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竜の本性

 破壊神がやってきてから3日が経った。


俺と破壊神はというと、俺が前世でお世話になった格闘ゲームで遊んでいる。


破壊神はたったニ回戦目でコツを掴み、今や俺と五分五分の闘いを繰り広げていた。



彼は感覚的なゲームが得意な一方で、リバーシや将棋に関しては苦手なようだ。


本人曰く、頭を使うのは苦手らしい。


まあ、大破して跡形もなくなった俺の家を見れば分かるだろう。


こいつは間違いなく脳筋だ。



「…で、これからどうするんですか」


俺と破壊神が死闘を繰り広げているなか、ノアは呆れたように問いかけてくる。


そうだ。これからの事を考えなければいけない。


試合を一時中断し、立ち上がる。


破壊神が遊び足りないと不満を口にするが、俺は彼をなだめて、ノアに向き直る。



「このままここにいても、別の神が始末しに来ますよ」


それもそうだ。ずっとこうしてはいられない。



たとえ初めは迎撃できても、数を増やされて攻め続けられれば対抗しきれないだろう。


だとすると、神を統一している大もとを潰すしかない。



「なあノア、絶対神について詳しく知ってる神とか、そういう書物ってないか?」


「知の神なら詳しく知っているでしょうけど…一体何をなさるつもりですか」



ノアは今度は何を、と呆れた目で見てきた。


そんなの決まってるだろう?

俺はただスローライフ実現という目標に忠実に動くだけだ。


たとえどんな困難に見舞われても、俺は決してスローライフを諦めない。



「絶対神を潰す。それで俺のスローライフを手に入れる!」



「はあ⁉」


俺が自信たっぷりに言ってのけると、ノアは信じられないと呆れた目をする。



ノアには俺の言葉が荒唐無稽で馬鹿げたものに聞こえるだろうが、俺だって作戦は考えてある。



「まずは知の神を下して絶対神の情報を手に入れる。ついでに殺しにきた神たちを捕らえて、スローライフの素晴らしさを説いて、仲間にするんだ!」



うんうん。我ながら完璧な作戦ではないだろうか。



情報を制する者、戦いを制す。


知の神を下したら、あとは絶対神の情報を集めながら、やってくる神を改心させて戦力を増やす。


ついでに他の神とスローライフ同盟も結べて一石二鳥だ。



「…問題は、どうやって知の神に勝利するかだ」


 または戦わずにお互い良い条件を出し合って交渉するか。


どちらにせよ、まずは知の神の戦力面や、どうやったら会えるのかなどの情報が必要だ。



ノアは頭を痛そうに押さえながら呻く。


「本気ですか。いくら破壊神の力を借りても、敵う相手ではありませんよ。知の神はこの世の全魔法を使いこなせますから」



なるほど。


魔法というのがどれだけのものか分からないが、戦って勝つのは何となく厳しそうだと分かった。



 それならば、交渉のほうが確実そうだ。


ただし交渉に使うこちらの札は、俺や破壊神が死んでしまったり、無理矢理聞き出しても手に入るものではダメだ。


あくまでも継続的に、俺と破壊神がいつでも自由を制限されずに提供できるもの。


そして絶対神が提示する、俺を討ち取った報酬よりももっと魅力的なもの。


まずはそれを見つけるところからだ。



 まるで謎掛けのような難問だ。



俺が生きていることで成り立つもの。


そして何よりも魅力的なもの。


そんな都合のいいものがあるのだろうか。




「…知の神…会ったこと、ある…」


「本当か⁉」


何という有力情報だろうか。これは期待が持てるぞ。


「友達との、約束。うそ…つかない」


俺とノアは一言も聞き逃さないように破壊神に向き直って耳を傾ける。



「…知の神…変態…」


「「へ、変態?」」



な、なるほど。きっと、知識欲に貪欲すぎて変態呼ばわりされるのだろう。



「…体…求められる…」


「「えぇ⁉」」



突然の爆弾発言。


知の神とは、そっちの方にも貪欲なのだろうか。


ありとあらゆる魔法で拘束してきて逃げられなくされるのか。


なんと羨ま──恐ろしい神だ。



緩みかけた顔を引き締めてノアの方を見る。



「そ、それって…具体的に何を…」


なんと、ノアは一番聞いてはいけない質問をしてしまった。



俺はそっとノアの斜め後ろに近づいて、 いつでも耳を塞げるように構えておく。



「前世の、姿…竜…。珍しい、みたい…」



「…え?どういうこと?」



「あの、その…脱がされたり、とかは…?」


かなり攻めた質問をするノアを肘で突く。


しかし破壊神はノアの質問に、首を傾げた。



どうやら誤解だったらしい。


ちょっと残念──じゃなくて、安心した。



しかし、竜の姿とはいったいどういうことか。


…そういえば俺も今、前世の姿なのだから、破壊神だって前世の姿になれるのかもしれない。


「…もしかして、竜の姿になれるのか?」


破壊神はコクリと頷いた。



「…危ない、から…離れてて…」


そう言うと、彼は光に包まれて、光が膨張していく。


どうやら見せてくれるみたいだ。



離れるってどのくらい離れればいいのだろうか。


ひとまず一メートル離れておく。


でも見た感じ、光が膨張するだけで危なくは見えないな。



光が二メートルくらい横に膨張し、膨張が収まると、しだいに竜の姿に変わっていく。


そして段々と光が弱くなって、そこに一匹の竜が現れた。


「──グギャァァァ──‼」


凶暴そうな叫び声を上げ、こちらを睨みつける。


そして長い尾をゆらりと持ち上げる。



あれ、動物とかが尻尾を持ち上げるのって、威嚇するときだよな?


