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65.これもサポートの一環だよね?

 

 ステージを終えた控え室。

 

「あんたすごいな! ダンスだけやなくて歌まで歌えるんや!」


「ほんとサプライズっすよ!」

 

「なかなかやるじゃない」


「来てくれたら人たちも喜んでくれたんじゃないかしら」


「ほんとびっくりー」


 メンバーのみんなが口々に褒めてくれる。

 照れるなあ。


「いやいや、そんなこと……」

 

「ふふん。そうでしょそうでしょ!」

 

 僕の言葉に被せるようにして、明日花さんが嬉しげに答えた。

 なんで明日花さんが自信満々なの?!?!

 

「そうだ、僕行かなくちゃ」


「伍、どこに行くの? 結果発表はもうすぐよ」


 控え室を出ようとする僕に、明日花さんから声がかかる。


「病院だよ。久遠さんの様子見に行きたいんだ」


 久遠さんはあれから会場近くの病院で精密検査をしに行った。

 僕は彼女の状態が気になって一刻でも早く向かいたかったのだ。


「そうね、分かったわ。久遠のことお願いするわね。でも目立つから着替えた方がいいわよ?」


「あ、衣装のままだった!」


 危ない危ない。

 僕はさっと着替えて控え室を後にする。


「あら、ウィッグとメイクはそのままよー?」


「ほんとどんだけ慌ててるんだか」

 

「こんな大舞台で成功を収めたってのに余韻もあらへんのかいな」

 

「根っからの裏方さんっすね!」


「そこも伍のいいところなのよ」

 

 病院に向かうために会場の廊下を走っていると、「待てよ!」と足で道を遮られる。

 こんなことする人は、やっぱり六槻だった。

 そこからまじまじと僕の顔を見つめたあとゆっくりと口を開いた。


「ふーん。お前、オレ様に似てなかなかかわいいじゃねえか」


 え、六槻が僕にかわいいだって?!


 なにが起こったのかと混乱しながらも、あっ! と気づく。

 服は着替えたけど、ウィッグとメイクはそのままだったんだ!


 六槻って僕のことを五百里(いおり)だと思ってる?!

 実は僕だなんてバレたらややこしいことになりそうだから、ここはやり過ごさないと。

 

「あ、ありがとう……」


「んま、オレ様の次にだけどな」

 

 六槻はぎゃはははと凶暴な笑顔をみせる。  

 僕は、あははと愛想笑いを浮かべるのが精一杯だった。

 

「なぁ、お前プリズムプリズン入らねえか?」


「え?」


 突然の誘いに僕は呆気に取られる。

 

「オレと(すい)、そして五百里(いおり)、この三人がいりゃぜってえ天下取れるぜ、なぁ、どうだ? 別にアスタリスクに所属してるってわけでもないんだろ?」


「今日はピンチヒッターってだけで私はアイドルをするつもりはないの。それに仮にアイドルしようと思ってもあなたとはする気はない」


 僕はきっぱりと告げる。

 

「ちっ、随分と嫌われてるみてえだな。これも人気者の辛いところか」


 邪魔したな、と六槻は見当違いの言葉を残してどこかへ去って行った。



 この状態では目立つので僕はウィッグを外してカバンに入れ、メイクを落としてから久遠さんのいる病院へと到着した。


「逆瀬川なんでここに来たんだ!?」


 病室について僕を見るやいなや久遠さんが目を丸くする。

 

「久遠さんの事が心配だったから」


「……結果発表はいいのか」

 

「結果なら配信で確認できるよ? それに僕はもともと裏方だし、アスタリスクのメンバーでもないから、あの場にいなくてもいいんだ。足はどう?」


「捻挫だってさ。一、二週間ほど安静にすれば問題ないそうだ。念のため精密検査もあるから一日だけ様子見で入院だ」


 靭帯に影響がなくてよかった、と僕は胸をなでおろす。

 しばし沈黙が流れ、久遠さんが口を開いた。

  

「逆瀬川はすごいな」


「どうして?」

 

「ステージで歌って踊れて。そのどれもがハイクオリティだった」


 これを見ろ、と久遠さんがスマホを見せてくれた。

 

・飛び入り参加の五百里ちゃんすご!

・歌も振りも上手くてビビる。

・アイドルなってくれねえかなぁ

・マジ推させて欲しい


 それは配信で流れるコメント。


「私はあんなに息巻いてたのにこのざまだ」


 久遠さんが足をさすりながら自嘲気味に笑う。


「私じゃなくてお前がアスタリスクだったら……」


「そんな事言っちゃダメだよ。ほらこっちみて」


 僕は自分のスマホを出してSNSをエゴサする。

 

・久遠ちゃんのいるパフォーマンスが見たかったなぁ

・ダンス力抜けてうまくなってた!

・歌も伸びやかになってて感動

・伸びしろしかない!

・久遠ちゃん可愛かったからライブ行きます

 

「こんなにも久遠さんを待っている人がいるよ。頑張りを見てる人がいるよ。そして僕もそのうちの一人だから」


「私のこと、推してくれるのか……?」


「もちろん」


 僕は久遠さんに微笑みかけて、頭をなでる。


「久遠さんよく頑張ったね」


「な、なんの真似だ!」


「ごめん、妹みたいだなぁって思っちゃってつい」


 僕より身長が高くて顔立ちも大人っぽいけど一人で思い悩むことがあって、まだまだ成長途中で、年下の子なんだなぁって思う。


「おい、やめろとはいってない……」

 

「はいはい」


 僕は久遠さんのさらさらとした黒髪を撫でた。

 しばらくして僕はあるものを取り出す。


「久遠さんりんご食べる?」


 コンビニで買ったカットフルーツ。

 皮がなくてすぐに食べられて便利なんだよね。


「どうして今りんごなんだ」


「病院、お見舞い、といえばりんごかなぁって」


「どんなイメージだ。私は病気になったわけじゃないぞ」


 たしかにそうだ!

