誓いの指輪
過去に出会って、あの頃の時間が過ぎて行く。何度繰り返さないと願った時間は、何も変わらずただただ、通り過ぎただけ。けどそれは当然だ。だってこれは過去で有り、想い出。
変わる事の無いあの頃……だけど決して目を逸らしては駄目なんだ。どんなに思い通りに行かなくても、変わらない想いのリングが繋げてくれる筈だから。
「バッカ野郎!!」
俺は大きな野望を堂々と宣言したガイエンに突っ込んだ。
(止めなければいけない。こいつの考えは危険だ)
そう思った。LROという自由の庭で、語りだした夢……それが止まらなく成ったような果てのない夢だ。俺の想像を遙かに越える事をこいつは考えた。
てか俺程度じゃそんな考え、持ちようもない事。でも少しだけ、ほんの少しだけだけど、俺はガイエンを羨ましいと思ったかも知れなかった。
こんなに果ての無い夢をこれだけ堂々と語れるなんて、今の俺が忘れてしまったことだ。この頃見上げる空は遙か遠くに感じて、夢を見る翼を開く術を俺は忘れてる。
時々思うんだ。何やってんだろうって。俺はこんな重荷を背負おう為にここに来てるのか? ってさ。最初は頼られる事、強い力を与えられた事が誇らしかった。
でも気付くと、それには責任も同時について来てたんだ。段々遠くなる自由。それは俺のここの夢を奪う事。ゲームってだけで割り切れなくなった世界。
いや、俺はゲームをやりにきてた筈なのに……本当にもう、重く成りすぎた。
俺はガイエンの武器と強烈に自身の大剣をぶつける。幾らガイエンのあの長剣がヤバい代物だとしても、武器を通して浸食される事は無い。
武器同士の対決なら俺が負ける事はあり得ない。だってナイト・オブ・ウォーカーだからな。だけどガイエンはまだ笑ってる。
「お前に理解されようなど思わんさアギト!! だがな止められはしないぞ。私の歩みはな!!」
「ふざけんな! お前のその夢の先に、どれだけの人が迷惑するんだよ!! そんな事、させる訳にはいかない! 言っとくけど、これはエルフ同士とか立場とかで言ってるんじゃない。一プレイヤーとしてふざけんなって言ってんだ!」
俺は更に力を込めて、ガイエンを弾いた。でもそこで終わるわけない。そこから更に大剣をふり被って追い打ちをかける。
だけどやっぱり、ガイエンは追いつめられた感なんか出さない。自慢の長剣を使って何とかかわすだけなのに、奴は笑いながらこう言うんだ。
「ふははは、はははは!! 一プレイヤーだと? まだそんな事を言ってるのかアギト。その力にどれだけの願いがのっかってるのにも気付いてるくせに。
そんなに苦しいんなら捨ててしまえ。安心しろよアギト。アイリは私の傍らに置いといてやる」
「――っつ!?」
どうしてだ。何でこっちが押してるのにきついんだ? 侵略戦の時と同じ……体が重い。ガイエンの言葉がそれを余計に感じさせた。
アイリを助ける。その気持ちで毒を忘れた筈なのに、他の事がせり上がって来やがった。けどこればっかりは、そんな簡単に捨てる事なんて出来ないものなんだ。
「何だ? 言い返す事も出来なく成ってるのかアギト? 信頼してくれた仲間も結局守れなかったしな。それを考えれば、私にアイリは任せた方が得策だ。
一国の主より、神の伴侶の方が博がつくと思うだろう?」
「お前……何でそこまでアイリを求める? アイツの性格分かってるだろうが。アイリはそんな物、軽く弾き返すに決まってる!」
俺は重い体に鞭打って、ガイエンの武器を再び押し切る。その瞬間、耳にピキっと言う音が届いた気がした。それはきっと……
「惚れてるから。それだけじゃいけないかアギト」
その瞬間、俺は剣線を止めてしまった。だって余りにも似合わない事をこいつが言うから頭が混乱してる。てか耳を疑う。
いや、それを疑った事はあるけど、まさかこのタイミングでカミングアウトするなんて……でも余計にそれなら、こんなやり方ダメだろ。
だってそれって……
「お前、その言葉が本当なら、惚れた相手まで利用してるって事だぞ! そんな事が出来るものなのかよ!?」
「青いなアギト。やっぱりお前はまだまだガキだ。言ったはずだ。私は大人らしく、使える物は全て使うとな。
例えそれがアイリでも、それはそれと割り切れるのが大人と言う生き物なのだよ」
目の前でのうのうとそんな事を語るガイエンにえらく腹が立ってきた。子供の俺達は学校に縛られてない『大人』に早く成りたいとか思う事もあるけど、今この瞬間こういう大人はイヤだと思った。
子供の俺には分からない感覚だ。だって大切な人を利用するなんて……てかそれってそもそも、本当に大切なのか疑問だ。
「そんな考え……なあガイエン。お前にとって仲間って何なんだ? レイアードの事も駒って言ってたよな。俺達もそんな駒の一つなのか?
