表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
121/2712

空しさ

 俺は助けを拒否った筈だ。だけどあいつらは来てしまう。こんな俺の元に。そして助けられるのが俺だなんてそんなの情けなさすぎる。守れりたいものが何も守れない強さなんていらない。


「来るなああああああああ!!」


 俺は降り注ぐ雨が弾けるかと思うほどの声を出す。そしてみんなが迫り来る道に向かって大剣を振った。雨が吹き飛び、地面が割れる。

 その衝撃にみんなはたたらを踏んだ。


「アギト様! どうしてですか!?」

「今の俺じゃ……お前たちを守る余裕なんて無いんだよ!!」


 俺はちっぽけな自分に気付いた。俺は一騎当千に何かなれない。大層な力があったって、仲間一人守れやしない。いや、ある意味……邪魔なんだ。

 何も考えずに突撃戦の方が俺にはあってる。元が優秀な盾と攻撃徳化型のスタイルなんだ。それが一番楽だった。 増えすぎちゃいけないんだよ。守りたい者を守るにはさ。俺の腕は二本しか無いし、体は分かれやしないんだ。どんなに力があったって限界って物があるじゃん。

 そう思うとさ……守れないんじゃない、守りたくないんじゃないか?


(はは……我ながら最低の所に考えが至ったな)


 身を呈して守ってくれたゼブラには悪い考え。二つに割れたゼブラの体は、嵩を増していく水の中で無惨な姿に成っている。

 みんなが居るなら、何とか蘇生させたい所だけどこの状況じゃなかなか厳しいな。周りはスズラが引き連れてたウンディーネ達による魔法で、あり得ない程の豪雨。


 そんな滝の様な雨を自由自在に泳げるスズラ。そして未確認だが、周りにまだまだ居るらしい敵。出来ないと思う自分が嫌になる。

 何の為にある力だよってさ。でもちっぽけな自分にはおいあい選択なのかも。


「仲間を求めず、それでどうする?」

「くっ……」


 頭上から降ってくるそんな言葉。そして同時に降られる剣。ジャボジャボと無様な音を立てながらも何とか数歩後ずさる。

 その瞬間高く上がる水柱。ギリギリ避けれたって事か。

 俺は顔を出してるスズラに向けて剣を振るう。真っ二つ割れる滝の様な雨。けど当たってない。


 スズラの影は流れる様に水の中を走ってる。この雨でどうしても振り遅れてしまう。その僅かなタイムロスで俺の攻撃は届かない。

 けど……それでも……俺は誰にも頼らずやってみせる!

 手前で止まったみんなが不安気な顔を向けている。これ以上苦戦してたら、またゼブラの二の舞に成るかも。


「仲間を求めなくても、やりようはある!!」


 俺は水に浸からせた剣を再び振るう。けれどそれはスズラに向かってじゃない。こういう時の定石は、まずはバックスから叩く。

 ウザい支援をしてる後他のウンディーネ。狙いはそいつ等だ。噴き上がる三つの水柱が鋭い勢いを伴ってそいつ等に向かう。上手く動けない今の状況じゃ、これを後数発たたき込むしかない。


 完全な直撃コース。それに奴らは避ける気が無いみたいだ。気にも止めずに詠唱をしてる。それだけスズラを信頼してるって事か? だけど流石に間に合う訳がない。

 まあ、何処に居るのかは見えないんだけど・・けど例え奴が庇ったとしてもそれはそれで良いんだ。張り付けにして、力で押し切る事がきっと出来るから。


 俺は間髪入れずに剣を振るう。幾つも上がる水柱がウンディーネへ向かう。そして第一波が奴らに当たる……その瞬間、真横から凄い音がして水柱を消し飛ばした。

 いや、音と言うか今のは・・超音波の様だった。そしてさらに向かう水柱にその超音波らしき声は向けられた。


「っづ……何だこの音?」


 次々と消滅させられる水柱。音に圧力がある……そんな感じだ。それに音ってのは直接脳に響く。それが超音波ともなればかなり効果的だ。

 脳が揺れる様な感覚に、足下がふらついてしまう。そんな中、俺は必死に誰がそれをやったのか見定めようとした。けどその時、忘れては成らない相手が降ってきた。


「あの子等の守りを何も考えてないとでも思ったか? 言っておこう、私は一人では無いのだよ!」

「づあああ!!」


 俺はその攻撃を辛うじて盾で受け止める。だけど重い。スズラだけでも相当の勢いだからきついが、それに加えてこの雨……滝の様なこの雨の中で、上に向かって盾を構えるのはかなりきつい。

