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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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命違う存在

 雷速のこの奇跡を生かすために僕は走る。その間にも柊の出鱈目な攻撃が襲い来るけど、この目にも止まらぬ速さで何とか回避し続けてた。だけど目的は果たせてない。

 この言う事をきかない奇跡を、だけど僕達は信じるしかないんだ。だけど柊も馬鹿じゃなく、奴は次の手を打ってきた。空を突くほど細長く、純度の高い氷の柱が三本その周囲に現れる。


 割れてしまった氷の大地・・至る所で大きく凹み、また至る所で、天を付くほどに競りだっては行く手を遮ってる。

 自分達で作った筈の僅かな見晴らしの良い空間は、跡形も無く消えている。それにこの現象はどうやら、湖の氷全体に起こった事の様で、更に僕達の周りを埋め尽くしてた氷の森までも、この有り体に飲み込まれてた。


 移動が不規則で、自分でも予測出来ないから、さっきから周りばかり気にしてる。すると見えるんだ。氷の木々が壁から生えてる様子とかがさ。

 それはきっとここの氷が大きく動かされたから起こった事なんだろう。木々が無いところは、僕達が切ったあの空間何だろうけど、そんな所は今や、柊を中心にしたごく僅かしかない。


 伸ばされて、引っ張られて、至る所に今や奴の目は広がってた。確かにこの僕の力は、万が一を引き起こせる物で、柊がそれを警戒したからこんな地形に変えた……は分からなくもないけど、それでもこれだけ不安定な力、それこそ見晴らしの良い状態で潰せない訳無かったはずだ。


 わざわざ地形を変えて、身を隠せる場所とかを増やしちゃっていいのかよ柊……とか思ったがそれは思い違いだった様。その証拠に、今の俺は結構困ってる。 


「そこね」

「――っち!」


 瞬間瞬間で予測できない位置に現れたりしてるはずの僕。それなのに柊の奴は、僕が姿を表した僅かコンマ数秒の差で、攻撃を仕掛けて来やがる。

 それがとても厄介。このままじゃ運良く仲間とはち合わせても伝える暇がない。柊の奴も実は分かってるのかも……僕が何かを企んでるって事に。


 だからこそ必要以上に警戒してる。その全ての目をリンクさせる程にだ。氷の木々が至ると所でザワザワとざわめく……その全ての葉が柊の視覚と成ってる。それは間違いない。

 今まではもしかして……程度だったが、ここに来てそれは確信に変わった。と言うか、そうでないと説明が付かない。


 この速さの攻撃は二つの瞳だけじゃ決して追いつかない。この地形であいつには死角が一つも出来てない……だけど僕達には、そうなるとただの迷路にでも思えてくる事になる。

 何でと思った地形の変形は、柊の無数の目でを考えれば有利な事ばかり。一人一人の孤立化に現状を確かめるのが難しく、それになにより柊に攻撃を当てずらい事この上ない。


 きっとアイツは、僕達全員を見下ろせるんだろう。この無数の目が有れば可能だ。そしてその穴の無い視野を使ってのこの攻撃……実際このままじゃ、無闇に仲間と出会うことが出来ない。


(出会わなきゃいけない……のに、出会えない事を喜ばなくちゃいけないこれはヤバいな。一体何人までなら、抱えれる?)


 こうなったら、一緒に離脱する……それが最善だ。そして何回か飛んだ先で下ろせばいい。僕は再び飛んだ先でそんな事を考えてた。

 上を見ると、柊がその六対の翼を大きく広げてる。そしてその翼はさっきからずっと、リンプンの様な物を周りに拡散してる。


 そしてそれが厄介な攻撃の正体。あの羽からまき散らされてる白い粉は、その無数の目のどれかが僕を視認すると一斉に空気中で氷結化と膨張を始める。

 するとその結果がアレだ。僕は更に視線を動かし、さっきまで自分が居たであろう場所へ視線を向ける。実際、自分でもどこに飛んでるか何て分かってないけど、この柊の攻撃のおかげって言っても変だけど、まあそれで分かる。