いや、俺はいい。仲間って俺もお前の事をそう思えたのは今日が初めてだし。だけど惚れたと言ったアイリさえそうなら……お前にとって大切な物って何なんだよ!」
するとガイエンは一度目を閉じて、そして数秒後位に再び目を開けた。ほんの僅かな時間に、自身の答えを見つけだして来たのだろうか。
「大切? 仲間? そんな物ここにはありはしないさ。ゲームと言う名の偽りだろう――」
「お前! 本気で!」
「――と以前の私は言っていた。だがなこの感情はごまかしは利かない様なんだ。お前が憎いと思うこの感情はな。それに私は自分でも驚くほど、アルテミナスに執着してるしな。
それに存外、お前達と出会った日々は悪くなかった。いつしかアイリには心と言う物を持っていかれた訳だしな。だから偽りとだけ思う様にしてたのは辞めたさ。
お前が当たり前の様に使うこの力……それを見る度に、私はそれを再確認してるのだから!」
その瞬間、ガイエンが今までで一番切れよく剣を振った。ぶつかり合う互いの武器。だけどガイエンが出したのは武器だけじゃなかった。
弾き合った武器をよそ目に、鋭く入ったのは奴の蹴り。それがわき腹にめり込んだ。
「なあアギト! 今日の今日まで、何故にお前かと思わない日は無かったぞ!!」
そして強引に振り切られる奴の蹴り。俺はそれなりのダメージを心に負っていた。別に外傷はそうでもない。元々生身の攻撃なんて、武器に比べれば軽い。
でも、そんな事思ってたのか……いや、思うよな。それまで三人でやって来てたのに、大切な力を何の相談も無くだから……それに、お互いが掛け合った指輪。
それを見て、ガイエンがどう思ったかなんて、実際考えたくない。裏切られたと感じてもおかしくは無いかも。
「だから俺を目の敵にしてんのかよ! だから追いつめる様な事をしたのか!? どこまでがお前なんだ! お前、俺の事どう思ってる!!」
何かちょっとプッチン来たぞ。いや、ガイエンがそれだけ感情を出すから、俺もこうなった。てか、謝る言葉もみつからなかった。
だって俺の苦しみだってなぁ、大変何だよ!
