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53. Vtuber vs Utuber ②

本日は2回更新しています。

前話読まれてない方はお気をつけください。



「次の勝負は『歌』なのです!」


 

 八茅留がマイクを持ってるかのように歌うような仕草をしながら、次の勝負内容を告げた。


 

 2本目は『歌』での勝負。

 八茅留ちゃんは定期的に歌ってみた動画を上げていて、その可愛らしく中毒性のある歌声で世の『おにーちゃんたち』を元気にさせているともっぱらの評判だ。


 かぐやちゃんはゲーム配信中に気分が良くなったら自然歌っている、ときめくように可愛い歌声は聴くものを骨抜きにする魅力がある。

 歌枠や歌ってみた動画はないけれど、配信中に歌った箇所だけを切り抜いて、それをまとめられている動画があるくらいだ。

 


 

・おー歌か、楽しみ

・勝負だしカラオケってことかな

・採点で競いあうのか

・なに歌うんだろう

・てか今から歌うの?

 


「ちっちっち、違うなのです」

 

「もしかしたらみんなもう聞いてるかもしれないね」


 

 コメントに対して指を左右に振りながら八茅留がもったいつけるようにいう。

 かぐやちゃんは両手を頬にあてながら照れていた。


 

・どゆこと? 

・カラオケじゃないのか

・歌ってみた動画ってこと?

・でも動画上がってたっけ


「とあるチャンネルで、八茅留たちの名前を隠して歌ってみた動画をあげているなのです!」


 

 カラオケ採点ではなく歌ってみた動画での勝負が八茅留ちゃんから突きつけられたことだった。

 歌での勝負ならカラオケ採点が分かりやすいんだろうけれど、カラオケ採点は音程の正確さを重視しており、音程はもちろん大切だけど歌の良さはそれだけじゃない。

 

 歌とは感情を揺さぶるものである。

 より多くの人の感情が動いた結果が目に見えて分かるもの、それは再生回数。

 今の時代の分かりやすい指標だ。


 

「1週間前に上がっているんだよ。みんなわかるかな?」


 

・まじか

・無名のチャンネルで上げてんのかな

・もう聞いてるかもって言ってるからそうじゃないんじゃね

・ある程度多く聞かれてるってことか



 

 再生回数なら、それぞれのチャンネル登録者数や選曲によって大きく左右されてしまうかもしれない。

 そこで僕はある提案をした。

 

 

「八茅留たちの歌ってみたは、なんとあの正体不明の超有名ボカロP『V』さんのチャンネルであがってるなのです!!」


 

・えええええええええ!!??!!

・はああああああああ?

・久々に復活してたあの動画?

・まじか俺聞いてたわ

・同じ曲2個あげてたけどそれぞれ違う声だったからそういうことか

・八茅留だけずるいのだよ



 

 再生回数はチャンネルの登録者数や選曲によって大きく差がでる。

 それを公平にするために、新曲をそれぞれ録音して、その歌ってみた動画を名前を隠して同じチャンネルで投稿する。

 投稿するチャンネルが無名だと再生回数が数回や、もしかしたら0回なんてことになっては勝負にならないので、ある程度拡散力のあるチャンネルであることが必要になる。


 

 そして僕の提案とはこうだ。

 ボカロPの『V』の新曲を二人それぞれに歌ってもらい、その動画を同時期に公開して、今日までの再生数での勝負すること。



 

 なぜそんな提案ができたのかというと、なにを隠そう僕がボカロPの『V』だからだ。

 最近自分のパソコンを購入し直して作曲できるようになったから丁度良かったよ。


 

  

 正体を隠しているのであくまでも僕から『V』に依頼するという形をとった。

 依頼を快諾してもらったといったら八茅留はすごく怪しんでいたけど納得していたので大丈夫、だよね……?

