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執事さんが攫われた日

作者: 瀬嵐しるん

◆◆◆ヴォルフガング 二十五歳 職業 騎士 リーフマン伯爵家当主


まだまだ若く健康であるにもかかわらず、伯爵位を持つ父が引退を決めた。

社交が苦手な両親は、王都より田舎領地での暮らしが好きだ。


俺はヴォルフガング・リーフマン。リーフマン伯爵家の一人息子として生まれた。職業は騎士。


今現在、騎士としては働き盛りだ。

十分に身体は動くし、経験もそれなりに積んで、上からは使いやすい兵隊だ。

まだ経験の浅い、自分より若いやつの面倒も見られるし、指導も出来る。

作戦によっては、小隊長を任されることもある。

そういう時のボーナスは、なぜか面倒見てやった若いやつの酒代に消えるんだが。


とにかく、騎士の仕事が忙しいのに父が引退し、伯爵位を継いでしまった。

領地の経営は両親がしてくれるそうだ。結果、王都屋敷と社交が俺に押し付けられた。


田舎育ちの伯爵家は、先祖代々狭い所が苦手だ。それで、貴族街の外れに一軒家の王都屋敷を持っている。

そこには俺が小さい頃から働いてくれている、信用のおける執事がいる。

だが、執事はいくら有能でも使用人。

全てを決定してもらうわけにはいかない。


というわけで、俺は結婚することにした。

相手は騎士団の食堂で働いている娘だ。

騎士団全般の雑用をするメイドとして雇われたのだが、何をさせても手早い。

しかも、雑ではない。頭の回転が速いのだろう。

きっと、俺に代わって、うまいこと家を切り回してくれるに違いない。


うちの騎士団まわりで一番忙しいのは食堂だ。

よく食べるやつが多く、作る量が半端ないし、盛り付けもしかり。

飯時のカウンターの大騒ぎときたら。

何はなくとも飯を食わせなければ、騎士は働けない。

というわけで、最終的に料理長が彼女を獲得した。


カウンターで、次々と注文に応じて盛り付け、団員に接している彼女は、なかなかモテる。

若い男が多い職場だ。だが、下心のある誘いも、今のところうまく躱している。


彼女は誰に対しても塩対応。きちんと相手はしてくれるが、愛想が無い。

だが、媚びない態度がいいと結構モテる。

俺も嫌いじゃない。


じっくり口説こうと、俺は休日に彼女を屋敷に招くことにした。

用件はわざわざ言わなかったが、年頃の男女なのだ。だいたい通じるはずだ。

もし通じていなかったとしても、話せばわかる。


それに、食堂で顔を合わせるだけの俺に、屋敷に呼ばれて断らなかったということは、彼女もその気だと考えていいのではないだろうか。

もちろん、威圧的に命じたりはしていない。


彼女は貧乏男爵家の出だと聞いている。

誠心誠意口説けば、絶対うまくいくだろう。

俺は確信していた。




◆◆◆ゼルマ 推定 二十歳 職業 王都騎士団メイド 


そろそろ、この職場も飽きてきた。

若い男は何かといっては口説いてくるし、皆一様で芸が無い。

芸があればいいかと言えば、もちろん、そんなものクソくらえである。


現在上司の料理長は、なかなかの男だ。

年齢は四十代と若いが、仕事に真摯な態度が見どころアリだ。

だが、残念ながら愛妻がいるらしい。


愛妻が先にくたばったとして、後、三十年くらいはかかりそうだ。

その頃には料理長もさらにいい感じに育っているだろうが、三十年もメイドは出来ない。

この物件は諦めることにしよう。


そんな時、騎士団員の一人が私に声をかけてきた。

話があるから、休日に自分の屋敷に来てくれないか、と。

暇だからいっかーと、行くことにした。

まあ、何か美味い物の一つくらいは出るだろう。


だが、行ってビックリした。

貴族街の外れに近い場所にある一軒家まで行くと、迎えてくれたのは五十代の執事。

物静かで、何事にも動揺しない風情がいい。枯れかけの感じもいい。

とにかくいい。

久しぶりの優良物件である。


私を招いた当の本人は急な遠征に出ることになり、不在であるという。

門前払いかと思いきや、中へ入るよう促された。

案内されたのは使用人用の食堂で、手ずから淹れてくれた茶が美味い。


