60.放課後、喫茶店にて
天ヶ咲六槻、衝撃の復活会見から一夜明けて僕はバイト先の喫茶店に来ていた。
貸切状態の喫茶店で明日花さんと姫路さん、あっちゃんに鈴ちゃん、景凪のみんなでテーブルを囲んでいた。
放課後にこうしてみんなで集まって話すことがある。
今日はいつもの楽しい雰囲気とは少し様子が違った。
そして、明日花さんが苦々しげに口を開いた。
「六槻が芸能活動復帰するとはね」
「僕も明日花さんからの電話があってニュースを見た時は驚いたよ」
昨日の様子を思い出しながら僕はいう。
「ネットニュースで見たときは私も驚いちゃった」
姫路さんも僕に同意するように頷いた。
実は人気Vtuberの「星月かぐや」である姫路さん、普段テレビを見ない彼女でもそのことを知っているなんて。
ネットニュースで取り上げられたりSNSでトレンドになっていたからかな。
「ねえねえ、六槻ってだれぇ?」
景凪が頭に疑問符を浮かべていた。
それに対して鈴ちゃんが答える。
「天ヶ咲六槻だから、天ヶ咲家、つまり伍くんの姉妹にあたる人物だよ。景凪ちゃんは知らなかったのか?」
「つむつむ以外に興味ないなぁ。ガルコレで三華とあったのが初めてだし」
景凪は大きな体をテーブルに突っ伏せながらいう。その様子にみんなが「景凪らしいなぁ」という顔を浮かべていた。
景凪は昔にセレーナさんの家で一時的に過ごしていた、その時に天ヶ咲家のことは伝えた気がするけど姉妹ひとりひとりの名前は覚えていないんだろうな。
「私も名前を知っていただけで復帰前に何があったかは詳しくは知らないのだがね。伍くん教えてくれないだろうか」
「そうか、六槻の騒動は鈴ちゃんと出会う前だったね」
それから僕は手短に説明をした。
六槻がSNSに投稿した自撮り写真に飲み干したお酒の缶が写っていてそれが炎上したこと。
その後の対応で投稿した写真をすぐに消したことにより本人が飲んでいたことが濃厚になり、未成年飲酒としてニュースに取り上げられ、そして活動自粛になったこと。
「ふむ、過去にそんなことが。それで火消しのために活動自粛をする手段を取ったのか」
鈴ちゃんが神妙に頷いていた。
「うん、そういうことだと思う。六槻はここ1、2年で母のお酒を飲むことがあったから何度か注意してたんだけどね。僕がちゃんと言い聞かせてたら……」
「いいえ、それは違うわ伍。六槻の自業自得よ」
僕の言葉を遮るように明日花さんがキッパリという。
「そーだよ。どーせ三華みたいに言うこと聞かなかったんでしょ?」
「そうだよ逆瀬川くん! 気にしちゃだめ。何にも悪いことなんてないんだから」
「……ありがとう」
そう言ってもらえるようと心が軽くなったような気がした。
「騒動から復帰まで数ヶ月はかなり早いのではないか?」
鈴ちゃんが疑問を口にした。
「そこは母が働きかけたんじゃないかな」
それには僕が答える。
「事務所の経営悪化で首が回らなくなったから、自粛させるんじゃなくて活動させてお金を稼ごうとしているんだと思う」
守銭奴である母の考えそうなことだった。
「なるほど。しかし、復帰したところで仕事はちゃんとあるのだろうか。騒動を起こしてすぐだと難しいのではないか?」
「うんうん、そんなやつ出てくるなぁ。って景凪なら思うなぁ」
「僕もそう思ってたんだけど、非難ばかりじゃなくて賛成の声もあるみたいだよ」
僕はスマホを触って、SNSでの六槻復帰に関する意見をみんなに見せた。
『未成年飲酒したやつが帰ってくるな』
『また問題起こすまえに引退したら?』
『天ヶ咲六槻復活? 誰それ』
『六槻様復活万歳!!』
『プリズムプリズンってごりごりな売り出し方してたし悪くなった方が箔がつくでしょ』
『マジもんのヤバいやつはちょっと……』
『六槻様に罵倒されたい!』
『他のメンバーに迷惑かけたんだからやめろよ』
『顔も見たくないって』
『前々からオレ様なところが鼻についてたから消えてせいせいしてたんだけど』
『素行が悪くても顔が良いから俺は許す』
『お前が許しても世間が許さねーよ』
『ライブパフォーマンスまじかっこいいからまた見れると思うと興奮する』
否の方が多いけど待ち望んていた声も少なからずある。さすがは有名アイドルということか。
オレ様系アイドルということもあり、今回の騒動はあまり悪く思っていない人もいるようでそうした人の大半は熱狂的な信者のようだった。
話題性という意味では十分だった。
「ほんとだ色んな意見があるね」
「週刊誌には塞ぎ込んでいたという情報もあったようだけど精神的に立ち直ったのかしらね」
それともデマだったのかしら、と明日花さんは肩をすくめる。
六槻のことだからへこたれていないようにも思えるけど、どうだろう。
「ねえあっくん、六槻ちゃんってあの六槻ちゃん? 小さい頃に遊んだ時はそんな子に思えなかったんだけど」
長い間話を聞きながら口を閉ざしていたあっちゃんが、信じられないといった様子でつぶやいた。
あっちゃんは昔に少しだけ住んでた地域で良く遊んでいた。その時に六槻も一緒になって遊ぶことがあったんだ。
「昔は僕にべったりで可愛かったんだけどね……」
今では見る影もない。
最近では邪険に扱われた記憶しかないや。
「会見での言動だったり、自分のことをオレって言ってたりうちの知ってる六槻ちゃんじゃなかったよ」
「引っ越してから次第に自分のことをオレっていうようになって、その辺りから徐々に高圧的になっていったんだ」
「昔はむっちゃんって言ってたのにね」
あっちゃんは六槻の変わりように悲しんでいるようだった。
「はは、それは懐かしいね」
何かきっかけでもあったんだろうか。
それは僕には分からない。
「というか明日花、つむつむに電話したの?」
景凪が口を尖らせていた。
「ぎくっ」
「そうだよ、明日花ちゃん抜け駆けダメなんだから」
姫路さんが頬を膨らます。
抜け駆けってなんのこと?
「こ、これは業務連絡よ! ね、伍?」
「うん……?」
僕は戸惑いながらも首肯する。
アスタリスクが出演するガルフェスに、六槻が出るという情報の共有は業務連絡にあたるのかもしれない。
「あっくんもしかして、明日花からの業務連絡って結構多いの?」
「電話じゃないけど結構頻繁にあるかな? ほら、SNSに載せる写真はどれがいいかなとか」
写真を送られてくることが多い。
それは私服だったり衣装だったりと様々だ。
「その手があったか……」
鈴ちゃんが神妙に頷いていた。
その手ってどの手?
僕は明日花さんのサポートをしているだけなんだけどな……。
「ちょ、ちょっと伍それは内緒よ!」
なぜか慌てている明日花さんに、みんなが質問攻めをしていた。
それから僕らは暗い雰囲気も消えていつも通りの会話に戻った。
六槻が復帰すると聞いて、胸がざわついていたからこうしてみんなと話せてよかった。
友達で集まって話すのは楽しいな。
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