表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

異世界に転生した四人の勇者はカレーの匂いが気になってお腹が空き続け魔王討伐がんばれません(がんばった)

 夏も暮れかけたある日の午後。

 光に導かれし四人の勇者達は、荒野に口を開けた地割れの縁に立ち、その断裂を見下ろしていた。

 奈落の底には魔王城。神の使者としてこれより攻め滅ぼさんとする悪魔の根城。異形なる建造物を睨み付ける四人の頭上には暗雲が立ち広がり、それは大粒の雨となって降り注いだ。



「夕立か…」

「ちょうどいい。この雨が俺達の気配も消してくれるだろう」

「攻めこむにもってこいってわけだ」

「まさしく天の采配、だな」


 雨垂れが大地を叩く。むせかえるような臭いが鼻腔をくすぐり………。


 勇者達は、猛烈にお腹が空いてきたのだった!

「「「「なんでカレーなんだよ!!!!」」」」


説明しよう!

 光の勇者達は転生人間である。

 現代日本にて命を落とした四人の若者は、大いなる光に選ばれ遥かな異世界の地にて、世界を救う勇者として生まれ変わったのだ。


 それはさておき夕立と言われ皆は何を思い出すだろう。

 大地を叩く雨粒にかもし出される、埃っぽい臭いではなかろうか。

 それは地面に潜む土壌細菌が雨に濡れ発する香りであり、そうした現象は次元を超えたこの異界の地にも当然存在する。


 だが、この世界の土壌細菌は。

 水に濡れると芳しくも豊潤なカレーの臭いとなって勇者達に襲い掛かってくるのだった。


「カレー! ちくしょうカレーだよカレー!」

「ほんともうめっちゃカレー! うちの母さんタマネギ多めで」

「判る、辛さの中にまろやかな甘味が広がるんだタマネギ最高!」

「ああもう食べたいなあああカレー!!!」

 叫び、唇を噛みしめる勇者達。

 それもそのはず、哀しいかなこの世界にはクミンもコリアンダーもガラムマサラも存在しない。


 即ち、カレーが存在しないのだ!


「「「「あああああっ カレー食べてえよぉぉぉぉ!!!」」」」

「勇者どもが来たぞおおおおお!」

 男達の叫びに魔物が気付き、警鐘を鳴らす。魔王城から悪魔の軍勢が飛び出した。


「チッ 行くぞっ」

「「「おおう!」」」

 光の勇者達は叫び、武器を構える。お腹が空いても勇者は勇者だ、たちまちのうちに魔物の群れを打ち倒していく。

 だがしかしその瞬間、勇者達は思い知った。本当の地獄はここからだったのだと。


・ライトニングパニッシャーを受けて崩れ落ちるリザードマン:七輪でじっくり焼かれた秋サンマ

・切り裂かれたデーモンロードから飛び散る緑の血飛沫:香ばしいコゲ味と甘い風味の入り混じる焼き立てパン

・聖剣エルキュールブランドで薙ぎ払われたエビルプラント:焦がし醤油が芳しい夏の屋台の焼きトウモロコシ

・フレアブラストで焼かれたダークドラゴンの鱗:それは140年の歴史を誇る老舗の鰻屋。創業当時から継ぎ足されてきた秘伝のタレを塗られた鰻の脂が炭火で炙り溶け落ちて


「気が狂うわああああああああっっっ!!」

「どういうことだよこの世界!」

「ちくしょう! 大豆さえ無いのに醤油の香りとかコノヤロウ!」

「ほんとな… ゾンビから味噌の香りするのに大豆無いとか…」

 魔族の大軍を粉砕し、圧倒的勝利を収めたにもかかわらず打ちひしがれる勇者達。

 そして赤の勇者がもう我慢ならんとかぶりを振った。

「もう無理だ、あのドラゴン食ってくる…」

「おいまてやめろ!」

「いやだがしかし小説とかゲームとかよくドラゴンステーキなんて料理出てくるし鰻のかば焼き味かはさておきワンチャン」

「違うだろ俺達すでにミノタウロスで試してそんなのは幻想だって」


「いただきまあああああああす!」

「「「かぶりついたあああああ??!!!」」」


 ドラゴン肉のテイスティングタイム。


「………ゴムタイヤ齧ってるみてえ」

「「「ちくしょおおおおおおっ」」」

 号泣。無理だと言いながらも微かに抱いていた希望は見事に砕かれたと、男達はむせび泣く。

 死屍累々と広がる魔物達の亡骸の、やたら美味しそうな臭いの中で四人の勇者はさめざめと泣き続けた。


 そうしてどれだけの時間が過ぎただろうか。光に導かれた四人の男は誰からともなくゆらりと立ち上がった。


「かくなる上は」

「ああ、賭けるはこれしかない」

「どうせやることはひとつだった。行くぞ」

「おう!」

 闘志に燃える八つの眼差し。男達は強く拳を重ね合う。


 目指すは魔王城。

 打倒すべきは大魔王。世界を闇に落とした悪の権化を打ち砕き、そして――。


「「「「俺達の、日本へ帰るんだ!!!」」」」


 すべては遠く懐かしい、日本のグルメを今一度この腹に収めるために!