 ちなみにかぐやちゃんには僕が『V』であるということは打ち明けていた。

 というか、昔にかぐやちゃんにコメントしていたときのチャンネルである『V』のままだったのでバレちゃってたんだけどね。


 


「今から『V』さんのチャンネルに行って見るなのです!」

 

「ふぅ……どきどきだね」


 

 

・あの曲めっちゃいいよな

・両方に良さあったから悩ましい

・俺はver.Uが好きだった

・いんやver.Vがいいっしょ

・そっか、二人ともどれだけ再生されてるかみてないのか 

・八茅留家に帰ってきたらお仕置きなのだよ


 

 今回この勝負のために作った新曲の名前は『ライブ』

 配信活動に生きる二人を想像して作った新曲。

 それぞれのバージョンがあって、ver.Vがかぐやちゃん、ver.Uが八茅留ちゃんだ。


 

 僕もまだ結果を見ていない。

 視聴者さんにすでに聞いている人がいるみたいで嬉しい。


 

「むむむっ……結果発表なのです! えいなのです!」

 

「八茅留ちゃん、こ、心の準備が……、はわわっ……!」


 

 八茅留ちゃんが『V』のチャンネルのURLをクリックして、チャンネルページがモニターに表示された。

 知らず知らずのうちに薄めになっていた僕は、そのまぶたをゆっくりと開いた。

 


『ライブ(ver.U)』 再生回数 3,682,965回

『ライブ(ver.V)』再生回数 3,371,528回


 

「うわーい! やったなのです!」


「ま、負けちゃったあ……」


 ぐすっ、と今にも泣き出しそうなかぐやちゃんの横で、八茅留はふふん、と胸をそらして上機嫌だった。


 

・八茅留の声にどハマりしてた

・俺がver.U鬼リピしてたおかげだな 

・かぐやちゃん泣かないでー

・ver.Uも良かったよー

・二人で一緒に歌ってるのが聞きたくなった

・同じ曲で再生数食い合ってるのにこれはやばぁ!


 

 なんのタイアップもしていない曲なのに、数字の伸び方が凄まじい。

 普段は曲を作ったらボーカロイドか、自分で歌ういわゆるセルフカバーをするんだけど、1週間でここまで伸びたのは二人の歌がそれぞれとても魅力的だったおかげだと思う。



・2曲同時に急上昇入りしてたよな

・さすがVさんなのだよ。控えめにいって神なのだよ。


  

「ほんっとに『V』さんの曲はすごいなのです! 歌わせていただいて光栄だったなのです!」


 コメントや八茅留ちゃんが褒めてくれるのがとても嬉しい。

 

「そうだよね! 勝負には負けちゃったけど、最高の曲だよ!」


 

 姫路さんがこちらをみて微笑む。

 屈託のない表情で直接褒められたことに僕は背中がむずむずとして気恥ずかしさを覚える。



 僕らとしては勝負に負けたので悔しい結果となってしまったけれど、ボカロP『V』としてはこの結果を出した二人に拍手を送りたい。


 

「ここまでで1勝1敗なのです」

 

「次が最後の勝負だね」


 

 いよいよ次が最後の勝負。

 これで僕の命運が左右されるかもしれないと思うと自然と拳に力が入る。

 勝ってかぐやちゃん、勝って姫路さん。



「最後の勝負は『大食い』なのです!」



 自信たっぷりにいう八茅留ちゃんは動画で『大食い企画』をあげている。

 そのお店で1万円分食べるいわゆる1万円企画は八茅留ちゃんの人気コンテツのひとつ。


 

 ・え、Vが食べもん食ったりできんのかよ

 ・お前知らないか

 ・最新技術でできるようになってるぞ

 ・はえーすげえな


 

 そう、このスタジオの特殊な加工によって3Dモデルが食べ物が実際に食べているのと同じように映る。

 仮想と実写が融合して、もはやどちらも本物といっていいのかもしれない。



 

 おかげで今回は初めて星月かぐやちゃんの食事風景をお届けできるのだ。


 

「いっぱい食べちゃうよ!」


 

 モニターに映るかぐやちゃんが目をキラキラと輝かせて嬉しそうな表情を浮かべていた。

 八茅留ちゃんが嫌いなものではない範囲で食べるものはこちらで決めていいとのことだった。

 

 となるとやっぱりあれしかない。

 かぐやちゃんの大好物、スイーツだ。


 

 勝負は、時間無制限の食べたスイーツの総重量で決まる。

 どれだけ食べるか分からなかったのでスイーツは僕が沢山作ってきたのだ。

 もし足りなくなったら、隣のスタジオの料理番組に使うスタジオなのでキッチンがあって僕がその場で都度作って運ぶこともできる。



 そして、勝負はあっけなく幕を閉じた。


 