「実は、昨日、家政婦長が腰を痛めまして、少々困っております。

坊ちゃま、いえ、ご当主様からの推薦ですので、すぐにでも働いていただければと思うのですが」


なんと、あの男は私を使用人としてスカウトしたのだ。

それならそうと、言ってくれればよかったのに。

新しい職場の紹介であれば、もっと愛想よく返事をしてやったぞ。

若い男にありがちな色恋沙汰だったら面倒だ、と思ったが無用だった。




◆◆◆モーリッツ 五十五歳 職業 リーフマン伯爵家王都屋敷執事 


貴族家の執事たるもの、仕事中に素になることなど許されません。

仕方なく、私は心の中でため息をつきました。

坊ちゃま、いえ、当リーフマン伯爵家のご当主の大雑把かつ適当ぶりに。


私が長く勤めさせていただいておりますリーフマン伯爵家。

領地には取り立てて有名な産物もなく、観光資源になるような景色もございません。

しかしながら、気候は穏やかで農産畜産は順調。

領民は十分に食べていける土地柄です。


加えて、代々領地を治める伯爵家は、これまた取り立てて功績が無く、そしてまた領民を苦しめるような圧制や散財もなく、概ね領地での人間関係は良好でございます。


そんな経緯もあって、伯爵家は皆さま大雑把。

あまり細かいことを考えなくても、だいたいはうまく行くので、皆さま、成り行きまかせでございます。


私が常駐しております王都屋敷は、小さいながらも一軒家。

普段は執事である私と、使用人としては先輩にあたる家政婦長にメイドが一人で切り回しております。


メイドが諸事情で辞めまして、募集してもなかなか決まらない中、家政婦長が腰を痛めました。寄る年波、と言ったら睨まれましたので気力だけはまだまだ若くて何よりです。

とにかく、メイドもいない中、家政婦長を休ませねばならず、さすがに私一人では仕事が回りません。


そんな時でございました。

坊ちゃま、いえ、ご当主様に呼ばれたと仰る若い女性が訪ねて来られました。


生憎、ご当主様は急な遠征が入り、一週間ほどお留守。

用向きをお伺いすると、理由は知らないが、屋敷に来るよう言われた、とだけ。


まったく、坊ちゃまの大雑把加減ときたら!

もう十年も前になりますが、騎士団の面接の朝。一生に関わる大事な大事な日だというのに寝坊なさって、私がどれだけ走り回ってお助けしたか。

失礼、昔のことは、どうでもようございました。


とりあえずお客様に中に入っていただき、使用人用の食堂ではございますがお茶をお出ししました。

お話を伺うと、今現在、騎士団でメイドをなさっているとか。


これは、坊ちゃまが新しいメイドとしてスカウトされたのではないでしょうか?

いや仮に、他の理由があったとしても、今、私は猛烈にメイドの力を必要としております。


それで、思い切ってお尋ねしました。


「実は、昨日、家政婦長が腰を痛めまして、少々困っております。

坊ちゃま、いえ、ご当主様からの推薦ですので、すぐにでも働いていただければと思うのですが」


「是非、お力になりましょう」


なんと、ゼルマさんと名乗られた彼女は、力強く私の手を握ると、明日から働くと言い残して去って行かれました。

こう申しては何ですが、なんとも漢らしい女性です。

長年培った執事の勘が、あの方はデキるメイドに違いないと告げておりました。



◆◆◆ヴォルフガング 二十五歳 職業 騎士 リーフマン伯爵家当主


なんということだろう。結婚しようと決心し、目当ての女性を屋敷に呼び出したその日、急な遠征を命じられた。

執事のモーリッツには遠征の件を説明する時間しかなかった。


まあ、適齢期の俺が屋敷に妙齢の女性を呼び出したら、勘のいい彼なら察してくれるはず。

俺は大して気にすることも無く、遠征を無事終えて予定通り屋敷に帰った。


「ただいま」


「おかえりなさいませ、坊ちゃま」


「おかえりなさいませ」


「モーリッツ、ゼルマ、これはどういう?」


「坊ちゃま、いえ、ヴォルフガング様。

素晴らしいメイドの方を手配していただき、ありがとうございます。

おかげで家政婦長も、腰痛の回復に専念できております」


「私はお茶の支度をしてまいります」


ゼルマは俺が何か言う前に姿を消した。


なんということだ!


