表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
139/2757

想いで作られる道

 向かい来る親衛隊……彼等は前に見た人たちと全員が同じ状況に成っていた。黒い肌に赤い瞳。それは向けられるだけで毛が総毛立つ様な感覚に襲われる程。だけど私は、ここに足手まといなりに来た訳じゃない。

 全部を知って、そして再び前へ行くためにここに来たんです。だけどそれは一人では出来ないかもしれない。でも大丈夫……私は私を信じて、そしてここにいてくれてるたった一人の友達で親友のあの子が、私の元にきっと一番に来てくれるから。

 向かう親衛隊にアイリは叫んだ。その上品な口を目一杯あけて力強い言葉をだ。だけど……それにどんな意味があるのか俺には分からない。

 そしてそれは親衛隊も同じなんだろう。奴らが止まる気配はない。奴らはその黒い肌と赤い瞳をたぎらせて武器を構える。


「くくくはぁーっはははははっは!! まだ分かってないのか? 貴方に認めて貰う必要なんて無いですよ!!

 我らの主は唯一人! ガイエン様だけなのだ――」


 途切れる言葉……何が起きてるのかそれは一目瞭然だ。そしてこの場所からでも分かるほどに明白な事。奴らをまがまがしく見せてたその黒い肌……それが戻って行ってるんだ。


「――なっんだ……コレは!?」


 親衛隊はどうにも出来ないその現象に足を止めるしか無くなってる。喚くような声が至るところから上がってる。それだけ信じれない事何だろう。

 そして一番声を荒げたのは他でもない、ガイエンだ。


「何をした……何をしたんだアイリ!!」


 声にさえ圧力があるかの様な叫び。俺達も思わず足を止める。でも既にガイエンの意識は完全にアイリの方へ向かってるから、攻撃が来ることはなかった。

 丁度いい……実際、俺にだってこれは衝撃だ。だってアイリは今はカーテナを所持してないんだ。だけどやっぱり、アイリがやったとしか思えない事でもある。


 あの宣言の直後だからな。今はもう親衛隊共は完全に黒い肌は消え去り、夜の闇や炎の明かりの中でも光ってた赤い瞳さえもただの目に戻ってた。

 妖しく光ることは決してない目。そして動揺の中心で一人佇むアイリがガイエンの言葉を受けて口を開く。


「何をしたか……それはちゃんと伝えた筈ですガイエン。私はただ使っただけ……この国を統べる者の権限を」


 するとそんなアイリの言葉を聞いて、ガイエンが激しく体を奮わせて反論した。


「誰が! この国を統べてるだと? それは間違いなく私だよアイリ! あの時からずっとそうだった! そして今や見ろ!! 

 カーテナは私の手の内にある!! これぞその証だろう! 全てを奪われたお前のどこに、王足り得る死角があるか!?」


 ガイエンの叫びが黒い夜空に染み込んでいく様だった。火事よって熱せられた空気が、この場に風を運んでくる。今のこの場にはもう、ガイエンのその瞳しか光ってない。


「確かに……今の私に、こんなボロボロの私のどこに見捨てられない理由があるかは正直分からないよ。でもねガイエン。

 もしかしたらカーテナは、王が持つ武器でしか無いんじゃないの? だからこそ、私はまだこの国に見捨てられてないのかも知れない」

「ふざけるな! カーテナこそ王の証だろう! この圧倒的な力は王だけに与えられ物の筈だ!! お前はカーテナを手にした事で王に成ったんだ!!」


 それは今まで見たことないガイエン。何かを必死に守るようとでも言うのか……取り合えず、あの状態になってから初めて見せる焦り? いや、畏れかな?

