第2話 昔のあの人は、もういない
私がまだ日本にいたときのこと。
修は前まで優しかったけど、来光夏と付き合うようになってから私につめたくなった。
「自分はお見舞いに全然来なかったからって、逆恨みして来光夏に当たるなよ。お前が最近避けてるって聞くよ」
修は、もう事故にあうまでの彼ではなかった。来光夏と付き合っても変わらないといったのに、私の言葉を聞こうとしない。前までは、私の変化に心配して声をかけてくれていたのに。
濡れ衣を着せられた私に、何故か根に持って何かにつけて見舞いにこなかったと言ってくる。
「シェリー、あんたって修のこと好きだったんでしょ。じゃないとあんな修の見舞いに毎日行かないよ」
来光夏に屋上に呼ばれて行くと、恐ろしい顔で言った。
「シェリーは、鈍感だから自分の気持ちに気が付かなかったんでしょ」
確かに私は小さい頃から修が好きだったかもしれない。それが恋愛なのか友達としてなのかは、分からない。
ただ、大切な友達が大怪我をして二か月も意識がなかったらすごく心配になる。友達を失いたくなくて、早く目を覚まして元気になってと祈りながら手を握ったり花を持っていった。
「でも、残念だったよね。私が来てあんたみたいに手を握ってる時に修は目を覚ましたんだから」
私は、来光夏の言葉をもう深く考えないように聞いていた。
「私はね、シェリーみたいにハーフだからって可愛くない。だからね、あんたに負けたくないの。いつも修や周りに良い子ちゃんしてチヤホヤされるのを見ると腹が立つ」
ハーフだから、かわいいトカかわいくないトカ関係ない。私は、普通に修や周りの人と接しているだけでわざと良い子のふりをしていない。
彼女には、何を言っても何も響かないし意味がないだろう。
彼女の言葉を右から聞いて左に抜けていくようにするのに必死だった。
「修は寝てたから、誰が毎日来たか花を持ってきてたかは知らない。でも、馬鹿みたいにあんたが来てたのに私の時に起きたの。修は私を選んでくれたの。だからね、あんたがしたことは全て私がしたことにしてもいいと思ったの。修は、私のものだからね」
来光夏は、オシャレで地味な私にも優しくてよくひっついて来たのに、それはもう誰だったか思い出したくなかった。
本当の彼女は、私を差別して見下していた。私が小学生の頃にハーフをバカにされた時には、男子に怒ってくれたりした。
そんな慰めてくれた優しい来光夏は、もう死んだのだろうか。
「修が心配するから余計なこと言わないでね。彼に言っても、もう意味ないと思うけど〜」
来光夏は悪魔のように笑い、言いたいことを終わったのか、私を残して屋上から出ていった。
私は我慢をしていた涙を流した。もうあと少しで、二人と離れるから大丈夫と言い聞かせながら、持っていたスマホでお母さんに連絡をした。
お母さんは学校に迎えに来てくれて、また何も言わなかった。
私があの日から時々休んだり早退をしたりしても、よく頑張ったと言って抱きしめてくれた。
「来光夏ちゃんの性格が悪いよ。もうあの子を赤の他人って思ったらいい」
「そう、してる」
「そっか、でも辛いね」
「うん」
「あとちょっとでも、しんどいね」
「うん」
「シェリーがいいなら、夏休みまで土日を以外の四日でしょ」
「うん? 」
お母さんが、このときなんていうか想像が出来なかった。
「四日のうち三日休んで、終業式にだけ出て忘れ物がないように全部もって帰ろう。お母さん、その日には元々担任の先生と会うことになってるから、一緒に家に帰ろうね」
「いいの? 」
「大丈夫。しんどくなるぐらいなら休ませますって、事情を知ってる担任の先生には話しをつけてる。これは逃げじゃない。シェリーの心を守るために必要なの」
「ありがとう」
お母さんは、私を今よりも強く抱きしめた。休む代わりに家の片付けや引っ越し準備をする約束をした。
あの二人には、体調が悪くてしばらく休むし、しんどいから連絡は出来ないと伝えた。
小さい頃から体調を崩しがちだったから、特に修には怪しまれなかったのが不幸中の幸いだった。