表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
110/2693

暖かさと絶望の象徴

 聖典は私の切り札で、それぞれが私の目となります。だけど人の頭に複数の映像処理機能はついてなくて……映像と言う、とてつもない情報の塊が常に流れ込んでくる事は頭の容量を一杯にします。

 それによって聖典を八機以上使うと頭痛が併発するのです。しかもその影響はリアルにまで……きっと頭は体と違って本体だからなんでしょう。

 でもそれでもこの力はいまだ私だけの特権。どこまでも誰よりも自由に速く! 私の光が、闇を照らす先駆けに成れればいい。、


 炎の壁が高くそびえ立ち、今にもこの暗がりに飲み込まれそうなこの村を照らしてる。他にも燃え盛る建物やらから、赤い火の粉が絶え間無く宙に流れて出てた。

 そしてそんな火の粉が紛れながらも目が映すのは、繰り広げられる戦闘の光景。私の知らない加護を受け肌が黒ずんだ親衛隊と私達……第三勢力。

 戦力差は歴然で、だけど私達はここを通すわけには行かない。何故なら、この炎の壁の向こうで繰り広げられてるであろう戦いは他者の介入を許してはならない物だから。

 つけなくちゃいけない決着で……それはもう避けられない事。ならおもいっきりやって貰うのが一番でしょう。気兼ねなくね。


 勝てるかどうかは正直分からない。理屈的に考えたら、それは奇跡でも願わないと無理なのかも知れない。だって今のアギト様には栄光を支えた騎士としての力はなくて、頼れるのは本当に磨いてきた己自身だけ。

 それなのに、ガイエンはこの国では最強に成れる武器を所有してさらにはおかしな事に成ってた。あんな得体の知れない力に、正直単身で向かわせるのは酷なのかも。

 だけどそれでも、私はアギト様を信じたかったんです。もう逃げ続けるのにも飽きた頃と思って連れ帰ったのは私の意志。それから始まった……まあたまたま時期が重なっただけと思いたい、この騒動。

 まだまだ辛い事をこの世界は彼に突きつけました。けれど私達とはまた違う、頼もしい仲間達が居たし更に成長したみたいに見えた彼は、きっと大丈夫。


 アイリ様が選んだ人で、あの栄光もそれは決して力だけじゃなかったと私は思ってる。彼は強い人です。腕っ節とか戦闘技術とかじゃなく、そう心が。

 奇跡を起こすきっかけがそういう心の問題なら、私はやっぱりガイエンを止められのはアギト様しかいないと思う。


(勝ってよ……そうじゃなくちゃ、こっちだってヤバいんだから)


 私はチラリと見た炎の壁の向こうにそんな心を投げかけた。

 だって余裕なんて無いんだもん。数でも押されて、おまけにスペックまで上回れてる現状、この人数で渡りあってるだけで大金星もの。

 それはみんながアギト様を信じて、終わりが来るその時を待ってるから生み出せるこれも心の力でしょう。LROは偶にそういうのを感じる瞬間ってのがあるんです。


 でもだからこそ危うく感じる事でもあります。心は移り変わり安いから……それに持ってる期待が大きいほど、頑張れば頑張った分だけの価値を見いだしたい物。

 けれどそれが全部無駄になったと分かったとき、心から生み出されてた力はなりを潜めるでしょう。そうなったら私達は終わりです。

 苦しくて苦しくて……苦しみ抜いてもその先に何も無いなんて考えたくもない事。


「セラちゃん危ない!! ピク!」


 黒い陰が私を覆ったと思った瞬間、同時に聞こえた声の後に炎が頭上から舞い降りてきた。そしてその炎は私を攻撃しようとしてた親衛隊を包みました。

 だけど降り下ろされる武器は止まらない。気付いてたけど、この位の攻撃じゃ奴らには通らない。


「――っつ……」


 頭がズキズキして一瞬ふらついてしまった。これで完璧に避けるタイミングを見失ってしまいました。ピクが作ってくれた一瞬を無駄に……一撃食らうのはしょうがないか、そう思いインパクトの瞬間に備えます。

 その変わりにただでは受けないけどね。やられたら直ぐにやり返す。それが私の信条なんで。


(覚悟はそっちも必要よ)


