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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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あの子の想い

 僕は湖に落ちて絶体絶命の中、夢を見た。それは知りたい子と、今日出会った子の過去? 何か分からないけどそこには幸せが溢れていた。

 夢から覚めると僕は城の中だった。どうやらアギト達に助けられたみたいだ。そして城から見たのは求め続けた彼女の姿。それはあの写真のままだった。でも今の自分には彼女を救う術がない。それに問題は山積みだった。僕達は取りあえず目の前の事を精一杯やる事に……そしてたどり着いた場所で僕は自身の深刻差を知ることになる。


「ねえねえ、サクヤは私の考えた物語聞いてくれる?」

 晴天の空の下、御花畑の庭で彼女は私に柔らかな笑みを向けて聞いて来る。

「ええ、いつでも。私はアナタの為に作られた存在ですから」

 そういう私に、決まって彼女は怒るんだ。

「違うよ。サクヤはサクヤ! 私の友達でお姉さんで……そしてお母さん、なんだよ。作られたなんて言わないで!」

 栗色の長い髪を陽光に揺らして純白のドレスが翻る。彼女は怒って背を向けて御花畑に座り込んでしまった。彼女の頭からはプンプンみたいな擬音が聞こえるみたいだ。

 私はここのシステムから作られてるから彼女の感情を直に感じることが出来る。今は怒っている……だけど本当は寂しくて後ろからギュッとされて誰かの優しさが欲しいんだ。

 私は彼女の後ろに膝を立てる。そして後ろから彼女のか弱い体を抱きしめた。

「ごめんなさい。そうですね、私はアナタの友達でお姉ちゃんで母親です」

 彼女の花の様な香りが私は好きだった。柔らかく暖かな肌の温もりも私には本当はないものだ。彼女はだけどまだ機嫌を直してくれなくて花びらの様な唇を尖らせて言う。

「アナタなんてヤだよサクヤ。友達や家族はそんな呼び方しないの」

 私は彼女の頭に顔を埋めるようにして答える。

「はい、ごめんなさいセツリ」

 するとようやく彼女は機嫌を直してくれて大きな瞳を優しく閉じて私の方へ体を向けて抱きしめ返してくれた。

「ふふふ、サクヤは素直だね。それじゃあ私の冒険探を聞かせてあげる」

 そう言って彼女は私の手を引いて湖畔のテラスに連れていく。二人してテーブルを囲い椅子に腰掛け、彼女はウインドウから大量の原稿用紙をそこに出した。

「なんですかそれ?」

「私が考えた物語。ドキドキワクワクハラハラキュンキュンの冒険活劇ね。もちろん主役は私だよ」

 キラキラと顔を輝かせて百面相する彼女はとても可愛い。言ってる事は良く解らないけど。

 「コホン」と前置きをしていよいよ読み始めようとしたときだった。一際強い風が湖を滑るように駆け抜けて大量の原稿用紙を舞上げる。

「ああーー!」

 彼女は悲鳴と共に落胆する。原稿用紙は湖の上に落ちていた。

「うう~最高傑作だったのに~」

 瞳から溢れる涙は大粒だ。目を覆うぐらい。この空間はちょっと過度な表現のしすぎな気もするけどそれが彼女は似合っている。

 私は歩み寄りそっと彼女の肩を抱いた。

