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12. お仕事





 「というか伍、隣にいた背の高い超絶美人は……ダレ?」




 PV撮影に向かう車中のこと。

 話が一旦まとまったかと思ったのも束の間。



 ずずいと、明日花(あすか)さんが僕に迫ってきた。



 (顔近っ! 目大きっ! 鼻高っ!)




 明日花さんとこんなに顔が近いなんて普通なら喜ぶべき状況なのに……。




 (なんだか怖いっ!!)




 「えっと、学校の友達だよ。そう、友達!」



 「友達、ねぇ……? 昨日の今日であんな美人とお友達になるなんて、ねぇ……?」



 ひいぃ!



 今日の明日花さんからはなにやら強いプレッシャーを感じる。



 「あの……それはというとね……」




 聞かれてもいないのに、僕は言い訳をするかのように姫路さんとのことをある程度ぼかしながら話すのであった。




 (てか、どうして僕は言い訳してるんだ?)





○ ●





 「ふぅん、なるほどね……」




 

 話を聞き終えた明日花さんは何かを考えているようだった。




 姫路さんのことを話してて思い出したけど、今日は姫路さんのメイク道具を選びに行く約束だったのに約束破っちゃったな。

 ちょっと怒ってるようにも見えたし、よっぽどメイク道具を買いたかったんだろうなぁ。



 それなのに悪いことをしちゃったな、明日謝らないと……。






 「なによそれ、そんなの絶対に好きになるに決まってるじゃない。伍は気付いてないけど周りには強敵ばかりだっていうのに……あんな子まで増えたら私……」




 「明日花さん、どうしたの?」





 考え事をしていた僕は、明日花さんがなにかを話していたのに聞くことが出来なかった。






 「ううん! 別に、なんでもない! それにしても私の前で他の女の子のこと考えてたでしょ?」





 「え! そ、それは……」





 「ふぅん、良い度胸してるじゃない。これから私のことしか考えられないようにしてあげるんだから、覚悟しなさいよ?」





 そう言って、パチリとウィンクをした明日花さんは星のように輝いてみえた。





◯ ●






 「着いたわよ、今日はこのスタジオで新曲のPV撮影をするの。そして、伍にはメンバー全員のメイクを担当してもらうわ」




 「僕がみんなにメイク!?」




 「そ、出来るでしょ? 『プリズムプリズン』の六槻(むつき)にはメイクしてたじゃない」



 プリズムプリズンは六槻の所属するガールクラッシュ系アイドルグループだ。

 フェスなどの現場でアスタリスクと共演することがあって、そのときに明日花さんに見られていたのかな。




 「そうだけど……僕でいいのかな?」




 「伍”で”いいんじゃなくて、伍”が”いいのよ。伍がお金が必要なのは知ってるけど、お情けで選んだわけじゃないから安心して。私は仕事では手を抜かないから」




 そう言った明日花さんは真剣な目をしていた。

 パーフェクトアイドルと言われている明日花さんがテキトーに仕事をするわけがない。




 「わかった、僕も精一杯頑張るよ」





 だったら僕も本気で応えないとな。








 「じゃあ、メンバーにも挨拶しないとね。楽屋いこっか」


 「うん、でもその前に現場の人たちに挨拶しても良い?」


 「ん? 良い心がけね。私も付いていくわ、一緒に行きましょ」


 「ありがとう!」





◯ ●





 「ふふっ、これからの撮影が楽しみね」


 「結構時間かかっちゃったけど大丈夫かな?」



 現場の人たち挨拶を済ませた僕らは、次にメンバーと顔合わせをするべく楽屋向かっていた。



 「いいのよ、待ってる間にみんなには衣装に着替えてもらってるから」



 少し話をしている間に楽屋に着いた。

 コンコンコンと、明日花さんが扉をノックする。




 「みんな入るよー」




 「明日花? どうぞー」




 ガチャリと扉を開けると、そこには着替え中のアスタリスクのメンバーたちがいた。





 数々の美少女たちがあられもない姿をさらしている。

 その光景ははさながら花畑のようだった。



 (はて、天国への扉を開けたんだっけ……?)








 「……」


 「……」




 一瞬の沈黙の後、明日花さんの後ろにいる僕に気づいたメンバーの一人が悲鳴を上げた。





 「キャーー!!」





 バタンと、明日花さんが扉を閉める。




 「みた?」





 「みてません」

 いえ、バッチリ見ました。




 「ホントに?」






 「ホントです」

 嘘です。



 


 (でも、こう言うしかないじゃないか!)