 そんな事を自身を攻撃しようとしてる親衛隊に目で訴えてやった。伝わったとは思えないけど、それでも忠告だけはしておいたわ。

 姿形はエルフのままの筈なのに……力に溺れていくような親衛隊。肌だけじゃなく、その心までもしかしたら黒くされたのかな。

 私が知ってる加護でこんな事に成った人は見た事なんて無いのに、やっぱりこれはただの加護じゃない。赤い瞳がぎらついて、そこと重なるように私には見える剣が降り下ろされる。


「食らえええええええ!!」


 私は目を逸らさずに真っ直ぐにそこを見つめてた。だけどその時、横から何か柔らかい物が勢い良くぶつかってきた。


「だめえええええええ!!」

「きゃっ!? シルク様?」


 私達は勢いのままに横倒しになる。だけどそのおかげで親衛隊の剣は避けられた。地面にめり込む奴の剣と私達が地面に倒れるのは同時だった。


「大丈夫セラちゃん?」

「ええ、だけどシルク様……なんて無茶を」


 だけど私がそう言ってもシルク様は優しく微笑んで優しい言葉を掛けてくれるだけ。だけなんて言い方も失礼だけど……自分が近接戦に向いて無いことは分かってほしい。

 それにただでさえ後衛の防御力は低いんだから、一撃貰うのだって後々考えれば痛いこと。なのにこの人……もう何でこんなに屈託無く笑うのかな。

 私が自分から様付けしちゃうのってアイリ様とアギト様以来だよ。ガイエンは立場上仕方なくなだけ。だからまさかの三人目が居るとは自分でもビックリ。

 それにエルフじゃないからね。人は一番のライバルなのに……って自分的にはそこら辺はどうでも良いことか。


「ちっ!」


 ちょっと和んでるとそんな舌打ちが聞こえた。声の方を見てみると充血した目が周囲を這って私達を捕らえてる。

でも何だかおかしい……別にあんなに目を動かす事じゃないはず。なのに奴はまるで一瞬私達を見失ったかのようにそうした。

 目が悪くなってるとか? ううんそれはちょと考えられない理由かな。もっと別な……夢中過ぎる感じ? 一点の狭い範囲に夢中に成りすぎてるとか。


 だから視野が極端に狭くなってる? 正面同士の戦いならそれはやっかいな事だけど、不意の乱入には気付けない。

 だけどやっぱり一度視界に捕らえられたら厄介なのは変わりない。上に乗ってるシルク様のせいで動けないし。このままじゃ二人ともあの剣の餌食に成りそう。

 まあそれもこのままなら……だけど!


「シルク様! 動かないでくださいね」

「え? 急いでどかなくちゃって思ったんだけど……」

「いいから取りあえずそのままで!!」


 私は大声でシルク様をその位置に止まらせた。勿論これには訳がある。だって粋なり動かれて流れ弾に当たったり、狙いが動く事で予想出来てる親衛隊の動きが変わるのはイヤだからね。

 取りあえずこの瞬間この体勢で我慢する。


 けれどようように戦闘とは思いがけない事が起きるものである。てかあり得ないだろ! って言いたい。まあ地面ってのは土がむき出しなら掘り返したりとか出来るように成ってるから、多少は岩とかが敷き詰められたりしてるのよりも壊しやすいだろうけども! 

 地面にめり込ませたまま剣を振るうってどんなバカ力なのよ! こっちは抜いてから来ることを予想してたのに、モーションの短縮されちゃった。


「二人まとめて叩っ斬ってやる!!」


 そんな言葉と共に地面を激しく抉りながら迫る剣。これだけの力の攻撃は受けるわけにはいかない。パワーもスピードも想像以上に成ってる気がする。そう、前の加護よりもスゴくなってる。

 認めたくはないけど、多分そう。でもだからって私達は負けないわ! 負けるなんて事出来るわけがない! きっといろんな場所で誰もが頑張ってる筈だもの。

 早々にリタイアなんかしたくもない。だから誤差修正、狙いを改めて、そのイメージを固定し解放!!