 水圧が半端なく襲いかかってる。そしてついには、激しい水柱をあげて水中へと押し倒された。


「がっばっぼこここここ……」


 そんなに深い訳じゃないから直ぐに背中に地面が当たる。けどこのままじゃ、十分に水死出来るレベルだ。


(くっそ)


 一刻も早く体を起こさないと……だけど、スズラの攻撃は止まらない。腰くらいまでしか無い水の中でも、スイスイ動くしどうやらあの剣、水の抵抗を受けないみたいだ。

 振るスピードが陸の時と何も変わってないんだ。縦横無尽に切り刻まれる俺の体。これは流石にヤバい。幾ら加護でも高められた防御力でも、削られていく物は削られる。

 それにこの好条件下でウンディーネとしてのスズラの能力はきっと自国にいる位に発揮されてる。


(随分早く泳げると思ったら……何だあれ? フォームチェンジ? 人魚か……)


 この水中で見えたスズラの速さ。それはこれが原因。LROの海を支配するウンディーネ。あれがその理由の姿って訳だ。確かに速い訳だ。

 けど陸であんな姿まで見せる何て初じゃ無いだろうか。基本陸じゃあの姿に意味ないし、ウンディーネの国は行きづらいから国交が余りない。


 海で泳いでる姿もそうそう見かけないし、まずこっちは泳がないからな。だからこんな技があるなんてって感じだ。

 水中戦最強を詠うだけの事はある。


「良く耐える。だが、ここまでよ。水の中なら最強の騎士にさえ遅れはとらない!!」


 スズラの言葉が普通に聞こえる。こっちは息止めてるってのに、向こうは必要無いみたい。まっすぐに突撃してくるスズラ。

 構えた剣には水が付いていた。とことん水にこだわった戦い方。それなら!!


「がぼばああああああ!!」


 俺は水の中で真下に剣を突き刺した。防御が間に合わないならこれしかないんだ。この水たまりは、土が水分を吸収する限界を超えてるから起きることで、それと多分奴らの魔法か何かでせき止めてるんだろう。

 ここから魔法を破壊は出来ないし、ならこの状況を切り抜けるには何とかして、もっと大地に水を流す他無い。だからぶっ刺した。

 力をここ周辺の大地に行き渡らせる。


(大きく砕けろ!!)

『クラッシュザアワー!!』


 その瞬間大きな振動と共に、地面に亀裂が走り広がった。その亀裂は目には見えない地面の深淵にまで届いてる。そして剣を引き抜くと同時に、さらに大きな地震。

 亀裂は更に大きく、水が流れやすいようになる。


「ぶはっああ」


 ゴゴゴゴゴ――と排水抗に流れ込んでいく時みたいな音が聞こえる。確実に水かさは減っていた。だけどそれでもスズラは向かってくる。

 腹を掠る程のスレスレで、だけど直前に飛び出してくきた。


「考えたな。だがそれでも、尽きぬ水がここにはある!!」


 水を纏った剣の突き。容易に防げる物じゃない。だけど、今の足場は幾分かマシだ。さっきよりもこっちだって速く動ける。

 それに避ける必要なんて俺にはない!


