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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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雨上がり、心曇り

 消え去った力は偉大だった。みんなの心の支えで、自信に繋がって、一歩を迷わず踏み込む勇気をくれてた筈の優しい力。だけど今それが姿を消した。まどう仲間達にガイエンが示したもう一つの力は俺と言う存在で、それはきつい事だったけど、「やるしかない」そう思って俺はやる。


 加護がその身から消えていた。そんな事あり得ない筈なのに……そのあり得ないが起こってる。一度掛けてしまえばその戦闘中は永続的な筈なのに、そんな加護がスズラ達との戦闘中に消えたんだ。

 そしてそれはどうやら俺たちだけじゃない。ガイエン達本隊からも加護は消えていた。何が起こったのか分からない。でもただ一つの可能性が考えられる。それはアイリ……あいつに何かあったって事。


 俺たちに加護を届ける為に城に止まってくれてる間に、何かが……だってこんな事は今まで無かったんだ。加護の大きさを分かってるアイリだ。仮にもこの侵略中に落ちたなんてあり得ない。

 じゃあ何が? 俺たちに知る術はない。




「ガイエン……ウンディーネ共が。それにこれって……」


 俺はザワザワとなってる中で静かに自信の手のひらを見つめるガイエンに声をかける。周りの誰にも反応しなかったガイエン。だけど俺を見つめて一言こう言った。


「分かってる」


 それを言われた直後、俺たちはそれなりに分かり会えてる――そう思った。そして直ぐに混乱する周囲を抑え始めるガイエン。

 加護はみんなに自信と勇気と安心をくれてた力だ。それが突然消えたのは、軍を混乱させるには十分な出来事。でもガイエンは的確にそんな空気をその言葉の中に納めていく。


 この豪雨で加護を受けても劣勢だった状況。そんな中ようやく掴み掛けた勝利だった。けど加護の消失でそんな勢いまで無くしてしまうかも知れなかった。

 気持ちで負ける……そんな感じ。だけどそれを上手く回避した。最後の最後に俺を使って。


「皆、案ずるな! 加護が消えて不安なのも分かるが、ここまで勝ってきたのはそれだけか? そんな分けない! 私達全員がこの国の為に! 

 それを胸に抱いてたからだ。それさえあれば私達は決して負けない。責任を感じるであろうあの方に『問題ない』と言える強さを見せるんだ。

 それに私達の最強の剣はまだ健在だ!」


 俺の注がれる視線を周りいっぱいから感じた。ガイエンもコクリと頷いてる。けど俺はさっき感じたばかりだ。自分のふがいなさを。

 慕ってくれてた部隊の仲間……俺は誰一人守れもせずに生き延びた。それはとても空しい事だった。でもここでこの視線を全部裏切れるかって俺はガイエンに言われてる。


 そしてそんなの出来るわけ無い。あいつ等は俺に生きて勝つことを願ってた。ならのうのうと生き残った俺は勝たなきゃ……勝利を掴まなきゃ本当に何も出来ない奴になってしまう。

 俺は拳に力を入れて、雨降る天を切り割いた。すると雨雲までも切り割いて降り注ぐはスポットライトの様な光だ。

 すると一瞬静まり帰った周囲……だけど直ぐに地鳴りの様な雄叫びが沸き上がった。


「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 けどそんな息上がる周囲の熱を、俺は重く感じてた。だってこの叫びは、その分だけ俺への期待とかだろ。今までなら、それを嬉しくも感じれた。