俺達は再三に渡り、武器をぶつけ合った。緑の臭気を纏う長剣と最強の騎士の剣のぶつかり合いは、この時決着が付いた。
何故なら、ガイエンの長剣の方が耐えきれずに砕けたからだ。さっき聞こえたピキって音は、限界を伝える音だった様だ。
「はは、やはり憎むべき強大さだな。どこまで? それはどこからの話だ? まあだが取りあえず、私はグラウドと繋がり、裏でレイアードを操ってた。
あの侵略戦の大雨。あれは実は私の努力の賜だ。そしてお前の事は、言うまでもなく大嫌いだよアギト!!」
あれもこれもそれも……全部こいつの策略。さっきの侵略戦でさえそうなのかよ。初めてガイエンを、隣くらいに感じたのに……あの時の気遣う様な言葉も厳しい言葉も、全部はまやかしか。
俺もガイエンと同じように憎しみが真っ先に立つと思ってた。だけどそうじゃないみたいだ。紡がれる言葉を、今になっても俺は信じたくなかった。
俺は自分が思うよりもずっと前から、実はガイエンを仲間と見てたのかも知れない。だから悲しい。本当にビックリする程にさ。
「そうか……俺は今になって思う。俺とお前はどこかで似てたのかも知れないって。だから……違った道がこんなに悲しい。
でもやっぱりこの苦しみの分は、俺も憎いんだよ! どうにか成らなかったのかよ!! なあガイエン!!」
「今更何を!! それにどうにかしたいのなら、私を今ここで止めて見せろアギト!!」
「ううぅうあうあああああああああああ!!」
ガイエンには防御なんてもう出来ない。きっとこれで終わるんだろう。そうしたら、何かが変わるのだろうか? 何だかもう、訳が分からなくて振り卸してる感がある。
ガイエンを打った斬って、アイリを救い出す。それに間違いなんてきっとない。それからどうなるんだろう。それを考えたとき、浮かんだのは無数の腕。
それが俺を掴んで放さない。地の底にまで引きずられて行くようなイメージ。その瞬間、熱せられた空気だけがガイエンの頭上に注いだ。
呆然とする俺の腕の先で、大剣の光は失われていく。
「やはり、お前には荷が重いか。グラウド、そろそろ頃合いだ。アギトとの戦いはお前に譲ろう」
「ええ、それは有り難き幸せ!!」
バシュン! そんな音が耳の遠くで聞こえてた。だけど次の瞬間、爆発的な勢いで俺の体は吹き飛んだ。視界が三百六十度回転して、心と体が引き剥がされたかと思うほどの感覚。
自分はまだあの場所に武器を向けて立ってた筈なのに、気づくと瓦礫の下に埋もれてる。ついでに全身が痺れる様に痛い。
変な音が聞こえてる。機会が回転してる様な、耳障りな音だ。
「アギト、この結果はお前の弱さだ。敵を敵と認められない弱さ。戦場では迷うなと教えた筈だぞ。それと敵に情けなど不要!!
体を持って教え直してやろう!! さあ、全身で受け止めろ!!」
その瞬間、目の前が真っ白になった。おかしな事だ。窓からの明かりも無く、光源は床に書かれた魔法陣で決して明るいとは言えない筈の部屋だったのに……今は見渡す限り白が広がってる。
いや違うのか。見える物が全部真っ白なのかも知れない。
「うわっはっはぁぁ!!」
そんな叫び声みたいな声が遠くから聞こえたと思った瞬間。懐に延びてきた腕と回転する槍が、俺の体を貫いた。
「ぐっ!? あぁぁぁぁあぁあああぁあああ!!」
強烈な感覚が全身を抉る様に駆け回る。気がつくと、世界に色が戻ってた。突き刺さるガイエンの槍に命が削り取られていってる。
「アギト、お前ももっと欲望に忠実になれ。私が憎いだろう、許せないだろう? 何も考えずに向かって来いよ。前のお前はそうだっただろう。
そこのグラウドと対した時もな。一つ一つ、お前達は私に絡め取られて行ったんだ。お前は力があろうと無かろうと、何も守れやしないんだ。
私が全て奪うんだから。そう……全て」
霞む視界の先で、ガイエンのそんな言葉がグラウドの攻撃にかき消されずに届いてた。そして奴はある場所へ向かう。それはこの部屋の中央で堅く目を閉じて眠ってるアイリの方向。
(何……する気だ? やめろ……)
そんなことを思いながらも声には成らない。けど目を逸らす事も出来なかった。ガイエンはアイリの腰に腕を回して、抱き抱える。
そしてその寝顔を見つめながらこう言った。
「全く、罪作りな女だな」
顔を徐々に近づけていくガイエン。何をしようとしてるのかは明白だ。俺は必死に声の出し方を探した。口を動かして、声帯を動かして、そして肺をおもいっきり使え。