「そんな事、させないわよ!! 聖典!!」


 その瞬間、真横から親衛隊の武器めがけて光の光線が過ぎ去った。そしてその切っ先に見事に当たり剣を弾き飛ばす。


「なっ!?」

「――っつ、食らいなさい! 生憎、今のアンタには見えないでしょうけど」


 私は私のイメージを解放する。頭に走る幾筋もの閃光が聖典と私を繋いでる。そして一斉に放たれたイメージを受けて聖典は動き出す。

 四方八方からの連続攻撃。頭には全ての聖典の動きが入ってきてイメージと視覚と後は直感で全てを狂い無く操ります。

 今操ってのは同時で十体以上……かなり脳に負担が掛かる感じ。だけど無理してでもやらなきゃ……

 聖典から放たれた光線が幾度も親衛隊に降り注ぐ。私はシルク様を庇うように抱いて後ろに下がります。少し派手に成るからね。


「ぐあああああああああああ!!」


 降りすさぶ光線の爆発が次第に大きく成っていきます。だけどまだ足りない。数で攻めても、予想以上に加護の力は強大です。カーテナの加護ーー自身に掛けられるのはこれ以上無い頼もしさがあったけど、逆になるとこれほど厄介な力も無いですね。

 それに本当の加護はこんな数十人にだけ掛けるものじゃなく、同種族全員に最高峰の補助魔法を一斉掛けだから考えたら凄い。

 これ自体もバランス崩しの称号に負けない力。だけど今は、そのバランス崩しのバランスまでも崩れてる感じなのよね。


 何で肌が黒く成っちゃうの? それにガイエンに至っては最早化け物だったし……カーテナには今や得体の知れない力が更に加算されてるのかも知れない。

 でも通さなくちゃ……幾ら堅くても、凌ぐだけじゃこちらもじり貧だもん。数を減らして行けなきゃ、いつかは押されてしまう。だから巻き返すきっかけをここに賭ける!

 嵐の様な連続砲撃の中をそれでも進もうとする黒い親衛隊。もうなんかそれはホラーっぽい。肩を抱いてるシルク様が「ひっ」ってちょっと怖がってるし……私は数機を自身の周りに集めて腕を伸ばす。


「こんな物かよ……自慢の……聖典ってのは!!」

「こんなもんかどうか、それはこれを食らって判断しなさい!!」


 八機の聖典が私の周りを回りながら、腕の先に光が収束していく。四機じゃ足りなさそうだったから、更に増やしてきっとこれなら通るで筈。

 威力は四機の時の陪乗。制御が難しいけど、これ位じゃないと一気に奴のHPは削りきれないと思う。腕の先の光は大きくなり、それに伴って聖典が回る軌跡に光の円が現れる。

 そして徐々に膨れ上がった光からは青白い放電が周囲に放たれてる。もう十分だね。聖典の回転で巻き起こった風が髪を靡かせてる。いよいよこの時。

 私は指を二本尽きだして叫びます。


「聖典八相収束砲、ブレイク!!」


 その瞬間肥大した光線に飲み込まれて一瞬音が周りから欠き消えた。だけど直ぐにその静けさは吹き飛びます。一瞬の静寂を次の瞬間には切り裂く力……これが八相の威力。

 私は体が押し返されない様に必死に耐えます。前方は真っ白な光が覆ってる。だけど私には見える。真っ直ぐに向かったこの収束砲が奴にぶつかるを……でも、だけど!


「しぶとい!!」

「んぎぎぎぎいぐぐぅうぅぅぅぅ!!」


 親衛隊の奴は両手を尽きだして収束砲を受け止めてた。信じられない事だけど、今日だけでそんな事が幾つも起こってるから驚くよりも、私は更に押し込みます。

 でも八相は強大過ぎてあまり上手く制御出来ないんだよね。でもここは根性の見せ所……これが通らなかったらきっと戦いに影響しちゃう。


 加護……ううん、もうあんな姿なら呪いとかの方がしっくり来るこの力。なんてタフなのよ! それに比べて私の体はひ弱です。女だからかもだけど、既に自身の体を支えるのも辛い。それに収束砲も今にも弾け飛びそう。この腕を落としたら、きっとそうなる。

 でも腕が信じられないくらい重い……いつもは一瞬だけだからそんなに気にならなかったけど、収束砲を、しかも八相を続けるのがこんなにきついなんて。一秒がとてつもなく長く感じる。