 だけど今は……


「良い演出だったぞアギト」


 そんな事を傍に来て言うガイエン。演出か……確かにそうだろう。こんなのは演出だ。でも俺に力があるのは事実で、それがこんな状況の為でもあるのは確か。


 それを「力はあるけど、俺が使ったら弱いんだ」なんて言うのは許されないだろ。俺は『倒れられない』事を義務づけられてるみたいだった。

「俺は勝つ。前線で行くぞ。文句はないよな? 奴らは全員先滅だ」

 それがきっと俺がやらなければいけない事。俺はそれをガイエンに伝える。


「当然。加護が無い今、お前を全面に押し出して生き残り共を追いつめる。先滅するもまあいいさ。こっちはその間にシンボルを探す」


 ガイエンはすれ違い様にそう言う。そして一言付け加えた。


「きつそうだな」


 それは意外な言葉。何を看破されてるかなんて、こいつとの場合考えたくもない。だけど結構弱気になってた俺はついつい言葉を漏らす。背中越しのガイエンに向かってさ。


「お前は……お前はきつくないのかよ? お前が言う責任って奴がさ」

「それはお前と私との覚悟の違いだ。それと目指してる場所の違い。お前は何でそこにいるんだ? 明確に答えてみろ」

「それは……」


 言葉が出てこない。あの三人の中で流されてたのは俺だけって事か。ガイエンはそう言えば最初から何か目的があったみたいだったし、アイリは自分で自分の道を選択した。

 そしてみんなの為にってゲームなの本当に必死だ。まあだからこそ、そんなアイリだからこそみんなに慕われてるんだろうけどな。


 そんな二人に挟まれて、俺が目指した場所はどこだった? アイリが俺に自分の中の決意を言ってくれたとき、『力になろう』そう決めた。

 ガイエンの目指す場所がどこか知らないが、二人に比べたら俺は軽かったかも知れない。同じ場所を歩いてれば、同じだけの何かが得られるとでも思ってたんだろうか。

 二人は、いや少なくとも俺が知ってるアイリは、もっともずっと凄い決意でここまで来たんだ。俺があの時決めた何十倍何百倍位の気持ち。


 それが今も前を向いて歩ける理由なら、俺は本当に全然、何もかもが足りなかったのかも。ここに居る理由が「アイリの為」なんてもうきっといえねーよ。だってアイツは歩いてるんだ。俺の少し前をさ。

 じゃあアルテミナスのため? エルフの為? いやどれもピンとこない。間違いでは無いけど、どれもこれもアイリの二番煎じだ。

 じゃ何が……指にはまった無骨な指に似合わない指輪が、空を走る稲妻で照らされる。そえはこの力を託された時に交わした指輪。

 あの頃は本当に迷いなんて無かったのに。この指輪の誓いだって・・


(俺はダメかもな)


 何となく一瞬そう思った。直ぐに否定するように頭を振っても、一度してしまった行為は頭では取り消せない。


「分からなくなってるのなら、もう一度示せばいい。お前はあれこれ悩むタイプじゃないだろ? とりあえず、弱気は見せるなよ。

 初めてあったときみたいに無駄に生意気でいろ。アイリに持っていくのは良い報告が良いだろ」


 言葉を返せない俺にガイエンは何だかまともな事を言う。てか今回でかなりガイエンが良い奴に感じるんだが、天変地異の前触れか? 


(けど……実際俺は体動かす方が得意なタイプ。間違っちゃいないし、そうだアイリ)


 俺はうじうじ考えてた自分を頭の隅に追いやった。そして下を向いてた顔を上へ上げ、この土砂降りの雨を顔面で受けとめる。

 余計な気持ちを雨に流して、俺は言う。


「ああ、今はアイリだ。ここに時間なんてかけてられない」



 俺たちは動き出す。幾らウンディーネ共がこの雨を味方に付けてるとはいえ、この地は元はアルテミナスの一部だ。

 地理に詳しい奴や、捜索スキルに長けた奴が居れば見つける事が出来ない場所じゃない。不意打ちや先手は取れないし、多分向こうも既に気付いてるだろう。


 加護が消えてる事に。けど……それでも俺は放つ。真っ正面から乗り込んで、関係ないと言わんばかりの一撃。吹き飛んだ水しぶきは有に二十メートル位延びたかもしれない。

 そして続けざまに向かってくる敵に対して剣を降り続ける。無数の影が宙を舞う。それらは数えるのも億劫で、気にせずに前へ行く。


 するとそんな俺の後ろから地鳴りの様な音が続いてきた。触発されたみたいな軍のみんな。加護が消えての不安はあるだろう。だけどみんな、それを気持ちで補うかの様な叫びをあげてた。

 再びぶつかり合う両軍。だけど今回は逃げ場なんて無い。この侵略戦の最終決戦地なんだからな。


 スズラが率いる混成連合軍が撤退したのは元は俺たち側の開始地点の方だった。その真意はきっとシンボルがこっち側にあるから。俺たちはこの雨のせいでほとんどシンボルの捜索が出来なかったからな。


