裏切りの剣
舞い戻って来たアルテミナス。俺とガイエンは一足先に城を目指す。そこはいつもと違う印象を受ける様になってた。何かがあった……もしくは起きてる、それを感じさせる雰囲気だ。
アイリが居ると思われる場所へ行く途中に見つけたのは傷ついたセラ。そしてそこから更に奥に行ったところで、この物語の歯車がきしみだす。
からくも勝利をもぎ取って戻ってきたアルテミナスは別段、変わりなく見えた。別に街としては何が起きたわけでもなさそうに見える。
けど胸騒ぎが俺にはしてた。それにやっぱり城を見ないとだ。一般の普通の人達は城までそうそう入らないから、あそこで何が起こっても気付かないかも知れないし、だから俺は労をねぎらいあう兵士達の輪を離れて城への道を急いだ。
時刻は夕刻。あの豪雨の中から戻った俺には、それでも暖かく感じるほどの色合いを持った光が周りを照らしてる。
「それにしても……」
こうやって改めて見るとやっぱりあの城はなかなか変な色合いしてると思う。何で城の中付近から白と黒とで分かれてるんだ?
まあ、今はそんな事どうでもいいんだけど。アイリが王家クエストをやっていけばそれもきっと理由がわかるんだろうし……けど、その時まで俺はここに、いや、アイリと共にいるのか……
城の前の広間を抜けて城門へ入ると、明らかに「おかしい」そう思えた。
「静かだな。それにいやな臭いがする」
いつもなら城の中も外ももっと賑やかだ。けど今はどうだ? そんなうるささ微塵もない。
鬱陶しかった筈だけど、これだけ静かだと物足りなく感じる物だ。けど、本当に何があったって言うんだ? ここは町中、戦闘行為は行えない筈だ。
それこそ決闘とかしか……とにかく城の中へ。そう思ったとき、後ろから声がした。
「おい! 待てアギト」
「ガイエン」
追いついて来たのはガイエン一人。こいつが周りの腰巾着共を離すなんて珍しいことだ。それだけこいつも急いでたって事だろうか?
やっぱ良い奴に見えるな。不思議な事に。
「何だよ、止めても無駄だぞ。城が静か過ぎる。何かあったのは間違いない」
「そんなの貴様に言われるまでも無くわかってる。だからこそ一人で行くなと言ってるんだ。二人で何があったか確認するぞ」
それもまた、ガイエンが言ったとは思えない言葉。俺からすればだけど。けど今日だけで移り変わったガイエンの印象からすれば、アリだな。
だから俺はポカンとした顔を笑顔に変えてこう言った。
「ああ、そうこなくっちゃ」
扉を一枚隔てて、そこは戦場と化していた。重苦しいドアを開けて入った城の中はまさに戦闘の跡がまざまざと残ってる。
「何だこれ? いや、どうしてこんな事になってんだ?」
だってこれは……明らかに決闘でもない。普通にフィードでのバトルっぽいぞ。ここはアルテミナスで一番厳格な場所の筈なのに、何でこんな事が起こってるか理解できない。
「バトルフィールド化……してるようだな」
そう言ったガイエンは自身の武器を手にとって、その場でスキルを纏わせてた。
「バトルフィールド化? そんな事出来るのかよ?」
「ある特殊なアイテムで可能だ。一定のエリアを囲む様に配置するタイプだから、多分この城の周りに設置してあるんだろう」
ガイエンはスキルが発動する事を確認すると、剣を鞘へと戻す。てかまさかそんなアイテムがあるなんてな。流石LRO、知らないアイテムはまだ五万とあるんだろう。
「でも、どいつが城に攻め様なんて考える? 幾ら侵略戦でいつもより手薄なってるって言ったって、仮にもここはアルテミナスの中心だぞ。
そうやすやすと落ちるはずが……」
「だが、現にこの有様だ。それにお前は心当たりあるんじゃないか? これをやった奴に」
「そう言うお前こそ、思う奴がいそうじゃないか」
「まあな」