 何故ならそこには空間その物を埋め尽くす程にひしめきあう、氷の結晶の山……とでも呼べる物が出来てるんだからな。


「また……本当に速度は雷速ね。でも、パターンは掴めて来たわ。それに……」


 それ以上を口にしない柊。すると氷の結晶の山は砕けて散っていった。どうやら、獲物が入らなかったら自動で崩れる様に成ってるみたいだ。


 そしてアレが消えたら、またこちらに視線が向くことに成るだろう。今の僕はどちらにせよ、動き回るしか手はない……か。


「くそ……本当に時間が無いのに」


 もう成るべく見たくない数字が目に留まる。毎秒僅かに減っていく僕の命の数字。今から計算したら、後五分がタイムリミットだ。


 それまでに柊を倒さないと、ここまでって事に成る。多分リセットは効かないだろう。体がものスゴく活性化してるからあまりダルサとかは感じないけど、それだからこそ命を代償にしてる感が伝わるんだ。

 失われていく数字にどうしても焦りが浮かぶ。するとその時、再び振動が始まった。どうやら柊が何かを始めた様だ。


「アイツ……今度はなにを?」


 僕はそう呟いて、頭上で光る柊を見据えて拳を握る。だけど今は届かない。僕は取りあえず、再び飛んだ。今は一秒だって無駄には出来ないからな。

 例え柊が何をしようと、僕はこの力を振るえる条件を満たす事だけを考えなくちゃいけない。氷の渓谷に青い雷光が幾重にも再び光り出す。


 すると柊の声が、いつかと同じように聞こえて来た。この空間全てに伝わる不思議な声でさ。決して大声を出してる訳でもないのに、何故かこの距離で伝わる言葉だ。


「ねえスオウ、それにの後が気になってたでしょう? それが何か直ぐに分かるわよ。そして理解したとき、君はその訳の分からない力に縋った事を後悔するわ」


 こんな言葉は、僕を迷わせる為の物……そう思って成るべく気にしない風を装う。こういうのは乗らざるべきだ。柊が何をしようと、今の僕は全てを避ける自信が有る。それこそ、この雷速で! 

 だから僕は仲間達をこの冴えきる瞳で探す事に専念する。地形の変化で、近くに居た筈のみんながなかなか見つからない。


 もしかしたら、それこそ隠れてるのかも知れない。普通の感覚なら、この状況……手詰まり感で溢れてるからな。一人になって不安が増したのなら、それをしてもおかしくない。


 それにやっぱり、思うとおりに進めない事が効率を悪くしてる。同じ付近を何度も回ったり……と思ったらいきなり遠くに行ったりさ……とにかく本当に言うことを聞かない。

 だけどこれ以上嘆いても、これ以上の都合の良い奇跡が起きる訳じゃない。この力はきっと奇跡……そう信じて僕は進む。



 ゴゴゴゴゴ……そんな音を立てている地面に足を付いて、膝を使って体重移動を始める。その時僕は決まって願いを込める。


(今度こそ仲間の元へ!!)


 未だその願いは叶わないが、祈りを止める事は出来ない。どこに届くのかは分からないけど、思うのと思わないとでは、やっぱり何かが違う気がするんだ。

 それに思わずには居られないよ。こんな状況だとさ。「次こそは、次こそは」と何度だって祈ってやる。その時、この氷の渓谷に振動の主が現れた。それはとても透明度の高い三本の氷の柱。


 それらが柊を中心に三角を作る様に現れてる。でもアレが柊が自慢してきた物か? それだとちょっと拍子抜けも良いところ。だってその氷の柱は余りにも細い。

 どうみても攻撃に使えそうには見えない。体を次の場所に移動させる一瞬でも、今の僕にはそれだけハッキリと見えて、そして思考する事も出来る。


 けどまあ一応は警戒くらいはしとく。柊は全て規格外だから、完全に無視は出来ない。もしかしたらアレが、柊の最強の攻撃手段……かも知れない。

 視線をずらさずに見てると、その三つの柱は先端を更に三つの鋭利な突起に変える。そしてその周りには円形の同様の氷が大中小と並んだ。するとその柱に何かが走る様に光の線が見えだした。


 まるで起動完了……とでも言うような感じだ。その瞬間僕は、バリッと言うスパークの音を弾けさせて雷速の世界へ身を投げる。

 それは誰も捕らえられないスピード。そして一瞬の後に全く別の場所へと僕は姿を現す。そう、なんだかスゴく高い場所へとだ。


「ごきげんようスオウ。よかった。ちゃんと姿を現してくれて」

「――っつ!!」


 それは信じがたい声。そしてその近さに驚いた。


(何が起こった?)