「『守護者の盾エンアリオール』――敵の全てを受け止めろ!!」


 その瞬間盾の面積が大きくなる。それは盾の周りに光のシールドが顔を出したから。この状態なら、どんな攻撃を防いでみせる。

 そしてその思いの通りに真っ正面から俺はスズラの攻撃を受け止める。盾を貫かんとする白い水圧。だけどそれら全ては四方へ散っていく。


 待っていたのはこの瞬間。普通にやってたんじゃ絶対に捕らえられないフィールドの差がある。けど決めに掛かる絶対の一撃を防げれば、抜こうとするはず。

 その読みは当たってた。今スズラはマグロが止まった状態じゃ!! つまりは『死』――


「たたき落とせ『守護者の大剣アインヴェング』!!」


 更に握る大剣にまで、その切っ先に光の刃が浮かび上がる。更に切れ味と攻撃範囲を増した状態。盾の上から俺はそれを振りおろす。

 その瞬間爆発の様な音が周囲に広がり、剣線から生じた衝撃が地面を抉りクリスタルを砕き落とす。クレーターの様に陥没した地面……だけどそこにスズラの姿はない。

 あるのは無惨にへし折られた奴の武器だけ。


「スズラ様!!」


 そんな声と共に、僅かに弱まる雨。敵にも動揺が広がってる証拠か。詠唱をしてるウンディーネ共もスズラが心配なのだろう。

 そしてそんなスズラは雨を伝って仲間の元に姿を現す。最初に叫んだアイツは俺の道案内役だった奴。アイツだけ詠唱をそれまでやってなかったって事は、奴があの超音波を出した奴だろうか。


「っつ……とっとっと」


 足下がフラツく。スズラの武器は壊せたが、こっちも相当なダメージを食らった。その影響か。HPが黄色信号を放ってる。


「アギト様!!」


 今度こそ来てしまったみんな。どうしてこうなるかな? ああ、情けないからか。頑張ったけど、今の俺は結構情けない姿してる。この状態でも抉れたのはスズラの武器だけ。最強の騎士とか呼ばれる訳には行かないな。


「何やってんだ? アイツの強さは見ただろ。さっさと本隊の所へ行ってろ! ゼブラの二の舞になるぞ」


 心配してくれてるのは分かってる。だけど、こういう言い方しか俺には出来ない。けれど誰一人、この場を離れようとする奴は居なかった。


「すみませんアギト様……だけどゼブラだって後悔何かしてませんよ。貴方はこの国に必要な方で特別何ですから。だから逃げるならアギト様がお願いします。

 俺達だけじゃ足手まといにしか成らないけど、本隊とならこいつらだってきっと叩けます。そして勝利を掴むんです」


 みんなが良い笑顔で俺の前に立とうとする。けどそんなこと……何でお前達が犠牲になる必要がある?


「何言ってんだお前達。こんな……こんな何も守れない特別な奴がいるかよ。俺はアイリやガイエンの様に、そんな重責を負える様な奴じゃない。違うんだ!!」


 きっとそれは自分を信じてくれてる人たちに言ってはいけない事だったのかも知れない。だけどそうでも言わないと、潰されそうだったんだ。

 自分を信じてくれた奴らだからこそ、その命が重い。ゲームだけどさ、リアルではあり得ない信頼だろこれは。特に日本なんて国じゃ、普通に生きてる限り出くわさない事だ。


 そんな国の子供なんだよ俺は。何気に生きて、ゲーム好きだから何気に始めたLROだ。ただ楽しく、時に厳しく位でよかったのに……離せなく卸せない何かが、いつの間にか絡み付いてる。

 期待に応えようとしなかったわけじゃないし、最初は上手く回ってた。だけど今回は違う。やるやる事、裏目に出てばっかりだ。


 そしてみんなを捕らえられた時から、恐怖感が離れない。助け出しても、それは消えはしなかった。

 だからこそ、追いかけて討ち取って……でもその結果がまたこれだ。恐怖に刈られて恐怖を狩れば、また違う恐怖が顔を出すだけ。

 責任ってのは逃れられない物なのか。力があるから、守りたいと思う。けど力があるから、争いのまっただ中へ俺は行きたがる。


 そこで犠牲になるのは付いてきてくれる者達だ。そこで力がないと嘆くのはおかしな事なのかな。求め過ぎなのか? 俺達に出来るのはいつだってたった一つの事……それを通用させられもしないから、俺のこの力は中途半端にから回るのか。


「そんな事ないですよ」

「!」


 はっとする様なそんな言葉。そんな事絶対にあるんだけど、そう言われると少し気持ちが軽くなる。


「そうです、アギト様は自分が思ってるよりずっともっと尊敬されてます。いつだって最前線で戦って……誰もが知ってます。

 アルテミナスの為、アイリ様の為、ひいては我々の為だって。そんな貴方だからこそ、守りたいんです!!」

「そうそう、まあぶっちゃけ俺達の代わりは幾らでも居ますけど、アギト様はそうじゃないんですよ。救って貰った命をぞんざいに扱う様に感じるかもですけど……決して俺達は無駄じゃないって分かってますから!」

