疑惑
イラスト、間に合いませんでした。
荒原は炎に包まれ、黒黒とした煙が湧き上がる。
──そんな地獄のような光景の中に佇む影が四つ。
「──さっきからチョロチョロ逃げ回ってうざいにゃあ。とっととくたばれだにゃ」
猫の耳に尾を生やした獣人の影は、荒原を白い光の線で薙ぎ払う。
刹那荒れ狂う暴風と共に切り裂かれた瓦礫が荒れ狂い、二つの影を襲う。
──だが、瓦礫の破片は透明な障壁に阻まれて砕け散る。
「──今度はなんだにゃあ?…生き汚いニンゲンと人造種だにゃあ」
獣人は苛立たしげに瓦礫を蹴散らす。
蹴り飛ばされた瓦礫は砕け散り、炎に飲まれて一瞬で灰となる。
そんな瓦礫の末路には目もくれず、獣人は障壁の奥の二つの影を睨みつける。
片方は息を切らして片膝を着き、もう片方は疲れも見せずに平然と立っている。
そして息を切らす者を庇うように、もう片方が前に出る。
「…何を血迷ったにゃ、破壊神」
地獄に平然と佇む白髪の少年は、しかし無反応だ。
その様子に、獣人はさらに苛立つ。
──先程からずっとこの様子だ。
創造神はずっと衰弱し切っているのに、もう片方の破壊神が庇ってトドメの一撃まで辿り着けない。
「ふざけるんじゃないにゃあ──」
獣人は暗黒魔法を練り上げ、発動する。
膨大な黒い影が渦巻き、二体を飲み込まんと大きな波となって二体に襲いかかる。
──が、黒い波は二体に辿り着く寸前に、霧散する。
そして霧散した魔法の先には、やはり、破壊神が平然と立っていた。
「一体、どうなってるんだにゃ…」
獣人の顔に徐々に焦りが見え始める。
獣人は、魔力が尽き始め少しずつ倦怠感を感じる体に力を込める。
直後、バネのように獣人の体が弾け、二体の目の前にに跳躍する。
獣人は魔力に意識を通すと、右腕から溢れ出た影が変形し、影で出来た不気味な黒い斧が現れる。
それに対し、二体は逃げることもなく獣人と睨み合う。
ようやく逃げるのをやめた二体に、獣人は十分に警戒しながら距離を詰める。
衰弱している方は先ほどと変わらぬ、打開策を探そうと意識を隈なく向けている様子だ。
一方破壊神はこちらを静かに窺っている。
「…どうして攻撃してこないにゃ…?」
獣人は二体に聞こえないような小さな声で呟いた。
二体と獣人は睨み合い、荒れ狂う炎が燃え盛る戦場に、静寂が訪れる──。
こちらから攻めるのは罠かもしれない。
しかし、未だ一度も攻撃してこない二体の様子を考えると、時間稼ぎをして助けを待っているのかもしれない。
──ここは攻め時だ。
そう判断した獣人は二体へ飛びかかり、巨大な闇の鎌を振るう。
これに対し、破壊神は蒼白い氷の大剣を練り上げ、巨大な鎌を剣で受け止める。
──お互いの武器触れた瞬間、暴風が巻き起き、武器の間には二つの魔力が迸る。
ぶつかり合う魔力が高まると破壊神は、反発し合う魔力の勢いに任せて後ろへ跳躍。
その間に地面に片膝をついている創造神を抱え上げ、獣人と距離を取る。
「おお、助かった。ありがとう」
「…まだ…来る…!」
破壊神は眼前を見据えると、光線を発動。
刹那反対からの光線が放たれるが、破壊神の光線に軌道を変えられ、二メートル横を抉った。
それに獣人は舌打ちし、今度は大量の影を放った。
二体は影を迎撃しようと警戒する。
──しかし影は二体に届くことなく広がった。
視界は闇に遮られ、獣人の姿は見られない。
「くそ、罠だったか…!」
そう思ったが、時すでに遅し。
──大量の光線が地へ降り注ぐ。
光線の向こうに、獣人が空を揺蕩って邪悪な笑みを溢していた。
「くっ…」
創造神は光の障壁を張ろうとするが、間に合わない。
