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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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奇跡の掴み方

 全てを取り戻したアイリの猛攻が始まる。全ての冷気はアイツに従い、全ての氷は意のままに形を変える。そんな中で出来る事は、かわす事くらいしかなかった。だけどそれすらも天扇によって阻止される。

 繰り出される氷の翼……かわす術がない僕は、仲間に頼るしかないが、それだけじゃ駄目だった。翼は六対、左右に十二本……僕に割くのは一本で十分なんだ。そんな中僕は、奇跡の掴み方を模索する。


「よく頑張った。そう、貴方達は良くがんばったわ。誇っていい事よ」


 天扇を向けた柊が、最後の言葉を綴る様にハッキリと、そして澄み渡る声で言葉を続ける。


「分かってる。そちら側からしたら反則だって。だけどね、これが私たちの力なの。人間とは違う、そして心を奪われたプログラム達とは違う、それを許された私達の力。

 でも最初からこうだった訳じゃない。私達ももっとか弱い存在だった。だけど、私達には目的があって……だから成長を望む事が出来たのよ。


 私達は頑張った……ねえ、頑張って手にした力を使うのはダメなこと? 同じ舞台に立ちたいのなら、そっちが昇ってくるべきじゃない?

 私達にとってこれは努力の結果であって、反則なんかじゃ決してないのよ。それを言うなら、『バランス崩し』アレの方がよっぽどそうでしょ。

 貴方達人間は、システムの力をシステムに頼って使う。本当は何も出来ない癖に……これ以上、この世界をデカい顔して歩くんじゃないわよ!」


 長い語りの終わりに柊は開いた天扇を掲げた。すると後ろの翼もそれに呼応するかの様に大きく広がる。そして天扇が戻ったからなのか、欠けていた左側の一本も再生し始めてた。

 空気中の水分か何かを凍らせているのか、周りから氷が生えていくみたいだ。


「デ……デカい顔って何よ! そんなの別に私達はしてないもん!」


 前に立ったリルレットがこの光景に押されない様に必死に声を張り上げて柊と向かい合ってる。徐々に復元されていく翼の下で、柊は頑張ったリルレットの言葉を無情に返す。


「してるわよ。そう思わない事が……当たり前にこの世界を犯すのがデカい顔って言ってるの。貴方達は思ってるでしょ? LROは私達の遊び場所って……違う?」

「それは……だってそうでしょ? LROはゲームなんだもん。そう思うのは仕方ない事じゃない! そもそも何で貴方達が我が物顔してるのかの方がわかんないよ!

 だって……ここは造られた世界で、それをしたのは人間なんだからね。気付いてないのなら教えてあげようか? 貴方達だってね、造られた存在なんだから!!」


 リルレットの言うとおり、ここはゲームでそれは遊び場って事なのは間違いない。てか、誰もがそう思ってる筈だ。

 ただのゲーム……とは違う思い入れをしてる人達も居るだろうけど、でもそれでも僕たちにとっては第二の世界でしかない。


 治癒の光に包まれてる僕。するとリルレットの言葉を聞いた柊が何故か唐突にこっちに話を振って来やがった。翼はもう七割は出来上がってる。


「貴女、顔の印象の通りに頭悪いのね。私が少し前に『マスター』って言ってたの聞いてない? 言っとくけど、マスターなんて名前じゃないわよ。

 私達はね。自分の創造主を知ってるわ。お気楽語気楽にLROを闊歩してきたんでしょうね貴女。そういう貴女みたいなのが一番ムカつくの。

 ねえスオウ、そう思わない? 私達が戦う戦場にふさわしくないって……だって結局は遊び感覚何だもの。私達は存在を、君は命を……だけど彼らは何もこの場に上げてないのよ。

 そんなこの人達と、君は良く戦えるわね。背中も何も任せられないんじゃない? 覚悟も薄ければ、信念も細いでしょう」


 クスリと笑う柊。その妖艶な姿に良く合う笑い方だ。だけど言われた事は黙って置けない事だ。てかそれは、ここに来る前に自分でも思ってしまった事だ。

 でもだからこそ、答えは出てる。迷わない答えがさ。みんなはそれでも言い返せない様だけど、それなら僕がちゃんと伝えよう。それでも良いんだってさ。


「確かに、そう思った事もある。命を懸けてる僕やセツリとはこう……真剣度合いがどうしても違うんだって。それでここに来るまでに色々有ったんだよ」

「当然ね。遊びで真剣な場に入ってくる何て、言語道断で無礼の極みだもの」


 柊は僕の言葉に満足してるかの様に笑ってる。一方、みんなは何だか不安な目でこっちを見てた。まあ当然の反応なのかも知れないけど……大丈夫、そういう気持ちを込めて僕はみんなに笑いかける。