「はい、その通りですアギト様。貴方を生かせばきっと勝てる。だから勝ってくださいね。私達だって騎士ですから。

 アルテミナスの為にその位させてください。ゲームでの死なんだから、余り重く捉えないでくださいね。勝利に繋がれば万々歳ですよ」


 そう言ってみんなが武器を構える。何でこんなに俺に期待するんだよ。だから俺は普通で並の人間だって言ってんだろ。

 どれだけプレッシャー背負わせる気だ。体全体を流れる雨がいろんな者まで流しきってくれたらどれだけ楽になるだろう。


 そんな事を考えて、やっぱりそんな俺が嫌になる。結局どうしたいのか分からないんだよ自分でも。守りたいのに守れなくて、だから色々諦めたくなってる。

 煩わしい物を切り捨てて、それでも絶対に一つはやり遂げるために。


(そうだ……)


 言われるまでも無いことが一つある。


「勝ちはするさ。それは絶対に譲れない事。だけど……俺は本当は、全部守りたかったんだよ」

「「「はぁ」」」


 その瞬間全員にポカポカ殴られた。まさかこいつらに手を上げられるとは予想外だ。何なんだ一体。


「あのですねアギト様。私達は貴方に守って貰うために同じ部隊に入った訳じゃないんですよ。私達は少しでも役に立ちたかったんです。

 貴方の手助けをしたかった。だから少しでいいんです。協力させてください。私達だって守るべき側の騎士何ですよ」


 騎士……確かに、ここに参加してる全員は紛れもない騎士だろう。それはアイリが認めてる。だからこそ余すことなく、加護が受けれるんだ。

 俺はやっぱり傲慢だったのかな……いや頑固か? 騎士であるこいつらもただ守る対象なんて、悪い事だったのかも知れない。


 なまじあった力があったから、何でもかんでもそうしようとしてたって事か。でもそれでも守るのは力がある奴の役目だろ。

 やっぱり間違ってたなんて思えない。でも放棄したのも事実で、ああ~こんなんだから俺はダメダメなのか。


「俺は……」


 そう口を開きかけた時だった。何を言いかけようとしてたのか、今の俺じゃもう分からないけど、その瞬間奴らは動いた。


「――――――――――――――――――――!!」


 それは声に成らない声。だけどそれがきっと声だとは分かるんだ。だってあのウンディーネが大口開けてるから。体が途端に重くなる感覚。

 脳が揺さぶられて足下もおぼつかなくなる。そしてすぐ近くで聞こえる声に寒気がした。


「逃しはしない。君にはここで倒れて貰う。我が国の為に」


 雨の中から顔を出すのはスズラ。また人魚形態で雨の中を移動してきたらしい。相変わらずの速さだな。さっきまで向こう側に居たと思ってたのに、もう手が届く距離まで迫ってる。

 けど奴の武器は壊したはず。一体どうする気だ?


「我らウンディーネの武器は、この世界に存在する全ての水だ!!」


 そう叫んだスズラの腕には降り注ぐ雨が集中してる? そう見えた瞬間、スズラは腕を伸ばしてその水を放出した。


「アギト様!!」


 その瞬間俺は押された。そして地面に膝と手を付いた時、後ろで凄まじい音が上がった。


「おい、お前バカか!? あの程度の攻撃、盾で防げたんだ!!」


 今のエンアリオールはかなり堅いんだからな。だから無駄……


「そうかも知れない……けど、それがきっと奴らの狙いですよ。奴らはここでアギト様を潰したがってるんです。だから攻撃を受けてる場合じゃない。

 どんな事言ったって……アギト様は驚異だから……だから何とか本隊まで行ってください。それまで俺達が盾に成りますから!!」

「お前達……」


 残り二人も何だか同じ意見の様に頷く。逃げるのか……みすみす絶対に勝てないと分かってる三人を残して。それが勝利に繋がるなら……それでいいのか?

