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63.新生プリズムプリズン



 ガールズアイドルフェス当日。



 ステージ上にはスポットライトに浮かぶ一人のシルエット。

 会場は異様な空気に包まれている。

  


「オレ様がプリズムプリズンだああああ!!!」



 六槻の静寂を切り裂くようなシャウトから、プリズムプリズンのライブが始まった。

 プリズムプリズンは六槻が不祥事を起こしたタイミングで他のメンバーが脱退し、いまではメンバーは六槻ただ一人。



 だけど元より人気は六槻に集中していた。

 これは『自分さえいればプリズムプリズンは終わらない』と言わんばかりの宣言のように僕には思えた。

 


「聞け。『ナイトメア』」



 ストーリミング再生五千万越えのプリズムプリズンの代表曲。

 大きな会場のスピーカーから発せられるお腹の底に響くヘビィなサウンド、まるで悪夢が足元から這い上がってくるようだった。



「悔しいけど歌もダンスパフォーマンスもすごいわな」



 僕らが控え室でライブを見ているなか、錫火さんがポツリと呟いた。


 

「なあ、これ伍が振り考えたんやろ?」

 

「……うん、そうだね」


「へえ、あんたやるじゃない」


 黒海さんが腕を組みながらいう。

 

「あらあら、どうしたの。暗い顔して」


 美鳥さんが心配そうに僕は顔を覗き込む。

 

「いや、何度も振り付けを作り直させられた記憶が蘇って……」



 僕は身震いしながら答える。

 タイトなスケジュールのなか、六槻から『もっとオレ様が目立つようにしろよな!』なんて言われたっけ。


「あちゃー、それは大変だったすね」


「想像つく」

 

 額に手を当てる梢枝さんの横で、ふんふんと頷く紫野(しの)さん。

 曲の間奏で六槻がオーディエンスを煽る。


「おい、猿ども! 声出してけ!」


「おおおおおおおぉぉぉおおおお」


 最前から地鳴りのような声が響く。

 六槻はあの不祥事があってから、方向性をより過激なものへとシフトした。

 清純や正統派といったアイドルの中で六槻という存在は特殊であり、ある意味、唯一無二となっている。

 残っているファンは熱狂的な信者。



「きも」



「うおおおおおお」

「六槻様ああああああ」

「ありがとうございまあああす」



 狂気をはらむ空気。

 罵倒されたのにファンは待ってましたと、テンションがぶち上がる。


 プリズムプリズンのファンは『プリズナー』と呼ばれている。

 最前のフェンスに手をかけて叫ぶ姿はまさに囚人そのもの。



 一度その魅力を知ってしまったファンは抜け出すことのできない監獄にとらわれることになるのだ。



「ほら、どうした? 小さくて聞こえねえぞ? もっと、もっと、もっとだあああ!」



 六槻のコールに「ゔぉい!!」と野太い声が幾重にも重なって返ってくる。

 そのレスポンスに満足した六槻は、ハッと凶暴的な笑みを浮かべ。



「よくできました」



 その一言に、ファンのボルテージはますます上がる。

 飴と鞭。まるで看守と囚人のような関係性。


 六槻はオーディエンスを煽るのが上手い。

 僕は別の意味で散々煽られたっけ。



 そこからは六槻の独壇場だった。

 『幻想セカヰ』『デリュージョン』『絡繰人形』といったヒットチューンを畳み掛ける。

 謹慎期間の鬱憤を発散するような、破壊力が込められている。

 

「はえー、曲もええんかいな」


「そうですね。なんでも、あの『V』さんが制作したと聞きました」


「『V』ってあの超有名ボカロPやろ? その人が関わっとったんなら納得やわ。にしても久遠、えらい詳しいな」


「はい! 私、Vさんのファンなので!」

 

 錫火さんと久遠さんのやりとりに僕の心臓がドキンとはねる。


「くっ、どうしてプリズムプリズンがあの『V』さんと繋がりがあるんだ。なあ逆瀬川、マネージャーをしていたんだろ? 何か分からないのか?」

 

「え? し、知らないなぁ」


「そうか……」とそれ以上追求のない久遠さんの横で、錫火さんがじとーとこちらを見つめている。


 たはは、と僕は頬をかくことしかできなかった。


「来るわよ」

 

 先ほどからモニターを食い入るように見つめていた明日花さんの言葉に、僕を含めメンバー全員が意識を切り替える。

 