 けどガイエンがここまで声を出す理由も分からなくはない。だって俺もカーテナ自体が王である証だと思ってた。どうしてガイエンが頑なにカーテナにこだわってたのか。それは、王に成るにはカーテナが必要不可欠と考えてたから。


 そして実際、カーテナを手にして誰も寄せ付けない程の強さをガイエンは手に入れた。アイリよりも上手く使ってるし、アイツが望んだ上位種にも成れたんだ。

 全てが順調で、まだ完全に公表はしてなかったがガイエンの中ではもうその気だったんだろう。自分が『王』である気。


 だけどそれはアイリによって否定された。カーテナを持ってもいない……それどころか武器一つ携えてないアイリが今この場で、カーテナによって掛けられた筈の加護を外したんだ。

 そんな事が出来るのは、唯一カーテナを扱う者だけの筈。そしてそれは王であり得る立場でしか無い筈だ。


「確かにカーテナは王家の象徴の剣です。私はカーテナがあったから、入城も出来たしこの国を操れる立場になった。

 けどねガイエン。カーテナは武器でしかやっぱり無いの。王の道を切り開くための武器。それにガイエンは、私から王位を剥奪したわけじゃない。

 それなら、私がまだ王なのは何の不思議も無いはずだよね」

「――ぐっ」


 痛いところを突かれた感じのガイエン。そういえばそうだったな。カーテナを持ってるから、てっきり王であれてると思ってたけど、セラの情報じゃまだ自分自身を王って宣言はしちゃいない。

 確かこの戦いの後にでもやる予定何だろうけど、それなら今はまだアイリが王でおかしくない。けれど、アイリが言いたかった王の証とか、その証明とかはちょい違う感じだ。


「カーテナは決して、持つ者を王にしてくれる剣じゃない。王で有る者に振るわれる剣なのよ。わかりづらかったけどきっとそう。

 だからねガイエン……幾らカーテナを騙して力を奮っても、アルテミナスは間違えなんかしない。私がこの国の王だって!!」


 するとその時、加護を放たれた親衛隊の一人が動いた。そいつはさっきまでアイリに執拗に絡んでた奴だ。アイリとガイエン、二人の会話でどうしても耐えられない部分でもあったのか、奴はその口から大きな言葉を漏らしてる。


「それがぁ!! それこそがぁあ!! 全ての間違い何だぁああああああああ!!」


 大気が震える様な叫び。これだけの思いを持って忠誠してくれる奴もガイエンにいるらしい。それは結構スゴイ事だと思う。

 だけど、今の親衛隊は加護があったときと比べたら、余りにも普通だ。そしてだからこそ、今まで届かなかった手が届く。


 親衛隊の剣がアイリを突き刺そうとしたその瞬間、黄金の矢が人垣の隙間を縫って奴の剣を弾いた。甲高く響く金属音……何が起こったのか理解出来てない親衛隊は、その場に立ちすくみ呆然としてる。

 そしてそんな親衛隊に降り懸かる声と無情の刃が更に追い打ちを掛けるべく煌めいた。


「間違いだった……訳ないわ!! アンタにアイリの何がわかるって言うのよ!!」


 沢山の刃だけがむき出しに成ってる武器をセラは携えていた。そしてその刃は全てが紐で繋がれてる。あれもあの可変式武器の形態の一つ何だろうか?

 分からない……けど、色が同じ黄金色してる所を見るに、多分そうだろう。セラはその武器で一気に一番アイリに近い奴の所まで飛んでる。


 大きな円形状の紐に沢山付いてるむき出しの刃。それらを上手く使って周りの親衛隊でも踏み台に使ったか。親衛隊だって実際は加護を失ったからって、そんなに簡単にセラ達に遅れを取るような実力じゃない筈だ。