 さっきの一撃は何とか耐えたみたいだが、そう何発も耐えれる攻撃じゃない。


「邪魔……するな!!」


 続いて数発連続して放たれる水の攻撃。本当に執拗に俺を狙ってる。けど盾を構えたのに、三人が壁となる。


「「ぐああああ!!」」

「きゃああああ!!」


 水に吹き飛ばされて行く三人。それでもまた直ぐに立ち上がって盾になる。


「行って……ください! 早く!!」


 三人で協力して水を防ぐ。俺は歯を喰い締めて背中を向ける。これがあいつ等の願うことならと。


「最強が守られる側とはな。自分の招いた事態を部下に押しつける気か? 飛んだ笑いぐさだな!!」


 そんな言葉と同時に三人が吹き飛ばされて俺の前にまで飛んできた。だけどまだやれると言わんばかりに、立とうとするんだ。

 そんな泥だらけの体でさ。


「聞く耳なんて持たないで……早く……早く行ってください」

「ええ、そうですよ。あんな魚の言うこと何て、気にしないでください」


 そう言って再びスズラの前に立つために進み出すみんな。雨を泳ぐ奴の音が聞こえてて、やっぱりそれを捉える何てきっとこいつらには出来ない。


(これでいいのか……)


 このまま逃げて良いのかって自分の心がそう言う。勝利の為に小を捨てる。別にあいつ等がそれを望むなら、悪いことでも無いと分かってる。

 けどさ、俺自身がそうじゃダメなんだ。アイリを守りたいし、勝利だって掴みたい。望みはたった一つに絞った筈だ。


 なのに……ここまで自分を犠牲にする奴らを見捨てるのか。ゲームだからとか、そんな気持ちであいつ等やってないだろ。

 背中から聞こえる叫びが、激しく胸を打つ。分かってるけど、納得は出来ないって奴なのかな。あいつ等の意志を尊重したかった。


 けど……俺はもうあんな思いはしたくないって決めたんだ。そのために身勝手して、わがままやって、それでこれじゃもう耐えられねえよ!

 俺はその瞬間、雨を斬り割いた。丁度スズラの位置まですっぱりと。そして一気に接近して盾を叩き込む。これは初めてのクリーンヒットだ。


「どうして? 何やってるんですかアギト様!!」

「別にいいだろ。自分だけ逃げるなんて胸くそ悪い。いいんだよこれで。全員けちらせば文句無いだろ」


 俺はそう言って、更に剣を振り回す。最初は呆れた様にしてたみんなも、次第に仕方なくやってくれる。それにその顔は以外と晴れ晴れしてた。

 まあ怒ってるのも見えたけどさ、それでもさっきまでの苦しそうな物じゃない。俺達は再び、不利な戦いを行う選択をしたんだ。




 だけど実戦はそんなに甘い物じゃなかった。地の差は次第にはっきりとしていった。どう考えても今回はウンディーネ側に傾き過ぎてるけど、それを今更言ったってしょうがない。

 それにイレギュラーもあったんだ。まさかそんな事が起こるなんて。けど俺は最後までその場に立ち続けた。ガイエン達が向こうの本隊を崩してこちらにくるまでさ。


 それによってスズラ達は一時撤退していったけど、俺の中に残ったのは空しい焦燥感だけ。勝ったなんて、やり遂げたなんて思えなかった。

 だってこの地面に立ってるのは俺一人だから。地面には空しく残ったみんなの武器だけがある。


(結局……こうなのかよ)


 そう思った。俺は自分しか結局生かせてない。彼らの死にゆく様が脳裏に焼き付いてる。泣いてる場合じゃない。もっと大変な事が起きてるんだ。

 だから涙は雨に溶かして前を向く。敵を全員、余すことなく倒してこの戦いを勝利する。それがせめてもの償いで、責任の取り方。そして急いで戻ろう。アルテミナスへ!


(一体何が……無事だなよ……アイリ)


 第百二十一話です。

 ようやくこの戦いも終われそう。そして過去編も急ピッチで行きますよ! 

 今回はちょっと時間がないからこの辺で。実は今日から実家に帰らなきゃなので。だけど次回分は予約掲載しときます。

 てな訳で次回は土曜日に上げます。ではまた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