「大切な物だったのですか?」

「そうだよ。サクヤや……お兄ちゃんに聞かせる筈だったのに」

 私は彼女の為に必死に考える。

「もう一度書くことは無理なのですか? 私も多少なりにはお手伝いします」

「ほんと?」

「はい。そうセツリが望んでくれるなら」

 私達は二人であれこれ言いながら原稿用紙に綴られていた物語を再び紙に納めていく。だけど元のままじゃ支離滅裂。

 ほとんど一方的に話し続ける彼女の話を私は時々意見しながら綴っていった。

「そう言えば、このお話のタイトルはなんですか?」

 私は何となく聞いてみた。彼女の綴る物語のタイトルが気になったんだ。すると彼女はぽつりと言う。

「ねえサクヤ、こんな冒険ができたらいいよね。体を目一杯動かして、自分の運命を切り開くの。でも実際の私にはそんなの無理なんだよね」

 湖畔を見つめる彼女の横顔がなんだか儚げに見えた。風に揺れる柔らかな髪はとても綺麗なのになんだか涙が線を引いて飛んでるよう。

 だけど次の瞬間には私の方を向いて元気な顔を咲かせて彼女は教えてくれた。

「タイトルは『命改変プログラム』だよ」

「いのちかいへんプログラム? ですか?」

 私の疑問符に彼女は両手を一杯に広げて陽光を受け止める。

「うん! 私の夢を綴ってるんだ。体を一杯動かして、沢山の仲間に出会って、自分の運命を切り開くの。そんな自分に、私はなりたいから。この場所なら……私の命の改変をしてくれた場所での物語だから『命改変プログラム』」

 私は彼女を見つめる。愛おしい彼女を。それはとても幸せな日々でした。


「今のは……」

 僕の腕の中のアイテム『思い出の結晶』が光を失っていく。僕は掌のアイテムを見つめて次第にその腕が重くなって行くのに気付いた。

 水の中では自身の防具すら重い。というかLROでは泳ぐ系のスキルを拾得しとかないと泳ぐのは不可能だ。

 なので僕は為す術なく湖の底に沈んでいた。水中で泳げなかったらHPが少しづつ減って行く。このままじゃ僕は確実に終わりだ。

 落ちるに連れて意識も朦朧としてくる。僕の手の中からアイテムがこぼれ落ちて行った。力が全然入らない。

 諦めたくない……諦めきれないのに僕には為す術がない。少しだけあの巫女さんの事が解ったのに……。聞きたいことも一杯有るのに、視界が周りの明るさとは反比例して暗くなる。

 その時、何かが弾けるような音がした。そして支えられる僕。何とか顔を動かすとそこには僕の手を引く小さな姿があった。

「テッケン……さん?」


 目を覚ますとぼんやりとした視界の中に心配そうな顔した女の子が移った。

「セツリ……」

 不意に口から出た言葉に女の子はプルプル首を振る。ああそっか……この子はシルクちゃんだ。てかセツリな訳無いのに、何言ってるんだろう僕は。

 そして次に聞きなれた男の声。

「おう、やっと起きたかスオウ」

 アギトは呆けている僕の体を起こしバンバン背中を叩く。やめろよな痛いだろ。

「あんまり心配掛けるなよな。まあ、結果的には良かったけど」

 そう言ってアギトはあの後の事を教えてくれた。

 僕がフクロウに攻撃を受けて湖に落ちた後、巫女さんはその場にヘたり込んで動かなくなったらしい。だから三人はフクロウの攻撃を凌ぎつつ湖へダイブして僕を救出。その場からの撤退に成功して今に至るというわけだ。

