1362 校内三分の計編 22
「簡単な事です。私は周囲の全ての人を味方につけました。それだけです」
「どういう事だ?」
新生徒会長のその言葉はわかるようで、わからない。味方につける……それが有意義なのは言葉からもわかる。敵を作るよりは味方を作った方が絶対に生きやすいのは確かだろう。でも……そんな簡単に味方なんてつくられるだろうか? 敵は自分が知らない間にも出来上がったりするが、味方ってこっちから動かないと出来なく無い? いや、だからそれをこいつはやったと言ってるのか。
「簡単な事ですよ。皆、悩みを解決してあげれば良いんです。いいえ、解決……までしなくても最悪良い。ただ、相手に私は貴方の味方です――と思わせれば良いんです」
「なんか……気持ち悪い事を言ってないか?」
「おい、失礼だぞ!」
そう言ってパコンと呂鉢先輩が自分の頭をはたいてきた。そしてペコペコしてる。いや、誰だこの人。自分をパコパコするのはいつもの事だが、こんなヘコヘコしてる先輩は先輩ではない。べつ……じん? いや、どっからどう見ても呂鉢先輩なんだけどね。流石にフィクションみたいなあり得ないことが起こって中身だけ変わってる……なんてことも無いだろうし、ロボットが活躍しだしてるといっても、流石に人間にうり二つのロボットなんて聞いた事もないしな。そもそもそんなロボットが開発されてたとして、こんな区立高校に配備されるわけないしな。
どう考えても彼は自分が知ってる先輩の筈だ。それ以外考えられない。なのに、目の前でヘコヘコしてる……いや、同級生の女子にヘコヘコしてる呂鉢先輩を本人とは思いたくないのかも知れない。なんだかんだ言って、自分は先輩の事を尊敬してたのかも知れない。確かに呂鉢先輩はめちゃくちゃだ。写真の腕がなければ、性格破綻者といってもいい。でもそういう社会を超越してる感じが、憧れだった……のかも。
でもどうだ? 今の呂鉢先輩は。まるで上司にヘコヘコしてる社会人その者じゃないか。てか彼女は自分と同い年な訳で、先輩にとっては後輩だ。後輩にヘコヘコしてる先輩ってどうよ? いや、常々ちょっとの差で偉そうにしやがって――って思ってるよ。でも実際、あんなにヘコヘコされちゃあね……いや、普通に接してくれれば良いんだ。なのに呂鉢先輩はめっちゃ彼女に腰が低い。
荒れも新生徒会長が言った味方につけたって事か? どう考えても味方というか従僕してるような……
「えっと、先輩も彼女の味方になってるって事ですか?」
「いや、俺は彼女を信奉してる」
「…………」
自分は先輩を指さして新生徒会長を見た。イヤだって、これはどう説明するの? だってこの人、元々は唯我独尊、世界にはただ自分だけ! みたいな人だよ。そんな人にここまで言わせるって……いや、価値観変わってるじゃん。そりゃあ別人に感じるよ。もうね、何を言ったからいいのかもわからなくて、言葉が出てこない。
「うーん、流石にそこまでの事はしてないような?」
「いや、俺には見える。アンタはここの会長で終わるような器じゃないってな。だから、どこまでも付いてくぜ!!」
手で作ったフレームに新生徒会長を入れて、そんな事を呂鉢先輩はいっていた。今思うと、先輩のその言葉は的を得ていたんだとわかる。