 けど多分奴らはやってる。便利な目が有ったんだし、やらないわけ無い。それにスズラ達ウンディーネは勝たなきゃ何だからな。

 シンボルが万が一でもこちらに見つかるよりは、自分達で見つけて守護してた方が安全って考え。一人でも逃げきれるだろうしなウンディーネは。


 人間共は利用されてるとも知らずに、次から次へと向かってくる。けどこちらも凪払い凪払い、道を造り続ける。この状況は有る意味好都合何だ。

 だって検討もついてなかったシンボルの場所を向こうが示してくれたんだからな。だからって渡すわけには行かない。俺達は勝つ。その為にはシンボルは必須。


(全部ぶっ潰して、行く先にシンボルだってある!)


 俺はそう思いながら、進んでた。もうこうなったら、ガイエンの方を待つ事なんてない。俺はここでありったけの力を振るう。

 そしてそれは確実に脅威となってる。ああ、その筈だ。だけど少しずつだけど感じて来てた。絡み付いてくる何か……増援が増す度にそれは多分増えてる。

 重くなってる。


「ぬぁぁああああああああ!!」


 一振り一振りが……一挙一足が……阻害されてる。いつしか次第に俺は「イヤだ」と思いながら戦ってた。けどそれでもやめられない責任がある。

 大乱戦の中、俺はついにその場にたどり着く。地面から輝いて現れたのは奴らのシンボル。そしてそれを取ろうとしてるのは間違いなくスズラ!

 その手にシンボルを握らせる訳には行かない。だけど立ち塞がる奴らが邪魔だ。その時、後ろから飛び出して来た援軍がそいつ等の相手をしてくれる。


「行ってくださいアギト様!」

「シンボルをぶっこわしてください!」


 俺はそんな声に応えて、開かれた道を駆けようとした。だけどその瞬間「ジャラ」なんて言う、鎖が絡まったかの様な音が聞こえた……気がした。

 振り返っても何も見えない。体のどこにもそんな物は無いのに……だけど確実に感じる重さがある。全身を流れ落ちる雨の中、輝くシンボルはもうスズラの手に吸い込まれようとしてる。

 重いなんて言ってられるか!!


「あぁぁあぁああぁあああああ!!」


 地面を踏みしめる音がこんなにも大きく聞こえたのは初めて。そして「ジャラジャラ」と聞こえる音はもう、幻聴なんてレベルじゃない。

 でも全てを無視して目指すはあのシンボル。振りかざす大剣。だけど向こうも反応してる。予備の剣なのか知らないが、携えたその武器を俺の大剣へとぶつけてきた。


 二つの武器の衝突は凄まじく、弾き出た衝撃波が周囲を軽く吹き飛ばした。けどどのみち届かなかった大剣。スズラはその間にシンボルを手中に収めてる。


「悪いがゆずれんなここは!!」

「譲る事なんてない……ただ、奪い返してぶっ壊すだけだ!!」


 パキ――そんな音がどちらかの武器から聞こえた。そして俺たちは言葉の終わりとともに強引に押し切ってた。振り抜い互いの武器。

 俺の大剣は地面に刺さり、周囲にひび割れを起こさせる程の威力があった。そしてスズラの方はと言うと、その剣の先が無くなってる。打ち勝ったのは俺の方。


 この剣は絶対に打ち砕けない。それだけの力を秘めてる。俺が使いこなせてるかは別にして。

 二度目の武器破壊で流石に動揺・・してるかと思ったらスズラのそうじゃない。どちらかと言うと俺の方が必死だ。

 追い込むために続いて振った大剣。歯を食いしばってありったけの力を込めた俺に対して、スズラは武器を捨てて軽く上を向いてる。


「文句などいわせんさ。この土地の占有権は我らが頂く」


 そんな声が漏れ聞こえる。続く攻撃に気付いてる訳はないだろうが、そんな事を言っていた。そして俺の大剣が雨を横に切り割いた。そう雨だけを。

 そこにいた筈のスズラ……だけど切った瞬間にスズラは水となり雨の一部に欠き消えた。水を使った身代わり? スキルなのか? でも……その瞬間滝レベルにまで跳ね上がる雨の量。