「ぐふぅ、もう食べられないなのです……」


「次はデカ盛り苺パフェくださーい!」


「ここにきてデカ盛りなのですぅ? かぐや、お前いつまで食べるなのですか……」


「ええと、今なら無限に食べられそう!」


 

 大食い企画を普段からしているだけあって八茅留ちゃんは平均の女子以上には食べてたけど、1時間ほどしたら、食べるスピードはゆっくりとなりついにはギブアップした。

 

 一方かぐやちゃんは本当に無限なんじゃないかと思うほど、衰えは知らなかった。

 もともと食いしん坊さんだけど、今日までゲームの練習や歌、この配信での勝負で気力や体力を使っていたから今日は特別食べることが出来ているのかな。


 もしかしたら、僕のために頑張ってくれているんじゃないか、なんて都合の良い考えをしたくなる僕がいる。



 


 総重量は見るまでもなく、平らげたお皿の数を見れば明らかだった。


 

 いよいよ、この配信も終わりを迎える。

 結果発表のときだ。



 

 

「今回の勝負……八茅留の1勝2敗で、かぐや、お前の勝ちなのです!」

 

 

「やったあ! みんな応援ありがとう!」

 

  

 歯噛みをしながら苦々しく八茅留ちゃんは告げ、両手をあげて喜んでいる。



・かぐやちゃんおめでとー

・良い勝負だったなぁ

・てかなんのための勝負だったんだ

・勝った方、負けた方になんかあんのかな

・初コラボの企画を勝負形式にしただけでしょ

・楽しかったからよしっ

 

 

「みんな、おつかぐやー」


「おにーちゃんたち、ばいばーい!」



 二人がそれぞれのお決まりの挨拶をして、配信は終わった。


 

 僕は配信がちゃんと切れたかどうか念入りに確認する。

 万が一、配信切り忘れ事故なんてことはあってはならないからね。


 

 うん、大丈夫そうだ。




 

「おにーちゃん、ばいばい……」



 なぜか八茅留ちゃんはもう一度挨拶をしている。

 配信切れてるから大丈夫だよ、と声をかけようとしたその時、八茅留ちゃんがぽろぽろと涙をこぼし始めた。


 

「ふぇえん負けたのですぅ、八茅留の専属マネージャーにする計画が台無しなのですぅ……。それにもう、もう……会え……ずびび」


 

「八茅留ちゃん……!」


 

 もう家族の縁は切られたというのに、僕はその様子を見て堪らなくなり駆け寄った。

 ポケットに入れていたハンカチで、とめどなく浮かんでは流れ落ちる雫を拭う。

 

 

 そうしながら僕は拭いきれない違和感を抱いていた。

 八茅留ちゃんは僕が専属マネージャーにならかったことでどうして泣くんだろう。


 もしかしたら勝負に負けたこと自体が悔しくて泣いているのかな。

 いや、それなんだか違う気がする。


 

 そもそも僕に『手伝わないでなのです』といって突き放して、一人で活動していた彼女が今更どうしてやってきたのだろう。

 八茅留ちゃんが喫茶店にやってきた時からの違和感が膨れ上がる。


 なにかがおかしい。

 そのなにかが一体なんのかがわからない。


 

「八茅留ちゃん、今から言うこと間違ってたらごめんなさい。でも……きっと間違ってない」


 

 背後にいた姫路さんの声に僕は振り返る。

 姫路さんなら分かったのだろうか。この違和感の正体を。



 

 それから姫路さんは一度呼吸をして息を整え、確信めいた表情でゆっくりと口を開く。

 耳に飛び込んできた思っても見なかったその一言は、僕の頭に強く打ち付けるような衝撃を与えた。



 

「――――八茅留ちゃんって、本当は逆瀬川くんのこと好きだよね?」

 



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[気になる点] 伍はいつ作曲能力を取得したんでしょうか?彼がマルチスキルすぎて生涯の中で芸能サポートスキルの取得時間は足りますか? 七菜は新しい作曲家と契約できましたか?彼女はファイブ=伍だと気づいて…
[一言] やっぱりかぁって感じですね。 あんなゴミみたいな奴等しかいない家なんかにいて欲しくないもんな。
[一言] >「そんなかわいそーなあつむには八茅留の専属 以前のこれで判ってましたが、独占欲強いお兄ちゃん子なのですね。 ずっと一緒に居たいというのを物凄く捻じ曲げて伝えてたと。 反発してたのは他の家族…
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