 一生懸命現状の確認を僕は試みる。だけどこの状態でも上手く頭が回らない。沢山情報は入ってくる……だけどそれらが混線してまとまらない。でも断片だけでも、これが最高に不味い事だとは分かる。

 柊よりも高い場所……これはさっき出てきた細長い氷の柱? 僕はそこに飛んだって事か? 


(くっ……幾ら選択権が無いからってこれは無しだろ!)


 そう思わずには居られない。何でよりによってだよ。その時僕は柊の先の言葉が脳裏をよぎった。


【ねえスオウ、それにの後が気になってたでしょう? それが何か直ぐに分かるわよ。そして理解したとき、君はその訳の分からない力に縋った事を後悔するわ】


 この言葉の意味……だけどまだ理解してない僕の頭は後悔までは行ってない。でもこれは、そうなるという暗示みたいだ。

 混乱の直中に落とされた僕を見て、柊はいつものように天扇を開く。すると翼の分だけの光が集い出す。


「さあスオウ……後悔の足音が聞こえてくるわよ」


 そう言った柊は、天扇を横に凪いで集った光を放った。光球は光の帯を作ってこちらに勢い良く向かってくる。色々と理解できない事だらけだけど、取りあえず攻撃を食らう訳には行かない。

 人間としての危機回避の本能が僕の体を動かした。高速で流れる視界。これでどこでもいいから、取りあえず柊から離れれる……そう思った。だけどそれは甘すぎる考えだった。

 体が止まり、狭まってた視界が開ける。だけど一瞬僕が思ったのはこうだ。


(何が……変わった?)


 眼上には厚く空を覆う雲のが有り、下には冷気漂う氷の渓谷が広がってる。この光景……この場所……この高さ……余りにも同じだ。

 同じ場所に出たのか……と思ったけど、次の瞬間移動はしてるらしい事がわかる。それは苦しくも柊の存在でだ。分かりやすく柊だけは変わってる……その方向が。


 さっきは正面だったのが、今は左側に回り込んでる。って、待てよ……まさか‘二本目’に移動しただけ何じゃないのかこれって?

 そんな事を考えてると、耳に再び柊の声が届く。


「あらら、随分と親切なのねスオウ? この両目でも、今回は追えたわよ」

「追えた……だと?」


 そんな訳ない。この雷速は幾ら柊の目でも、止まらないと見えない筈だ。アイツが多すぎる目を使ってでもしてたのは捉える事じゃなく、探すことだったんだから。


「ええ、確かにその速さは圧巻よ。でも既に私は確信した。現れる場所が確実に絞れるのなら、それは捉えてると同じ事よ」

「何だそれ……まるでお前が用意したこの柱に必ず引き寄せられるみたいな言い方だな。ふざけるなよ! こんなのはたまたまだ!」


 僕はきっと自分でそう思いたかった。確証も無いし、偶然の可能性はまだある。それにたった一度だ。それだけで柊のこの自信は過剰だろう。 

 だけど柊はそんな僕の言葉を薄ら笑って天扇を向けてくる。


「なら、自身で確かめてみなさい。私から逃げてみなさいよ!」


 全てを放ったわけでは無かった光球が、天扇の合図に促されて向かってくる。


(大丈夫だ……落ち着け。当たりはしない……絶対に!)


 僕は氷の柱の先端部分、大中小の輪そこに居る。そして下方から向かってくる光球を見据えて、その部分から飛び降りる。

 その瞬間、空中に電気のスパークする音と青い雷光が線を引いた。そして一瞬の後に再び耳にスパークの音が響いてくる。


「よし、今度こ――」

「今度こそ、何?」

「――っつ!?」


 目の前の光景が信じられない。何で……どうして柊がそこに居る? そして目の前には既に迫る複数の光球があった。

 それは直撃の直前だ。


(考える場合じゃない。当たるわけにはいかないだろ)


