【ガンガンJOKER 出張掲載記念SS】八茅留の自慢のお兄ちゃんなのです!【八茅留side】
伍が追放されてから八茅留が喫茶店に突撃するまでの過去編です。
『八茅留ちゃん、五月五日はお祝いの日です。久しぶりに家族みんなで仲良くお食事をしましょう』
ある日、八茅留のスマホにそんな連絡が届いたなのです。
昔は、姉妹の誕生日会を開いていた八茅留たち家族だったなのです。
でもいつしかみんなのお仕事が忙しくなって、離れ離れになっちゃって。
誕生日会がなくなったから八茅留は寂しかったなのです。
集まれなくなってからも、いつもお兄ちゃんは八茅留の誕生日に手作りのぬいぐるみをくれたなのです。
八茅留の自慢のお兄ちゃんなのです!
えっへん。
おとと、話が逸れちゃったなのです。
お兄ちゃんのことを考えるといつもこうなっちゃうなのです。
とにかく、八茅留はその連絡を見て嬉しくなっちゃったわけなのです。
「お母様がやっとお兄ちゃんを認めて、誕生日のお祝いを開いてくれる!」
連絡をみた八茅留は、思わずお兄ちゃんに貰ったお気に入りのぬいぐるみをぎゅぎゅと抱きしめて頬擦りしちゃったなのです。
連絡をみたのが自分の部屋で良かったなのです。
もし、お兄ちゃんのことで喜んでる姿をお姉ちゃんたちがみたら、なんて言われるか分からないなのですから。
そんな気持ちで五月五日になって、いわれた時間にリビングに行ってみんなが来るのを待ってたなのです。
(あれ、お兄ちゃんがこないなのです……)
リビングには、お母様とお姉ちゃんが集まっていたけどお兄ちゃんが来てない。あのお兄ちゃんが時間に遅れるってことはあり得ないなのです。
それに椅子だって足りてないなのです。
「お母様、早く食べようぜ。オレは腹が減ってんだよぉ」
「六槻、少し待ちなさい。直に伍が来ますから」
痺れを切らした六槻お姉ちゃんをお母様がなだめます。
「けっ、あいつが来んのかよ。オレの誕生日だってのに、あいつのしけた面見てると飯が不味くなるぜ」
「それはそうですが。今日は面白いものが見れると思いますよ。なんせ、今日は伍をこの家族から追放するのですから」
お母様は耳を疑う言葉を上機嫌に告げたのです。
(そんなっ……!)
「へえ、そいつぁ楽しそうじゃねえか」
六槻お姉ちゃんは口の端を吊り上げて怖い顔で笑ってるのです。
他のみんなもこれから起こることを、何かの企画かイベントのように楽しみにしているなのです。
昔は、あんなに仲が良かったのに。みんな酷いなのです。
けど八茅留も人のことは言えないなのです。
この状況に声をあげる訳でもなくただ黙ってることしかできてないなのですから。
すると、リビングの扉が開いてお兄ちゃんが入ってきました。
その顔はいつもの疲れ切った顔じゃなくて、どこか嬉しそうで、自分がこれからどうなることになるかも知らずに。
「伍、お前とは家族の縁を切ります」
冷酷にもお母様は切り出しました。
そこからはどんどんと話が進んで行ったなのです。
「そんなつまらない企画、誰が見るって言うのです? 底辺Utuberでももっとマシな企画を思いつきますですよ?」
こんな酷いことを思いつくお母様に向けて皮肉をいう。
こんな小さな抵抗しか八茅留はできないなのです。
「早くこの家から出ていくのです」
お兄ちゃんがこれ以上傷つかないように。
「二度と帰ってくるななのです」
この家に未練のないように。
この家から離れて幸せになれますように。
◇
「今日の配信はここまで! おにーちゃんたち、ばいばーい!」
配信の停止ボタンを押して、ヘッドセットを壁につけてあるヘッドホンスタンドにかけたなのです。
お兄ちゃんが家を追い出されてから数日ほど経ったなのです。
日課であるSNSでトレンドをチェックしながら、これまでのことをぼんやりと考えてしまうなのです。
あれから六槻お姉ちゃんがお仕事に遅刻する迷惑をかけちゃって。
それから、SNSにあげた写真で炎上もして大変なのです。
お兄ちゃんがいたときはこんなことなかったのに。
みんなそれに気づいていないなのです。
それに、ただでさえ距離のあった八茅留たち天ヶ咲家の空気が、しんと張り詰めるようになったなのです。
八茅留たち家族は繋がりが薄くなっていくようでした。
たぶん、誰かを悪者にすることで繋がっていただけなのです。
ふと、バズってるポストを見つけたなのです。
『「アスタリスクの芦屋明日花御用達!? 謎の黒髪清楚美人も通う喫茶店がやばい! それに小さくて可愛い男の子が淹れてくれるコーヒーが絶品っ!」』
八茅留が目を留めた理由は、アスタリスクの芦屋明日花や、謎の黒髪清楚美人でもなく、『小さくて可愛い男の子』の部分だったなのです。
その言葉に、ある人が頭に思い浮かんだなのです。
「お兄ちゃん……」
お兄ちゃんは三華お姉ちゃんにコーヒーや紅茶を淹れさせられてたから、絶品なコーヒーを出すというところもなんだか記憶を刺激したなのです。
八茅留が今よりうんと小さい頃。
『どうしたの八茅留ちゃん僕の部屋に来て。また怖い夢見ちゃって眠れないの?』
『……こくん』
『じゃあホットミルク作ってあげるからちょっと待ってて。はちみつがたっぷり入ったやつ』
夜に甘いものを飲んだこと、お母様には内緒だよ。そう言って、しー、とお兄ちゃんが人差し指を立てるから、八茅留も、しー、って真似をしたなのです。
それが秘密を共有してるみたいで、とっても楽しかったなのです。