「だけどさ柊、僕はそれでもみんなを仲間だと思ってるよ。信頼出来る仲間だと信じてる」

「嘘ね。それかそう思おうとしてるだけよスオウ」


 柊の奴はそれはそれで痛いこと言いやがった。まあそんな時期も有ったさ。でも今は本当に違うんだ。回復魔法で胸の傷が治って行く。


 HPもみるみる貯まっていくのと比例する様に、体から重さが抜けていく。だから僕も、みんなと同じ位置まで歩み出る。


「柊の言いたいことも分かる。それは絶対に考える事だからな。意識の違い……でもそれってしょうがない事なんだよ」

「しょうがない? それで済ませられる問題かしら?」

「でもそれは僕の都合で、僕の問題だ。考え方を押しつける事は出来ないし、知ってくれてるだけで良いんだよ。それに僕は弱いから、どのみち一人じゃ何も出来ない。

 絶対にこの世界に居るみんなの力が必要なんだ。でもそのみんなに『僕は命を懸けてるからみんなもっと真剣にやってくれ』なんて言えるか?

 みんなはずっと真剣だった。それなのそんな事を言うのは僕のワガママだ。誰もが同じ状況に居るわけないし、僕たちは人が同じ意識を持つのが難しいと知ってる。

 他人から見たら理解できない価値有るもの、それと同じなんだよ」


 九割……もう翼はほぼ完成してると言っていい状態だ。シンメトリー……なのかは微妙だけど、完成しだすとやっぱり綺麗な物だ。

 けど僕はこうも思う。一部が欠けた儚い姿も、アレはあれで良いものだったんじゃないかって。儚い女の子って何だか魅力的じゃん。持論だけどさ。


 まあ、柊の場合は羽が一枚無くなったって儚いには当てはまりそうもなかったけど……今と殆ど変わらず、力強いよ。その細い体を目一杯伸ばしてさ。


「弱いから……それは納得してあげる。人間は弱く脆弱よね。でもいいの? それじゃセツリは助けられないわよ。妥協なんて、負け犬のやること」


 柊は僕がリルレット達と一緒にここまで来たのは、自分が弱くて仕方なくって思ってるんだな。塵も積もれば何とやらだから……って感じか。

 でもそれは違う。ちゃんと僕達は、今や信じ有ってるんだからな。


「妥協なんてしてねーよ。なあ柊、仲間って何だと思う?

誰もが同じ思いで、同じ方向を向いてなきゃ仲間って言えないのか?

 僕はそうじゃないと思うんだ」

「それで人は真剣になれるかしら?」

「成れるさ。思いは違っても、少しの間でも同じ場所がみれるのなら、僕達は仲間何だ。それに余程の奴じゃない限り、そこに意識は生まれる。

 仲間意識とか、人だからある思いやりとかな。それに思いは違っても、組むからにはそれぞれの目的が有るわけだ。ならそれは真剣だろ?」


 僕のそんな言葉に、柊は眉をつり上げて否定する。


「だからそれは遊びじゃない!」

「それでも、それはそいつにとっての真剣だ。それでいいじゃん。そんな温度差なんて、自分の行動で変えていける。

 だって僕達は仲間何だからな。互いの為に、この時は高めあえるんだ!」


 言葉と終わりと共に、一度軽く翼が動いた。だけどそれだけで、吹雪の様な風が肌に直撃した。翼は……完全に完成してる。

 そして多分、今のは動作確認か何かだろう。これから完全のアレと戦うと思うと、気が重い……と思ってたけど、向かい合って完成されたあの翼と今の力を感じると、別の事が頭から全身に駈け巡った。


(あれを……アイツをどうやって倒そうか……)