 その場に再び雷光が線を引いた。


「これでどうだ!」


 次に現れた場所で僕はそう言った。だけどその願いは脆くも一瞬で崩れさる。何故なら、今度はさっきよりも速く、言葉も無い間に光球が目の前に迫ってたからだ。


「くっ――そ!!」


 僕はもう一度飛んだ。すると次の瞬間、迫りくる光球の向こう側で、反対側の柱に同じ種類の攻撃が炸裂してるのが見えた。

 僕は雷化で見えない拳をそれでも強く握る。


(これは……同じだ)


 僕は再び飛んだ。でも現れる場所はやっぱり、あの柱のどちらかだ。まるで吸い寄せられる様に、引き寄せられる様に必ず三本の柱か僕を捕らえてる。

「さあ、もう聞こえてるでしょ? 後悔がホラ……肩を叩くわよ」

 それから何度も何度も僕は飛んだ。だけどやっぱり逃れられない。そして実質、二つの柱のどちらかに絞れてしまった僕の移動先には、徐々に柊の手が速く伸びてきてた。


 さっきの言葉も、実際は的を得てる。言われた瞬間、本当にそんな感じがしてしまった。でも後悔と言うよりも、僕には柊自身に肩を握られた気がしたけどな。

 だけどこれはもう、ただの錯覚何かじゃない。僕は本当に、捕らえられたらしい。瞳を上げた瞬間に目に入る光球は、もう僕を見つけて放った速さじゃない。柊の奴はその翼の数に物を言わせて、光球を生成・循環させながら放ち続けてやがる。


 流れる様に上の翼から放たれる光球。それが一番の下の光球まで行く頃には、上の数発は既にまた出来上がってるんだ。

 だから柊の攻撃が止むことはない。いつかピンポイントで現れた瞬間に直撃する……なんて事が起こり得ると思ってた事が、今や起きようとしてる。


 体重移動さえ間に合わない。瞳にその光を痛いほどに見せつけてる。もう、拳さえ入らない距離だ。当たるわけには行かない……のにこれは当たる。そう思える。というか、その考えにしか至らない。

 避ける選択肢が今初めて無くなった。鼻先にまで届く光球。後コンマ一秒で直撃判定と共に、この体にその衝撃が伝わる筈だ。


 でも……それだけで終わりはしない。向かってきてる光球も、その後ろで更に生成されてる光球もある。一つでも終わるかも知れない攻撃があれだけ……直撃を貰えばそれで終わり。


(終わり? ……終わり……終わり……)


 頭の中で自分が呟いた声が反響する。だけどその瞬間、僕は思い切り歯を食いしばって雷速に消えた腕を振るう。


「うおおおおおおおおおおおおお!!」


 その瞬間、目の前の光球が真っ二つに割れる。だけどそれだけでは止まらない力が溢れでる。完全雷化してるセラ・シルフィングは轟く稲光を幾重も放出する。そしてそれは後ろから更に後ろから迫ってた、無数の光球を砕き、そしてその光は柊までも伸びる。

 渓谷の空に巻き起こる二つの力の衝突。それは大きな衝撃と白煙を巻き起こした。視界は一気にゼロにまで成った。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……」


 雷と化してる筈のセラ・シルフィングがやけに重く感じる。この武器と、生み出す力全てが僕の命を欲してる様に感じる。

 敵と呼べるものが自分の内側に居る感覚は、やりようがないからどうにも落ち着かない。外だけに分かりやすい敵が居れば、自分を正義と信じていけるのにな。


 だけど、柊には柊の信じる正義がある。あいつもセツリの為にやってるんだから、それは僕と根底では変わらない。けれどそれぞれに曲げられなくて譲れない程に、僕らはセツリを思ってる。

 それがこの結果だ。時々、ふと思うことがある。柊やシクラと話しててさ。本当は戦う必要なんて無いんじゃないかって……だってそうだろ、僕達は同じ人を助けたいだけなんだから。


 手を取り合えたっておかしくなんか無いと思う。だけど柊たちは自分達の考えが最良だと疑わない。そしてそれは迷いもない程だ。

 僕の言葉が悉くはねのけられたのはそのせい。その確固たる意志の強さが原因だ。そんな奴らにその考えを改めさせるのは大変だ。


 言葉を伝える為に、まずは力を示す事が必要ならそうするのも仕方ない。だからどうか……これで止まってくれ!