プロポーズする予定だった彼女、ゼルマがメイド姿できびきびと働いているではないか!


しかも、モーリッツとのやり取りは『キャッキャウフフ』と聞こえて来そうな満面の笑顔だ。


騎士団では激辛塩対応でモテていたゼルマだぞ。

え? 誰? と二度見三度見するレベル。

モーリッツも俺が出かけた時より、若返ったように見える。んなはずは無いのだが。



そもそも、ゼルマはメイドという裏方として騎士団の戦力。

俺が遠征に出かけた翌日には、我が家に勤め始めたというがおかしい。

もちろん、俺の嫁に来てもらう時にはメイドは辞してもらうつもりだったが、今日言って明日辞める、なんてことは出来るはずがない。


翌日、騎士団本部に出かけた俺はゼルマを引き抜いたと苦情を言われるのではないかと思っていた。

ところが、何も言われない。


「ゼルマがいなくて、急に忙しくなってないですか?」


料理長に訊いてみた。

すると、帰って来た答えはこうだ。


「ゼルマ? ああ、なかなか働き者の子だったな。

今、どうしてるんだっけ?」


何だって? どういうことだと何人かに訊いて回ったが、皆、似たような反応を返してきた。


おかしい。何かが、いや、ゼルマを巡る何もかもがおかしい。

これは彼女に問いただす必要がある。



◆◆◆モーリッツ 五十五歳 職業 リーフマン伯爵家王都屋敷執事


ゼルマさんが来て以来、リーフマン伯爵家の王都屋敷に春が来たようでございます。

新人の仕事ぶりを確認するまでは、休むに休めないと言っていたベテラン家政婦長でしたが、彼女の八面六臂の活躍ぶりに感心しきり。


仕舞いにはゼルマさんが、家政婦長をひょいとお姫様抱っこして使用人用の寝室まで運び、腰のマッサージをして寝かしつけるという離れ業まで見せてくれまして。

こんなメイドは世界広しと言えども、二人といないのではないでしょうか。


とにかく気が利いて、朗らかで優しく、私も癒されまして何だか若返った気がいたします。


若い時から色恋沙汰に縁がなく、年齢よりも枯れていると言われ続けた私ではございますが、今後は気持ちだけでも若くと心がけてまいりましょう。



さて、遠征からお帰りになった坊ちゃまですが、何か様子がおかしいようです。ゼルマさんがメイドをされているのに納得いかないご様子で。

もしや、何か行き違いがあったかとお尋ねしても生返事。


いったい、どうなさったのでございましょう。



◆◆◆バルバラ 六十三歳 職業 リーフマン伯爵家王都屋敷家政婦長


長年伯爵家の王都屋敷でお仕えしてきたわたしですが、寄る年波には勝てず。

気力だけは若い者に負けないつもりでも、身体は正直でございます。


特に最近は、すっかり腰が弱くなりまして。踏ん張りがききません。

坊ちゃまが遠征でお出かけになった後、気が緩んだのでしょうか。

ちょっと、仕事どころではない塩梅になってしまいました。


執事のモーリッツ坊や、いえ、モーリッツさんはわたしに気を遣ってくれます。

しかし、一人だけ雇っていたメイドも辞めたばかりで、男手だけでは手の回らないこともございます。

あれこれ気になるけれども身体は思うように動かず、悶々としておりました。


ところが、ひょっこりと新人が現れまして。

騎士団でメイドをしていたというゼルマさんは、坊ちゃまの紹介とのこと。

ですが、それはそれ、これはこれでございます。

たとえ、意地悪婆の汚名を着てもようございます。王都屋敷に相応しいメイドかどうか厳しく審査すべく、痛む腰に鞭打って仕事ぶりをじっくり見せてもらいました。


「マーベラス!」


他に言う言葉が見つかりませんでした。

手早く、気が利き、痒い所に手が届く仕事ぶり。

文句のつけようがない上に、わたしの身体まで気遣ってくれて。


「バルバラ様、腰が全快するまで、ゆっくりお休みください。

少し調子が良くなっても、無理をしてはぶり返してしまいますから」


「まあ、ゼルマさん、ありがとう。

貴女のマッサージは、まるで神の手だわ」


