第10話 真実と繋がりと裏切り
シェリーからの手紙を読み、さきかはすぐさま行動をした。
心のなかは、不安でいっぱいだった。でも、この気持ちのまま家族として、これからも過ごすことは出来ないと思った。
まず、修に内緒で彼の実家に行って義両親にその当時の事故の後の話を聞いた。
「テレビで見たんですけど。事故や病気の影響でその後に人が変わったような性格になるってことを知りました。今後の勉強のために、修くんはどうだったのかと思ったんです。自転車に対して、言動が怖いことがあったので、何か原因があるかなと不思議に思ったんです」
修の両親は最初だけしぶってたが、さきかのことを信頼して話せる範囲で事故後の修について話した。
その後、修の地元の高校と連絡して、当時の担任にも話を聞いたのだ。
だんだんと手紙の内容が真実だという確信になっていた。
そのつながりで、来光夏とも話をすることが出来た。彼女は、たまたま地元に帰っていたが定職についておらず、独身のようだ。
公園のベンチに座って、二人で話しをした。
「奥さん、あの当時は私がバカで最低なヤツだった。シェリーを勝手に妬んで……いや嫉妬をしてね。 」
来光夏は、当時の自分のした行為を今は理解をしていた。
「修に嘘を言って、周りに圧力をかけてね。イジメじゃなくて犯罪をしたんだ。 」
来光夏は、仲良く遊具で遊ぶ幼稚園児を見ていた。どうやら、近くの幼稚園から遊びに来ていたようだ。
「私と修もあの年ぐらいから、シェリーとよく遊んでたのに。私がその関係を壊したんだ」
幼稚園児の男の子が女の子を押し倒した。女の子の泣き声に、慌てて保育士が駆け寄っていた。
「奥さん、修が事故に遭ったの時のことをを詳しく知ってますか? 」
「身体に傷が残っているのは、事故に遭ったせいだって言ってました。それ以外は、言いたくなさそうで……」
「やっぱりね」
来光夏は、アイツらしいなと笑った。
「あの事故は、修が悪いんですよ。轢いた人は、とてもかわいそうでした。」
「どういうことですか? 」
「修は、イヤホンをしてスマホを見ながら、交通ルールを無視して自転車を漕いでたの。車の運転手が気づいてクラクションを何度も鳴らして、ブレーキをしたけど。修は、気づかないせいで事故に遭ったの」
「えっ? 」
修は、自転車で危険運転をしていた。車通りは、少ない道だからと思っていて、すっかり自分の世界に入っていた。
「私ね、その事故現場の近くにいたから。実際に、見たの」
さきかは、修が危険運転をするとは思わなかった。車の運転でもかなり慎重にしていたからだ。修の両親から聞いてない内容に恐怖が押し寄せた。
「それから、自転車に乗れなくなったの 」
「そうなんですね」
さきかたちの子供が通う保育所は、歩くのには少し遠いので普段は自転車で送り迎えをしている。
でも、修が家にいる時は頑なに車で行っていた。
「修くん、迎えに行くでしょ。自転車の鍵を渡しておくね」
「いや、俺はいつも車で行くから。渡すなら、車の鍵だろ! 」
「ごめんね。あの子、自転車のほうが好きだから」
「車も好きだよ!もう時間がないから! 」
修は車の鍵を取って、行ってきますもナシに怒って家を出るのがお決まりだ。
「修は、事故の影響でそのことを忘れていてね。脳に何かあったのかもだけど。事故前は周りに公平だったのが、事故後には自分都合に考える人になったの」
さきかは、シェリーから送られた修の手紙を思い出した。
「修が結婚して、子供がいるなんて思わなかったよ。性格に問題があるから。もしかしたら、うまく隠してるのかもね」
あの手紙を見たから、来光夏が言ってることが分かった。
「私ね。あの時のクラスの担任と今でも会ってるから。自分の行ないに向き合ったり、とにかく話しを聞いてもらったりしてるから。まさか、修の奥さんとこうやって会って話すとは思わなかった」
来光夏は、驚いたなと笑った。
「辛い話しをして、ごめんね」
来光夏はさきかの顔を見て、謝りハンカチを渡した。
さきかは、それで自分が泣いてるのに気が付いた。
「ありがとう……ございます」