 だけどその思いも空しく、白煙の向こうからその翼の輝きが顔を覗かせる。


「本当に、どこにそんな力が残ってるのかしらね? どう見ても満身創痍なのに……それだけ命という物の価値は重いのかしら?」


 透明な翼の向こう側から柊が何ともおかしな事を言っている。それはまるで命の重さを知らない様な口調だ。


「そんなの……当たり前だろ! 一つしかないんだ、誰にだって命ってやつは! 命を懸けるって事は、自分自身の全てを懸けるって事なんだ!」

「そうね。確かにそんな事言われてるわ。人にとって命は大事よね」


 柊の様子からして、僕の話の真剣度が余り伝わった様には見えない。いや……というか、命って物が分かってないんじゃないか?

 僕もそこまで命を知ってる訳じゃないが、とっても大切って事は本能が知ってる。けど……人ではない柊はそんな認識が無いのかも知れない。


 LROじゃ、本当の死が無いから……それは本当の命が無いって事なのかも知れない。僕達は死を感じるからこそ、命を実感できる。だけど……柊達にとっての命ってなんなんだろうか?

 どうして僕の言葉が今まで届かなかったのか……あれだけセツリの事を大事にしてるのに、命や死と言う言葉への反応が余りにも薄かった理由……それはこれが原因何じゃ無いだろうか?


 時々何言ってんだって思ってカチンと来た事があった。このままじゃセツリは長くない……そう言っても、こいつらは【幸せの中で死ぬのならいいじゃない】位のノリだった。

 それってよく考えたらあり得るか? 一度リアルに戻れば良いだけ何だぞ。リアルに戻ったってLROにこれなく成る訳でもない……なのにこいつらはそれを頑なに拒否してる。


 認めようとはしない。それが僕には理解できなかったけど、それは柊達が命って物を認識してないから……その可能性が出てきた。


「人はって……お前達はここで生きてんだろ? 死ぬとかないのかよ? お前達の命って何だ!?」

「私たちの命? それはこの世界のそのものよ。だってそうでしょう? 私たちはこの世界の一部で、世界は私達の一部だもの。

 きっと私達が死ぬときは、世界が死ぬとき。そして私達の存在価値も、この世界もあの子が居て笑ってくれないと、死ぬことと同じよ」

(そう言う事か……)


 もしも僕の考え通りなら……絶対に勝利だけが道じゃないのかも知れない。僕達はやっぱり、少しだけ外れたレールを隣あって走ってるだけだ。

 その先に何個もきっとあるんだ、合流地点がさ。でも今まではそれらを合わせる事が出来なかった。色んな事を僕達は知らなかったからだ。


 でもそれなら教えてやればいい。その堅く閉じた耳を、無理矢理こじ開けてでもさ。それが出来たらきっと……誰もが幸せになれる未来がある気がするよ。


「分かった? だからこそ私達にはあの子が必要で、あの子を幸せにするのが私達の役目。寂しい思いも、悲しい記憶も、私達がこれからは埋める。だからもう良いじゃない?

 悪足掻きもそろそろ止めにしましょう」


 そう言って柊は自身を守ってた翼を再び大きく開く。あの攻撃を食らっても傷一つ見あたらないな。やっぱり吸収とかされたのだろうか。

 まあいいさ。取りあえず今は一筋の希望が見えたところだ。こんな姉妹を後どれだけ相手にするか憂鬱だった所に舞い込んだ光。


 それにどうせなら、倒すことが無くす事じゃないほうが僕は良い。天扇とシルフィングが向かい合う。


「ああ止めよう。そろそろ本気で足掻いてみるさ。足掻いて足掻いて……僕が掴みたい未来は決まった!」


 そう僕は掴みたい。そして掴める筈なんだ。僕達は本当は……似た者同士なんだから。蓋を閉じたような空。それを開けようと思う。残り後三分弱で。

 第百四十二話です。

 柊達とスオウのかみ合わなかった理由が分かった感じの回です。そして再びスオウはピンチ! もうどれだけだよって言いたいけど苦難は多い方が燃える物ですよね。

 次ではこの柱の正体もスオウの狙いも分かる事でしょう。後三分弱……だけど今のスオウの状態なら、はまればやれる時間だと思います。雷速なら、きっと。

 てな訳で次回は日曜日に上げます。それではまた。

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