ガイエンが考えてる奴と俺が考えてる奴はきっと同じだと思う。だって今のアルテミナスでこんな事をする奴なんて限られてる――って言うか奴らしか思い浮かばない位だ。
どっかの種族が行動を起こしたって訳でも無いだろうし、流石にそれじゃ町中でも騒ぎになるだろうからな。他の種族は今の情勢の中じゃ目立つし、それが城を襲う為の物々しい輩なら更にだ。
でも町中は至って普通だった。この状況を誰も知ってはいない。目立たぬ行動ができるのは同じエルフだからだろ。そしてアイリを慕う国中の民の中で、こんな事をする奴はアイツだ。
そう……
「「グラウド」」
俺たちの言葉が重なった。やっぱりピッタシ同じ奴だったな。いつもならこんな気色悪い事ごめんだが、今日は何だか許せる気分。
「だよな。アイツなら厄介だろ。俺達だけで良いのか? 軍は居るんだし、周りを固めるぐらいさせとかなくて良いのか参謀?」
「お前にしては珍しい事を言うなアギト。俺達三人とって因縁の相手だ。お前の事だから余計な邪魔はいらないと思うと思ってたがな。
自分の手でアイリは助けたいだろう」
「そんなの……当たり前だ。けど……」
ガイエンの言うことは、少し前の俺ならまさにその通りだと思う。俺達がきっちりケジメを付けなければいけない事。だから余計な横やりなんて必要ない……けど、そんな事を言ってる場合かよ。
アイリはもう、俺達だけのアイリじゃない。このアルテミナスの頂点何だ。もしもの事があったら大変だろ。それに俺達は、三人がかりでもアイツには勝ってない。
「自信がないか?」
「――っつ!?」
ザクリと心の内を言い当てられた。いや、でもちょっと違うのかも知れない。自信がないと言うか、怖いって言うか……それじゃダメだと分かってるのに、俺は弱くなってる事を実感してる。
「なら全部投げ出せばいい。私にその力を明け渡せ。そしたら誰もお前に期待なんてしなくなる。その代わりに居場所も無くすことになるがな」
ガイエンの野郎は全然丸くなんかなってないな。何だか良い人キャラに成ろうとしてると思ったが、別にそうじゃないんだな。言うことは相変わらず的確でムカつく。
俺がここに入れるのは、アイリがこの力をくれたから……そう言うことかよ。まあ否定は出来ないがな。この力が無くて、戦闘以外で、俺に何が出来るか……きっと何も出来ないからな。
でも今の俺は、その戦闘でもどうなんだろうって感じ。特に今回の侵略戦はそうだった。アイリなら笑って許してくれるだろうし、そもそも責めたりもしないと思うが、自分でこれで良いとは思えない。
戦闘の跡が垣間見える場内を横目に、俺達はある場所へ向かってた。前を走るガイエンはさっきの言葉を本気で言ったのだろうか?
こいつの場合は冗談を言うタイプでもないけど……
「居場所か、何か随分重く感じるんだけどな。てかガイエンお前、こんな力まで求めて、どうするんだよ。十分お前やってるだろ」
俺の何気ないそんな言葉にガイエンは振り向かずに短く返した。
「まさか……」
とそれだけ。首を振る動作を加えてたから、まだまだ全然みたいな意味が込められてたのか? でも、もう完全にその地位を確率してるガイエンが何でそこまで? って感じだ。
「ならお前、何をしたいんだよ本当は」
そうなるよな。ずっと曖昧だったこいつの目的。今日という少し距離が近づいた日に聞いてみるのも悪く無い、そう思った。
前ならそんなの興味も無かったけどな。てかよく考えたら、誰かを間に入れずに二人で走るなんて寒気がする行為だ。
何だか仲良く見えるじゃないか。まあだけど今はここには誰もいない。俺は追いつくようにガイエンの隣へ追いつく。
するとそんな俺を横目で一瞥したガイエンは口を開く。
でもそれはよく分からない言葉だった。
「直ぐに分かるさ」
ただそれだけ。いつもはムカつく事をベラベラ喋る癖に、自分の事となると途端にこれだ。何こいつ、自分を語らない格好良さでも目指してるのか?