「やめろ……やめろ……やめろおおおおおおおお!!」
そんな叫びがこの部屋中に反響する。その時、唇と唇が残り数ミリの位置で、ガイエンは俺を一瞥してその口の端をつり上げた。
そして両腕で支えられたアイリと、ついには唇が重なった。それは目を逸らしたくても反らせない光景だった。アイリの唇が目の前で奪われてる。
その事実を認めたくないのに、視覚はそれをダイレクトかつ最優先で伝えてきてた。濃厚なガイエンのキス。抵抗なんて出来ないアイリ。
奪われていくアイリの姿は、俺の心に最大級の憤りを与えて行くような感覚。幾ら歯を食いしばっても、リアルなら血が滴るほどに拳を握り閉めても全然足りない。
あの日の誓いも、願いも、こんな事に成るためにした訳じゃないのに。
『わあ、素敵!! ねぇねぇこれってもしかして、あのイベントの? オーダーメイドだよね?』
大海の星空の下で、更に星を増やした様な瞳を輝かせて、アイリは俺の渡した指輪を眺めてる。俺はそんなアイリの言葉に、照れ隠しの為にそっぽを向いてぶっきらぼうに『ああ』と答えた。
するといつの間にか、あんなに興奮してたアイリの声が聞こえなく成ってるのに気づいた。俺はどうしたのかとアイリの方へ振り返る。
するとそれを待ってましたと言わんばかりに、アイリは顔を赤くしながらも笑顔でズイッと迫ってきた。そして衝撃の言葉を発する。
『プロポーズの言葉は無いのかな?』
『ぶっ!! はあ!?』
その言葉に俺はきっと人生で一番動揺したと思う。変な腕の動きとかやってたし、てかそこまで考えてなんかいなかった。
でも真っ直ぐに見つめるアイリを見てると、何かを言わなくちゃみたいな感じになる。その瞳は何だか真剣だったし、もしかしてコレって……と浅はかな子供は思ってしまう。
だからメッチャテンパって俺は、星と同じくらい輝くアイリの瞳を見つめて口を開けた。
『け……けけけ……けけ』
言葉が上手く出てこない。てか俺は何を言おうとしてるのか、実際俺はわかってない。でも勢いってこういう状態を指すんだって事は、きっと理解してた。
『ぷっ……あははは! 可愛いねアギト。やっぱりリアルは私より年下かな?』
人が必死に言葉を紡いでた途中で、そんな言葉が夜空に響いた。そしてアイリは一歩・二歩とステップする様に後ろへ下がって笑顔を作った。
でも俺は気づいたよ。アイリのその顔も、俺と同じくらいに火照ってるって。
『あ、アイリ!』
『ごめんね、ズルしちゃったよね。それにこれからきっと大変だし、まだいいの。ありがとうアギト。でもちょっとだけ、女の子の幸せの前借りして欲しいな』
そう言ってアイリは指輪を持った腕を僕に向ける。そしてアイリは左手を翳して見せている。
『先約、今なら出来るよアギト』
その言葉と雰囲気で俺は察した。それって……つまり……俺はアイリに近づいて、差し出されてた指輪を手に取った。
そしてアイリの白魚の様な左手に自身の手を添えた。その時、夜の風が吹き抜ける。風は点々としてた夜天の雲を移動させてくれる。
そして出てくるのは夜空に輝く黄金の光だ。
『俺は……先約だけじゃ終わらないから。全部が終わったら、もう一度……』
『うん。誓ってねアギト。私達はこれからも――』
『どこまでも……』
口ずさむ言葉と共に、俺はアイリの指に指輪を通していく。そして最後の間接を通って根本でその輝きを定着させたとき、同時に二人で誓い合う様に口ずさむ。
『『……共に』』
キラリとその瞬間光った気がした指輪。無数の星星が見守る空の下、俺達は堅い誓いを約束した。お互いになんか照れくさい感覚で、繋いだ手の感触にドギドキするしか出来なかった。
でも……心はもっとぴったり寄り添ってる。そんな気がしてた。
カンッ! っとそんな音が俺を今の場所に引き戻す。懐かしい記憶……忘れちゃ成らない、二人の誓い。
「あっ……」
だけど今この瞬間、それは脆く崩れてしまってた。全ては俺のせいで……俺が弱く、迷うからだ。誓い合った筈の証さえ、その効果切れた様に、アイリの指から抜け落ちて……地面を空しく転がった。
ギリ――と歯を食い締める。でもそれじゃ苦しくて、やっぱり息を吐くけど、肺が喉から飛び出そうな程、息が速く重く成ってた。
変な汗が出てきて、目の前が……赤く見え出す。離れない音が……さっきの指輪が落ちる音が、ずっと頭を巡ってた。
「後一息だな! なあアギト、お前はあの時繋がりとか思いで俺に勝つと言ったな。笑わせる! 笑わせる! 笑わせるわ!!