「「「「うおおおおおお!」」」」

 勇者達は駆けた。城門を蹴り開き、たこ焼きとイカ焼きとお好み焼きの風味を後にして。


「「「「ぬおおおおおお!」」」」

 勇者達は戦った。迫り来る悪鬼を打ちのめし、焼き鳥と手羽先とフライドチキンの香りを振り払い。


「「「「ぐおおおおおお!」」」」

 勇者達は登った。階段を、城壁を、デミグラスソースの匂いを乗り越えて!


「「「「どおおおおおお!」」」」

 そして魔王の間、阻む扉が醸し出す芳醇なブルゴーニュワインのフレグランスを叩き壊して飛び込んだ大広間に果たして大魔王は佇んでいた。


『遂にここまで来たか勇者共よ。かくなる上はオレ自らが貴様らを絶望の』

「「「「いいから死ねやあああああああああっっ!!」」」」

『えっ ちょっ』

 偉ぶる魔王なにするものぞ、四人の勇者は前口上の終わらぬ魔王へ強制的にエンカウントをしてのけた。


「ぬぅん!」

 青の勇者が躍り出る。

 飛び蹴りから下突き、正拳突きを目押しで繋げ硬直をキャンセルする前ダッシュからジャブ・ジャブ・アッパーとコンボを繰り出し昇天太陽脚で高く魔王を打ち上げる!


『ぎゃふうっ?!』

「ゲートオープン!」

 緑の勇者が畳みかける。

 パワーワードにより開放された魔力は古今東西のあらゆる武器・兵器を造り上げ、その全てが空中で身動きのとれぬ魔王目掛けて投射される!


『きょか、きょかかかかかかかかかかかかかかかっ?!』

「「ホアアアアアアアっ!!」」

 赤の勇者と紫の勇者が呼吸を合わせる。

 見よ、これが愛と友情のツープラトン、必殺ダブル激頑・双皇撃!!


『しぎゃああああああああああああああ???!!!!』

 四人の連携攻撃により、遂に大魔王のライフはゼロへと至った、悪は滅びる!


「とうとうやったぞ…」

「これで、これで俺達は帰れるんだ」

「ああ、帰ろう…俺達の故郷に」

「おなかすいた…」

 力を出し切り、息を切らせながらもやり遂げた光の勇者達。だが、しかし。


『く、くくく、くはははははははは…っ』


 見よ、倒したはずの魔王が、床に倒れ伏した大魔王が、焦げたマントから焼き餃子の香ばしい匂いを漂わせながら笑っている!


「魔王!」

「まだ生きているのか!」

『いいや、オレは滅びる。だが只では死なん!』

「なんだと?」

「もしかしてお約束の脱出イベント?」

『そんなものはない!』

 え、用意してたのに。


『聞くがいい光の勇者よ、異界より喚び出された転生人間どもよ』

「「「「なに?!」」」」

 驚きの声を上げる勇者達。その事実を知るのは勇者ら当人と光の精霊だけのはず!


『そうだ! 貴様らは転生したのだ。

 故に――

  ――元の世界に帰る術などない!』


「なっ?!」

「ななっ?!」

「ななななっ?!」

「なんだってえええええええええええ???!!!」


 衝撃の事実を告げられ、またそれが正しいものと納得してしまった勇者達は絶望した。美味しい匂いの中で絶望した。


 四人の勇者はこんなことなら前世では、食事をもっと大切に、一口一口、その味をしかと噛みしめて食べるんだったと、料理を作ってくれた皆さんに、食材を作ってくれた皆さんにもはや届かぬ感謝の気持ちを抱きしめながら、力なく美味しい匂いの中に崩れ落ち。


 こうして、世界には光が取り戻されたのであった――。


                                        END

部下M「てかタカアキ様、突然なにを書きなぐってるんですか修練ですかこれほんとに」

魔王T「まーかせたまい。ついったーでちょっとしたやりとりからさくっと一遍書き上げてみせるこの悪の大魔王タカアキ様をよろしく恐れ敬うがいいのだぞ」

部下M「アカウント数年放置しておいてなにいってんですか」

魔王T「ぐ、うぐっ」


部下S「あとなんか投稿慣れてなくて連載完結とかおかしなことになっていますがこちらただの短編になります。不手際申し訳ありませんが生暖かくスルーしていただければとー」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