 そしてそんな雨を割って迫るは水の槍。俺は剣でそれを叩く。けど次の瞬間には無数に空いた穴から槍が次々と降り注いで来た。


(やっば……)


 それは流石に捌ける量じゃない。俺はとっさに後ろへ下がる。ドドドドドドド――と地面に突き刺さる雨の槍。止まらないその量は重くなってる体にはきつい。

 追いつかない……体を、髪を、肌を紙一重で水の槍がかすってく。


「負けられない……俺は倒れられないんだ!!」


 大きな盾で体を覆い、槍を避ける事をやめた。そしてタイミングを待つ大剣。それは直ぐに来る。槍の一段が振った後の僅かなインターバル。

 その瞬間に雨ごと吹き飛ばしてやる。うざったいんだこいつら、雨で隠れてコソコソと……こっちはもうただ苦しいのに、これ以上粘るんじゃない。

 けど向こうも必死……だがな俺には誰かの気持ちをくみ取って加減なんて出来る状況じゃない。だから


「死んで貰うぞスズラ!」

「それが出来ると? 手も足も出なかったのを忘れたか?」


 人魚形態になってるスズラは雨の中を自在に泳ぎ回る。そのスピードはまさに魚……こんな重い体じゃ確かに捉えられないかもしれない。

 だけど不思議と力は沸くんだ。自分が自分に追いつめられるせいか知らないけど、切羽詰まってる俺はルールとかそんなの軽く無視してる。


 きっといつでもどこかに有った理性ってリミッターが外れてる。だからいつもより大きく切れて、いつもより派手に敵が飛ぶ。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 けどその分、体は無茶してた。それをスズラも見破ったらしい。


「苦しそうな顔をして、暗い目をしてるな。そんな状態で我らに」

「うるせえ!!」


 ドッバァァァァン!! と弾ける雨。だけど直ぐにバケツはひっくり返される。言葉を遮ってまでやったけど、分厚い雨の壁が奴にまで攻撃を届かせない。

 今更だが、この雨がスズラを守る盾にもなってる。けどそんなのどうでもよかった。俺はただ……こいつらをなんとしてもぶっ倒す、それだけだ。

 止めたいとか思ったけど、こいつら……あの時あの場にいてゼブラ達を倒したこいつらは取り合えず絶対戦滅。


「仲間の死で荒れてるのか? まるで獣だな。野獣に加減なんていらないよな。今のお前は無闇に力をぶつけてるだけに見える」

「うるさいって言ってんだろ!!」


 どうでもいいんだそんな事。本当にうるさい奴。無闇に力をぶつけてなにが悪いってんだ。敵なんだよ。ただ黙ってやられてれば言い物を……武士の様なウンディーネであるスズラは、けど気にしながらも簡単に割り切ってる。

 こいつの放つ水の刃は確実に俺の命を取りにきてるしな。心配してる様な言葉で誘ってこの仕打ち……流石武士。


「お前も戦士なら、戦いの途中でグダグダ喋るな!! 通したいこと、語りたいことはこいつで語る。そうだろ?」


 俺は雨に純粋な力をぶつける。ドーム状に吹き飛ぶ雨の中、俺の大剣の刃は真っ直ぐにスズラに向いている。するとそんな事を言った事に納得でもしたのか、スズラは頷いた。


「確かに、私がしてた事は侮辱か。互いの刃で全力で語る。それが戦士として、騎士としての純粋なあり方。どの道、貴様は倒すべき相手だしな。

 活躍をシステムに認めさせる為に、最大戦力を我が手でほふる。正々堂々……この土地はもらい受けよう」


 空気が変わった。そんな気がする。そしてスズラは有る物を取り出した。それは光輝く手のひらサイズの物体。


「シンボル!」

「ああ、どのみちここが最終ライン。ならお互い真っ直ぐに決めようじゃないか。私が求めるは一対一での決闘だ!

