1406 校内三分の計編 66
「そんな、そんな風に言うなんて酷い!」
おばあさんの言葉を受け止めきれずに、摂理の奴がダン! っとテーブルを強く叩きつつそう言った。
多分、摂理的にもこれは予想外だったんだろう。きっとおばあさんなら自分が今欲しい言葉を与えてくれるという思いというか、希望というか、確信があったと思う。
でもおばあさんはそんな物、ひらりと躱して今の言葉を言ったんだ。あんまり空気が悪くなるのはイヤだけど、僕は横やりを入れる事を我慢する。
だっておばあさんには何か狙いがあるはずだ。ただの意地悪でそんなことを言う人じゃないって事はよく分かってる。だから、ここは多少の空気の悪さなんてのは我慢だ。
流石に緊張で味も分からないってレベルでもないしね。
「だけど、それを言ったのは摂理ちゃん自身ですよね?摂理ちゃんの思いを私は否定なんてしませんよ」
そう来るんだ……と正直思った。だっておばあさんは寄り添う人で、彼女は居心地が良い空間を作れる人――悪い言い方をすれば、それだけの人――だと思ってた。
まぁ、癒し特化みたいな? 悪い事なんて何もないよ。はっきり言っておばあさんは、一家に一人居れば、夫婦円満、良妻賢母、一家円満をもたらせそうだもん。
まぁ、だからこそ、今の言葉が意外だった。何せ今のは優しいようで、ある意味突き放してるよな……そんなニュアンスも含んでたから。
「私は……」
摂理がスプーンを手放した。ビーフシチューに沈んで行くスプーンの様に摂理は下を向いている。けどそこにおばあさんが近付いてスプーンを手放したままの手を優しく包み込む。
「大丈夫、皆に素敵な所があるんですよ。比べる事なんて必要ない。私は日鞠ちゃんも、摂理ちゃんもとっても素敵な女の子だと思います」
おばあさんの静かで暖かな声音は染み渡る様だった。このビーフシチューの様に。いや、自分にはだけどね……摂理の奴は純真な見た目しててネットで擦れてるからな。案外ひねくれてるし、ちゃんとダイレクト伝わったかは謎だ。
「でも……でもそれなら、私の良い所よりも、日鞠ちゃんの良い所の方が皆しってるし……」
「それなら、伝えて行けば良いんです。摂理ちゃんなら出来ますよ」
「おばあちゃん」
ザ、精神論なんだけど、どうやら優しいおばあさんにほだされてるようだ。一回落としてから、優しくする事で、更に甘さを感じさせてるとか? でもその後はちゃんとどうしたら良いのかとか、クリスに言われた事とかを相談してた。
てかクリスの奴、「もっとワガママに振る舞え」って何をさせようと為てるんだ? 摂理の信者達はそれでも良いと思うけど……そうじゃない人達には逆効果では? まあ摂理はとびきりの美少女だからな……もしかしたら僕が思う以上にそれは効果的なのかもしれない。
おばあさんの解答は大体曖昧なんだけど、別におかしい訳でもないから、更に話しが弾んで摂理は楽しそうにしてる。とりあえず、生徒会長選挙期間後半戦も戦える様になったのなら良かった。僕は別に誰を応援してるってことも無いんだけど……ボロ負けとか為て欲しくないしね。善戦出来るのなら、それが一番いいと思う。そして、納得出来れば……諦めもつくってものだ。
日鞠はさ……本当にあいつ凄いんだよ。だから諦めって肝心なんだよね。