 僕は周りを見回して見当たらない彼の事を聞く。

「テッケンさんは?」

 するとシルクちゃんが優しく教えてくれた。

「周囲を見て回って貰ってます。彼は策敵スキルが豊富ですから警戒中と言うわけです。後はこの城の探索です」

「城?」

 僕はそこで初めて自分のいる場所に気付いた。辺りは石造り。荘厳な感じがする調度品が所々に飾られてると思ったらここは湖の中心にあった城の中なのか。

「はい。運良く入れたんですよ。ここがなかったら私達は全滅でした」

 どうやら泳ぎスキルは泳げるだけでHPが水中で減るのに変わりは無いということだ。

 良く生き残れたよホント。

「本当だな。やってみなくちゃ解らないって事は良くあるけど、ここまで事前の情報と違うのは初めてだ」

 アギトも今の状況に混乱してるみたいだ。それはきっと後の二人も同じだろう。

 シルクちゃんは努めて明るく振る舞ってる感じだし。僕は二人に水の中で見たことを伝えた。あれがこのクエスト攻略には重要な気がしたんだ。

「あのNPCは元は医療用空間時にセツリの為に作られた奴って事か?」

 いぶかしむアギトが顎に手を当てて聞いて来る。こいつ考え込むと何故に耳が動くんだ? LROの無駄な感情表現の結果の癖か? 緊張感が削がれるな、気を引き締めないと。

「多分そうだと思う」

「でもどうしてそんな全く別の存在の筈の彼女がLROにNPCとして居るんですか? おかしいですよ」

 シルクちゃんの意見は尤もだ。だけど既に謎は多すぎる。セツリもそうなんだ。

 だけどおかしい事には意味がある。彼女がここに居る理由はアンフェリティクエストに関係が有るはずだ。

「じゃあ、どうするんだ? 倒す事もままならないんだぞ。それにそれじゃ倒していいのかも解らない」

 確かにアギトの言うとおりだ。あの巫女さんをこのまま倒していいとは思えない。彼女は何かおかしかった。あれも気になるんだ。

 するとそこにテッケンさんが走ってやってきた。

「みんな来てくれ! 見せたい物がある」

 いつも冷静なテッケンさんらしくないまくし立てる様な言い方だった。僕が起きた事に気付くと親指を立ててくれた。僕はお礼をしてテッケンさんの後に続き走り出す。

「何が有るんだよ?」

「見れば解る」

 アギトの質問をテッケンさんは下に切り捨る。それだけ急いでるんだろう。あるいは言葉じゃ説明しにくいとか?

 僕たちが長い通路を走ってたどり着いたのは城から少し突き出したベランダ部分。そこで要約気付いたけどここはまだ水中だった。

「この城には不思議な膜が張っている様で水は入ってこないんですよ」

 そうシルクちゃんが教えてくれる。いやそれもびっくりだけど湖畔に出てた部分は一部だったのか。

「ここは元は火口に広がった大きな昔の国って設定なんだよ。この城はその名残。町は湖に沈んだけど突き出した城の部分に橋を架けたんだってさ」

 なるほどね。何のために? だけどのそんな疑問は目の前の光景にかき消された。

「あれだ」

 そう言ってテッケンさんが指した場所には大きな木が君臨していた。多分、城の中庭の様な場所。そこに聳える巨木の枝は周りには伸びずに中の物を守る様に、捕らえるように円を作っていた。

 そしてその中心に透明な膜が見える。その中には栗色の髪が揺れていて探し続けた少女が眠っている。

「セツリ!」

 思わず声を出す。だけど彼女の瞳は堅く閉じられたままだ。僕はウインドウで彼女を確認する。前は騙されたからね。そこに表示されるのは彼女の名前……大丈夫、あそこで眠っているのは本人だ。