 貴様が勝てばシンボルはくれてやる。まあ負ける気は無いがな」


 その言葉に周りが動きを止める。だって決闘だなんて……けどそれはこちらにとっては思わぬ提案。乗らない手はない。


「いいのかよ。もしもの時とか、考えるとリスクしかないぞ」

「ふん、我らがウンディーネの花道に背は向けない。それがここまで預かった私のケジメだ。もういいだろう。騎士もこいつで語るんだろう」


 そう言ったスズラの腕には水が集まってる。言うなれば今この空間全てが奴の武器。今の俺に勝てる見込みが有るのかはわからない。

 けど注がれる視線は裏切れない。重い体を押し殺し、俺は余裕な顔を向けた。


「その通りだ!!」


 スズラは何も要求しない。けどわかってる。奴が求めてるのは物じゃない。俺を倒せればスズラの目的は多分達成される。加護が消えた今、心の支えになってる俺がやられたら、何とか互角に渡り合ってる気持ちが下がる。

 それはきっと決定的な差だ。したたかな奴。負けない自信と、自分の目的の本当はこれが最短じゃないか? 元がウンディーネの奴らは殆ど後衛だし、戦闘要員はスズラが一気に担ってるんだ。

 捨てゴマ扱いの人ではそれだけじゃパッとしてない。これが最後のシナリオか。


「食らえ!!」

「遅い! そんな攻撃、今の私なら目をつぶってでも避けられる」


 雨の中を自由自在に泳ぐスズラに攻撃を当てるのは難しい。それに比べて向こうからみればこちらは的その物。けどこっちだって堅く頼れる盾がこの身を守ってくれる。

 本当に水が有るのならウンディーネは強い。それにスズラは本当にな。アイツも責任とかが有る立場の筈なのに、淡々とこなしてるし、時にはこんな大胆な事まで……凄い奴だ。


 雷鳴と雷光が織りなすフィールドの中、いつしか誰もがこちらの決闘に注目してた。この侵略戦を決める戦いだから当然か。どう見ても、きっと地の利を得たスズラが優勢に見えるだろう。

 こっちは加護引かれてるし……けど感じる期待や希望はきっと勘違いじゃないんだろう。力がある者に願いを託すのは当然で、それに応える必要がある。

 そう考えると必要以上のプレッシャーを感じる。


(ああ、何でこんなに重くなったんだっけ?)


 空を……と言うか水の中を自由に動き回るスズラ見て羨ましいと感じた。俺もあんな風に、昔はもっと自由に楽しく戦ってた筈なのに……立場や力がそれを許さなくなってしまった気がする。

 あれだけ手が届きそうだった空が……今は暗く遠くに感じる。


(あの頃の空に……)


 戻りたい。それは思う前に止めた。だってそれは頑張ってるアイリを否定する事だ。どんな努力だってきっと無駄なんかじゃない。

 だから俺も、今は努力あるのみなのかも。


 スズラは埒があかない中距離戦を止めて武士らしい近接戦闘に変えてきてた。こっちとしてもそれはありがたいが、絶対的なスピードの差か、リスクを求めてもきっちりと成果だけをスズラは勝ち取ってた。

 ようは俺が一方的に殴られてる。けど……まだだ。もおずっとこの状況だ。流石に慣れって奴がある。それに近接戦なら、吹き飛ばすのは自分の周囲の僅かな範囲で事足りる。

 一瞬で良い。水を無くしてスズラを捕らえる……その一瞬。俺はその瞬間、盾を捨てた。まさに一瞬だったが、捕らえたのは奴の細腕。


 このまま握れ潰せそうな細い腕だ。でも甘さも優しさも捨てた俺だ。決めるためには鬼になろう。これはきっとたまたま、掲げた大剣に雷が舞い降りた。

 体が痺れてるのもお構いなしに俺は剣を振った。けどいつの間にか脱出を計ってたスズラ。でも関係ない。放たれた雷は泳ぐことより速い。


 それに奴の力は水だった。どこにも逃げ場なんて無いんだ。空で青い閃光がスパークする。そしてそこに向かって俺は飛ぶ。

 振り卸した剣は、ただ終わりたいだけの剣。空と雨を割ったその一撃はついでにシンボルも砕いてた。そして新たに刻まれる印は、アルテミナス……その印だ。


 俺達は勝った。だけどそれを噛みしめる余裕はなく、アルテミナスへと舞い戻る。

 第百二十三話です。

 お久しぶりです。ようやくここも終わっていよいよ過去編最後です。一体アイリに何が有ったのか……てなわけで次回は木曜日に上げます。

 ではではまたです。

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