第7話 アイツから離れたはずなのに
修とさきかが絵本の話をしていたときから、数ヶ月が経ったある日のこと。
シェリーの元にあるファンレターが届いた。それは机の上に置かれていた。
アメリアが外出から帰ると、身体が震えるシェリーに声をかけた。
「シェリー、それって」
「うん」
編集者が、シェリーとアメリアが暮らす部屋に、手紙を持ってきたのだ。
彼女の前には、修と書かれたファンレターがあった。
「シェリー、破ろう。そして、シュレッターにかけよう。読む必要もない」
アメリアは、ファンレターを手に持つと、破ろうと力を込める。
「分かってる。でも、何故かこの字と名前に懐かしむ自分もいるの」
シェリーの声に、アメリアは手の力を緩めた。手紙の封筒は、少しだけ破れかけていた。
シェリーの心は、あの二人に苦しめられた過去はあっても、その中に少しだけ良かったこともあった。
今になっても、それがシェリーを苦しめる。嫌なものから離れたはずなのに、十年以上なっても彼女を追い詰めようといてくる。
編集者は、念のためにファンレターの内容を知るために先に読んでから、作家に話して渡している。
このファンレターもその一つだ。
いや、読まなくてもファンレターと呼べないモノ。そこにはシェリーが一生見たくもない名前があった。
「あの編集者!シェリーになんてものを渡すのよ! 」
シェリーの言葉を聞いても、アメリアの怒りは収まらなかった。シェリーの苦しみを隣でずっと見ていきたのだから。
シェリーは、この手紙を編集者から渡されたときのことを思い出した。
「シェリー、本当はこれをあなたに渡したくないの」
編集者の表情は、とても複雑そうだった。
「あなたから、前に聞いた重要人物の名前だったからね」
この担当編集者は、日本にも長く住んでいたし、語学が堪能だった。
シェリーからあの出来事を聞いていて、もし何かしらのアクションが起これば、隠さずに話すという約束をしていた。
「約束を守ってくれてありがとうございます」
編集者は、口角を小さく上げた。
「手紙は、先にいつものように読んだわ。シェリーがどう受け止めるかは、分からない」
編集者は、素直な気持ちでシェリーに話して目を見た。
「シェリー、無理して読む必要はない。読まずに破り捨てても良い。その後から、内容が知りたくなったら言ってね。コピーはして、念のために別媒体で保存してるから」
編集者は、シェリーの気持ちを考えて寄り添った。今は、まだ向き合いたくないのならそれでいい。
もし、向き合いたくなるのなら、それにとことん付き合う人だ。
アメリアは、シェリーに向き合うように座った。
「シェリー、コレ読める?」
「アメリア、横にいてくれる? 」
「いいよ」
「ありがとう」
力なく笑うシェリーに、アメリアは手紙を渡した。
「その前に、ココアとクッキーを取ってくるね。食べて飲みながら、読んだほうがいい」
「ありがとう」
アメリアは、立ち上がって熱々のホットココアとクッキーをキッチンから持って来て、机の上に置いた。
そして、シェリーに引っ付くように横に座った。
シェリーは、一口ずつココアとクッキーをお腹に入れた。
「無理せずに、しんどくなったら。今日はやめようね」
「うん」
シェリーは、涙をポタポタと流しては拭ってを繰り返し時には紙がグチャとなった。
「アメ……リア」
全部読み終わる頃には、ホットココアは、アイスになっていった。
シェリーは、たくさん泣いてアメリアに抱きついた。
彼女の背中を、アメリアはポンポンと優しく撫でた。
読んでいただき、ありがとうございます。