでも、どうなるのかは次回のお楽しみです。
てな訳で次回は木曜日に上げます。ではでは。