「なんだそれ? 意味わからん」
「だから直ぐにこの言葉の意味も、私の目的も知ることになる。その時お前がどうするか、見物だな」
「はあぁ?」
やっぱり良く分からない奴だなガイエンは。直ぐに分かるのなら今話せば良いじゃん。どんだけ勿体付ける気だ。
「それよりお前はどうなんだ? どうせなら、ここでその力、明け渡してくれても良いぞ。それだと色々楽だからな」
そんな事を気楽に言うガイエン。色々楽とか、やっぱり謎だ。俺は自分の手のひらを見つめた。この手にある力……それを明け渡す?
「ダメだ。そんな事出来ない。少なくとも今は……」
「もういや何じゃ無いのか? 全てを任せても別にいいんだぞ。腐れ縁だとしても、ここまで共に来た仲だろう」
「ガイエン、お前……本当に何か変わったな」
まさかそんな事言われるとは思わなかった。だってこいつとは世界が明日で終わると決まっても友達には成れないんだろうなって思ってたから。
お互いそんな感じでしか接する事しか出来なかった。けど今、それらを吹き飛ばす様な事をガイエンは言った。言ったよな? あれ言ったっけ? 空耳……じゃない!!
だってガイエンは不自然に首曲げて、こっちを絶対に見ないようにしてる。でもそう思ってくれてた事が嬉しいじゃん。
それが仲違いばかりしてた奴となれば尚更だ。けどそれならなおのことだな。
「なら余計背負わせられねーよ。お前だって相当だろガイエン? これ以上、友と思ってくれてる奴に重責を肩代わりさせれるわけない。
だからもう少し気張るさ。それに三人でなら、どんな事だって乗り越えられる。そうだろ?」
「……ああ、そうだな」
俺の結構良い言葉に、ガイエンが返した言葉はそれだけ。それにちょっとぶっきらぼうな感じだった? 気のせいか……さっきの恥ずかしさをきっと引きずってるだけだ。
長い道のりを経て俺達がたどり着いたのは何の変哲もない小さな部屋。この城で一番狭いんじゃないかって位の場所だ。
窓もなく、正方形の部屋には一枚ずつ絵画が飾られてるだけの寂しい部屋。でもここから儀式場に通じる秘密の通路があるんだ。
一般には知られてないし、軍政府でもアイリに近い人達しか知らない場所。王家クエストで解放された場所の一つ。
グラウドの奴がここの存在まで知ってたかは分からないが、アイリに何か起こった以上、それはこの先で起きた筈だ。
俺達はこの部屋の条件を満たし、通路を出現させる。それは中央の床がズレる事で現れる。登ってきて悪いけど、今度は下へ行くことに成るんだ。
だけど通路が現れたとき、そこに誰か倒れてた。あの城内で似合ってるのか不釣り合いなのか分からないメイド服はまさか――
「セラ!?」
――駆け寄って抱えが上げると確かにセラだった。趣味だとか言ってメイド服を常に着用してるこのコスプレイヤーは確か、アイリの警護を任せてた筈だ。
セラはこんな成りでも結構強い。それにアイリとも心許せる仲……俺やガイエンとは出来ない話とかしてるし、言う成れば親友みたいな感じの奴だ。
「おい! 何があった? アイリはどうしたんだよ!」
俺はセラの肩を持ってガクガクと振るう。辛うじて残ってるHPだけど、どうやらステータス異常を食らってる。毒みたいな奴だ。
生憎俺達はそれを直すアイテムを持ち合わせちゃいない。
「セラ! 死ぬ前に情報はしっかり伝えろ!」
するとその時、想像を絶する事をセラはした。
「ぺっ」
てさ。弱ってても……いや、弱ってなくてもまさかそんな事するかって行為だ。しかも女の子が! 唾を吐くなんて、いや吐くだけならまだしも、まさか顔面にそれを向けるか?