お前との繋がりを! 弱い貴様との繋がりを一体誰が求めてる!? 何一つ、残った物などお前には無い!!」
グラウドのそんな叫びが、俺の何かを大きく揺らした。そしてきっとそれがきっかけだ。最後の理性を決壊させるきっかけ。
全身に落ちてきた黒い物。大きく体を脈打たせるそれは、三回体を振るわせてはじき出す。
「が……ああああぁああぁぁぁぁぁあああぁぁあ!!!」
俺は叫んだ。喉が焼ききれるんじゃないかと思うほどに。そして同時に大剣をただ降り卸した。だけどその威力は、自分のこれまでのどんな状態より強力だ。
ただ目一杯の力で降り卸しただけ……その瞬間、床が砕けて城の明るい光が目に入ってきた。落ちていく俺とグラウド。
その周りには無数の破片も混ざってる。
「ふはははは!! まさかこれ程とはな! 面白い! 力比べと行くかアギト!!」
そう言ってグラウドは瓦礫を蹴って一気にこちらに向かってくる。けれどそんなの付き合う気なんてないんだよ。
「お前の……誰の……せいだぁあああああ!!」
「なあ!? ぬおおおおおおおお!!」
大音響と共に城の外壁が一瞬で崩れさる。力がどこまでも溢れてくる感覚だった。でも苦しくて仕方ない。吐き出さないとやってられない!!
「うがああああああああああああ!!」
アルテミナス城が内側から崩れていく。そして持たなく成ったのか、あの部屋からガイエン達も落ちてきた。
「ガイ……エン」
「暴走……か。八つ当たりは見苦しいぞアギト」
「おまっえが!! お前が居るからああああ!!」
振り被った剣線が城のあらゆる物を巻き込んで破壊する。そしてその先にはガイエンがいる。そうガイエンと抱えられたアイリが。
でも、俺にはそれは見えて無かった。苦しみが怒りが、その相手しか写さない。だから気付かなかったんだ。この城に向かう大量の足音の存在に。
「ガイエン!! お前だけはぁあああああ!!」
追いつめたガイエンに最後の一撃を入れようとしたその時だった。城の周りに騒ぎを聞きつけた人達が駆けつけて居た。
そして誰かが叫んだんだ。
「ガイエン様!! おいみんな、アギト様が乱心してるぞ! 止めるんだ!!」
その瞬間、向かいくるは軍の連中だ。
「やめてくださいアギト様!!」「心静めてください!!」「お二人とも必要なのです!!」
そんな互いを思う言葉が耳に届く。だけど……全てがうざったいと思った。こいつらが、LROを重くする。それに最初に声を上げた奴には見覚えがある。あれはレイアード。
つまりはガイエンの……
「邪魔……するなぁあああああああ……あ……」
吹き飛ばそうと思った。立場とかどうでもいいから。でもその時、頭上から振ってくる一つのリング。それが俺を止めて、丁度その時アイリが目を覚ました。
そして僕達二人を見て、屈託の無い笑顔で言うんだ。
「ありがとう。二人は絶対に来てくれるって信じてた」
その瞬間、剣と盾が消えていく。だって無理だろ。アイリの目の前でガイエンを討てしない。結局ここも、俺は上手く踊らされた訳だ。
悔しく情けなかった。奴の目的もわかったのに、でも俺は立ち向かうのをやめる事を選ぶ。最低限の役目――最後の侵略戦の果てにアルテミナスを元の姿に戻した後、俺はその帰路の間に姿を消した。
アイリの机の上に、ただ一つの誓いのリングを残して。その日は奇しくも、雲一つ無い快晴だった。きっとこの空の向こうでは歓喜に沸く国があるだろう。
そんな楽しさの中、彼女は果たして気付いてくれるだろうか。指輪を残したその意味を。
第百二十九話です。
遂に過去編終了です。長かった。まさかここまでに成るとは。でもこれだけしたから、次からのバトルにはより重みは加わるかな。過去を超えて今へ。
アギトはきっと二度も負けないと、間違えないと思います。ですのでお楽しみに。
てな訳で次回は火曜日に上げます。ではまた!