光の雨が猛スピードで近づくが、創造神は動くことができずに光の雨を仰いだ。
──しかし光の雨に打たれる寸前、人影が割り込んだ。
人影──もとい破壊神は、大剣を盾に光の雨を受ける。
しかし光の雨は大剣だけでは防ぎ切れず、破壊神の白い肌は抉れ、血が肌を伝う。
神の体はすぐに魔力により修復されるが、破壊神は魔力を制御し、傷の修復を止める。
赤い血が絶え間なく溢れだすが、破壊神は上空の敵を睨みつける。
「まだ庇い続けるつもりかにゃあ?そんな足手まとい捨てちゃえばいいにゃあ」
ケラケラと獣人は嗤うが、破壊神は構わずに獣人へ立ち向かう。
破壊神は禍々しい黒い龍の翼を背に生やし、上空へ飛び上がる。
そしてまた武器を交わし合う。
傷の修復の停止により魔力の消耗は抑えたが、さすがに大剣は先ほどよりも少し弱くなり、徐々に獣人に押され始める。
血は流れ、表情は苦しげに変わり始め、破壊神はやっとのことで鎌を受け流す。
「竜になっちゃえばいいにゃあ…。そしたら楽になるにゃ…。痛みも、苦しみも無い。ただ本能に任せればいいだけだにゃあ」
しかし、破壊神ははっきりと首を振る。
「…決めた。創造神、守る…。守るために…戦う…」
苦しげな表情だが、その目には明らかに覚悟が宿っていた。
その様子を獣人は嘲笑う。
「ははは!はははははッ─!…仲間の竜を一頭も守れなかったクセに、何を言ってるんだにゃあっ!あははっ、傑作、傑作だにゃあ!」
「──ッ!」
一瞬破壊神の顔が強張るが、それでも破壊神はその瞳の覚悟を消さない。
それを見て、獣人は更に嗤う。
「あははっ!散々ニンゲンに利用されたのに…まだ学ばないんだにゃあっ?…アンタは利用されてるんだにゃあ!」
「…利用…?」
破壊神は獣人の言葉に怪訝に眉をひそめる。
「そうにゃ!そうにゃあ!アンタはあの元ニンゲンの創造神に利用されてるんだにゃあ!あんなヤツを庇って一体何になるにゃ?正義?友情?…そんなの存在しないって、前世で散々学ばなかったにゃあ?」
ケラケラと嗤う獣人を、破壊神は睨みつける。
「…お前に…トモダチの…何が、分かる…っ!」
「友達?友達?あはははっ!可哀想なヤツだにゃあ!…ホントはどうせ裏切られるって、気づいてるんじゃないかにゃ?」
破壊神は、睨むのをやめない。
しかし、その瞳にほんの少し、疑念の色が見えた。
──その心の隙を見て、獣人はニヤリと笑った。
獣人から黒い魔力が溢れだし、一気に破壊神へ絡みつく。
破壊神はその魔力を振り解けず、少しずつ侵されていく。
──黒い憎悪が流れ込む。
途方もない殺意。やり場の無い悲しみ、絶望──。
黒い闇に沈み行く意識の中、破壊神は視界の端に、創造神を見つける。
途端に自分のものでない憎悪がひしめくが、密かに理性が残っているのを感じる。
段々何も聴こえなくなる。何も見えなくなる。
──掠れゆく意識の中、大剣に意識を向ける。
そして、ゆっくり持ち変えた。
そして──
腹部に焼けるような激痛が走る。
それは、紛れもなく、自分がやった。
自分が、彼を、救うために…。
自分が竜になってしまったら、彼は、助からない…。
だから、竜化できないほど、衰弱すれば…彼を救える…。
あれ…『彼』って、誰だっけ…。
少しずつ意識が、自我が、消えていく…。
痛みが遠退いていく──。
だけど、それが消えたら駄目なんだと、直感的に思う。
少しでも『彼』を救うために…。
…彼のこと、もう何も、わからない。
だけど、『彼』を思うと、なんだか心があたたかくなる気がするから──。
次回4/16(日)投稿予定。
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