俺なにしたの? するとそんな理由をセラは弱々しくも教えてくれる。
「耳元で……アイリ、アイリ……うるさい。ちょっとは、私の心配してください。もう一発……ひゅいまひゅよ」
最後の方がおかしな口調に成ってるのは、再びセラが胆を集めだしたから。それでも強引に喋るから訳分からなく成ったんだ。
まあ多分「もう一度やりますよ」的な事を言ってるんだろ。俺はその顔を強引に押さえつける。だって二度目は遠慮したい。
幾ら可愛い女の子でもさ、やられりゃ腹立つ行為ってのがあるぞ。それが的確に顔面を捕らえる吐き物だとしたら尚更だ。
「あーもう、わかった。悪かったよセラ。大丈夫か? 無事って訳でもなさそうだが、アイリはどうした? 何が一体あったんだ?」
もう流石にしつこいからな。俺は言い方を変えてみた。文面にはちゃんとセラを労る一文が添えられて、これでどうだ!
「ひゃいり様は……ぺっぺ」
ため込みすぎた胆を一端下に吐き出すセラ。う~ん、こういう所作とかが何か女としての何かを示してるよな。間違ってもアイリはしないし。
メイドと王の違いか? メイドとしてもどうかと思うが。でも取りあえず、胆を捨てたって事は教える気になってくれたって事だ。
ふう、難儀だった。
「アイリ様は下にまだ居るはず……でも何が起こったか正直よく分かりません。本当にあっと言う間だったから……ふがいないと認めるしか出来ません。
私の実力不足。城の中に残ってた警備兵達を打ち倒してここまで来るのに、きっと三分もかかって無い。そして私もこの有様……聞いてたよりもずっと強かったかもです」
「それって、やっぱりアイツか?」
俺は瀕死なセラに、酷なようだけど間髪入れずにそう聞いた。聞かずには居られない。するとセラは静かに首を縦に動かして続けた。
「はい、この城の有様……今回の襲撃……すべてはレイアードのグラウドの仕業です」
分かっていたこと。だけど改めて聞かされると、怒りとかがこみ上げる。そんな資格俺には無いのかもだけど、それでも……いつまでもそんな事やってんだって思える。
そろそろ認めろよ。この国が選んだのはお前じゃなくアイリだってさ。奴がやってるのは駄々こねてる餓鬼と同じ。
自分じゃなきゃそんなにイヤなのか。
「あの野郎……それでアイリは無事なのか?」
「アイリ様は、多分大丈夫。何か目的があるようだったし……」
更に弱々しくなるセラの声。目的か……それは今更動き出した事にも関係あるんだろうな。レイアードはそういえば侵略戦にもいたし、そこでグラウドの奴もきっと何か動いてる。
そう思ったけど、まさかこんな事だとはな。そんな時、後ろからガイエンの事が降ってきた。
「おいアギト。そろそろ休ませてやれ。彼女は良くやってくれたさ。お前の指示で護衛についてくれてたのだろう? 良い判断だ。私からも礼を言おう。君のおかげで少しでも事態の進行は遅く成ったはずだ」
「いえ……そんな……私は何も出来なかった役立たずだから」
ガイエンが外面全開でセラへ言った、お礼? けどセラはそんなガイエンを余り見ない様にでもして丁寧な言葉を紡いだ。
それは俺との間でやり遂げられる感じとはまた少し違う感じの言葉。そして急かすガイエンに誘われて、俺も行こうとしたとき、同じトーンでいきなりセラは耳元まで近寄ってきた。
「アギト様……気を付けて」
突然のセラのそんな大胆行動に赤面するも、視線が追いついたセラの顔は真剣だった。というか、きつい目で先を見据えるガイエンを睨んでる?
「セラ?」
「本当に……気を付けて……やっぱりどうしても……私はアイツを……」
そこでセラのHPが無惨にも消滅した。声は声に成らず、色を失って行くセラはもうただの屍だ。こいつは最後に何を言おうとしたんだろう。
「私はアイツを……」何だ? セラは前々からガイエンの事余り良く思ってなかったから、その事か? 最後の気を付けて……あれもまさか、グラウドにじゃなくガイエンに?
確かに前の俺ならセラと同じ気持ちだった。でも今はさ、ガイエンもちゃんとした仲間に思えてる。長かったけどさ、今回の侵略戦で踏み込まなかったところにまで踏み込んだって感じ?
