人生の最後
やってしまった。そう思ったときには、すでに宙を舞っていた。
直後、足を滑らせた原因が目に入った。
工事現場の足場。これも宙に舞っていた。
──ダメだ。
そしてそれを支えていたパイプが目の前にあった。
藁にもすがる思いでそれを掴むと、あっさりと外れた。
──どうやらこれが原因で足場がぐらついたようだ。
ダメだ。パイプのせいで右手が塞がれた。
しかしこれを手放してしまうと、どこかへ飛んでいって死傷人が出るかもしれない。
となると残るは左手のみ。
必死の思いで精一杯左手を伸ばした。
が、それは虚しく宙を掻く。
そして追い打ちをかけるように強風が吹き、無情にも足組から引き離される。
──ああ、ダメだ。終わった。眼下に広がるのはビルの根本と、十五メートル先の道路。あぁ、もう十メートル。──五メートル。
せめて楽しかった思い出を思い浮かべて死にたい。
思い出すのは、社畜のような学生生活。
地方の自称進学校に通った地獄の日々。
できない奴に一切救済措置の無い冷酷なやり方で、毎日やる朝テストの補修は昼休み。
ただでさえ休ませる気のない短時間の昼休みであるのに、補修まで入れば、昼食抜きになるのは当然だった。
ああ、よく友達と放課後に昼飯食ってたな。
そんな生活のせいで、10代にしてストレス性の病気のオンパレード。具体的には喘息とストレス性胃腸炎に2回ずつ、そして自律神経失調症など・・・。
大量の病気を重ねがけしてのセンター試験は大ゴケ。第1志望はもちろん、ずっとB判定だった滑り止めすらE判定。
そして最後の砦だった大学はまさかの過去最高倍率となり、前期後期ともに惨敗。もともと裕福な家庭ではないので、私立大も浪人もNG。4月から急きょ新卒として働くことに。
勿論ホワイト企業が普通科卒を4月から採用してくれるはずもなく、就職したのは今すぐ人手が欲しいブラック企業の工事現場。
今、初出勤で現場に出され、現地で仕事内容の説明を受けているところだった。
──そこでやらかした。
ああ、何もいい思い出がなかった。我ながら自分の人生に笑えてくる。
もう目の前に迫った地面から視線を離し、虚空を眺めた。
そして俺が最後に思ったことといえば──
「もっと頑丈な足場にしてくれ……」
そして俺は、たった18年の人生に幕を閉じた。
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