叡智の書庫
書き溜めしようと思ったのに、ブクマ増えたの嬉しすぎて当日に投稿してしまった…(ブクマありがとうございます!)
知の神に書庫に招待され、紅茶を飲みながら話を聞いていたが、正直飽きたので本を見て回ることにする。
破壊神も同じく飽きたらしく、ちょこちょこと俺の後ろについて来る。
ノアはそのままアルファと会話している。初めはかなり緊張気味だったが、友好関係を持ちかけられていると分かるとだいぶ打ち解けたらしい。
今は今後の策略について話している。俺は後で全て決まってから聞くことにする。
適当に本の背表紙を見て回るが、さすがに日本語で書かれたものはなかなか見つからない。
ちらほら英語で書かれたものもあるが、専門的な単語が多く辞書がないと読めそうにない。
あとは全く見たことのない言語があったりと、様々な世界から本が集められているのではないかと感じる。
「読めそうな本、見つかったか?」
後ろから本を見て回っている破壊神に訪ねてみるが、すぐに首を横に振る。
とりあえず読めそうな本があれば読んでみたい。
見つけた英語の本は様々な内容のものがあり、共通性はなさそうに思える。
しかし、日本語で書かれたものがあれば、具体的に知の神の趣味も分かるかもしれない。
いや、そもそも知の神に趣味なんてあるのだろうか。特定の興味関心があるわけでなく、知識を集めるためだけに本を集めているのかもしれない。
そんなことを考えていると、ふと日本語の本を見つける。
タイトルは…俺の名前?
本を開くと今まで俺が送り、そして死ぬまでの人生が淡々と、客観的に書かれている。
「一体誰がこんな本を…?」
不思議な点は、客観的に書かれていながら、俺の知らない事実は一切書かれていないことだ。
そして俺の死んだあとも書かれていない。まるで自分の記憶をもとにして書かれたようだ。
「ふふ、驚いたかにゃあ?」
読み込んでいると、後ろから獣人の神、ケティアの声がした。
「ここの書庫には、神として転生した者の人生が書かれた本が自動で追加されるんだにゃあ」
「どういう仕組みなんだ?」
俺しか知り得ない情報が大量にある。記憶を盗み見られているようでなんとも気味が悪い。
「この書庫は古の神の一柱、全知の神が創り上げた神器そのものだにゃあ。この書庫自体が全知の能力を持つのだにゃあ」
そう言ってケティアは隣にある、特別分厚い一冊を取り出し、背表紙を指でなぞる。
「本はその者が使う言語で書かれるにゃ。でも、この本みたいに言語を習わずに死んだ者の本は、本人とこの書庫の管理者、アルファにしか読めないのだにゃあ」
ケティアは残念そうにペラペラと本をめくると、はい、と破壊神にその本を渡す。
「君なら、その本を読めるはずだにゃあ」
破壊神はその本を受け取ると、まるで怯えるようにその本を開く。
しかし、しばらく読み進めていると、首をかしげながら本を閉じる。
「…読め、ない…。思い…出せ、ない…。自分の、名前…なんだっけ…」
破壊神は悲しげにそう呟く。本に向けられているその目は、虚しく遠くを見ているようだ。
「…?アルファは読めるって言ってたのだにゃあ」
俺がアルファに視線をやると、ちょうどアルファはこちらの様子に気付いたようで、突然隣に現れた。
そして慌てて絶対神の持つ本を取り上げた。
「この本は、本人が思い出さないように蓋をしている記憶まで書き出すのじゃ。でも、本人にはそこが潰れて読めないように見えるのじゃ」
アルファは絶対神の本を宙に浮かばせ、遠く上まで運ぶ。
「思い出してはいけない記憶を刺激しかねないから、この本は禁書なのじゃ。だから特定の者しか入れないように番人として知の神がいるのじゃ」
アルファはちらっとケティアの方を見る。
「ちょっとくらいいいかにゃと思ったんだにゃあ…許してほしいにゃあ…」
ケティアは申し訳なさそうにうつむいている。
反対に、破壊神は首をかしげて難しそうな顔をしている。
「自分の、名前…」
