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「お久しぶりね」
「えっと、ああ……あの時のお姉さん」
そういえばこの人とは会ったことがあった。このハリウッド女優みたいなお姉さんを忘れるなんて……いや実際忘れてたわけじゃないんだ。ただ、思い出したくなかっただけ。だってクリスの裏の一面って重すぎるんだもん。こっちに身の危険も感じるし。
この人たちはまだ自分を大切にしてくれてるのはわかってる。強引なことは中々しないし。けど別の組織とかは実際、かなり強引に来たこともある。この日本で銃撃戦を見たんだよ? はっきり言ってそんな関わりたい相手じゃない。
こんな美人なのに残念だ……と思う気持ちは正直ある。でもリアルスパイとか僕には荷が重すぎるよね。こんな平和ボケした国の学生に世界の闇をこれでもかって程見てきたはずの彼女に何が出来るというのか。実際さ、今はにこにこと僕を中に案内してくれてるが、この笑顔だって作ってる可能性高い。
きっと僕は保護対象か何かだからこんな対応であって、明確に敵……流石に敵になる気はないんだけど、彼女達の敵に僕が渡りそうになって、取り返すことも困難……となったら、案外簡単に殺す方に行きそうな気がするんだよね。
「どうぞ」
そう言ってソファーに座った僕にお茶出してきたのは、タンクトップで腕の太さが僕の三倍はありそうな男性だった。せっかく超オシャレに決まってるこの部屋でなんかアンバランス。でもまさに外国の軍人ぽい人である。
「あら、お菓子は?」
「あとちょっとで焼きあがります♪」
いや、なんかんん? 確実に壁とか素手でぶち破れそうな見た目なのに、声や言い方……それにキッチンに戻ってくその姿……なんか凄くオカマっぽい。てかなんかフリルがあしらわれたエプロンに目が行くべきだった。いやいや、ただそうのエプロンしかなくて、罰ゲーム的につけてるのかな? って思ったんだけど……なんかとても上機嫌だし、罰ゲームってわけではなさそうだ。
すっげえルンルンしてる。あの体格で……ちょっとラオウさんが重なるが、彼女はれっきとして女性だからな。失礼か。まあ別にあの人がオカマでもなんでもいいか。別段、そんな関わってくることはないだろう。どうやら僕と喋るのはこの目の前のお姉さんだし、あとはクリスの担当のよう。
綺麗処を使うのはやっぱりそっちの方が交渉を有利に進められるからだろうか? やっぱり女性にはイケメンをつけるのかな? 分からない。
「取り合えず話を始めましょうか? クリスからどこまで聞いてる?」
「ええーと、そうだ。確かエリアバトルに参加したいとかなんとか?」
一瞬、なんでここに来たんだっけ? と思ったが、きっかけは確かそれだった。だから僕は素直にそういったよ。けどやっぱりなんか緊張するな。最近僕はそれなりに美人になれてきたと思ったんだけどね。セツリだってクリスだって美少女だ。セツリなんて飛び切りというか極上というかだしさ。
けど、この人の前に立つとやっぱり緊張してしまう。その青い瞳がまっすぐに射抜いてくるからかもしれない。笑顔だよ。確かに見た目は柔らかそうな美人なんだ。けど、眼光が鋭い。それは僕の目だからそれを捕えてるのかもしれないが、そこまで見抜かなくても……とも思う。