 それを考えると、何だかワクワクしてる自分が居る。最初は本当に、嘆くしかなかった。圧倒的な力を見せつけられて、無理だと言う自分が居たのも事実だ。

 けど今は、さらなる力の前で胸躍らせる僕が居る。おかしくなった? そうかも知れない。でもこう思える自分がイヤじゃない。


 僕は自分で「まだやれる」そう思ってる訳だからだ。きっと本当に絶望を感じたら、僕は焦るだけだったと思う。そして柊は、完成した氷の翼をその背に背負い、少し苛ついた様な声でこう言った。


「そう……ならその高めあえる力って奴を見せてみないさい! どうせ、私には届かないでしょうけどね」

「届くさ! いや、届かせてみせる!! おまえに分からせてやるよ柊! 人も捨てたもんじゃない……こいつら全員、僕の仲間だってな!!

 行くぞ!!」

「「「「……おおおおおお!!」」」」


 周りで放たれた大き叫び声。少し溜まったのは、みんなが僕の言葉を噛み締めてくれたからの様だった。そして僕達は自らを奮い立たせて、もう一度強大な敵へと立ち向かう。

 多分今までで一番強力な状態のセツリへとさ。今までで一番、強い思いをぶつけよう。



 空に停滞してた氷の華。それが放たれた翼の攻撃によって次々と壊されていく。だけどあの華の特性は寧ろ壊れてから……白い特殊な冷気が空を覆って、ゆっくりとこちらに落ちてくる。

 アレが完全に地面を覆ったら息さえまともに出来なくなる。そうなったらなぶり殺しにあうのは目に見えてる。倒さなくちゃいけない……それかあっちの冷気を吹き飛ばすか。


 でもどちらも簡単じゃない。柊を倒すは言う間でもなく、あの冷気もそうだ。吹き飛ばすと言ったって、あの広範囲をどうやってって事になる。

 下手をすると僕の二の舞って事もあり得る。そ・れ・に!


(別の方を見る余裕もないっ――か!)


 六対の翼、その下半分は僕達を襲ってる。その翼に生える羽をまるで巨大な鋸の様にして迫り来るその様は、トラウマ物だ。

 斬り裂かれる氷の地面がエグい事になってるよ。そんな中、今は柊の手には天扇まである訳だから――


「逃げてばかりじゃ私は倒せないよスオウ」


 ――攻撃のバリエーションが段違いだ。天扇の最初の機能……対象の行動の支配……それが僕を襲う。


「―――っつ!?」

「ほら、近づけさせて上げる」


 僕に向けられた天扇をクイッと自分側へ返す。すると操り人形の様に僕の体は柊の方へ引っ張られる。そして待ち受けるは氷の翼。

 瞳に映る羽の刃……それが真上から振り卸される。


(避けられない)


 てか、体が自分の思うとおりに動かない。あれだけの攻撃力を持った攻撃……僕の防具や装備ではそもそも受け止められる次元じゃない。

 セラ・シルフィングでなら流す事位は出来そうだけど、体の支配権を奪われた状態じゃそれも叶わない。迫る鋭利な翼の刃……煌めくその刃が僕に届く直前、複数の音がその翼にぶつかった。


