干渉
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森は猛獣で溢れかえっていた。1メートル進めば必ず1匹は出くわす。
普通ならそんな状況にいたらすぐに力尽きるだろうが、ザクロは歩みを止めずに黙々と歩き続ける。
俺とノアは出来るだけザクロの近くを歩き、猛獣を潰す攻撃の射程内に入っておく。
「その攻撃、どうやってるのか聞いてもいい?」
出来るだけ彼の集中を切らさないように話しかけたが、彼はこっちを振り返った。
前から獣がチャンスとばかりに飛びかかるが、潰れて血しぶきとなる。
「これ?魔力…干渉して、暴発、させてる…だけ、慣れれば…簡単」
彼は俺が創り出したローブにまた1つ赤いシミを作りながら、近くの倒木に腰を掛けた。
「…こんな魔法、初めて見ましたよ。相手の魔力に干渉するなんて」
ノアがザクロの言う簡単という言葉に、呆れてため息をつく。
相変わらず猛獣たちは、寸分の狂いも無くこちらに駆けてくる。
歩みを止めても、ほとんど獣との遭遇率は変わらないようだ。
「疲れましたね。ここで一旦休憩しましょうか」
ノアはそう言ってバリアを張ろうとするが、ザクロは必要無いと呟く。
ノアは心配そうな目を向けたが、ザクロがのんびり背伸びをしながら敵を狩っている様子を見て、呆れて倒木に腰を掛けた。
俺は人数分のお茶を創って渡し、死角ができないように反対側から倒木に座る。
ザクロがすぐにお茶を飲み干し、2杯目を入れてやりつつ、俺は向かってくる獣たちを眺める。
視界が悪い森なのに、それにも関わらずまっすぐこちらへ向かってくる。
それにこれほどの数となると、まるで森中の獣が一直線に集まってきているみたいだ。全く数が減らない。
「…なんだか、森のボスが命令を出してるみたいだな」
それも、俺たちの位置を正確に把握しているような。
「…ケティア」
ザクロが、ぽつりと呟く。
「洗脳…だけじゃ、ない?…視界共有、できる…?」
…獣人の神、ケティアは前にザクロに対して洗脳攻撃をしたことがあった。
もしもこの数を一度に操り、更には視界共有までしているのなら、森全部が射程範囲みたいなものだ。
おかげで俺はザクロから離れられず、歩くしかない状態になっている。
それともいっそのこと飛んで、獣たちを放すか。
…でも、なんの遮へい物もない空中で光線を撃ち合うのも怖い。
それに俺もまだ飛ぶのは慣れていないから、やめておいたほうが良さそうだ。
ふと、ザクロが立ち上がる。そしてすぐ側に来た獣を掴み、そのまま地面に叩きつける。
骨が折れる嫌な音と、獣が苦しげに唸る声が聞こえる。
「拷問して、聞き出す…」
「獣相手にですか?」
ノアは苦しそうに身体をよじる獣から、不快げに目を逸らす。
ザクロは獣の唸りに意識を向けていたが、しばらくすると完全に叩き潰した。
「なかなかにエグいな…」
しかし半分慣れてしまった自分に気付き、異世界の厳しさを実感する。
「獣…なにも、知らない…どうしよう…」
ザクロは残念そうに倒木に腰掛け、そ~っとこちらを窺ってくる。
俺?俺にできることなんてあるかな?
と思いつつも、考える。
創造神の力で、何ができる?
干渉…干渉…。
ケティアは獣に干渉して、情報共有している。
例えるなら、盗聴器にあえて干渉して、盗聴器を発見するみたいな発想が必要だ。
…なんか違う気もするが、なかなかいい例えが思いつかない。とにかく逆の発想をすれば上手く行くかもしれない。
…いいことを思い付いた。これでケティアを呼び出すことはできそうだ。
とりあえず俺は射程外にいる獣を、檻を創って閉じ込める。
これで準備OK。
それから、今度はケティアを呼び出した後のことを考えよう。
ザクロに3杯目のお茶を渡しつつ、作戦を立てる。
創造神にしかできない事をやればいいんだ。
…これなら上手く行きそうだ。
とりあえず俺は2人に呼びかける。
「休憩は十分できたか?」
2人は頷く。それから、俺は作戦通りにザクロに耳打ちする。
「洗脳されたふりってできるか?俺が離れてるあいだの5分だけでもいいんだ」
ザクロはしばらく考えた後、こくりと頷く。
「じゃあ洗脳攻撃が来たら、今から言うことに従ってくれ」
俺は地図を広げつつ、ザクロに指示を言い渡す。
「──そうしたら俺と合流できるから、それまでひとりで頑張ってくれ。…それと、何があっても俺はザクロの友達だ。たとえザクロがどんな存在だろうと、だ。約束する」
しばらくの沈黙のあと、ザクロは静かに頷く。
…俺は”秘密の使命”の遂行のため、ザクロを欺くことに罪悪感を覚える。
しかし、やるしかない。
俺は再び倒木に腰掛け、檻の中にいる猛獣に聞こえるように、大きな声で呟く。
「しっかし、猛獣も大変だなー」
猛獣は相変わらず唸り声を上げている。
「勝ち目が無いのに手下を送り続けるなんて、さぞかし無能なボスなんだろうなー、かわいそうに」
俺はそのまま続ける。
「それともボスはびびって戦えないのかなー。残念なボスだなぁ、ははは」
…すると、猛獣たちが一斉に俺だけに向かって跳びかかってきた。
どうやら成功のようだ。
獣が一直線に集まってくる。だが俺は頼もしい味方に任せて、倒木の上でふんぞり返り不敵に笑う。
「ばーかばーか、無駄だ!せいぜい頑張れ!ははははは!」
ノアは俺に白い目を向けているが、そんなことは気にしない。
ザクロは淡々と、物凄い速度で俺に迫ってくる獣を潰していく。
あいかわらず素晴らしい味方を持ったものだな!
獣が物凄い勢いで集まってくるが、徐々に数が減っているのが分かる。
…さて、”ボス”のお出ましはそろそろかな?
すると、森のざわめきが突然止んだ。
──違う。森のざわめきが止んだわけではない。
ざわめきを感じなくなるほどの、強い圧力がこの場を支配したからだ。
そしてひりつく空気の中、”ボス”が現れた。
──少し小柄な人影。しかし頭には猫のような耳が生え、長い尾が苛立たしげに地面を叩いている。
「おまえ、いい加減にするのだにゃあ──‼」
この森の”ボス”、ケティアはついにその姿を現した──。