お兄ちゃんが作ってくれたホットミルクを飲むと、甘くって胸がぽわっとしたなのです。
それからお兄ちゃんは八茅留が眠るまで頭を撫でてくれたのが八茅留の大切な思い出なのです。
現実に戻って、ポストにあげられてる画像を見たなのです。
喫茶店の外観が映された一見なんの変哲もない画像なのですが、喫茶店の窓から、ちらっと映り込む男の子の姿があったなのです。
もしかしたらと思って、画像をぐっと拡大して目を凝らすなのです。
「こ、これはお兄ちゃんなのですっ!」
恐ろしく小さく写り込んでるだけ、八茅留じゃなきゃ見逃しちゃうところなのです。
「うぅ、喫茶店で働いてる姿、絶対かわいいなのです。見たいなのですー!!」
でも、我慢。ぬいぐるみを抱きしめてジタバタするくらいに留めるなのです。
八茅留たち家族のもとを離れて、別の人生を歩んでいるお兄ちゃんの邪魔はしちゃいけないなのです。
◇
今日は三華お姉ちゃんが出る、ガルコレを自分の部屋のモニターで観てたなのです。
ティーンのトレンドを作り出す一大ショーは、この業界にいるなら情報を仕入れるためにも必見なのです。
服のことはよく分からないなのですが、『V‘s』というブランドはとってもかわいくて胸が踊ったなのです。
そのブランドの中で一人の女の子に目が釘付けになったなのです。
それは五百里ちゃん。
「いやいやいや! ハーフツインでロリータの格好してるけど、どうみてもお兄ちゃんなのですっ! なんでこんなことしてるなのですぅ!?!?」
これはこれでかわいいけれど、かわいすぎるけれどっ!
投げキッスしたときは気絶するかと思ったけれどっ!
でもどうして……。
生活に困って女装してモデルになってお金を稼ぐしかなくなっちゃったのかな。
もしかして、男だから家族を追放されたお兄ちゃんがついに女の子になっちゃったなのです?
「これはまさかなのです……あの人はもう芸能界とは関われなくなったと思っていたのです。次こそは芸能界からおさらばさせてやるのです!」
こんなあられもないお兄ちゃんの姿を見て、八茅留はようやく決心したなのです。
お金に困ってるなら八茅留の専属マネージャーになってもらうなのです。
八茅留だって有名Utuber、お金だって稼いでるからお兄ちゃん一人を養うなんてわけないなのです!
それに、お兄ちゃんを苦しめた芸能界にもう戻ってきちゃだめなのです!
お母様はテレビや映画、演劇、雑誌、といった昔ながらの芸能界のことを上に見てるなのです。
Utubeっていうネットの世界ならお兄ちゃんを守ってあげることができるなのです!
◇
ゲーミングチェアに座ってコントローラーを握りしめながら、ふー、と息を長く吐いて呼吸を整える。
今日は、お兄ちゃんが好きっていってた星月かぐやの配信に凸するなのです。
――お兄ちゃん見てくれてるかな?
そんな願いを込めて。
星月かぐやは八茅留がUtuberを始めるきっかけになった人なのです。
お兄ちゃんの部屋に遊びに行った時に、星月かぐやの配信を見てるお兄ちゃんを見つけて、嫉妬してUtubeを始めたなのです。
そうしたらお兄ちゃんに八茅留のことをもっと見てもらえる気がしたなのです。
だから負けるわけにはいかないなのです!
「こいつ、つよすぎなのですー!」
結果は惨敗だったなのです。
・八茅留が負けたのは調子が悪かったからなのです。勝ったからって調子に乗らないで欲しいなのです。お前なんてざぁこなのです
せめてもの強がりでコメントを残したなのです。でも、対戦してくれてありがとって気持ちで赤スパにしてやったなのです。
これでプラマイゼロなのです!
明日は、お兄ちゃんの働いている喫茶店に凸するなのです。
この配信を見てたら八茅留のこと思い出してくれてるはずなのです。
◇
喫茶店の前で、昔、お兄ちゃんから貰ったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて力を貰うなのです。
普段、あんまり外に出ないから緊張するなのです。
窓からお兄ちゃんの姿を確認して、意を決して喫茶店の扉を開けたなのです。
「やっぱりここにいたなのです」
喫茶店に入ると、お兄ちゃんととんでもない美人さんが仲良く話してびっくりしたなのです!
誰なのです、この女?!
それよりも、ど、ど、どうしよう。
お兄ちゃんって呼んだら八茅留がお兄ちゃんを好きなことがバレちゃうし、なんて呼ぼう。
そうなのです。下の名前、伍って呼ぶなのです。
でも名前で呼んだことないなのですから上手くいけるか不安なのです。
口に出す前に心の中で唱えるなのです。
あつむ、あつむ、あつむ、あつむ、あつむ。
よし!いけるなのです!
「あ、あちゅむ!!」
か、かんじゃったあああ!
なんか二人ともぽかんとしてるし恥ずかしいなのですぅ!
「あつむ!」
これは、何事もなかったかのように行くしかないなのです。
「芸能界の表舞台から今すぐ身を引くなのです!」
そして、八茅留と二人で幸せに暮らすなのです!!
10/22に発売しているガンガンJOKER11月に裏サポのコミカライズ第1話が出張掲載されています!
内容はマンガUP!で掲載されているのと同じですが、コミックになる前に紙で!
しかも雑誌なので大きな紙面で裏サポを読む事ができます!
追放するシーンが雑誌の見開きで読むと迫力がすごいのでぜひお手に取って読んでください!!
そして、良ければアンケートも出していただけるととっても嬉しいです。