だから俺は……
(セラの忠告はありがたいが、アイツは大丈夫だと今の俺は信じたい)
そう思った。確かに思い返せば怪しいところもある。特に侵略戦前の情報とか。『ガイエンとグラウドは通じてる』でも証拠は何も無い。
だからもう、押し込もう。ガイエンを疑う様な物は全部。分かったんだ。ガイエンもたださ、この国の為に本気何だって。
これからもきっとアイリを支え続けてくれる筈だ。そうでなければ、俺が困るしな。
「行くぞアギト。急いだ方がいい」
「ああ、そうだな」
グラウドの野郎が何する気かは知らないが、ここまでやるって事は相当。『追放』を受けたって文句は言えない所業だ。
それなら向こうもそれなりの覚悟と理由で今動いたんだろう。もう後手後手だが、それでも一刻も早くアイリを解放する。
俺はセラを床に置いて階段を進む。壁に掛かった松明の明かりだけで照らされた暗い道。そして階段の突き当たりには古びたドアがひょっこりと顔を出す。
この先が儀式場だ。俺はドアノブが無いそんな扉を上から下へ溝に沿って指を動かす。
するとその溝に光の筋が浮かび上がって行く手を開いた。それと同時に俺は中へ飛び込む。
「アイリ!!」
そんな叫びが二十畳位の空間に響きわたる。部屋の中央に配された、この国のシンボルに加工されたクリスタル。そして床一面には複雑怪奇な魔法陣がびっしりと刻まれた部屋。
そしてそんなクリスタルの側に、俺は二つの人影を確認する。一つはクリスタルに寄りかかる様に身を任せてて、もう一つはそんな彼女に何かをしてた。
けど俺の声が聞こえたんだろう、奴は勿体ぶりながら立ち上がり振り返る。
「ようやく来たか。意外と遅かったな」
「……お前、何やってる? いや、自分がやってる事理解してんのか? 今直ぐそいつから離れやがれ!!」
俺は直ぐに背中から槍を手にとって、グラウドへ向ける。何が「遅かったな」だ。俺達が来た以上、ここでチェックメイト何だよ。
「理解だと? そんなこと、俺がする必要が無いと言ったらどうだ? なあアギト、お前から見た俺がもしも黒幕にでも見えてるんだとしたら、言っておいてやる。
間違いだってな! がははははははは!」
「な……に?」
高笑いを始めたグラウド。俺には何がおかしいのかイマイチ分からなかった。いや、アイツだけが受ける話立ったのかも。
だけど気になることは幾らか言ってた。「理解する必要がない」それに「黒幕」……グラウドはまさか自分の行動の意味を分かっちゃいないってのか?
それは今回だけ? それとも今まで全て? グラウドの他に全てに糸を垂らして操ろうとしてる奴が居るって事か。それが黒幕。
グラウドの野郎は、そいつの言うことをヘコヘコ聞いてただけって事なのか? こいつが……まさかそんな……だって使われるのが何よりも不快に感じる奴だろ。
そんなグラウドを手足の様に使える奴。それはきっとこいつの強さも圧倒出来なきゃいけない筈だ。そんな奴が居たか?
一体誰? 不快で耳障りなグラウドの叫び声。それがこの部屋一杯に反響をしててどうにも苛つく。けどそんな中、ずっと俺の頭には浮かぶ名前があった。
辻褄はチグハグだけど、心がそう叫ぶって奴なのかさっきから浮かんでは俺はその名前を消している。だってそんな筈ないから。
「黒幕とかそんなのどうでもいい。人を使うしか出来ない臆病者ななんてな! 俺はただ、お前を倒してアイリを奪い返すだけだ!!」
俺は面倒な考えは捨てた。そしてスキルの光が俺を包む。両腕に現れる、剣と盾のシルエット。これならグラウドにも負けはしない。
だから俺は光を纏って進み出る――その時だ。
「アギト、だからお前は何も守れない」
「ガイ……エン?」
その瞬間、体を貫く冷ややかな感触が俺の動きを止める。視界に映るは自身の胸を貫いた長剣の刀身。更にその先でグラウドの腐った顔が笑みで満たされてた。
第百二十五話です。
ようやくというか、遂にかって感じのガイエン。次で過去編終わればいいけどどうだろう。でも頑張ります。これ以上長くしたくないし!
てな訳で次回は月曜日に上げます。ではでは。