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祖国の裏切り

「皇帝陛下から恩賞を賜った」

「……恩賞? でも、勝ったのはラスディア帝国の皇帝陛下で、負けた勇者様の所属していたのはルベドナ帝国」

「ルベドナはラスディアの親戚筋にあたるからな。本家が勝てば、分家の負けはチャラになる」

「都合がいい考えかた……好きじゃない」

「俺はそうしたわけじゃない。どちらにせよ参加したということで土地と爵位を賜った」

「爵位? 貴族様になったそういうこと?」

「そういう政治も大事だろ? 俺の師匠だっていろんな国からいろんな爵位をもらってる」

「それは剣聖様だから!」

「……それを名乗っても構わないってさっき言わなかったか?」

「言った、けど。私も貴族の爵位を持っていますけど、そんなもの」

「あったからこそ、神殿の中でもそれなりに優位でいられた。そうじゃないのか」


 否定はできない。

 王太子の側室になるという、その条件でもらった爵位も確かにあるにはあった。

 いや、今となっては何もかも剥奪されて、聖女という称号しか残ってない。それが現実だけど。


「もうそんな話を聞きたくないの。あなたはどうするつもり? 爵位がどう関係するの」

「この村とティトの大森林の間にある帝国の飛び地を、一部だが譲っていただいた」

「……そこに移住しようっていう。そんな考え? 王国と魔族は同盟を結び、帝国とは対立構造になるからいずれどこかで戦いが再開すれば、あなたは参加せざるを得ないでしょうね。帝国側の人間として」

「そこまでわかっているなら話が早い」

「あまり早くないわ。私は王国にたくさんの……今はもう私のものじゃないけれど。それでも取り戻さなければいけない城塞都市とか、神殿の中の問題を解決したりとか。もし元に戻るとしたら、聖女のままだとしたら慕ってくれる信徒を裏切れない」

「村よりも信徒が大事かよ、ライラ」

「村だけじゃない。誰もが大事よ! 私は平和を守るためにいる存在であって、戦争になったからどっちかにつくなんて……それじゃまるで聖戦に参加した勇者様たちのようなもんじゃない。今度は魔王様とも対立することになる。魔族からも人間からも神からも追われて、村が立ちいくどころの話じゃなくなるわ」

「そうかもしれないな」

「そうかもって! 理解していてそんな発言するつもり? 私は魔族になんてなりたくない!」


 痛烈な皮肉だった。

 魔族だと知っているのに、そうなりたくないなんて。

 ライラは愚かな私、と自分に皮肉を浴びせかける。

 魔族になりたくない。そんな一言はつまり、アレンの存在そのものも拒絶することだと、言ってからライラは気づきハッとする。

 逸らしかけた視線をゆっくりと戻せば、しかし、彼は何も怒ってはいなかった。


「聖戦はもう向こう数世紀は起こらないだろうな」

「え?」

「魔族というか、俺と仲間たちが戦った魔王様はもう戦争なんてやらないだろう。仕掛けてくれば、政治的につぶしにかかる。それは見えてるからこんな話をしている」

「だけど、それなら更に矛盾するじゃない。子供たちを守らないと、奪われるって!」

「……魔王は一人じゃない。各大陸に数柱いるよ、ライラ。それに知らないのか?」

「何をどう知らないのか、まったく分からないわ」

「蒼狼族の魔王は南と地下の魔界にそれぞれいるよ。だが、俺たちの子供たちを狙っているのはそのどちらでもない。ちゃんと世界を旅している間に、話はつけてある」

「都合がいい話ね、それこそ信じられない。というか、最初に話の結論を持ってきてくれないと、嘘なのか真実なのかはっきりと判断できなくなるわ」

「そうすると、今度は結果だけでいい。そんな話になるだろ?」

「……そんなあなたは嫌い」


 不機嫌な塊になりそうで、ライラの両耳はまさにその前兆をあらわしていて、ペタリと頭の上に伏せてしまっていた。


「黒薔薇姫様から習わなかったの? 女性ははっきりと物言いしない男は嫌いだって」

「師匠を出すな。あの人はあれはあれで、問題があるんだ……それにこんないい方でも怒りはしなかったしな。いや、何でもない」


 まるで何年も連れ添った夫婦のように言う彼を見て、女心が分かっていないとライラは素直に口に出した。

 さっさと結論を!

 怒る聖女の剣幕に驚きながら、アレンはそうだな、と口を開く。


「高原オオカミの獣人がいるんだ。神を持たず、傭兵を生業としてる。子供をさらい、兵士に育て上げて国を維持する。そんな帝国がティトの大神殿の北側。魔王様の支配する高山地帯とラスディア帝国の間に勢力を広げている」

「……そこが子供たちを狙ってくる、と?」

「そういうことだ。だから、ここを移りたい。なにせ、レブナス王国といちばん近く、一番強い同盟を最初に結んだのはあの帝国だからな」


 そんな背景、もっと最初に言って欲しかった。

 頬を膨らませて、アレンを拒絶する。

 寄って来るなと威嚇の唸り声すら上げてしまうそうになる。

 それから未来の可能性を精査して、ライラは思い至った。

 つまり、レブナス王国。いま自分たちが属している王国の国王陛下は、国益の為に自分達を見捨てたのだ、と。


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