 僕としたことがやってしまった。


「でも、食べる。ライブで動いてお腹が空いた」

 

「ほんと? じゃああげるね」


 りんごと爪楊枝を差し出すも久遠さんは受け取ろうとしない。


「久遠さん?」

 

「いまは手を動かしたくないんだ。私が食べるのを逆瀬川がサポートしてくれ」


 頬を赤く染めた久遠さんがぶっきらぼうにいう。

 久遠さんって足を怪我したはずだよね?!

 手は関係ないんじゃないかな!?

 

 そう突っ込みたい気持ちを抑えて、仕方ないなあと僕は言われたままに従う。


「はい、あーん」


 久遠さんがあーん、と食べようとした時、病室のドアが勢いよく開かれる。


「久遠! 伍! 優勝したわよ! ってあんたたち何やってるのよ!?」


 入ってきたのは普段着姿の明日花さんだった。


「明日花さん!? これは久遠さんにお願いされて! ね、久遠さん」


「ち、違います! こ、これは逆瀬川が勝手に……!」


「ちょっと、久遠さん!?」


 あなたがしろって言いましたよね!?

 明日花さんの視線が痛いよ。

 

「あのあとすぐに結果発表があったから、終わって急いで来たっていうのに。あんたたちねえ」


「ごめんなさい!」


 平謝りをしたあと、この話を長引かせたくないのですぐに話題を変える。


「それよりもガールズアイドルフェスで優勝! おめでとうございます! さすがアスタリスクですね」


「ふふん、トップアイドルですもの。怪我するまでの久遠のパフォーマンスも良かったし、それに五百里の助けもあったからね」


「ああ、その通りだぜ。くそ、五百里さえ出て来なきゃ勝てたのによお」


 明日花さんの後ろからゆらりと六槻が現れた。


「どうして六槻がここに!?」


「てめえはほんとうるせえなあ」


「伍忘れたの? この勝負に負けたら六槻は久遠と伍の二人に謝るって」


 ああ、と僕は思い出す。

 だけど、六槻が本当に来るとは思わなかった。

 約束を反故にするものだとばかり思ってた。


「なんか面白そうなものが見れそうだから私が連れてきたよ」


 彗さんがひょっこりと顔を出した。


「こいつが謝らねえと抜けるとかいうから仕方なくだぜ」


 あぁ、だりぃ、と六槻は悪態をつく。

 ひとしきり項垂(うなだ)れてから六槻は久遠さんを睨みつける。


「おいそこのデカ女」


「デカ女!?」


「前のパフォーマンスとは比べたらちっとはマシになってたじゃねえか。でもよぉ、それで怪我するんなら世話ねえぜ」


 ぐっ、と久遠さんは顔をしかめる。


「いらないこと言わなくていいのよ。ほら早く謝る」


「芦屋うぜぇ。……ぐ、、くっ、その、昨日は酷いこといって、……ん、すまん」


 それは喉につっかえるような、絞り出す謝罪だった。


「六槻、謝るときはごめんなさいだよ」


「ごめんなさい。って、てめえが指図してんじゃねえ!!」


「あっはっはっは」

 

「彗、てめえ動画撮ってんじゃねえよ。消せ!」


 ぐわあああ、と六槻が彗さんに飛び掛かるもひらりとかわす。

 彗さんやっぱり身のこなしがすごいな。

 

「ねえ、伍には?」


「こいつには死んでも謝らねえ」


 六槻が背中を向けていう。


「あんたねえ」


「いいんだ明日花さん。六槻が久遠さんを認めてくれた。それだけで僕はもういいんだ」


 僕はあくまでサポート。

 成果を出したのは、それを努力して手に入れた久遠さん本人なのだから。


「次勝負するときはぜってえオレらプリズムプリズンが勝つから覚悟しとけよな!! 行くぞ彗」


 六槻はどたどたと足音を立てながら病室を出ていく。


「明日花またね。次は、潰す気で行くから」


 ひらひらと彗さんは手を振る、優雅な動きには見合わない言葉を残して。


 

「ふぅ、やっと全部終わって感じだよ」


「そうね。はーあ、終わったと思ったらお腹空いちゃった。伍、私にそのりんごちょうだい」


 あーん、と当たり前のように口をあけて迫る明日花さんに、僕も自然にあーんと、差し出す。

 しゃくっと明日花さんの口から小気味良い音がする。


「んー、美味しー」


「あー! 明日花さんそれ私のりんごです!」


「ふふ、早いもの勝ちなのよ」


「逆瀬川、私にもあーんだ!」


「伍、次はこっちよ!」


「二人ともちょっと待ってよ」


 二人のあーんのおねだり合戦はりんごが一袋なくなるまで続いた。

 これもサポートの一環、だよね?


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

【あとがき&お知らせ】

『裏サポ』コミカライズ第2巻が10月7日(火)に発売します!


表紙の悩ましげな明日花が目印です。

そして電子書籍、ゲーマーズ様、メロンブックス様でご購入いただくとそれぞれ明日花のカラーイラストがついてきます。

普段本編では見せない大胆な格好になってますので必見です!!!!


いよいよ明日発売ですので、ぜひお手にとってください!

よろしくお願いします。

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2025/10/7よりコミカライズ2巻発売!
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「マンガUP!」よりコミカライズ連載中!
ここから1話が無料で読めます!

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― 新着の感想 ―
漫画だと伍と六槻そっくりなのに五百里の正体に気付いてないの!?でも、これからはあのままか、それとも少しずつわだかまりが解けるか…。どっちだろ?
これから六槻はどうなるのか 続き楽しみにしています
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