「「でぇえええやあああああああ!!」」

「てぇええええええい!!」


 片側から前衛組の一斉攻撃が炸裂する。すると僅かだけ羽の軌道が変わって僕の体を掠めて地面に突き刺さる。ズガガガ――と氷の地面を削る羽。

 どうやらまだ諦めてない様だ。僕の支配もまだ溶けてないしピンチは続く。受け止める事は難しいから片側攻撃は良かったけど、やっぱりそれでも傷一つ付かないか。


 僕が一度、一本でもその羽を欠けさせたのはどうやら結構な事の様だ。それにさ……ずっと「もしかしたら」そう思ってた事がある。

 そしてさっきのみんなの攻撃を直前で見て、それは確信に変わった。氷なのに、幾らスキルを当ててもヒビ一つ入らない強度……いや、それは強度の問題じゃなかったんだ。

 その時、他の羽がみんなを押し退ける。


「「「うああああああああああああ!!」」」

「みんな!!」


 六対も有る翼……僅かな隙間を縫って成功出来たあの攻撃はほんの一時の刹那の瞬間。六対の残り十一は容赦なく襲い来る。

 もう、奇跡なんか許さない……そんな柊の声が聞こえる様だ。動かない体、奇跡さえも願えない状況。みんなは必死にこちらを目指してくれてる。


 だけど、それを柊は許しはしない。そしてみんなは今度はたどり着けはしないだろう。だってあの羽は……どうやらスキルを通さない。

 いや……スキルをその透明な羽で吸い込むみたいだった。最初のライジング・バースト、あれも今にして思えば吸い込まれる様に消えていったんだ。


 でもそれでも羽は砕けた……許容量は有るのかも知れない。だけどこの僅かな瞬間にその力を出すのはきっと無理だろう。

 あれはだって無数に柊を切りつけたから倍増した威力での結果。三・四刃切りつけた程度のライジング・バーストじゃ砕けやしなだろう。


 それに十二本の羽、全てを砕こうとしたら、一体どれほどの力が必要なのか……それはきっと途方もない。それこそ『バランス崩し』と称される武器が必要だろう。

 でも、それはここでは不可能……そう言っているのと変わらない。だけど……諦める事も出来はしない。動かない体……この支配を解く方法は無いのか?


(どうにかして、あの扇子を閉じさせる事が出来れば……)


 それが今までわかってる天扇のリセット方法だ。でも、翼に守られた柊にそれをさせる事は困難だろう。それにそれは結局、誰かに頼るしかないことで、良いようであれば奇跡って奴に頼ってる。

 誰かが言っていたと思う。本で読んだのかも知れない。


『奇跡ってのは願う奴の所に舞い降りる物じゃない。諦めない奴の所に降る、きめの細かな粉雪の様な物だ』


 ってさ。だからそれに頼ろうとしてる時点で、僕は終わってる。良くわかんないけど、奇跡を起こす条件に願いはないんだろう。

 そして本当に綺麗な結晶の雪ってのは、一朝一夕では出来ない時間とかがあるんだと思う。願うことと嘆くことは、実は結構似てるのかも知れない。どちらも空の向こうの何かへ思いを馳せる意味ではさ。


 でもその願いや嘆きを天まで届かせるのは結局の所、強い思い何じゃないか。思いは昔から国境を越えるし、人種も性別も越えてきたはずだ。

 なら世界だって越えられる。強い思いは遠いどこかの誰かにだってきっと届くのかも知れない。でも届いた事が奇跡何じゃなくて、届かせた事が奇跡何だとしたら……きっと世界中の誰もが出来る事何だろう。


 諦めない意志と強い心……そして信じあえる仲間が居れば……そいつ等が自分を信じてくれていれば、思いはきっと何十倍にだって膨れ上がって、空を昇るはずだ。

 待って何て居られない……飛び立つ思いに乗って奇跡を掴む……それくらいやらなきゃダメなんだ!!


「雷放!!」


 支配からの解放で自分からやれる事はもうこれしかなかった。結局はあの華の時と同じ。でも……どんな痛みにも耐える意志がこの胸には灯ってる。


「無理よスオウ。だって君を縛ってるのは完全なる外側の力だもの。君の体の機能がおかしくなったわけじゃない。

 だからそれはただ痛いだけの無意味な行いよ」


 確かにそうかも知れない。柊はこれから僕が何をしようとしてるのかがわかってる様だ。雷放はセラ・シルフィング自身から雷を発生させて、それを用途用途で臨機応変に使える良いスキルだ。

