第8話 アイツからの手紙
『 シェリーへ
長い時間が経ってから、俺はシェリーに向き合おうと思った。
シェリーとアメリアという人が描いた「変化するボール」を読んだ。
俺の奥さんが、新聞に紹介されてるのを一緒に見てから買った。
絵本を買うまでに、日本でも流行っていてシェリーの名前や本の内容は耳に入っていた。
でも、自分の手で読むのは怖かった。
たぶん、自分の愚かさをまた知るのが嫌だったから。
絵本の登場した動物の「うさぎちゃん」は、来光夏だろ。
そして、「ネコちゃん」は俺で、「リスさん」はシェリーだろ。
あの動物の住む森は、あの当時のクラスだろ。
俺が、シェリーにアレをしなくて読んだら「クマさん」や「リスさん」以外は、最低だと思ったと思う。
俺は、言い訳になるかもしれないけど。シェリーが勝手にいなくなったあとに、来光夏と別れた。
アイツとこのままいると、自分が最低なヤツになると思ったからだ。
俺が来光夏の話を信じ込む前に、病院の関係者や親に周りの人に聞いたら良かったのにな。
来光夏が来る日じゃないときに、シェリーがいるときに目覚めたら良かったよな。
そうしたら、シェリーは俺と付き合って、こんなことにならなかったはず。
俺や来光夏の人生を狂わす原因にもならなかったよな。
シェリーの人生は、今絵本が売れてるから結果オーライだからな。
シェリーには、悪いことはしたけど。あの時に、俺が暴言を吐いたおかげで今のお前がいるんだ。
でもな、シェリーのあの出来事のせいで、あの絵本のせいで、俺は奥さんや子供にあの頃のことを隠さないといけないんだ。苦しいんだよ。
それに、「ネコちゃん」が「ネコさん」に変わったってことは、モデルの俺も変わったってことだろ。
俺たちのおかげで、お金が稼げたんだから。数百万ぐらい払ってくれよ。
だって、俺の心がお前に傷つけられたんだから。
俺には、子供がいるし、日本は物価高で大変なんだ。
払ってくれるのなら、書いてる連絡先に電話しろ。
あぁ、あの時は悪かったな。お前が、真実を言わずに逃げたせいでもあるけどな。
連絡、まっている。
修 』
シェリーが泣き疲れて寝た後に、アメリアは手紙を読んだ。そして、編集者に電話をした。
「ねぇ、この手に強い弁護士に相談したほうが良いと思う。じゃないと、私、この男を殺すよ」
アメリアは、聞いたことのないぐらいの低い声で言った。
「アメリアさんも手紙を読んだんですね。おっしゃるとおりだと思うので、上司には話をつけて事務所の弁護士にも動いてもらってます。あなたにも、犯罪者になって欲しくないので」
アメリアは「も」がついたことで、編集者もそう思っているんだと察した。
「さすが、仕事が早いね」
「でも、アメリアさん。一番大切なのはシェリーさんの気持ちだよ。彼女が了承したら、その男を裁くように本格的に動くつもり」
「国際的な問題になるし、私たちはよくわからないけど。でも、罪や書類に一生残って欲しい」
「そうね」
「たとえ、こうなるかもと覚悟をしたとしても、実際は想像をしたよりも残酷だった」
シェリーとアメリアと編集者は、この絵本を出版する時に最悪のケースも考えて覚悟はしていた。
でも、優しいシェリーの心を深く傷つける結果になってしまったのだ。
「シェリーさんは、今はどうしてる? 」
「ソファーで、目を腫らして寝てる」
その後は、アメリアたちは仕事の話も少ししてから電話を切った。
なぜ、「ネコちゃん」を「ネコさん」になったのかは、もちろん理由がある。
モデルである修の心が、事故前の時に戻って欲しいという、シェリーの願いだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
修の心は、とても醜いものでした。絵本のネコちゃんが変われたようにはなりませんでした。