「最後にとっておきだ!! 新メンバーを紹介するぜ。来いよ、(すい)!」


 アイドルフェスには当然アスタリスクのファンもいる。

 だからこそ、その名前に聞き覚えのある人も多く、どよめきが広がる。

 


 アスタリスクの元メンバー、御園(みその)(すい)

 トップアイドルをひた走るグループにいながら突如、脱退したメンバー。

 一瞬の輝きが彗星ようだったと、いまなおアイドル史の歴史の一ページに刻まれている。

 ピンク色のロングヘアに、どこか掴み所のない幻想的な雰囲気の彼女がステージ中央に現れる。



「久しぶり。会いたかったよ」


 決して大きくない声量。

 それなのに耳にすっと飛び込んできて、彼女の次の行動に目が離せなくなる。


「みんなのこと、また虜にしちゃってもいいかな?」


 うおおおおおおお、と歓声とともに拳が突き上がる。


「みんなに届きますように。『Rock On』」

 

 イントロからの伸びやかな声量、指先から髪の動きまで意識されているような身のこなし。

 プリズムプリズンの歌と踊りを完全にものにしていた。



 ――――いや、違う。あんな振り、僕は考えていないぞ!

 

 完全にものにしてそのうえで彼女の良さが光るような優雅な振りへと昇華されていた。

 きっと(すい)さんが考案して改良したんだろう。


 それは新生プリズムプリズンの誕生の瞬間を意味していた。


 

 

 六槻と(すい)さんの強烈な個の力がステージ上でぶつかりあう。

 互いに互いを喰うような迫力。

 これはデュオじゃない、もはやそれぞれがセンターだ。

 

 

「なによ。歌もダンスも磨きかかってるじゃない」


「ほんまやで。飽きたからやめたんちゃうかったんかい」



 みんな色んな感情がない交ぜになった面持ちで(すい)さんのパフォーマンスを見つめていた。

 そして、プリズムプリズンは熱狂と困惑を残して幕を下ろした。




 控え室から移動し、ステージ横でスタンバイするアスタリスクのメンバーたち。

 僕はヘアメイクや衣装の最終調整をしていた。



 舞台の袖から観客席をみると、先ほどの爆弾が投下されたような衝撃に会場が浮き足立っているように見えた。



(こんなんじゃみんなやりづらいだろうな……)



「みんなわかってる? いつも通り最高のステージにするわよ」


「よっしゃ気合入るわー」


「やってやろうじゃないの」

 

「魅せつけてやるっす!」


「うふふ、ぞくぞくしちゃうわ」


「このアウェー感、懐かしーね」

 

「明日花さんを雑用係になんかさせない!」



 どうやらそんな心配はいらなかったようだった。

 この状況を楽しんでいるなんて、トップアイドルはすごいや。

 


「みんないってらっしゃい!」



 パチン、パチンと一人一人とハイタッチして送り出していく。

 最後のメンバーである久遠さんを送り出した時、どたん、と音がして僕は振り返る。


 

「久遠さん?!」



 駆け寄る僕に久遠さんは、しー、と人差し指を立てて首を振る。



「心配するな逆瀬川、足元が暗くて少し踏み外しただけだ」



 そういって立ち上がった久遠さんは走ってステージへと向かった。



(どうかみんなご無事で)



 みんなの背中に祈るように願いを込める。

 会場では『ネクストアーティスト』のアナウンスとともに進むカウントダウン。

 彼女たちのステージがアイドルフェスのラストを飾る。




『……3・2・1!』




 ーーーーアスタリスクのライブが今、始まる。




 プリズムプリズンの作り上げた雰囲気を、吹き飛ばす圧巻のステージだった。




 アイドルフェスの会場には、いろんなアイドルファンがいる。

 たとえ推しグループがいたとしても、これぞ現代アイドルのお手本といったアスタリスクのパフォーマンスには誰もが目を見張っていた。



 観客たちはペンライトの色をメンバーカラーに切り替える。

 思わずそうさせてしまう魅力がアスタリスクにはあった。



 みんなこの瞬間だけはグループの垣根を超えて、一つの大きな"アイドルファン"としての集合体となって楽しんでいるようだった。



 ライブ中盤、盛り上がりが加速していく最中に異変は起こる。



 久遠さんが倒れた。





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よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
六槻はアイドルとしてステージやライブでは問題ないけれど、OFFでドジを踏んでやらかすタイプでしたか。
と言うか、伍って六槻の曲も作ってたんだ…
久しぶりの更新ありがとうございます!
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