それに睨みつけてくる目には様々な感情が滾っているように見える。



主に、殺意や憎悪など。



──嫌な予感に任せて、咄嗟に距離を置こうとしたが、遅い。


竜は四本の足で跳躍し、一瞬で距離を詰める。


そして腕を振り上げ、俺を引き裂かんと、鋭く長い爪を振り被ってくる──。


「こんなの聞いてねえぞ⁉」


俺は咄嗟に、厚さ三十センチ鉛の板を竜との間に創り出す。


竜が壁を相手にしている間に距離を置けば、逃げ切れるかもしれない。


そう思って走り出そうと背を向けた瞬間、背中に熱を感じたのですぐに屈む。


刹那、頭上に光の線が走った。


光の線が部屋の壁に激突し、壁が一瞬で抉れる。


圧倒的な破壊力に冷や汗を流しながら、竜の方に振り返る。



竜は鉛でできた壁を、まるで粘土を崩すかのように壊していた。


そして5秒もかからないうちに鉛の壁を突破し、鉛屑を踏み付けながらこちらに向かってくる。



思わず命乞いをしかけるが、相手は竜。


瞳には言葉が通じるような理性は感じられない。


竜は残虐な瞳を、弱者を嘲笑うように細め、牙を剥き出す。


まるで、いつでも殺せるぞと脅しているかのように。



──考えなければ、このまま殺される。


なのに頭が真っ白になって、何も考えられない。



竜はのっそりと近づき、牙を剥きながら迫りくる。


そして大きく口を開き、刃のように尖った牙の向こうに、赤黒い喉が見えて──。



死を覚悟して目を閉じ、蹲ったまま、死が刻一刻と迫る。


──それは十秒、二十秒と長く感じる。



「…お許しください…お許しください…」


いよいよ震えが止まらなくなり、どうしようもない命乞いが喉から漏れる。



涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっているが、すぐに体も噛み千切られてぐちゃぐちゃになるのだろう。


死ぬには早すぎる自分の運命を呪い、絶体絶命のときに動かない脳を恨む。


できれば苦しまないで死にたい。


だからはやく殺してくれ──




「…大丈夫…?」



聞き覚えのある声がして、恐る恐る顔を上げると、白い髪が見えた。



そのまま顔を上げると、残虐な光を湛えた瞳──ではなく、心配そうにこちらを窺う紅い瞳があった。



「うぅ…お、俺は…助かったのか…?」


紅い瞳にはちゃんと理性が宿っている。



「ごめん…ちょっと…暴走、した…」


「全然ちょっとじゃねえよ‼」


本気で死ぬかと思ったよ。


そもそも彼は俺を殺しに来たのだから、いよいよ本性を現したのかと思った。



 急に緊張の糸が切れて、目から涙が滲み出てくる。


──俺、生きてる。うれしい。


これからもスローライフを送れるんだ。


 とりあえずタオルを創り出して顔を拭き、溢れだす安堵の涙を染み込ませる。



物凄いトラウマを植え付けられた。

しばらく悪夢に出そうだ。



「今度からは俺の許可があったり、命の危険に晒されてどうしょうもなくなったときだけ竜になってくれ」


「…約束?」


俺は破壊神に大きく頷き返す。竜はダメだ。

理性のない破壊神なんて危険すぎるではないか。



涙が収まって顔を上げたら、ノアが俺を笑っていた。


「働かないとこうなるって、散々手紙をお送りしましたよね?ようやく反省しましたか?」


ノアは観念なさい、という目で見てくるが、目元が少し赤く腫れていて格好がつかない。


「あー、手紙は全部燃やしたぞ。最初の手紙はちょっぴり読んだけど、あとのは見ないで燃やしたから知らなかった」


「こうなったのはあなたの責任ですよね⁉私はあんなに忠告したのに…!」


ノアと過ぎた事で言い合っていると、ふと破壊神が立ち上がった。


そしてそのまま外へ向かう。


「おい、どこへ行くんだ?」


「──約束、その五…。迎撃、開始…」


最初に破壊神と定めた十の約束。


その五は───



「…みぃーつけたぁ、にゃぁ──」



破壊神と創造神のどちらか、あるいは両方が危険に晒されたときは互いに助け合うこと。



空から降り注ぐ光の雨──おびただしい数の光線と共に、俺達の最初の敵は荒原へ舞い降りた──。


1日更新が遅れました。

次回は4/9更新予定です。

※思いつきで書いているので、投稿頻度が著しくモチベーションによって変化します。


いいねやブックマーク、評価ボタンの数がひとつ増えるにつき、更新頻度が1%上昇するかもしれません。


次回もし間に合えば、イラストをアップするかも…?お楽しみに。

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