彼の過去
ある世界に、邪神がいた。人々から全てを略奪する悪しき神だ。
人々は邪神に怯え、様々な対神兵器を創り出した。
対神兵器作成には人間という『素材』が必要だった。
多くの弱者が兵器に創り変えられたが、『素材』に適さないものは作り変えられた自らの姿に恐怖し、発狂した。
あるものは誰とも心を通わすことができない自分の姿に絶望し、自害した。
そんな世界の、とある兵器工場で生まれたのが識別番号396番である。
初めの頃は貧民街の者や囚人を『素材』にしていたが、それでは足りず、次第に身分が低い一般市民までもが『素材』に使われた。
しかし、それも限界があった。
そこで、新たに『素材』用の兵器を作ることにした。と言っても簡潔に言えば人造人間だ。
普通の人間と違う点は、なんと行っても生まれた時点で15才以上の身体を持つ点だ。
『素材』に適する年齢は研究結果から12才から30才までと分かったので、生まれた時点ですぐに『素材』として使える。
また、生まれたばかりならば自我がないため、作り変え後の姿をあまり抵抗なく受け入れられるだろう。
識別番号396番はこのようにして生み出された396番目の兵器だ。
識別番号396番はアルビノの異常個体であるため、生まれてから竜に作り変えられるまでが長く、自我が芽生えてから竜に改造された。
竜は数ある対神兵器の中でも最後に生まれた存在であり、他の兵器よりも本能が強く自我の影響を受けにくい。
また、他の兵器よりも攻撃性が強いため、人の住む地域の近くでは使用できない。
竜に作り変えられる前、彼は他の兵器達と暮らしていたが、他の兵器は自我が芽生える前に改造されるため、彼はずっと孤独だった。
彼はそんな中、二人の"英雄”に出会う。
二人の"英雄”は彼を竜として作り変えた。彼は十二体分の竜の力を受け、その後殺戮に明け暮れた。
竜には仲間意識があった。
仲間が死ねば慟哭し、その敵をとるために闘う。
竜もやはり兵器として以前に、生命であった。
死を恐れ、仲間と協力して闘った。
しかし邪神は強かった。多くの竜が死に、最後は396番のみが生き残った。
396番は悲しみに明け暮れた。
そして、396番はいよいよみんなの敵をとった。
しかし失った仲間が帰ってくることはない。396番は酷く絶望した。
もう、自分と同じ存在はいない。
悲しみ明け暮れ続ける毎日は、しかしすぐに終わった。
二人の"英雄”が彼のもとに戻ったのだ。彼は喜んだ。
自分の元の姿を知っている者が生きていることを喜んだ。
そして、元の姿を知る二人なら、自分とトモダチになってくれるかもしれないと期待した。
しかし二人は彼を、バケモノと罵った。
所詮平和な世界では必要の無い兵器だと言った。
そして二人は、とうとう彼を殺しに来た。
ようやく彼は人々に利用されていたのだと気付いた。彼は怒りに震えた。
彼は殺されることを悟った。兵器として生まれてきた、死ぬしかない運命を呪った。
彼は首を縛り付けられ、火に炙られて死んだ。
誰か、その時彼の涙に気付いた者は居たのだろうか。
──────
────
──…。
「…これが破壊神の、彼の、396番の人生なのじゃ」
アルファは目を伏せる。
「だいぶ掻い摘んで話したのじゃ。実際はもっと詳しく書いてあるのじゃ。例えば、彼の唯一の友達の話とかなのじゃ」
「唯一の友達?」
本を閉じてベッドに腰掛けているアルファは、足をぶらつかせながら口を開く。
「こんな彼にも、一人だけ友達がいたのじゃ」
アルファは柔らかに笑いながら、語り続ける。
「名前はセシア。人々がシェルターにこもって邪神から身を守っていたなか、セシアはただ独り、外で生き抜いていたのじゃ」
「どうして?」
「セシアは貴族の生まれの10才の少女だったのじゃ。彼女は早くからシェルターの中にいたのじゃが、あとから来た者たちにシェルターを奪われ、追い出されてしまったのじゃ」
シェルターは貴族や王族が身を守るために作ったものだったが、シェルターを巡って殺し合いが起き、元からいたものはほとんど追い出されたか殺されてしまったのだとアルファは補足する。
「セシアの家は薬の開発で大きくなったのじゃ。だからセシアは幼い頃から薬学に堪能で、独り傷付いた竜の手当をしていたのじゃ」
──そんなセシアは竜たちに好かれ、竜とともに生活していた。セシアが竜と暮らし始めて5年が経ったある日、いよいよセシアの存在が邪神に知られてしまった。
「邪神はセシアを無理矢理嫁にしようとしたのじゃ。セシアは抵抗したのじゃが、結局邪神に連れ去られてしまったのじゃ」
…その後セシアは邪神に永遠の命を与えられ、邪神亡き今も、どこかでさまよい続けている。
「──と言われているのじゃが、どこまで本当かはアルファにも分からないのじゃ」
アルファはベッドから降り、本を脇に抱えて俺の目の前に来る。
「なぜ、お主は破壊神に好かれている?」
唐突な質問に、咄嗟には答えられず考え込む。
「竜は警戒心が強いのじゃ。そう簡単には友達にはならないのじゃ」
アルファの、言葉の意図が分からない。
つまり何が言いたいんだ。
「──どうやって手懐けたのじゃ?」
…その質問に、俺は黙り込む。俺は、確かにセシアのような、好かれるようなことは何もしていない。
その沈黙にアルファはある答えを見出したのだろう。
それは俺が考えたくなかった、考えないようにしていた可能性。
「最初からお主に興味なんてないのではないか、お主と付き合っているのは全て復讐に利用するためなのでは…と、アルファは勝手に考えたのじゃ」
そう言うとアルファは部屋の扉に手をかけ、もう一度こちらを振り返る。
「…証明して見せるのじゃ。本当にお主が破壊神に好かれているのかを」
そう言うと、アルファは突然意地悪く笑う。
「勝負なのじゃ。アルファとかくれんぼするのじゃ」
「…かくれんぼ?」
アルファは悪い笑みを浮かべる。そしてこちらを見定めるように見つめる。
「もちろんただのかくれんぼじゃないのじゃ。勝利条件は簡単。二人で丸一日アルファから見つからないか──、どちらかが裏切り、アルファに仲間を差し出して一人生き残るか、なのじゃ」
「…それって、見つかったらどうなる?」
アルファは、分かり切ったことだろう?と笑う。
「──殺すのじゃ」
…。
「でも、救済措置を用意するのじゃ。二人には"秘密の使命”を渡す。かくれんぼ中に"秘密の使命”を達成できた場合は、アルファの攻撃を一度だけ無効化するバリアを与えるのじゃ」
つまり"秘密の使命”を達成できれば、一度だけ見つかっても助かるということか。
でも、待てよ、それって"秘密の使命”の遂行を偽って仲間を裏切ることも可能になるってことだよな…?
"救済措置”に隠された真意に気が付くと、アルファは再度意地悪く笑った。
──証明して見せよ、と。
…瞬間、景色が変わった。
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