「さきかさん。修に何かされたり、思うことがあれば、いつでも話しを聞くからね」
さきかは泣きながら頷いて、来光夏は優しくその背中を撫でた。
保育士につられて幼稚園児が公園を出発した頃には、さきかは気持ちを落ち着けた。
「来光夏さん、「変化するボール」っていう絵本を知ってますか? 」
「うん。シェリーが描いた絵本でしょ」
さきかは、頷いて一通の手紙を来光夏に差し出した。
「来光夏さん、これをみてください」
来光夏は、封筒や手紙に書かれたシェリーの筆跡を懐かしんだ。
でも、シェリーが書いてる内容と添付された修からの手紙にゾッとした。
自分がした行為で、シェリーがどんな気持ちになったのか、修からのおぞましい手紙の内容に後悔と恐怖などの気持ちが襲った。
「私は、やっぱり最低だ。そして、アイツも最低だ! 」
さきかは、シェリーと昔の自分を重ねていた。あの時の恐怖が、どれだけ経っても忘れなかった。
加害者が事件発覚後に、被害者に対してする行いは三つに別れる。
一つ目は、被害者に心からの謝罪をして一生を通して行いを改めて反省して生きていくこと。
二つ目は、逆恨みをして自分が被害者だと思い込み攻撃をすること。
三つ目は、記憶を消して何もなかったように一生を過ごしていくこと。
今の来光夏はギリギリ一つ目で、修は完全に二つ目に当てはまる。
来光夏は、改めて今後何かあったら協力することをさきかと約束をした。
さきかは、今回のことで、心身の体力をかなり削られた。これからどう行動をしようかと考えた。
そしてもう一度、修の実家に行った。来光夏から話されたことや修の事故について改めて詳しく義両親から聞いた。
でも、本当のことは言ってもらえてなかった。
「さきかさん、黙っていてごめんなさい」
修の母親は、いつもさきかに優しく笑顔で接してくれるのに、目の前にする彼女は涙を浮かべている。
「これを見てください」
さきかは、シェリーと修が書いた手紙を二人に見せた。
「さきかさん。息子の大事なことを話さなくてすみません」
「私に、謝らないでください」
さきかに、いつも修の両親は優しくしてくれる。だから、謝られるのが心苦しい。
「謝るのは、シェリーさんにです。彼女は、たくさんの人から被害を受けた人です。心の傷は、もう治らないから」
さきかは、涙を流しながら二人を見て話した。
「シェリーさんは、この手紙にあるように修くんたちに関わるのも、何も求めないそうです。でも、修くんからの手紙でまた苦しんでいて、私にもそうなって欲しくない気持ちで勇気を出してくれだんだと思います 」
修の両親は、泣きながら頷いた。
「どうなるか、わからない。だけど、今の私たちが出来ることで、この出来事に向き合わなければならないと思います」
「分かった。
修の父親は一言そう言うと、スマホを取ってどこかに電話をした。
「あっ、もしもし。修、今日の晩はこっちでご飯を食べよう」
「なんで? 」
「たまには、実家に帰ってお母さんの料理を食べよう」
「そんな、急に言われても。俺には、さきかや子供がいるんだから無理だって」
「さきかさんが、急な用事でこっちに来ててね。ついでに顔を見せてくれたんだ。そのまま、話が盛り上がって、ご飯をこっちで食べようってなったんだよ」
「子供は、俺が連れて行こうと思っても。仕事が遅いから迎えは無理。だから、いけない」
「あぁ、それなら大丈夫だ。さきかさんが、用事がいつ終わるか心配で、迎えとお泊まりはさきかさんのご両親に頼んだみたいなんだ。彼女のご両親も孫と過ごしたいと思ってるから、快く了承してくれたよ。修は、仕事が終わり次第でいいからこっちに来い」
修の父親は、それを伝えると電話をきった。
「さきかさん、修のことは親である私たちの責任よ。さきかさんたちに何かをしようとするなら、何が合っても守るからね」
修の母親は、真っ直ぐとさきかを見て言った。
「はい。心強いです」
さきかは、仮面をつける。
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