「褒め過ぎです」


彼女は、今までわたしとメイドで回していた仕事を二人分こなして忙しいでしょうに、毎日、食事を運び、マッサージに来てくれるのです。


お陰で一週間ほどすると、なんだか三十歳も若返ったように元気になりました。

昨夜遅くに坊ちゃまもお帰りです。

今日からは、わたしも仕事に復帰することにいたしましょう。



とはいえ、すっかりゼルマさんがお膳立てしてくれるので、初日の仕事は味見やら監督ばかり。なんだか、良い嫁をもらった姑の気分でした。


その日、坊ちゃまは騎士団に出かけたものの、遠征の後ですので報告が主な業務とのこと。夕方、早めにお帰りになりました。


執事とゼルマさん、わたしの三人でお迎えしましたが、坊ちゃまは何やら深刻そうなご面相。


「少し話があるんだ、皆、談話室に来てくれないか」


談話室はご家族の寛ぎの場。

いくら今お住まいなのが坊ちゃまだけでも、わたしたち使用人が椅子に座ることは通常ありません。


「皆、座ってくれ」


これは、尋常ではありません。何のお話なのでしょうか?


「ゼルマをメイドに迎えて一週間経ったんだが、よくやってくれているみたいで、ありがとう」


「いいえ、どういたしまして」


「坊ちゃま、お話してもよろしいですか?」


「バルバラ? ああ、何でも言ってくれ」


「ありがとうございます。ゼルマさんは家事も完璧ですが、わたしの腰のことも気遣ってくださって。お陰ですっかり良くなりました。

ありがとう、ゼルマさん」


「いいえ、出来ることをしただけですので。お役に立てて嬉しいです」


「では私も一言申し上げても?」


「……ああ、モーリッツ。うん、言ってくれ」


「ゼルマさんのお陰で、すっかりお屋敷が明るくなりまして。

まるで、春の女神がいらしてくださったようでございます」


「執事さん……そんなふうに言っていただけると、私、どうしたらいいか」


まあ、可愛らしいこと。ゼルマさんは頬を染めています。



「あー、すごく言い辛いんだが……」


坊ちゃまは何だか苦い表情です。


「実は俺、ゼルマに結婚を申し込むつもりで家に呼んだんだ」


「おや、そうでしたか? ご主人様は御目が高い」


「まあ、坊ちゃま! とうとう?」


これだけ気の付くメイドです。奥様となっても、きっと坊ちゃまを支えてくれるでしょう。

執事さんと私は大賛成。二人してゼルマさんを振り向くと……


「お断りします!」


喜怒哀楽など一切の感情のない顔で、ゼルマさんは言いました。


「そうか、わかった。

では、メイドは続けてもらえるのかな?」


坊ちゃまもさすがに潔い。ですが。


「それも、お断りします」


「……君は、男爵家の出だそうだが、今日、騎士団の書類を調べても履歴書が見つからなかった。採用時の書類も無い。

猶予期間なく騎士団を辞めているのも不自然だし、いったい君は何者だ?」


何やらお話が妙な方向に行ってしまったようです。談話室は一触即発の緊張状態。



「ここまでだな。小僧、よく見破った」


ゼルマさんが立ち上がり、瞬間、黒い靄に包まれました。

靄が消えたそこにいたのは、魔族!?


メリハリの利いたボディにセクシーなコスチューム。背には翼、頭には角。

お顔はゼルマさんそのままのせいか、禍々しいというよりも芸術品を目にしたような気持ちでした。


「私は魔族。サキュバスの次期女王、ゼルマだ」


「な、サキュバス!? 魔族がなぜ、メイドを?」


ゼルマさんに殺気はありません。

坊ちゃまは彼女が正体を現したことで、むしろ緊張がほどけたご様子。


「もうじき、魔界で魔王様の新しい側近が選ばれるのだ。

側近になれば忙しくて伴侶を探す暇がない。慌てて探したが魔界にはこれという男がいなかった。それで人間界まで出張ったというわけだ」


「そうか、そういうことか。まあ、頑張って探してくれ」


「いや、もう見つけた」


坊ちゃまはプロポーズを断られています。では、どなたを?


