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日鞠ちゃんが戻ってきた。それだけの事なのに、学校が驚く程に変わった。私は元々この学校にはまだそんなにいる訳じゃない。だから驚くのかもしれない。私はこの学校でそれなりの勢力というか……ファンクラブみたいなものを築き上げてる。
だからそれなりにこの学校では新参にしては立場があると思う。なにせ今は日鞠派とクリス派は私派、つまりは摂理派に三分されてるって陰で言われてる程だ。だから私もクリスもこの一週間はチャンス……というのは不謹慎だけど、二人で頑張ってそれなりに学校を盛り上げてきたつもりだ。
けど結局私達は新参でしかないってのを実感してる。私達はやっぱり一時的にしか皆の気持ちを高ぶらせることしかできないんだ。いうなればアイドルみたいなものだよね。私達が出来る事はアイドルがやるライブみたいなもので、その時は皆不安なんて忘れてくれるけど、時間が経つと喪失感を覚えたりしてくんだ。
けど日鞠ちゃんは一年と数ヶ月この学校に居て、その間に生徒……ううん生徒にとどまらずに教師にまで頼られる存在になってる。この学校は既に日鞠ちゃんがいないとこの学校じゃないみたいなものなのだ。確かに日鞠ちゃんは学校に来ないことも他の生徒よりも多いけど、それでもやっぱり根付いてる。
私達が派閥を作ったせいでちょっとギスギスする場面とかがある訳だけど、日鞠ちゃんの事でそんな風になる事はない。私とクリスは勝手に日鞠ちゃんに並ぼうとしてるし、支持基盤は確実に集まってるけど、それでも私たちの派閥の人達にだって日鞠ちゃんは根付いてる。
違うんだ……あの子は、私達と立ってるステージが違う。私達が地下アイドルなら彼女はスターなのだ。照らしてる範囲が全く違う。
「これは由々しき事態デスよ」
「そうだね……」
クリスに呼ばれて空き教室にいる私達。二人っきりじゃなく、扉の向こうには親衛隊の人達が扉を守ってるから通りがかれば、何かやってると思われるかもしれないが、あの人たちは私から離れないから仕方ない。クリスはそこらへん上手くやってて羨ましい。
「やっぱり日鞠ちゃんは凄いよ。彼女が登校しただけで、学校が明るくなったもん」
「そうデスね。あれだけの影響力……計り知れません。わかってましたが……あれが本物のカリスマってやつデスね」
私は車いすにクリスは空き教室の椅子を上げられてたそれを退かして机に座って足を組んでる。その外人特有の長い足をこれでもかって見せつけてきてる。いや、見せつけてはないんだろうが、普通にしててそんな風に捉えれるんだよね。
「このままじゃ、いくら取り巻きを増やしてもダメかもデス。もっとメロメロにするデスよ摂理」
「うーん……」
「どうしました? なんか顔が優れませんね?」
「顔色って言ってくれないかな? それじゃあまるで私の顔が優れないみたいじゃない」
「あはは、ごめんデス! 摂理の顔は最高ですよ」
そういってサムズアップしてくるクリス。この子は本当に調子の良い事ばっかり言う。確かに私の顔は最高だけど……「は」っなによ。まるでそれしかないみたいじゃない。確かに……確かに私が日鞠ちゃんち勝ってる所なんて顔しかないんだけど……
「それに昨日の戦い見ましたか? スオウと日鞠……戦ってるのに楽しそうでしたよ。ほんとう見せつけてくれますデス」
だからじゃないか。だから、やる気って奴がね。クリスは私に協力してくれてる。何やら色々と動いて私がスオウといい感じになる様にサポートしてくれるらしいが、私は今の所全然他の男子ばかりが集まってきてるよ。この状況を望んでたのか、実際わかんない。まあ持ち上げるのも嫌いじゃないんだけどね。
「とりあえず今は日鞠ちゃんが元ってきたってフィーバーしてるし、今は大人しくしておこうよ。だって別に私は日鞠ちゃんと敵対したい訳じゃないもん」
「……まうそうですね。皆純真なのが好きですからね。真っ黒でも……白く見せる事が大切デス」
それはあれかな? 私が真っ黒って言いたいのかなクリスは? そんな不満はあるけど、とりあえず密談は終えた。私もとりあえず日鞠ちゃんにちゃんとお帰りって言おう。ちゃんと笑顔で言えるか、不安だけど。