 いろんな僕の意志をくみ取ってくれる。前は自身に刺したけど、今は体が動かない状態。だからもっと激しく強く、雷撃を放つ。

 僕に再び狙いを付けた羽が見える。だけどそれは一瞥して柊の方へ視線をむける。


「無意味でも何でも、受け取った思いがある限り僕は諦める事はしない! 出来る事があるのなら、どんなに苦しくても耐えてみせる。

 そして昇った空で、奇跡って奴を見つけてみせる!!  諦めない限り、離れていくこともきっと無いって思ってるからな!!」


 両腕の剣のスパークが激しさを増していく。そしてそれは腕を伝って体全体を覆っていく。本当に無駄なのかも知れない。だけどただ願うだけじゃ何も起きそうに無いんだよ。

 自分から進み出さなきゃ、この暗闇の出口には絶対にたどり着けないと悟ったさ。そして今の僕に出来る事はこれしかない。


 動かない体で願う以外に出来る事……それは僅かな可能性に賭けて自分自身を傷つける事。前の成功例もあるし、自分で出来てみんなに頼るだけじゃないやり方。

 もう僕にはこれしかない。感覚がどれだけリアルに近くなって様とも、この支配が解けるまで止めるつもりなんてない。

 雷撃が体中を激しく駆け回る。体中の細胞が焼ききれる様な痛みが襲う。


「うあああああああああああああああああ!!」


 叫ばずにはいられない。何かで気を紛らわせないと、そのまま意識が飛びそうだ。でも……これでも体の自由は戻らない。

 やっぱり、柊が言ったとおりなのか? 体事態を内側から操ってる訳じゃない……外側からの無理な干渉……だから内側を焼くようなこの行為は本当に無意味なのか。


(だ……けど……これしか出来ないんだ!!)


 だから何が何でも止める訳にはいかない。だけど柊にはそんなのどうでも良いこと。真上に陣取ったその羽は無情にも振り卸される。

 これが決まったらそれで終わる。それだけ僕の装備は薄くて、あの羽は強力だ。届かせる訳には絶対にいかない。ここでやられる位なら、自分のこの体を焼ききる方がまだましだ!! 

 HPは減らないんだからな。


 僕は雷撃を受けるなか、それでも大きく口を開ける。伝える言葉は柊や仲間達へじゃない。その言葉が向かう先は自身の両腕にある流星の剣だ。


「シルフィング! 遠慮なんていらない! 届かせない為だ! 僕の全てを焼き付くせ!!」


 その瞬間、刀身の流星が流れた気がした。そして放たれた雷撃はこれまでの比じゃない衝撃だ。体の全部が、本当に燃やし尽くされる様な感覚。

 意識を保つ事が苦痛で仕方ない。


「がぁああがががぁぁあががぁがぁあががががぁぁあ!!」


 口から漏れる断末魔の叫び。だけど、どうやら翼は僕の体まで届いてない。全身から放たれる凄まじい雷撃が羽の進行を阻んでる。


「スオウ! 無茶だよ! そのままじゃショック死しちゃうよ!!」


 どこからかそんな声が聞こえてきた。でも止められない。この苦しみを拒んだら、すぐ後悔が襲ってくるのは目に見えてるんだ。

 その死神の様な女がそこに居るよ。だから何を言われようと止められない。


(死なないさ……)


 そう伝えたいけど、そんな余裕は全くない。次第に感覚がこの雷撃に溶けて行くみたいに感じてた。この苦しみはきっと罰だよ。

 一度伸ばされた筈の手を払った罰。セツリは信じてくれてたのに……僕が信じれなかった罰なんだ。けどもう迷わない、もう裏切らないと決めたから……だから、こんな痛みに負けるわけに行かない。

 そう、あの時……セツリにさよならを言われたあの時の痛みに比べたら……こんなの。


「それだけの力、幾ら何でも痛みをダイレクトに受ける君じゃ耐えれる物じゃない。今この瞬間も浸透率は上がってるのよ。

 間違いなく、死ぬわよ。でも優しい私は自殺になんかしてやらないわ。その意志に敬意を表して、今すぐ楽にしてあげる!!」


 雷撃にかかる圧力が増した。氷の翼に雷撃が飲み込まれて行っている。このままじゃ真っ二つ。遠くでみんなの叫ぶ声が聞こえてた。

 そして限界が近づいてるのか、僕の体の感覚はおかしくなってた。痛みが遠のいて……意識がやけにはっきりしてくる。翼の羽の数まで数えられそうな程だ。


 本当に不思議な感覚……でもこれは……その時、雷撃を越えて僕の頭上に翼が舞い落ちる。吹き荒れる衝撃が周囲を満たす。

 だけどそんな中にあるのは、残留の様な雷撃だけ。そして僕は……


「スオウ……なの?」

「それはどういう事なのかな?」


 リルレットや柊の視線は今の場所より外れてて、震える声を発してる。どうやら僕は“そこ”に居るらしい。

 もしかしたら今、僕は奇跡を掴んでる。

 第百三十六話です。

 イクシードも使えないスオウの最後の手段……捨て身の行いで手に入った力は一体何だったのかは次回のお楽しみです。まあこれで勝てるのかは正直分かりませんが……諦めない心が僅かな光をくれたでしょう。

 LROは心を汲み取る……それの証明なのかも知れません。

 てな訳で次回は火曜日に上げます。ではでは。

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