 だけど今の彼らはボロボロだ……体がじゃない、大きな自信を失った事でそうなってるんだ。そして頭上に飛んで叫んだセラは、その手の武器を眼下の親衛隊に降り注ぐ。

 降り注ぐといっても、投げた訳じゃなく、その武器の奇怪な姿と特性を生かした連続攻撃って感じだ。


「ぐあああああああああ!!」


 断末魔の叫びが辺りに響く。むき出した刃は一つ一つ性格に急所を突いていった。流石セラらしくえげつない。

 苦しげな叫び……だけどそれでも倒すまでには至らない。親衛隊の奴をアイリから遠ざけただけ……だけど、今までに無いくらいにHPの減りが見える。


 加護があったときは堅かった。でも今は通した分だけのダメージがきっちりと通る……その事実がみんなのやる気を促してる様だ。


 セラだけじゃない……アイリを助けようとしてくれてたけど、親衛隊の妨害にあって立ち往生してたみんなが決起盛んに動き出す。

 数では圧倒的にまだ不利なセラ達……だけど、加護の喪失という事実はとても大きい。


「セラ……ありがとう」


 アイリは自身の前に立つセラにそんな言葉を掛ける。それは自分をずっと思ってくれてたセラへの素直な気持ちだろう。

 そしてそんな言葉を受けたセラは、振り返りその場にひざまずく。


「いえ、すみませんアイリ様。私はアイリ様のその力が無かったらここまで来れませんでした。本当にありがとうございます……私の役目を遂げれる様にしてくださって。

 そして本当に……ご無事で何よりです」


 それは美しい主従関係に見える光景……だけど次第にセラの肩はフルフル震えて、そして何かが決壊でもしたかの様にアイリへと抱きついた。


「もうもうもうもうもう!! 私がどれだけ心配したか分かるアイリ!? それはもうカレーの福神漬けを見るだけに止める程だったんだから!!」

「あはは……随分安っぽい心配だったんだね。セラが福神漬けをカレーのメインに置いてるほどに好きなのは知ってるけど伝わりにくいよ」


 アイリの空笑いが俺もよく分かる。何で福神漬け何だよ。アイツの意外な好物とその言葉のミスマッチ差にどうリアクションをとればいいのか分からない。

 やっぱりアイリの様に笑うしかない……頬がひきつる笑いをさ。まあでも、あれがあの二人の本当の関係何だろうな。


「安っぽくなんかない! 福神漬けは世界で一番おいしんだからね! 私にとっては無くては成らない物! そういう事なの!

 もう! こんなに汚れて……アイリはいつだって綺麗にしとかなくちゃいけないのに!!」

「うん……うん……ありがとうセラ。でも大丈夫だよ。それにね……私はこういう格好も嫌いじゃないよ。みんなと一緒に戦ってる……そう思えるもん」


 抱き合ってる二人の間には友情とかそんなのしか見えないな。アイリの格好にプンスカしてるセラとか、それを優しく窘めるアイリとか……実は二人のああいう姿は始めてみる。

 いつだって人前では立場ってのを意識してたからな。だからこそ、ああいう二人を見ると改めて「良かった」そう思う。


「アイリが戦うなんて……私達がもっとしっかりしてたらそんなことしなくても良かった。私はアイリを守りたいからここに居るの!

 その為に、侍従隊とか作ったし……でも結局は何も止められなかった。私はやっぱり三人の物語の脇役でしか無いのよね」

「そんなこと……そんなこと無いよセラ。私が今までLROに居れたのは責任だけでも、アギトだけでも無い! だってそうでしょ? 

 アギトはどっか行っちゃうし……責任は誰にも渡せない……そえでもどんどんどんどん重くなる。平和に成ればなるほど……大きくなればなるほど。

 ガイエンはそっち方面でよくやってくれたけど、それでも話し相手には成ってくれなかったもの。だからセラがずっと居てくれて私は救われました。

 今日まで何も放り投げずに来れたのは、セラが私の……たった一人の友達に成ってくれたからだよ!」


 弾けるその笑顔が、セラには見えてるのだろうか。頬を伝うその大粒の涙は、瞳の大部分まで膨らんではこぼれ落ちてる。

 そしてそれは笑顔のアイリもそうだった。まだ早い気はするが……安心、それがセラの言葉や温もりでこみ上げたのかも知れない。


 暗い空に、燃えカスと化しつつある炎の中で、その涙は一際美しく輝いて見える。だけど不意にセラはアイリの肩に顔を埋めて変な事を言った。


「嬉しいふぇす……でも、だから……ごめんねアイリ。ごめんね……の事……」


 何を言ってるのか肝心な所が聞こえなかった。だけどアイリはその言葉で瞳を見開いた様な気がした。そして僅かに細めた瞳で、激しくぶつかりあってる親衛隊と仲間達の戦闘の合間を縫って、俺に視線が届く。

 でもその意味は俺には分からない。


「ううん、いいよ。だってそれってしょうがない事だもん。それに私は例え相手がセラでも負けません。友達として、親友として勝負します!」


 負けないとか勝負とか、そんなに堅く抱きしめ合ってるのに会話がおかしい気がする。何で勝負事の話に成ってんだ?