「モーリッツ、私と一緒に魔界に来てくれるか?」


「私ですか?」


「ああ。若くて色気に惑わされるような男は、どうも好かん。

お前くらい枯れているのが好みだ」


「しかし、年齢差が」


「やはり気になるのはそこか? まあ、私は三百三十五歳だから、かなり差はあるが……」


「ゼルマさんは年上でいらっしゃいましたか」


「ああ、サキュバスの寿命は千年を超えるからな。

魔王様の側近に選ばれれば、更に長生きせねばならんかもしれん」


「でしたら、私が伴侶となるにしても数十年のこと。

お役に立てそうもございません」


「それは、大丈夫だ。

夫婦となり、アレやコレやしているうちに、お前の寿命も延びる」


ああ、なるほど。親密な交流をなさるとね。


「ゼルマさんがいらしてから、心に春が来たようで。

出来ればご一緒したいのですが、私にも執事の職務がございますし」


「モーリッツさん、伯爵家の事ならわたしが何とかします」


いつの間にやら、私はこの二人を応援したくなっていました。


「バルバラさん……」


「ゼルマさんにケアしていただいて身体の調子も良いですし、なんだか若返ったような気がするのです。

せっかくのご縁です。貴方に気持ちがあるのなら、前に進むのもよろしいのではないでしょうか?」


「ああ、私のマッサージでエネルギーも注入してある。

バルバラは百歳までは元気に働けるぞ。保証する」


「まあ、ゼルマさん、ありがとうございます」



「待て待て待て。その前に、サキュバスと言ったか?

人間にあだなす者ではなかったか?」


「大昔ならともかく、今や魔界と人間界は完全に隔たっている。

昔のように人を害したり食したりということは無い。

魔界は完全自給自足だ」


「そうか。……もう一度訊くが、なんでモーリッツ?」


「真面目具合と枯れ具合が丁度良い。執事という職業も良いな。

きっと、私をうまく補佐してくれるだろう」


「つまり、完全にあんたの趣味に合って実益もある、ということか」


「まあ、簡単に言えばそうだ。

うむ。だが、大事なことは正直に言おう。

好きだ、モーリッツ! 私と一緒に来い!」


「よ、喜んで!」


「何か、持って行きたい物はあるか?

魔界のほうが文化は格段に進んでいるから、不自由はさせぬが」


「何もございません」


「未練もないか?」


「はい。坊ちゃまは立派に成人なさいましたし、バルバラさんもお元気になりました。晴れやかな気分で出立できます」


「よし、では行こう! ヴォルフガング、バルバラ、達者で暮らせよ」


「坊ちゃま、バルバラさん、お世話になりました」


「……おめでとう。さようなら?」


「お幸せに」


ゼルマさんはモーリッツさんをお姫様抱っこすると、窓から空へ飛び立ちました。

あっという間に上空へ去って行きます。

魔界って地下にあるのかと思っていましたが実は天上なのかもしれません。


「はぁ、なんか疲れた」


「坊ちゃま、執事とメイドが居なくなったのです。新たに探さねば。

それと、人間のお嫁様を探しましょう」


「そうだなぁ。とりあえず、お茶」


「まあ、お茶もですけど夕食のお時間です。すぐにお支度しますからね」


「ありがとう、バルバラ」


去ったお二人はきっと幸福になるでしょうから、坊ちゃまにも幸福になっていただかねば。

このバルバラが良いお嫁様を見極めて見せますからね。お任せあれ。



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[一言] ヴォルフガング坊ちゃま、ドンマイ。
[一言] なんだこれ
[良い点] おお…怒涛の展開。いくつか他の作品も拝見させていたたきましたが、どれもほのぼのしたり、しみじみしたり、くすっと笑えたり、素敵なお話。 特にこちらは、ゼルマさんの漢気あふれる物言いと、なんだ…
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