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テッケンさんの攻撃は決まった。確実にダメージが入ったはず。土埃が晴れていく。するとようやくレシアの姿が見えてきた。
「レシ……ア」
私は息をのんだ。だって……レシアの体がボロボロのぐちょぐちょになってたからだ。既にレシアと判別できなさそうなくらいデロンデロンになってる。
「そんな……」
「沢山の生命体を無理矢理詰め込んだ弊害なのかもしれない。側が内包されてる物に耐えられなったみたいだな」
マイオさんが今のレシアを見てそういう。確かにそんな感じだ。レシアの中から異物が生える……そしてそれがはじけるみたいな事を繰り返してる。どうやら前の領主の実験は失敗してたみたい。元々、あの卵の外ではそんな長く形を保ってられないのかもしれない。
ダメージを受けた事でレシアの崩壊は加速したんだ。
「子のままじゃレシアが! どうにか出来ないですか?」
私はレシアを救う方法をマイオさんに尋ねる。けど彼は頭を横に振るうだけだ。
「ごめん。でも彼女もあんな状態よりは、静かに眠りたいと思うんじゃないか?」
そういわれて以前のレシアの言葉がよみがえる。
『眠い』『もう寝る』『起こさないでよ』
思い出すのはそんな短い言葉だけ。それに考えてみれば、レシアは怠惰な子だった。いつだってグータラして寝てる子だった。あんな苦しそうなのは、レシアは望んでないだろう。
レシアは崩壊しながらも暴れてる。それをテッケンさんとオウラさんが防いでる。たまに飛び散る破片はセラさんが聖典で焼いてブシさんが切ってる。危なげはない。既にあのレシアの弾は出尽くしてるようだ。最後に魔王みたいなのが出てくる事もなさそう。
動物とか昆虫的な部位があふれてる来る程度。一体いくつ内包してるんだって位に出てくるが、脆いからかそこまで苦戦する事もないみたいだ。
「レシア……くるしそう……」
「そうだな。終わらせてやろう」
「……はい」
私は武器を構えなおす。いつまでもあんな状態でいさせるなんて可哀そうすぎる。だから一刻も早く……らくにしてあげるんだ。本当は生かしてあげたかった。けど……その術が今はわからない。だってレシアは既に形を保ってないもん。
流石にアレをレシアと呼べるかというと……自信ない。元に戻ってくれるのならありがたいが……レシアは出てくるなにかか消える度に小さくなってる様に見える。でも出てくる全てを倒さないとあれは止まらないだろう。そしてその時、あのレシアが消える時。
どうしようもない……ないよ。
私たちは皆で一斉にラッシュをかけた。そしてものの五分程度でレシアだったものは何も吐き出さなくなった。それは今や小さなジェル状になって、ごぽごぽ言ってる。そして見てる傍から小さくなってくそれ。もう何もしなくてもきっとこれは消えるんだろう。
「結局、何も分からなかったな」
「レシアの事ですか? それとも、前領主の奥さんのことですか?」
「どちらもだよ」
そういうマイオさん。けどそこで何か思い出したようにインベントリから一つのアイテムを取り出した。
「何か、起こるかもしれない」
それは『魂の酌量』というアイテムだ。白い細長い紙。なにか関係ありそうなアイテムだったし、何か起きるかもしれない。私たちは静かに見守るなか、マイオさんが消え行くドロドロにそのアイテムをそっと触れさせる。