 俺が遠くからアイリの視線の意味にも会話の意味にも突いていけない中、セラは顔を上げた。


「勝負はしない。しませんよアイリ様。だって最初から私の入り込む隙なんて無いんですから。それに……ちょっと良いな~って思う人も実は至りいなかったり……」

「本当!? 私、親友の為にすっごく応援する! 絶対に!」


 何だか顔の赤いセラに、瞳を輝かせてるアイリ。何かどんどんこの状況を忘れてないかアイツ等? こっちは実はずっと冷や冷やしてるんだぞ。

 さっきから視界の端ではガイエンが自分の体を壊す程に拳を握ってるんだ。そしてその黒い血がタゼホの地に染みに成って行ってる。


 アイツは心優しくその光景を眺めてない。多分さっきのアイリの言葉を自分の中で拭い去ろうとでもしてるんだろう。だけどそれが決壊したとき、あの二人の綺麗な光景が惨劇に変わる事は間違いない。

 けどそれを防ぐために、俺とテツは視線を交わしてる。その時が来たら素早く動ける様にだ。でも願わくば、まだ後少しの間は、ガイエンには自分の世界に浸ってもらってたい。


「ありがとうございますアイリ様。だけどやっぱり難しいかも……何で私はまた、運命の赤い糸に自分が端にも引っかかって無さそうな人に心引かれるのでしょう」

「運命の赤い糸……そ、そんなの自分に繋ぎ合わせちゃえば良いのよ! うん、私が私だから許してあげる! 自信を持ってセラ。いつもみたいに!

 貴女の後ろに付いてるのは何たって私ですからね!」


 何だか随分と強引な事を言ってるアイリ。だけどあんな潮らしいセラは初めて見たな。アイツもアイツなりに苦労してたんだと初めて知った。

 いつだって楽しそうにLROをやってる奴だとばかり思ってた。まあ世話焼きだし、気苦労はしそうなタイプだが、それと並列して腹も黒いし相殺されてるものだとばかりな。


 けど案外セラは女の子だったらしい……まあ実際が何歳かは知らないけど、多分そうアイリと変わらない筈だ。そしてアイリは久々に真骨頂を発揮してる。割と頑固な所とかな。

 上に立って、いろんな事があってから遠慮がちに見えてた姿とは今は違う。


「もう、しょうがないですねアイリ様は。いつからそんなに頑固でワガママに成ったんですか?」

「私は実は、お嬢様だから元から頑固でワガママ何ですよ。今までは猫を被ってました。だけど親友の為には脱ぎ捨てましょう!」


 猫を被ってた? そうじゃなくただいろんな物に押しつぶされてただけだろうに。けれど今、ああやって笑ってるアイリを見てると少しは救われた気になる。

 自分がやったことが許されたわけじゃない。それはこれから直ぐにでも償う機会が来るだろう。だけどそれでも、今この瞬間、少しだけでも前へ進むためにご褒美を前借りだ。


 あの顔を、今度はこっちに向けて欲しいってさ。で、ここら辺で気づいたけど、お互い何故か立場の喋り方に戻ってる。

 あれは本当に気を許した場所でだけの事なのだろうか? 思わず出てしまった感じだから、人前の今は戻した感じ何だろう。それか二人ともちゃんと分かってるのかも知れない。

 今はまだやるべき事があるってさ。


「もう、仕方が無いですねアイリ様は。でも……そんな貴女だから誰もが認める王に成れるんです。という訳で、私の事は置いときましょう。

 それよりもまずは、アイリ様が幸せに成れる様に頑張ります! まだ私にもやれる事がありますから」


 そんなセラの言葉にアイリはこの戦局を見渡した。当然俺達の方も。そして二人して涙を拭いて体を離す。


「そうだね……まだ終わってない。みんなみんな戦ってくれてる。ここも、そしてアルテミナスも。みんなが待ってる。

 もう私は目を逸らさないから、今度はちゃんと胸を張るから、だからまだ私を守ってくれますか?」

「仰せのままに。私の中の王は、一度だってブレた事は有りません。貴女だから、私はここに居るんです。

 そう……元々主役に成りたかった訳じゃない。あの頃輝いてたアイリ様を見て、凄いと思った。私はきっとああいう人には成れないけど、その傍でこう言われる人に成りたかったんです。