 早く早く通ってよ! と叫び続けても焦った気持ちじゃ上手く制御出来ない。それに思考もいろんな所に拡散しちゃって、これじゃあ気持ちが乗らない。


(もう……だめ……)


 そう思った心。私はこんな雑魚にも負けちゃったんだ。すると何だか力が抜ける。腕が……落ちてい――


「セラちゃん! 頑張りましょう! 私も手伝うから!!」


 ――かない。私の腕はもう二つの更に白く華奢な腕で支えられてます。そして優しくて心に染み入るような声。元気をくれる言葉。

 そこには銀髪を靡かせたシルク様が優しく微笑んでました。私は最近良く思ってたんだよね。この笑顔……反則だって。

 なんだかずるいよ……私女のに、それでも保護欲掻き立てられちゃうよ! 守ってあげなきゃ……それに私がここを預かってる。

 私がアギト様に言ったんだ。


【任せてください!】


 と。それなのに私が真っ先に諦めたら周りのみんなの頑張りまでも無駄にしてしまう。エルフだけじゃない彼らが、ここまで協力してくれてる。それだけで凄い事なのに、この国の私が誰よりも頑張らなくてどうするのよ!!


「やって……やります!!」


 支えはシルク様に任せて私は集中モードに入る。今まで無駄に流れてた力の流れをコントロールして、微妙な聖典同士のズレも修正。

 効率よく……そして効果的にを目指します。聖典との繋がりが何だか今までで最高の物に成っていく感覚がある。


(行ける!!)


 私はそう思い、瞳を開けて前を見据えます。


「セラちゃん?」

「やりましょうシルク様!!」

「はい!」


 私たちは強引に一歩を踏みしめた。そして力強く指を突き出す。真っ直ぐに胸を張って!


「「行けええええええええええええええええ!!」」

 二つの声がシンクロして響きます。そして修正が加えられた聖典八機は一糸乱れぬ動きに違う光が加わってました。それは後光の様な黄色い光。黄金と言った方がいいかも。

 そんな光を聖典が出してるから、自然と収束砲も色を変えていきます。だけど変わったのは色だけじゃない。手前で膨れ上がった収束砲はさっきよりも姿を小さくして親衛隊に向かいます。


 これが調整の結果。更に効率よく収束した光の形。これが受け止められた、更に厄介な事をしなくちゃ行けない。でも私はやれると確信してます!

 腕を掲げたまま黄金に変わった光を受け止めようとしてる親衛隊。そしとうとう白い部分が終わり全てが金に染まったその瞬間・・収束砲は弾かれる事無く一気に親衛隊の体を覆い尽くします。


「ぬあああああああああああああああ!!」


 そんな声と共に一気に減っていくHP残量。流石にこの光景に周りの戦いも止まってます。そして巨大な黄金の光はある程度の所で親衛隊の所で大きく大爆発を起こしました。巻き起こった粉塵と粉煙で一気に視界が無くなります。