どこか寂しそうに呟く姿を見て、俺もずっと彼を破壊神と呼ぶのもなんかよそよそしいなと思い始める。
「だったら、新しく名乗ればいいんじゃない?」
その言葉に破壊神は顔を上げる。
「名付けて、くれる…?」
なんだか嬉しそうにこちらを見てくる。
「えっ、俺でいいの?」
突然友達に名前をつけるという責任重大な役割だが、今思えばノアを名付けたのも俺か。
どうせなら俺も名乗る名前を考えておこうか。
ノアはギリシア神話から来てるが、破壊の神と創造の神となると、俺は…ゼウスか?嫌だな。さすがにゼウスと呼ばれるのは嫌だ。
にわかとはいえ、ギリシア神話を知っている者からしたら、ちょっとゼウスは嫌かな…。
だったら英語から名付けるか。受験の時の知識を捻り出すと、破壊はdestruct、創造はcreateか。
うーむ…考えれば考えるほど沼るなぁ。
「とりあえず、名前しっかり考えていい?」
こくりと破壊神は頷くと、アルファに自分の本の内容を訪ね始めた。だが、アルファは困ったように誤魔化している。
俺も名前を、知識をこねくりまわして考えてみるが、なかなかしっくりこない。
──そしてどうしても、破壊神の、本当の名前が気になる。
俺だけ聞いてしまおうか。それなら問題無いし。
聞いて、それをちょっともじって呼べはセーフなのでは?
ということをアルファに聞いてみたらOKが出たので、彼の本名を聞けることになった。
アルファが二人きりになれる場所として、書庫の頂上に転移させてくれるというので、転移してもらう。
書庫の頂上とは、一体どういうことだろう。
その疑問の答えは一目で分かった。
周りの風景が変わったと思うと、広いステージに立っていた。
ステージの中央には長いテーブルがあり、一通りのティーセットとお菓子が並んでいた。
そして何よりも、このステージがある場所に驚いた。
ステージの外は下が見えないほどで、どれだけステージが高い場所にあるかが分かった。
死ぬ瞬間を思い出し、高所恐怖症で一瞬目の前が暗くなったが、何とか持ち直した。
「む、忘れてたのじゃ!創造神は高いところから落ちて死んだのじゃ!」
何とか持ち直したと思ったのに、アルファのその一言で完全に思い出してしまい、足から力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
「わわっ、悪かったのじゃ!場所を変えるのじゃ!」
次に視界が変わったのは、一般的な洋式の個室だった。
(知らない天井…っていう某ネタ?は置いといて、)整頓された部屋の中央にはベッドがあり、枕の横には本が積まれている。
「もしかして、寝室?」
「そ、それは思っても言わなくていいのじゃ!アルファにそういう趣味はないのじゃ!」
無言でいれば良かったものの、言葉を重ねるとなんか良くないふうに聞こえる。
そういえば、破壊神が知の神を体求めてくる変態だと言ってたのを思い出した。
やっぱり知の神ロリの見た目して変態なんじゃ…?
「そういう目で見ないでほしいのじゃ!アルファは変態じゃないのじゃ!」
ただをこねる子供みたいに腕をぶんぶん振っているが、相変わらずの神の気迫を持っているので恐い。
「わ、分かったって!それで破壊神のことを聞きたいんだ。名前と…過去を」
…悪いとは思いながら、でもどうしても気になってしまう。彼がどんな人生を送り、そして幕を閉じたのか。
アルファはベッドに腰を掛けると、意を決したようにこちらを見上げる。
「何を聞いても、破壊神に態度を変えずに接し続けられるのじゃ?」
俺は静かに頷く。
アルファは悲しげにうつむく。そしていつしか膝の上に置いていた、破壊神の本を、静かに開いた。
「…これは、邪神を下すために造られた、悲しき兵器の物語──識別番号396番の、悲しき運命の軌跡なのじゃ──」
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