『あの子が居てくれて良かった』ただそれだけで、私は満足でした」


 セラは言葉と共に、親衛隊側へと向きを変える。そしてその黄金色の武器を再び携えた。すると後ろからアイリが口を開く。贈り物の様な言葉と共に。


「それなら……もうとっくに成ってます。セラ……貴女が居てくれて私は、本当に良かった」

「ありがとうございます……」


 僅かに俯いたセラの顔は見ることは出来ない。だけどその声は僅かに震えてた様に思う。そしてそんな二人に親衛隊がやけくそ気味に二人ほど向かう。

 流石にシルク達だけじゃ、幾らテンションに差が有るとは言っても全てはまかない切れなかった様だ。だけど今、セラに向かうのはある意味自殺行為だ。


 奴らとは確固たる物の違い……それがセラには見えてる気がする。セラの体を回る奇妙な武器。それによって親衛隊の攻撃は凌ぎ弾かれ巻き取られて行った。

 そして体に巻き付いた武器が親衛隊の体を刻む。倒れ込む二人は、ある程度のダメージもあってかそれで戦闘不能に陥った。


「セラちゃん!」

「シルク様。行けます! これなら」

「うん、そうだね」


 合流したシルクも今の状況に手応えを感じてる様だ。風がこちら側に吹いてきてる気がする。


「初めまして……って言うのもおかしいですね。シルクと言います。アギト君とスオウ君の仲間です。そしてこの子はピク」


 ピクはそんなシルクの紹介に応じる様に空で旋回する。ピンクに白が混じった翼がキラキラフワフワと舞い落ちる。


「私はアイリ……恥ずかしい姿ばかりを見せてますね。だけどお願いします。この国の為にお二方の力ももうしばらく貸してください!」

「勿論です。本当は誰も傷つかなければそれが一番何ですけど……私の魔法は誰かを治せる力だから、それが届くのなら誰一人、国も国境も関係なく見捨てません!」


 それはシルクらしい言葉。人の幸せが好きで、誰かを助ける事が喜びなシルクには理由なんていらないんだ。確実に俺達が押し始めてる。

 あのアイリの宣言から風は傾き出してる。この流れを断ち切らない為に、そしてこのまま乗って俺が成すべき事……それはこれしかない。


「テツ……悪いけど、お前もセラ達に加勢してやってくれ。数じゃ圧倒的に不利なんだ。お前の本領発揮だろ?」

「な!? 確かにそれはそうだが、君はどうする? 見たところ彼女の一声でもガイエンには効果は無いみたいだよ」


 確かにガイエンは黒いまま。その異形姿を保ってる。だけど……


「それでも……いやこれだけは、俺が付けなきゃ行けないケリなんだよ。頼むテツ」


 勝てる保証があるわけじゃない。寧ろ逆の方が高い。でもこれだけは他の誰かを巻き込んでも任せても行けない事だ。

 そして同じ時に、セラ達も動き出してる。


「さて、今から私達全員で道を開きます。その間にアイリ様は向こう側へ。やれるよね? シルク様、それにみんな!」

「勿論です! ね、ピク」

「ピクゥ~!」

「うおおおおおおお!!」


 誰もがやる気全快、迷いなんて無い。


「みんな……」

「決着を付けて来てください。そして幸せもちゃんと掴まないと駄目ですよ。私達は貴女の道に成ります!!」


 一斉に開かれた一本の道。それはこちら側に繋がってる。だけど綻びもあった。気合いだけではどうしようもない数の差だ。

 その時小さな影がこちら側から飛び出した。


「やれやれ、必ず勝てよアギト! 主役は君だ!!」


 そう言い残してテツは行く。そして入れ違いにアイリがこちらに手を伸ばす。俺達はようやく、その手を重ねて同じ場所に立つ事が出来た。

 それもみんな、ここまで俺達を支えてくれた全ての仲間のおかげ。

 第百三十九話です。

 これで舞台は整った感じです。アイリとアギト……そしてガイエン。三人の結末はどうなるのかお楽しみに。頑張ります!

 てな訳で次回は月曜日に上げます。それでは~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