 それだけで安心できた。でも直ぐに早く解放させたいと思う。だけど一体どうやれば? 僕は水の中では動くことも出来ない。

「無理矢理助けられるとは思えないけどな」

 そう言ったのはアギト。確かに誰かが泳いで行ってあの枝を剥がすなんて事で助けられるとは思えない。

「どうしましょう」

 手詰まりだった。目の前に助けたくて求め続けた彼女が居るのに僕達にはその方法が解らない。可能性が有るのはあの巫女さんを倒すこと位か……でも。

「取り合えず僕の意見を言わせてくれないかな」

 そう言ったテッケンさんの言葉に僕らは顔を見合わせる。一体なんだと言うのだろう。

「率直に言うとこの上、つまり湖に出る階段がないんだ。下には行けるけど上へはいけない。ここもダンジョン指定なのかも」

「だけどモンスターはいませんよ」

 確かにシルクちゃんの言うとおり今までモンスターに出くわしてはいない。だけど上に行けないなんて。

「どこか見落としてないないのかテツ?」

「隠し通路でも無い限りそれは無いけど……そうだね、これは僕の力不足だよ。君が僕に求める物を提供出来なくて済まない」

 そんな、テッケンさんは十分過ぎるほど良くやっている。それにこの人の策的スキルの高さは今までの戦闘で実証済み。それで見つけられなかったのだから無いのだろう。

 隠し通路は確かに有りそうだけどそう言うのは一種のイベントで現れたりするものだ。僕達は湖に閉じこめられた状態だった。なんて、もどかしいんだ。


 僕達は部屋中を見て回った。確かに上へ続く階段は無くてとにかく隠し通路を探したんだ。だけど城内三階には何も無い。

「どうなってるんだ?」

「解らないな。俺達は元々三階に入ったんだし、下に行ってみよう」

 そのアギトの提案で僕達は発想の転換の元、階下に降りる階段へ。だけどその時テッケンさんが吠える。

「居るぞ! モンスターだ!」

 僕達は一斉に武器を構えた。だけどその姿は見えない。

「まさか……あの山と同じ!?」

「透明仕様ってことか」

 僕とアギトの言葉が続く。そしてベチャリと何かが床を蹴った音が響いた。そして視界が霞む。

「目潰し!?」

 なんて卑怯な攻撃する奴だ。既に見えないのに更に目を潰すなんて。だけど姿が見えないのと視界が無いのでは恐怖の度合いが違った。

 状況が見えないだけで人は混乱する。だけど直ぐにシルクちゃんが回復魔法を唱えてくれた。おかげで目に光が戻る。だけどその時顔面に何かが入った。

 それは言うまでも無くモンスターの攻撃だ。

グシャリ……という音が頭で響く。そして血が飛散する。だけど僕は後ろによろめきながらも耐えて踏ん張った。

 すぐさま僕は鼻や口の切れやすい部分を手で確認する。だけど何も出てはいなかった。だけど……今……

「血が――見えた?」

 それはLROではあり得ない事なんだ。このゲームは血は表現しない。それはいろんな配慮の元に組まれたルール。血は命そのもので、それが見えることで戦闘中にパニックに成る人だっているかもしれないからだ。後は血が流れると生々し過ぎる事も理由かもしれない。

 だから取り合えずこのゲームで体のどこかを切り裂かれたからって血が吹き出る事は無い……筈なんだけど。

 僕にはさっき自身の血が見えていた。気のせい……だったのかな?

 僕は自身に起こり始めた変化を考えないように剣を振るった。

 そして断末魔の叫びと共にモンスターは倒れた。落としたアイテムは『思いでの印』と言うアイテムだ。なんだか関連する様な名前に僕達はそのアイテムを確認する。

 ウインドウを開きアイテム『思いでの印』を押して見る。それは花を散らした様なデザインの栞で説明には

【このアイテムは特定条件化で仕様出来ます】

 そう書いてあるのみ。なんて不親切な説明だ。だけど僕達はこのアイテムに大きな希望を抱いた。。それに階下に続く階段で唯一のモンスターが配置されていた事を考えるとアギトの選択は正しかったのだろう。


 二階もさほど代わり映えはしないけど靴が水没するぐらいには水があった。どうやら完全に膜で守られてるのは三階部分だけということか?

 だけどやっぱり敵はいない。僕達は取り合えず全ての部屋を見て回った。部屋の外に見える木を僕は何度も振り仰ぐ。時々不安になるんだ僕は近づけているのだろうか。

 結局僕達は早々に一階を目指す事に決めた。思いでの印の使用条件も解らないからとにかく進むしかない。

 そして案の定階段にはさっきと同じだろう透明なモンスターが居た。さっきの戦闘でこいつの攻撃は解ってるからそう手こずる事もない……と思っていたら、なんだかさっきより強い? そう感じる。

「なんだかやりにくいです」

 そう言ったのはシルクちゃんで、多分全員が感じていることだ。

「確かにさっきの奴より速い気がする。油断するな」

 テッケンさんが注意を呼びかける。彼は小さいモブリと言う種族だから既に腰位まで水がある。それを見てふと感じた事を口に出す。

「もしかして……この水じゃないか?」

 水の抵抗は靴を水没させるだけでもかなりある。もしかしたら相手が速くなったんじゃなくて自分達が気付いてないだけで遅くなったんじゃ?

「なるほど……確かにそうかもな。俺達が遅くなってるのか。それに前の戦闘で消える瞬間に見た敵は大きな蛙人みたいな奴だった」

 なるほど。水は敵のテリトリーと言うわけだ。アギトは舌打ちして気を引き締め直す。僕達も油断は捨てて戦闘に臨んだ。

 そして再び下品な悲鳴が城中に轟く。だけど今回は結構苦戦した。そして再びアイテムが出る。今回は『思いでの欠片』黒ずんだ汚い紙だった。そして説明は前回と一緒だ。


 一階は暗くジメジメした空気が溜まっていた。そして水位は腰位まで来ている。テッケンさんは既に頭まで埋まるからシルクちゃんに人形の様に抱えられている。なんて羨ましい体制だ。