「やったのかな?」

「手応えはありましたよ」


 そう確かに手応えは感じた。だけど直前でのこの爆発でやれたのかはわからない。私たちは必死にこの煙の先に目を凝らします。

 そして薄れていく煙の先に影が見えました。立ったままに見えるその影に私は思わず


「そんな……」


 と言ってしまう。だって……これで倒せ無いだなんて。だけどその時、未だに私の手を繋いでくれてるシルク様が言いました。


「セラちゃん……結論付けるのはまだ早いかも」

「え?」


 シルク様のそんな言葉に、私は再び前方に目を凝らします。すると煙も完全に晴れて来て確かに確認できる立ち姿。でも……確かにそこに生気は感じられない。

 そして唐突にその親衛隊は支えが無くなった人形の様に前の方へおもいっきり倒れたんです。HPを確認すると確かにゼロ。そして目に見えて奴の色があせていきます。

 それは私たちの小さな勝利を意味してました。でも自分たちの中では決して小さくない勝利。


「良かった……」


 私のそんな言葉がかき消される位の雄叫びが周りから沸き立ちます。


「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」


 そしてそれぞれが親衛隊に一斉に再び切りかかった。それは猛攻と呼べる代物です。私のこの小さな勝利がきっかけでみんなが奴らを「倒せる」そう思ってくれたみたい。

 だけど油断は禁物……数は依然として向こうが多いんだし、誰かがサボって勝てる相手じゃない。むしろ今、更に頑張らないと行けない瞬間だ。

 だから私は、小さな勝利を早々に心の片隅に追いやって聖典を再び空へ放つ。だけど思い出すと、この頭痛がぶり返してくるみたい。


「っつうう……」

「大丈夫? セラちゃん少し休んだ方が良いですよ。頭の中までは私でも回復出来ないですから」

「大丈夫です。今休む訳には行きません。折角ここに来て風が私達側に吹き始めてる。地の強さでも、数でも上回れてる私達が勝つには、ここで踏ん張るしかありません。

 だから大丈夫!」


 この炎に包まれつつある小さな村。だけどね、跡形も無くなるだなんてやっぱりイヤだよ。そして私達が磨いてきたスキルとかはこういう時の為のもの。

 それに私が相手してるのはやっぱり雑魚クラス何だもん。アギト様がガイエンで、スオウも得体の知れない方を追ってった。それに比べてこっちなんて、数は多いけど加護を受けただけのプレイヤーの集まり。

 そんなのに私だけが屈してる訳には行かないのよ。


 激しさを増すそれぞれの戦いで、私の聖典は縦横無尽に戦場を駆け抜ける。親衛隊どものペースを崩して、味方の攻撃の隙を作ってあげれる。

 奴らの視界の狭さ……それを利用して視界の外から攻撃できる聖典はとっても効果的にサポート出来る。


「もう、セラちゃんも無茶しますよね。だけど、しょうがないですね。わかりました。みんなの背中は私が守るから、前だけ見て行ってきなさい!」


 そんなシルク様の言葉に胸がトンと押されたようだった。大丈夫、ある程度の無茶なら直ぐにでもシルク様が回復してくれる。

 それが分かってるからこそみんなもおもいっきりやってるんだしね。私は華奢なその手を握り返して言います。


「頼ます!」

「はい」


 私は手を離すと前へ向かいます。聖典だけでもやっぱり足りないから、頭だけじゃなく体も動かさないと。



 私達の勢いは凄まじく続いた。もう頭の痛さなんて忘れる位に暴れ回った。本当に勢いってのは大事。心が勝ればLROは不足分をちゃんと補ってくれる。

 増える屍の数は圧倒的に親衛隊が多い。次々に・・とは行かないけど、確実に私達は奴らの数を減らしていく。まあ向こうにもヒーラーは居るけど、詠唱は全て聖典が空から妨害した。聖典様様!


「行ける!」

「行けますね!」


 そして誰もが同じように思ってた筈です。この勢いを途絶えさせない為に、みんなが頑張ってました。けれどそんな時です。


【私ももう一度、頑張りますね】


 そんな声がどこかから聞こえた気がしました。そしてそれはどうやら私だけじゃない。周りのエルフ達は親衛隊も含めて動きが止まってます。

 でもそれはどうやらエルフにだけ聞こえた声みたい。そして私達はその声の主を知っています。アレは……きっとアイリです。


 この心を繋ぐ様な温もりはきっとそう。何かで今、私達は繋がってる。そしてそれはもしかしたら親衛隊にも伝わってるのかも。そんな淡い期待を込めて今なら、戦わずにどうにか出来ると思った。

 でも次の瞬間そんな期待は砕かれます。唐突に寸断される炎の壁。そこから現れた一体の化け物によって。


「今の声はアイリ……ここに来るか? それも良い。なら私も今度こそ……な」


 そんな事をブツブツ呟いて現れたのは下半身が球状に成って浮いているガイエン……そうガイエンだけ。それはつまり一つの事実を示してます。


「セラ、そんな顔せずとも分かるだろう? おまえ達の希望も、アイリの願いも摘み終わった。さあ、アルテミナスの新たな創世歴をここから始めよう!」


 その瞬間私達に降り掛かった重圧はとても重く、まさに今のガイエンは絶望の象徴。このタゼホの戦いはまだまだ終わらない。

 第百十話です。

 この話は結構アイリの話と時間軸は一緒でしたね。だけど最後の方からはアイリが駆けだした先になるのかな。いや、それはこれからかな。とうとうガイエンも再登場して、セラ達はどうなるのか!? 

 てな訳で次回は金曜日に上げます。ではでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