 「私、ウソは嫌いよ?」




 「ごめんなさい見えました」




 「なら、許す」




 「いや、あかんやろ!」





 スッと扉が開き、人懐っこそうな女の子が顔だけを出してツッコミを入れてきた。

 




 「錫火(すずか)、ツッコまなくて良いから先に着替えなさいよ」




 「せやけど……あんた着替え終わったら覚えときや!」




 僕のことをビシッと指を差したあと、女の子は楽屋に引っ込んで行った。



 

○ ●




 「本当にすみませんでした!!」




 メンバーみんなが着替え終わったのを明日花さんがたしかめた後に、僕は楽屋に入ってすぐに深くおじぎをしてさっきのことを謝った。





 「いいのよ伍、みんなが着替えるのが遅いのが悪いんじゃない」




 「いや、明日花! 男が一緒におるなんて聞いてへんかってんけど!?」




 大声で怒鳴ってるのは関西弁でグループのツッコミ役、赤担当の涼風(すずかぜ) 錫火(すずか)さん。


 


 「あら、たしかに言ってなかったわね。じゃあ悪いのは伍でもみんなでもなくて私のせいね、ごめんなさい」




 明日花さんは素直に非を認め、みんなに頭を下げた。 






 「明日花さん顔を上げてください! 明日花さんに謝られたら……私は許すしかないじゃないですか!」




 そう言ったのは、最年少ながら大人びたルックスが持ち味な青担当の苦楽園(くらくえん) 久遠(くおん)さん。





 「久遠(くおん)、あんた明日花に甘いんじゃないの? 黒海(くろみ)ちゃんの下着姿が見られてるんだよ?」




 久遠(くおん)さんに異をとなえているのは、地雷女子の間で憧れの存在となっている黒担当の六麓荘(ろくろくそう) 黒海(くろみ)さん。




 「下着くらいいーじゃん黒海、べつに水着とおんなじっしょー」




 さして気にしていない態度の彼女は、不思議ちゃんで発言が切り抜きなどで取り上げられて話題となっている紫担当の新王塚(しんのうづか) 紫野(しの)さん。

 



 「そうですよ黒海(くろみ)ちゃん。紫野(しの)ちゃんの言う通りですよ、むしろわたくしはもっと見て頂きたいくらいな・の・に」




 人差し指を口に当てて妖艶な笑みを浮かべているのはグラビアでも人気な緑担当の翠ヶ丘(みどりがおか) 美鳥(みどり)さん。




 「美鳥(みどり)さんダメっすよ! いくら美鳥(みどり)さんが変た……露出狂だったとしても自分を大切にしなくっちゃいけないっす!」



 元気はつらつで見る者の誰もを明るくさせるオレンジ担当の打出小鎚(うちでこづち) 梢枝(こずえ)さん。




 「梢枝(こずえ)、あんた言い直してるけど意味一緒やで?」



 すかさず錫火(すずか)さんがツッコミを入れる。


 



 す、すごい光景だ。

 大人気アイドルグループ、アスタリスクのメンバーが僕の目の前で会話を繰り広げているのがなんだか信じられなかった。




 

 「まぁ、今回はしゃーない。うちらも着替えるん遅かったのは事実やしな。この男も悪いと思ってすぐ謝って来たし、この話はここらで手打ちやな」





 「許してくれて嬉しいわ、ありがとう錫火(すずか)





 ほっ、助かった。大事にならずに済んで良かった。

 明日花さんはこうなることを見越して場を丸く収めるために率先して謝ってくれたんだろう。






 

 「というかこの男だれなん? まさか、明日花のこれ?」



 錫火(すずか)さんは親指を立てて、にやにやと笑いながら明日花さんに尋ねる。

 表現が古い感じがする……。

 


 「ばっ! な、なに言ってんのよ! ち、ちちち違うわよ」




 明日花さんの顔が赤くなる。

 そして、僕たちから顔を背けた。



 

 「え、うそやん。その反応マジ?」


 「あんな明日花ちゃん、初めて見るし」


 「親指ってどういうことっすか? この人が明日花さんの親ってことすか?」


 「まだ知らなくて良いのよ梢枝ちゃん。にしても、へぇ………この子が」







 「おい! お前どういうことだ! 名を名乗れ!」





 久遠(くおん)さんがすごい顔つきで問い詰めてくる、今にも僕を殴り掛からんとしている。




 (や、やばい)




 「久遠(くおん)ちゃん、明日花のこと大好きなん分かるけどちょいまち。今の明日花は使いもんにならなさそうやから、あんたの口から説明してくれるか?」



 錫火(すずか)さんが久遠さんを抑えながら僕に尋ねてきた。



 

 「は、はい! 僕は明日花さんの紹介で皆さんにメイクしに来ました逆瀬川伍です! 皆さん今日は1日よろしくお願いします!」



 誤解を解くべく、僕はすぐに大きな声で答えた。



 

 「明日花さん、今回の新曲『君の瞳の1inch』は明日花さんが作詞した、みんなにとっても大事な曲です。そのPVが大切なのは分かっていますよね? こんな男に任せて良いんですか!?」




 「えぇ。久遠、それは私が一番良く分かっているわ。だからこその伍なのよ。伍の腕は本物だからみんな安心して」




 仕事のこととなった明日花さんは本気だ。

 


 言葉で言い表せない迫力にその場の空気が張り詰める。



 

 明日花さんは僕を信じてくれている。




 僕も明日花さんの期待に応えたい。



 

 「明日花がここまで言う男、面白そうやん」

 「ふーん、お手並み拝見といこうじゃないの」

 「どんなテクニックでわたくしを悦ばせてくれるんでしょうか」

 「楽しみっす!」

 「よろー」

 「私は認めんぞ! こんな男!」



 

 全然、歓迎ムードじゃないけどそんなことは関係ない。これは仕事だ。



 

 「伍、じゃあお願いするわね」


 


 「はい!」



 こうなったら僕は、ただ自分の仕事をするまでだ。

 




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