 だけど、そんな気持ちとは裏腹にこれは不味いと僕達は思っていた。

 だってこれじゃ、まともに動けない。かなり遅くなる。もしもあのモンスターと戦う事になったら今回はマジでやばそうだ。

 それに疲れるから口数も減っていく。城内には僕達が水をかき分ける音だけが響いていた。

 一階も別に代わり映えはしない。ただ水圧の関係か閉じた扉は開かなくて開いてる扉の部屋だけで回るのは楽だった。

「何もない?」

「うん……」

「そうだな」

「同じく」

 結果はこの通り行き止まりだ。モンスターは居なかったけど、これじゃあ居てくれて道を示してくれた方が助かった。

 こうなったら閉じた扉は壊してでも調べて見ようかと出来ない事を考えているとシルクちゃんが何かに躓いて盛大にこけた。水しぶきが大きくあがる。

「うう~」

 びしょ濡れの少女の猫なで声はなんだかドキドキする。ていうかこんな波もない水で転けるなんて、と思っていると彼女のお尻に潰されたテッケンさんの空気が空しく消えていく。

「テッケンさぁぁぁん!!」

 ガバッと水中から引きずり出すとテッケンさんは何度も深呼吸を繰り返す。

「あの、ごめんなさい」

「ははは……いいよ。おかげで道が見えたんだ」

 そういう彼は僕の腕から飛び出すと再び水中へ。一体に何を見つけたのだろうか。何か水中でテッケンさんは武器を振って床を攻撃してる様にみえるけど・・・そういう物は壊せない筈何じゃなかったっけ?

 だけどそこで「あれ?」とシルクちゃんが言った。良くて見ると何か出っ張りの様な物が見える。あれで彼女は転んだのか。

 そして何度目かの攻撃でその出っ張りが壊れた。そしてゴゴゴ……と言う音がして床には亀裂が走る。いやな予感しかしない。

 そしてその予感は的中した。床は崩れて僕達は水流に呑まれて穴に吸い込まれて行った。


 たどりついたのは最下層だろう場所だ。僕達はかなり流されたようでもう城内かもわからないけど天井を見ると五メートル位ある距離を木の根が複雑に覆っていた。

 地下にしてはかなり広い円上の空間で周囲も結構ある。三メートル位の高さからは常に水が滝の様に流れているからここは街の地下水路とかだったんじゃないだろうか。

 その一つから僕達は落ちてきたみたいだ。周囲に出口らしい物はない。だけど水が溜まった空間に台座の様なオブジェクトがあるのは見えていた。

「ここが最終ポイントかな?」

「だろうなあの台座は怪しすぎる」

 確かにアギトの言う通りあの台座は怪しい。僕達は腰まで覆う水をかき分けて台座に向かい手を掛けた。その時だった。

 大音量の爆発音と雨のように降り注ぐ水しぶきで僕達はよろめいた。

「なんだ一体?」

「テツ!」

 アギトの声にテッケンさんがシルクちゃんの腕の中から答える。

「間違いない無い、敵だ!おそらく今までと同タイプだが大きさが違うぞ!」

 詰まるところはボス級モンスターか? 多分今までは壁か天井にでも張り付いていたんだろう。僕達は一斉に武器を抜くけど、いかんせん足場が悪い。

 その時、水の中を大きな何かが波を立てて近づいてきた。あれなら居場所は分かる。けどこちらの動きが鈍くて対処が追いつかない。

 僕は前方で武器を交差させて敵の攻撃を受ける。それは細くしなやかな何かだった。蛙だというならきっと舌だろう。獲物を捕らえるしなやかで強靱な刃は僕の武器を甲高く響かせて吹き飛ばした。

 そして刹那――僕の胸はその舌に貫かれた。そして同時に吹き出した血が気のせいだとは思えない。何かが落ちる気がする……だけど無意識に僕は奴の舌を掴んでいた。

「アギト……」

 僕の声は曇っていた。口にも血の味が広がる。声を受け取ったアギトは二人と共にラッシュを掛けた。熟練プレイヤー同士の切れないスキルの連続。

 断末魔の叫び、歓喜に沸く声。だけど、僕にはもう何も見えて無かった。

 

 読んでくださってる方々ありがとうございます。そろそろ限界が近いかも知れないです。なんだか段々書く時間が長くなって行って大変です。

 でも出来るだけ頑張るので見捨てないでください。

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