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合唱魔法で繰り出されるのは広範囲を覆いつくす事が出来る範囲魔法だ。速く移動する僕を捉えるには確かにそれが一番いい。どれだけ速く動けたとしても流石に一気に広範囲を攻撃されたら逃れるのは厳しい。だから範囲攻撃は間違いじゃない。
けどどうやら、かなりあの人は無理してる。それはコードをみればわかる。コードは余裕があれば綺麗に紡がれるみたいなのがここ数日の検証でわかってる。同じ人が同じ魔法を使ったとしても紡がれるコードには変化が生じるんだ。勿論、内容が違ったりはしない。それだと別の魔法になるしね。
なんというか、あれだよ。直筆の字が綺麗か汚いかの差みたいな? 綺麗な字は読みやすく、ちゃんとその文章自体が整ってる。けど汚い字は掠れてて所々に読めない箇所があったりする……みたいな違いだ。どうして実際にコードを書いて発言させてる訳でもないのに、そんな変化が出てくるのかは正直わからない。
けど魔法にも失敗自体があるから多分その要素がこれなんだと思う。僕は魔法自体ほぼ使わないから詳しくないが、ローレが言うには詠唱に込める集中力や、詠唱の発音とかがコードの綺麗さや汚さに繋がってるんじゃないかという事だった。
かくいうローレが使う魔法はとてもハッキリとしたコードだった。けどあいつには簡単な魔法は使ってくれないから強力な魔法になっちゃうんだが、強力な魔法程、詠唱は長く集中力がいる物になるが、あいつの詠唱するコードに汚さは一切なかった。そこは流石だと思った。
それに比べて今の奴が詠唱してる合唱魔法はとても汚らしい。所々消えかかってるような部分もあるし、やはり同時に詠唱をするのはとても難しいんだろう。まあ普通はこんなの見えないから、一人で合唱魔法を唱える奴なんて驚愕でしかないんだが……相手が悪かったな。
「何をしている?」
ブシさんが何かを察したのか、鍔迫り合いをしながら言ってくる。何となくブシさんへの対処法もわかってきた。どうやらブシさんはたった一つのスキルを極めてるみたいだ。それもカウンター系の奴。だからこっちから彼に攻撃するのは得策じゃない。あえて向こうから攻撃させた方がいくらかマシだと気づいた。
けどまあ純粋に剣術では勝てないんだけどね。僕は二刀流でごり押ししてるから何とかなってる感じだ。でもブシさんにばかり構ってると、他の奴らが首取りに来るからね。はっきり言えば早く合唱魔法を放ってほしい。既に仕込みはすんだ。
こいつらの猛攻を耐えるのにも既に限界が近いんだ。まさかこんな状態で僕が何かこの魔法に対してするとは思ってないだろう。ついに完成したのか、合唱魔法を唱えて奴の足元に四重くらいの魔法陣が浮かぶ。
「これで終わりだ。合唱魔法『アイシクルランド』」
周囲が一斉にキラキラしだす。温度は急激に下がり、僕の体に突如氷がまとわりついてくる。とげとげしい氷がキラキラとした粒子に触れる度に僕の体を氷で覆う。この範囲魔法はこの小さな氷の粒子に触れると一気に対象を凍らせる魔法だ。
粒子一度で凍らせる範囲は狭いが、なにせ数が多い。粒子を避ける事なんか実質不可能。いくら早く動いたとしても……だ。だからこれで確実に僕の動きを止めて、そして前衛達の攻撃で僕自身を木端微塵にするんだろう。体にまとわりつく氷で動きが阻害される。
そしてそんな中、更に粒子に触れてどんどん僕の体が凍らされていく。顔にも粒子が当たり、半分くらいが一気に凍る。誰もが僕の敗北を確信してる。ここにいる奴らだけじゃなく、きっと映像越しに見てる連中だってそうだろう。けど……僕はこの時勝利を確信したよ。なぜなら、この氷の粒子が突如としてテア・レス・テレスの奴らにも牙を向いたからだ。